異世界から帰ってきた魔神ですが、ダンジョン攻略を始めます 作:Revak
ダンジョン組合本部を出たディノクとサラはタクシーに乗って移動した。
そして少し走る事で新宿の高級ホテルに辿り着いた。
「ここに泊るのか?」
ディノクはあからさまな高級ホテルと言った外見に動じていた。
ディノク──不破泰二は苦学生だ。だから高級ホテルなんてものは自身とは縁なきものだと思っているのである。
異世界時代は見るものすべてぶち壊して行っていたので宿に泊まった事などない。
「そうっすよ。経費で落ちるんで贅沢しちゃいましょう!」
そう言いながらサラがホテルに入っていき、遅れてディノクもホテルに入った。
ラウンジで受付を済ませ、エレベーターに乗って上階に行き、部屋に入る。
「……これスイートルームじゃないか?」
「そうっすよ」
「……俺一人にここまでするのか……」
ディノクはダンジョン組合って儲かるんだな、と若干の現実逃避をした。
実際ダンジョン組合は儲かっている。
大きな事業は二つある。
一つがダンジョン攻略による素材の売買だ。全てのダンジョン素材の売買は組合を通さないといけないと法律で定められている為、中間マージンだけで結構な額が稼げる。
もう一つは生産系ダンジョンスキルによる儲けだ。
【油】による石油の精製や【塩】による無限の塩生成、中にはダイレクトに【ごはん】というあらゆるご飯──食料品を創り出すスキルもある。
それらの生産系能力者は組合に登録され、生産で得た金銭の何割かを組合に持っていかれる。
これには単純に生産しすぎてその職種が絶えることを防ぐのとテロリストや国に捕らえられ良いように使われるのを防ぐ護衛費用を兼ねている。
「いや一人じゃないっすよ? 私も泊まるんで」
サラがさらりと言った。
「なんて? ──お前まさか男と同部屋に泊るつもりか?」
「そうっすよ。護衛兼監視なんで同じ部屋じゃないといけないじゃないすか」
当たり前っすよとサラはたははと笑った。
(──女と同部屋、だと……?!)
そしてディノクは戦慄していた。女性と同じ部屋に泊まるなどこれまで経験のない事だ。
学生時代は女性と縁などないし、異世界時代は男だろうが女だろうが見つけ次第ぶち殺していたのでもっとない。
「あ、エッチな事考えました?」
にひひとサラは笑みを浮かべた。
「……そんなことはない。そもそも俺に生殖器はないからな」
ディノクはそう絞り出すように言った。
「え、ちんちんないんすか?」
目を点にしてサラは驚いた表情を浮かべた。
「そうだ。俺は魔神、性別など既に無いんだ」
それは若干の嘘がある。
性別が無いのではなく両性である、というのが近い。
男性化も女性化も可能で、言い方悪いがふたなりもしーメールにも成れる。
性機能もある程度操作可能で相手を妊娠させることも、逆に孕むことも可能である。
だが普段は生殖本能──性欲などあっても邪魔なので生殖器を消し性機能を無くしている。だから現在のディノクは無性だ。
「へー、すごいっすね……じゃあ一緒にお風呂入ります?」
「………………入らん」
凄く悩んだ末にディノクは言った。
ディノクは童貞なので女体には興味津々なのである。童貞の悲しき
■
二人とも風呂に入り、リビングでディノクはテレビを見ていた。
テレビはニュース番組だが事件などではなくダンジョンが熱い! という特集だ。
「ダンジョン攻略を配信にすることで金稼ぎ、か……」
取材を受けているダンライバーは一度の配信で一千万のスパチャを貰ったこともあるらしい。
高収入者の年収と同額だ。
ダンライバーの配信サイト──ダイブライブでは一度のスパチャの上限額は十万円で手数料は十パーセントだ。
youtubeより安い手数料だが、ダイブライブではダンジョンに関する事以外の動画や配信は禁じられているのでユーチューバーが来る事はない。
まぁユーチューバーとダンライバーを兼業するのは居るが。
ダンジョン配信は金になる。ダンジョンの攻略方法を一般に知らしめ、新規加入のハードルを下げる事が出来る。
後は単純にスプラッタは娯楽に飢えた現代人の感性に合い、配信主が死ぬのも面白がっているのである。
ディノクは現代日本も物騒になったな……と遠い目をした。かつての熊すら殺すなと騒いでいた日本人はどこにいったのか。
