異世界から帰ってきた魔神ですが、ダンジョン攻略を始めます 作:Revak
「配信? ……なんだそれは」
ディノクは薄々察しながら問いかけた。
莉子は空に浮かぶ球体を撫でながら答えた。
「えっと、ダンジョン攻略をこうやってネットサイトに配信してるんすよ……あれ? 魔神ってことはネットとか知らない?」
「……いや。知識としては知ってるから問題ない。しかしダンジョン攻略を配信? グロしかないだろ」
ディノクは素でそう言った。
「あはは……まぁ、一応利点もあるんすよ。例えばダンジョン内で危険になったら近くの人が助けに来てくれたり、未知のモンスターと遭遇した時も情報を残せたりとか」
それじゃあ行きましょ、と二人は歩き出す。
「なるほどな……まぁ、それを一般向けに開放するのはどうかと思うが……それは置いておくか。それで、ここはどこなんだ?」
「新宿ダンジョンっす。ここは第十層なんで、テレポーター使って帰りましょ」
新宿、という言葉にディノクは眉を潜めたが、すぐ表情を変え別の事を問いかけた。
「テレポーター? そんなのがあるのか」
「うっす。円卓の一人が各ダンジョンに設置してるんで、生き返りは凄く楽なんすよ」
「円卓?」
「ダンジョン組合の設立者の事っすよ。十三人居て全員滅茶苦茶強いっす」
「ほう……」
ディノクは強い、という言葉に興味を抱いた。
ディノクの軸は己の圧倒的な戦闘力だ。
単に星を壊すぐらいなら本来の姿に戻るだけで良いディノクは円卓の戦闘力を考える。
己と同格、あるいはそれ以上なら力で押し通るのは難しそうだ、と。
そうして二人で歩いているとモンスターに遭遇する。
この新宿ダンジョンの主要なモンスターであるオークだ。
豚が二足歩行しているような姿のモンスターだ。肌はピンク色で気持ち悪い。二メートル程の巨体だ。
手には丸太を少し加工しただけのような棍棒を持っている。
「邪魔だな」
ディノクはそう言い指先を向け、魔力のレーザー砲を放った。
と言っても威力は滅茶苦茶絞ってる。全力の一パーセント以下だろう。
ディノクが本気になれば地球程度の星ならレーザー砲一発でぶっ壊せるので手加減しないと世界がヤバいのである。
オークの頭が蒸発し、オークは死体となった。
「お、じゃあ解体するっすね」
そう言って莉子が腰からナイフを抜いた。
「解体? ……まぁ、獲物を仕留めればそれは必要か。だが時間がかかるんじゃないか?」
その言葉に莉子はふっふーんと鼻を鳴らした。
「なんとこの解体ナイフがあればスパッと終わるんすよ!」
そう言って莉子はナイフをオークの死体に当てた。
その次の瞬間には解体が綺麗に終わり、整形された肉となった。
「ほー、便利なアイテムだな」
「まぁその分高いんすけどね」
この解体ナイフは円卓の一人、ダンジョンスキル【制作】を持っている男の作品だ。
制作の名が示すダンジョンスキルの名の通りあらゆる物を制作できるスキルである。
材料すら無しで生み出すことが出来るがそれをすると市場が大きく破壊されるので基本はセーブしている。
解体ナイフは一本十万円する。
余談だが配信用ドローン──莉子の周囲をふわふわ浮いている謎の球体──は一体三十万円する。
そして解体を終えると莉子は背中のバッグを降ろし、その中にオークを詰めていく。
「それも外見より容量が多いみたいだが」
「これも超収納バッグすね。これも材木さんの作品っす」
材木とはダンジョンスキル【制作】を持つ男の名だ。
「便利な物だな」
「ダンジョン探索の必需品の一つっすからね」
それじゃ行きましょ、と二人は階段目指して歩き始めた。
そうして途中で何度かモンスターと遭遇するもディノクが殺す事で階段に辿り着いた。
階段の前には大きな魔法陣が設置されてある。
「んじゃこれでダンジョンの外に出るっすよ~」
そう言って莉子とディノクは魔法陣の上に乗り、莉子が魔法陣に魔力を込める。
ダンジョンに入った人間は例外なくダンジョンスキルに目覚める。だがもう一つ目覚めるものがある。
それは魔法だ。魔力に目覚め、魔法を行使できるようになる。
と言ってもダンジョンスキルと違い、使い勝手は悪い。
どんな魔法であっても必ず魔力を消費し、その規模に応じて消費する魔力は大きくなる。
十の魔力で五の現象しか起こせないのだ。
だがダンジョンスキルは違う。そもそもコストを必要としないことが多いし、一のコストで百の事象を起こす事さえ可能だ。
だから一部の物好き以外は魔法を研究しない。
更にタチが悪いのは個々人で魔法が変わるのだ。
例えば炎魔法しか使えない者だったり、逆にどんな属性の魔法でも使えたり、鍛えてもライター程度の炎しか出せなかったりと弱かったりする。
それに対しダンジョンスキルは最初から強いのもあるし、たとえ弱くとも本人の努力と理解拡大解釈によってどんなスキルでも強くなれる。
だから魔法はマイナー扱いされているのだ。
この魔法陣は【制作】のダンジョンスキルを持つ円卓の材木直哉が作った物だ。
魔法陣の形をしているが実際は機械的装置に近く、魔力を消費することで指定の場所に転移できる装置だ。
二人はダンジョンの外に転移した。
そこは一種の市役所じみた場所だ。
ダンジョンという不可思議な場所には相応しくなく、まるで市役所を思わせる。
ディノクはこれを見てもしやこの世界は地球か? 疑問を抱いていた。
ゲートの横には警備員らしき男が立って居た。
「あれ? その隣の人は?」
警備員は莉子に尋ねた。
「えーと、この人はダンジョンで私を助けてくれた人っす!」
「そうなのか。じゃあ身分証明書は? ダンジョンの出入りにはそれが必要だけど……」
そう言われ二人は固まった。
ディノクはそんなもの持っていないのである。つまり詰み。
莉子はこの警備員の存在をド忘れしていた。
「あー、その、なんだ。俺はちょっと特殊な事情があってな。気づいたらダンジョンに居たんだ」
「……ダンジョン難民か? 珍しいな。元の住所は?」
「…………」
ディノクは黙ってしまった。
この世界の住人ではないので戸籍なんてものはなく、住所も当然ない。
「というかその容姿、日本人か?」
ディノクの肌は黒いので一見すると黒人に見えるかもしれない。というか目が青い日本人は極まれか、外国人とのハーフだろう。
「……実は異世界から来た、と言えば信じてもらえるか?」
ディノクは嘘が嫌いだ。だからごまかすのではなく真実を言う事にした。
異世界という言葉に莉子は目を点にて驚く。
そして警備員も驚いた。
ディノクが持つスキル──ダンジョンスキルその物である【全意思疎通】はどんな相手とも意思の疎通が可能になるというスキルだ。
例え言語体系が違う相手だろうが、そもそも言語を持たない相手とだって意思の疎通、会話が可能になる力である。
この能力は相手の意思を読み取るので相手の嘘なども読み取れるのだ。欠点として自身の意思も伝わるので自分の嘘も相手に嘘だと伝わってしまう。
だから警備員はディノクの言葉に嘘が無いことを理解した。
「異世界から? ……俺の権限じゃ通していいかわからない。上に話を通すから待っててくれ」
「わかった……あぁ、それじゃあ斬姫とはここでお別れだな」
その言葉に莉子は「えっ」と言葉を漏らした。
「いやいや、乗りかかった船だし、うちを助けてくれた恩人を見捨てるなんて出来ないっすよ! どこまでも……は無理だけど、出来るとこまでは着いて行くっす!」
「……そうか。わかった」
ディノクは少し嬉しそうな表情をした。
「じゃあ、上に聞いてくるから待っててくれ」
そう言って警備員は離れ、スマホで連絡を始めた。
「ところで聞きたいんだが……ここは日本か?」
その言葉に莉子がはてなを浮かべた。