「ディノクさんもダンライバーに興味あるんすか?」
ソファに座っているとサラが隣に座って来た。
ディノクの嗅覚は鋭い。警察犬すら余裕で超える嗅覚を持つ。
故に女性がすぐそばに来たことで良い匂いを嗅いで内心あばばばばとなりつつ表情は変えず答えた。
「そうだな。ワーカーとして生きていくなら、ダンジョン配信を副業にするのもいいかもしれない……とは考えている」
「おー、いいっすね。私もダンライバーやってるんすよ」
そう言ってサラはスマホから自身のチャンネルを見せた。
「本名でやってるのか?」
ディノクはそれを見ながら言った。
「まぁ企業勢以外は本名でやってるのも多いっすよ。私は単にもう一つの名前作るのめんどくさかったんで本名でやってるだけっすが」
「そうか……しかし登録者多いな」
サラのチャンネルは登録者数二十万人程だった。
充分食っていけるレベルだ。
「ただもうあまりダンライバーとしては活動してないんすけどね。もっぱら超人としての仕事ばかりっす」
そうサラは苦笑した。
「……超人としての仕事は何があるんだ?」
「主な仕事はダンジョン攻略っすね。ダンジョンが出現して周辺地域がヤバいってときは即座に駆けつけてダンジョンぶっ壊します。後は生産系スキル持ちの護衛とかっすね」
「ダンジョン壊せるのか……まぁ、無制限に湧いて出てくるなら対処は必須か」
「放置するとダンジョンが侵食してくるんで、ダンジョンの早期発見と駆除は必須っす。まぁ全部潰すとダンジョンからの恩恵もなくなるんである程度は残すっすけど」
「そうか……しかしダンジョン配信か。うぅむ」
ディノクは考える。
今更社会的地位などどうでもいいが、現代日本で生きていくにあたり金銭は幾らあっても困らないだろう。
一応拉致監禁被害者としての慰謝料の様な物は出るらしいが、それだけで生きていけるとは思えない。
ディノクは魔神なので飲食不要だし掃除洗濯も魔法でどうにか出来る為コストはかからないだろうが、それでも人間らしい生活はしたい。
「……映えを意識するなら女の方がいいか?」
「まぁ、女性の方が視聴者着くってのはあるっすね」
「そうか……なら女になるか」
「は?」
そう言った途端ディノクの体が変化する。
腰がバギバギと人体から鳴ってはいけない音が鳴り細くなり、胸がでかくなる。
顔つきもボーイッシュ系というか、カッコいい系の顔立ちの女に変わった。
身長こそ変わっていないが体は完全に女になった。
正しく美女であり、グラドルどころか国民的アイドルにすらなれるだろう美女である。
肌は黒から褐色に近い色に変わり、良い感じに日焼けした美女である。
身長二百二十センチ。胸はでっかくFカップの百三センチ。
腰は細くケツはでかい。夜の闇の様な黒髪は肩口で揃えれており、目は地球のような透き通る青色。
腹筋が割れており、女性にしては少し筋肉質な体だ。
褐色の肌の国内一の美女である。
「TSだ?!」
サラが驚愕の声を上げた。
「俺は魔神だからな。性別ぐらい変えれる」
そうディノクは綺麗なソプラノボイスの女声で言った。
「この容姿なら視聴者も着くか?」
「めっちゃつくと思いますよ。容姿って一番の映えポイントっすからね……本気でダンライバーなるんすか?」
「……ただのダンジョン攻略者よりは、ダンライバーの方が社会的地位が高いだろう?」
一般的にただダンジョンを攻略するよりはダンライバーの方が社会的地位が実際に高い。
理由としてはただ黙々とダンジョン攻略をされると「そいつはどういう人物なのか」がわからないからだ。
もしかしたら力を振るう事に快楽を見出す殺人鬼擬きかもしれないし、ダンジョンで力をつけテロを起こそうとする者かもしれない。
だから配信者となって知名度を上げ、自分はこれこれこういう人物ですよ、とアピールすれば心象も変わる。
故にディノクはダンライバーになろうとしていた。
「それじゃあ明日は服買わないといけないっすね! ダンジョンでも通用する服買うっすよ!」
「いや、服なら魔神の権能で作れるから買う必要ないぞ」
魔神──というよりは神全般が持つ権能に物質の創造がある。
それを使えば純金を山のように作って売るなどで生計は立てれるだろうが、それをすると経済破壊になるのでディノクはする気はない。
普通の服ももちろん作れるので衣服を買いに行く必要はないとディノクは思う。
「何言ってんすか。作れるって言っても最新の流行を掴んで作れるわけじゃないっすよね? 田舎出の芋女って思われない為に服は必須す! それにその巨乳だとブラも居るっすよね? 買いますよ!」
強い瞳と意思でそう言われ、ディノクは「そ、そうか」としか返せなかった。
■
翌日、の朝過ぎ。
朝食をホテルのバイキングで済ませたディノクとサラは新宿のランジェリーショップに来ていた。
ランジェリーショップの中でも高級店であり、下着一つ最低でも一万五千円する。
ディノクは着る服は今は適当に創造したジャージを着ている。
「俺ここ場違いじゃないか?」
ディノクは若干後ずさりしながら言った。
男だった時代も、異世界時代もこんな店に来た事はない。というか機会など無かった。
「それに俺金持ってないぞ」
スマホにはある程度の電子マネーは入っているが本当に多少であり、ブラ一つ買うのにギリ足りるか足りないか程度だ。
「なーに言ってんすか。事情が事情だから経費で落ちるっすから、遠慮なく買うっすよ!」
「そうか? ……そうならいいんだが……」
「まずはサイズ測るところからっすね! 店員さーん!」
そう言ってサラは近くに居た店員を呼んだ。
若い女性の店員だ。
ディノクは男なのに下着選んでどうするんだ、と思いつつサラの勢いに負けていた。
これが歳か……とどこか遠い目をする。
ディノクの実年齢は二百歳を超える。神としてはまだまだ若手というか赤子に近いが、人として見れば人外の領域である。
「はーい。どうしました?」
「この人の胸のサイズ測って欲しいっす」
「わかりましたー。試着室へどうぞー」
そうしてディノクは大人しく店員に着いて行き試着室に入った。
中に店員も入る。
「ではお客様。上の服を脱いでください」
「わかった」
そう言われディノクはジャージを脱いだ。
ぶるんとおっぱいが揺れた。
そのでかさを見て店員は内心(でかいな……)と己の胸と比べたが表情には出さなかった。
そしてバストメジャーで胸のサイズを測る。
「お客様の場合は──」
そうしてディノクの胸のサイズは雑に言うとFカップ相応だとわかった。
まぁ魔神の権能で自身の体を自由に弄れるので胸を大きくも小さくできるのであまり意味は無いが。
そして得た情報を元にサラの元に戻り、店員と三人でブラを選ぶ。
ディノクは女子らしい行為にドキマギしながら選ぶ。
最終的にピンクの可愛い形のブラを四つ。水色のショーツも四つ買った。
「それじゃあ次は服を買うっすよ!」
試着室でブラとショーツを着けたディノクはまだ買うのか、と若干疲労していた。
といっても肉体的疲労は魔神の体には無い。単に精神的な気疲れだ。
店員に礼を言ってからサラとディノクは別の階の服屋に行く。
「ディノクさん身長高いから何でも会うと思うんすよね」
そう言ってサラは黒いロングコートとインナーを手に取る。
「まぁ、着せ替え人形なのは良いが……俺が元男だってこと忘れるなよ」
「男の子も女の子として扱えば女の子になるんすよ」
何を言っているんだお前は、と思ったがディノクはサラの真剣な表情を見て何も言えなかった。
この後めちゃくちゃ着せ替え人形にされた。
最終的にディノクは白いノースリーブと黒カーゴパンツに決まった。
それ以外にも幾つか服を買ったが、些細な問題だろう。
途中で昼飯を近くの店で済ませた後も買い物を続け、時刻は夕方。
タクシーに乗って二人はホテルに戻っている。
ディノクがぼんやりと日本の街並みを眺めているとスマホに着信がなった。
バッグも買ったのでバッグからスマホを取り出し出る。
相手はディだった。
「もしもし?」
『ディノク君かい? 君のお母さんが見つかったよ』
「──ほんとうか?」
少しドスの効いた声をディノクは出してしまった。
『本当だよ。明日の十時に本部に来て欲しい。そこで感動の再会と行こうじゃないか』
「……何もしてないだろうな」
『うちは正義の組織だよ? するわけがないじゃないか……明日を楽しみにするといい』
それじゃあ、と電話は切られた。
ディノクは険しい顔をするのであった。