「日本っすけど、あれ? ディノクさん日本知ってるんすか?」
「……そうだな。嘘を言う必要もないだろう。俺は日本から異世界に召喚されたんだ。そこでまぁ色々あって、追放された結果アのダンジョンに居たんだ」
「異世界召喚?! ──まぁダンジョンがあるならあっても可笑しくないっすね……」
ダンジョンなんて言うトンチキなものがタケノコのように生えて来たのだから何が会っても可笑しくないと莉子は納得した。
それを見てこの日本はどうなってしまったんだとディノクは危惧した。
電話が終わったのか警備員が戻って来た。
「えぇと、円卓の一人が来る、らしいです。だからここで待っていて欲しいと……あ、ゲートは通っていいです。適当なベンチに座って待っていてください」
「わかった」
そうしてディノクはゲートを通り、役所内に入った。
そのまま二人で適当なベンチに腰掛ける。
「なぁ、聞きたいんだが……日本で何があったんだ? なんであんなダンジョンがあるんだ?」
ディノクは気になったことを莉子に問いかけた。
「五年前に突如としてダンジョンが現れたんすよ。なんで現れたかはまだわかってないんすよ」
「……なるほどな」
ディノクは心当たりがあった。
魔神を取り込んだ事でディノクは魔神の知識も持っている。
反作用とは神の意志に反する事だ。
それは全ての世界──とは言わないがディノクらが居た世界周辺を統括する存在……大神とでも呼称するが、それが大本の世界共通の事象だ。
例えば神が『人の発展』を望めばそれに反する『人の絶滅』の力が生まれる。
ならば地球で──『魔法の無い安寧した世界』を望めば『魔法がある混沌とした世界』が生まれるのだ。
恐らくこの地球で何かがあり、神がそれに対処するために力を行使した結果ダンジョンが生まれたのだ、とディノクは考え──実際それは正しかった。
「なら、ダンジョンに入ると何か力が手に入ったりしないか?」
「お、よく知ってるすね。ダンジョンスキルっていうのが手に入るすよ」
「……なるほどな」
ディノクもダンジョンスキルに似た──というか同じスキルを持っている。
前述した【全意思疎通】である。
神々の知識においてはこれらは異世界スキルと呼ばれ、異世界──正確には魔法の概念がない世界から魔法の概念がある世界に行った人間のみが習得できる異能である。
人間のみ、と言ったように犬や猫、あるいはエルフなどの異種族は基本習得できない。
基本と言ったように運が良ければ──あるいは悪ければ犬や猫でもダンジョンスキルを会得できる。
だが、そのほとんどはロクなことにならない。
犬畜生など殆ど本能で動く生物だ。無論中には忠誠心を持つようなのも居るだろうが、それは極まれだ。
故に人以外の動物がダンジョンスキルを持つと碌なことにならない。
例を挙げれば熊だ。熊が異世界に転移し【強奪】というあからさまに強力なスキルを得た。
このスキルを持って熊は相手の寿命や攻撃力と言った概念的な物を強奪しまくり、人から知性を強奪することで魔王として君臨したのである。
知性を得ても所詮は動物で己の本能──食欲の赴くまま世界を喰らった怪物であった。
そう言った例に事欠かないので動物のダンジョン入場は禁じられている。
鉱山のカナリアのように悲しい事にはならないのである。
だからこそ、ディノクはこのダンジョンを反作用による物だと考えた。
「ところで今は西暦何年だ?」
「二千三十年っす」
「……俺が居た時代よりだいぶ進歩してるな。ダンジョンはいつ出来たんだ?」
「二千二十五年、五年前っすね」
「たった五年しか経ってないのか……混乱とかありそうだが」
「まぁ、最初の一年は混沌としてたっすねー。ただダンジョン組合がすぐ出てきて、ダンジョンの管理とかダンジョンスキルのノウハウとか公開してくれて、今は問題なくなってるすけど」
「ダンジョン組合か……裏がありそうな連中だな」
ディノクは己と同じように異世界から地球に帰ってきた奴らかもしれん、と警戒を強めた。
ディノクは最強無敵の全知全能ではない。宇宙一つ完全に破壊するのに数年の準備が居る弱者だ。
ただそれは宇宙を概念事ぶち壊すのには、という条件なので宇宙の星全て壊すぐらいなら一年あればできるがそれは置いておこう。
だからディノクは警戒する。ディノクにとって一番怖いのは純粋な暴力だ。国家の権力だって言い方が悪いが軍隊という暴力があってこそ成り立つのだから。
そこに男が来た。
まるで魔王の様な漆黒のローブを着ており、頭部には黄金の山羊の角が一対生えている。
顔つきは優男と言った雰囲気があるイケメンだ。ディノクよりつらはいいだろう。
瞳孔が縦に割れている。
その姿を見て莉子は「ひえぇぇ」と情けない声を漏らした。
「やぁ、君が異世界から来たっていう者かい?」
そう男──魔王と呼ばれるダンジョン組合円卓の一人が問いかけて来た。
「そうだが……そういうあんたは?」
「私はディアブロ──一般的には魔王と呼ばれているね」
「魔王、ねぇ……」
ディノクは魔神の権能──ダンジョンスキルではない──を使いディアブロを観た。
魔神の力の一つ、看破の魔眼だ。これは相手を見抜くことが出来る。
相手の名前、持つダンジョンスキル、技能、魔力量など様々な事が見抜ける。
「おっと、いきなり人を見るのは感心しないな」
だが、それはレジスト──無効化された。
「……なかなかやるな」
ディノクの看破の魔眼は元となった魔神が高位の神──神全体でも上位に位置する存在だったため防ぐのは難しい力だ。
それを難なく無効化したディアブロは相当な強者だろう。
「いきなり見たことは謝罪しよう。すまなかった」
そう言ってディノクは小さく頭を下げた。
「そしていきなり失礼なことをした身で何だが……こっちは戸籍もないし金も無い、身元不確かな自称異世界人なんだ。難民として受け入れてくれないか?」
あまりにも厚かましい願いである。ディノクもそれは承知の上だ。
「俺は戦闘力だけは自信がある。大陸を消し飛ばせるし、星を壊す事だって出来る。戦闘力では随一を誇る。それに俺は翻訳能力を持つ。翻訳家としても働けるはずだ」
だからどうか頼む、とディノクは頭を下げる。
殺せば全部、という考えはディノクにもある。だがそれをするのは相手が蛮族の場合だけだ。
「勿論、いいよ。私たちは元は君の様な人たちの為の組織だったからね──それじゃあ、ここだと何だし、本部に来てもらうよ……そちらの女性は君の仲間かい?」
ディアブロは隣に莉子を見て言った。
「いや斬姫──彼女はこの世界の住人だ。何も知らない俺に色々と教えてくれたんだ」
「そうかい? それは感謝しよう。後はうちでやるからもう大丈夫だよ」
それは言外にお前はもう用済みというのと同じだった。
それを察した莉子は「あの!」と立ち上がっていった。
「えっと、ディノクさんと個人的に親交を持ちたいんすけど、いいすか?!」
莉子としては己の窮地を救ってくれた人に対し飯の一つも奢らないというのは人情に欠けると思うのだ。
だから飯の一つでも奢らないと気がすまないのである。
「ん-、そうか……」
それに対しディアブロはどうしたものか、と苦笑した。
一般人相手に公開していい情報は限られている。下手に本部に連れて行って情報漏洩したら目も当てられない。
だがディノクはスマホどころか携帯電話すら持ってない。連絡手段が無いのだ。
「それじゃあ、君と電話番号交換しようか。こっちの用事が終わったら連絡するから」
「わっかりました! 待ってますからね!」
「それじゃあ、えぇと……君の名前は?」
「……ディノクだ」
「それじゃあディノク君。これからダンジョン組合の本部に行こうか。さ、ついて来て」
「わかった」
そうしてディノクとディアブロはダンジョンの入り口から出て行った。