異世界から帰ってきた魔神ですが、ダンジョン攻略を始めます 作:Revak
「……なんで女に成っているのかね?」
「その日の気分だ」
「……そうか」
ダンジョン組合の本部の本部長室でディノクとディは対峙していた。
向かい合うようにソファに座り、ディノクがコーヒーを飲む。
「で、本当に来るんだろうな」
そうじろりとディノクはディを睨んだ。
「そう睨むな。長い異世界生活で荒んだのはわかるが、ここは平和な世界。人間同士の争いなど殆どない平和な世界のだから」
「……ダンジョンがある世界でも平和なのか?」
「おっと、これは一本取られたかな」
そうして話していると部屋にノックが入る。
ディが立ちあがり「どうぞ」と返すと部屋に二人の女がはいって来た。
片方は敏腕秘書と言った雰囲気の女だ。見眼もよくスタイルも良い。
もう片方は……どこにでもいそうな五十代の女性だ。
少し肉付きがいいが、太っていると言える程ではなく、逆に痩せているとも言えない。
身長は百六十五センチ程度の、黒い服を着た女だ。
「──母さん」
ディノク──不破は絞り出すように声を出した。
「……泰二?」
そう不破の母──優子は息子の──今となっては娘の名を出した。
泰二が駆け出し、優子に抱き着いた。
「俺……俺は!」
「──もう大丈夫だからね」
そう言って優子は泰二を抱きしめるのだった。
不破泰二の父親は、一般的には屑と呼ばれる人種だった。
ビール五百ミリリットルを一日五本のみ、週末はパチンコと競馬にあけくれる。
若いころはそうではなかった。迷子の子供が居たら手を引いて交番に案内するような優しさがあった。
だが、年月によってその人格は歪んでしまった。
妻に怒鳴り物を投げ、子供にも理不尽に怒鳴り散らす──俗にいうDV夫になった。
不破泰二が小学生の頃に優子の母に手を借りる事で離婚し、実家に帰った。
そこからは辛かったが、平和ではあった。理不尽に怒鳴り散らす父はもう居なく、金には少し困ったがそれでも借金をするほどではなく、二人で楽しく暮らせていた。
だが──泰二が大学二年生になった時、異世界に召喚された。
それは反作用によって生まれた魔王を倒してほしい、という世界を救って欲しいという単純な願いだった。
だが泰二は怒り狂った。そんなふざけた理由で人に迷惑をかけるんじゃない、と。
死ぬなら自分一人で死ね。どこかの誰かの足を引っ張って道ずれになって死ぬんじゃない。そう怒りを抱いたのだ。
不破にとってみれば投身自殺をする者が落下地点に人がいるかも確認せず落ちて、何の罪もない一般人を巻き込んで自殺したかのようにしか思えなかったのだ。
勿論異世界側は異世界スキルという鍛えればそれこそ神殺しすらなせる力を知っていて、それがあれば魔王討伐も苦も無く出来るだろうという考えがあり──実際それは正しかった。
しかし不破泰二は魔神ディノクと化し、世界を滅ぼしに動いた。
生命の八割を滅ぼし、未来無き世界に変え、宇宙そのものを完全に消すために自身を核として儀式を行った。
だが、その結果が勇者による異世界追放だった。
自分勝手に呼んでおきながら思った者じゃないからと追放するのはカスの所業だと泰二は考える。まぁ召喚した張本人や国は滅ぼされているが。
しかしそれでも不破泰二の精神性は人間のそれだ。
だから、数百年ぶりの母を見て感極まってしまったのであった。
「……見苦しいところを見せたな」
そう言って恥ずかしそうにしながらディノクは母から離れた。
「気にしないよ。素十年ぶりの家族との再会だ──気持ちはわかる。それじゃあ、これからの話をしようか」
さぁどうぞ、とディが促すことでディノクと優子はソファに座る。
「それで……ディノク──不破泰二君の戸籍だけど、こちらで新しく作った方が良いと判断しました……元の体形から大きく変わり、顔も変わっている以上日本では別人と言う判定になりますから」
本来のディノク──不破泰二の身長は百七十四センチで黒髪黒目のどこにでもいそうな眼鏡をかけた青年だった。
だが魔神を取り込んだことで今の容姿に変わっている。
ディは優子からディノクの本名を聞いているので知っている。
「勿論優子さんの……今なら娘、という事でねじ込めます。権力はあるので」
そうディは微笑んだ。
権力があるという事にディノクと優子は口をへの字にしたが口には出さなかった。
「それで、こちらで既に口座は作成させてもらいました」
そう言ってディは日本でも最大の銀行の口座を渡した。
通帳とカードである。
「暗証番号は通帳にメモを挟んでおきました。そしてすでに四百万円、今年の分が振り込んであります」
「四百万? 多くないか?」
ディノクがそう問いかける。
「いえ。拉致監禁、そして異世界で強制的な戦闘を強いられた者に対する賠償としては妥当でしょう」
「……なるほどな」
「このお金は非課税ですが、投資や株、FXをした場合は普通に課税されます。また今年の分、と言ったように毎年四月一日に四百万円振り込まれます」
「……毎年それは多くないか? いつまでだ?」
「多くはないです。それと亡くなるまで毎年振り込まれます」
「……ちょっと待ってくれ。俺魔神になったから不老不死に近いんだが……その場合はどうなる?」
「その場合でも問題なく──ダンジョン組合が続き貨幣制度が続く限りは毎年振り込まれますから安心してください」
そのことにディノクと優子はすげぇな、と感心した。
「学歴は適当な高校に通った、とまでは捏造出来ますが大学までは捏造できません。年齢は……その体だと幾つになるんですか?」
ディの問いかけにディノクは少し悩んでから答えた。
「あー、確か魔神化した時の年齢だから……二十歳のはずだ」
「二十歳、と。ではその年齢で新しく戸籍を作りますね。名前はどうします?」
「……母さんが決めてくれ」
「そう? ……それじゃあ、泰葉はどう? 上の字はこれまでと同じで、下の字は葉っぱの葉。どう?」
「うん、いいな。これからはそう名乗ろう」
そうディノクは決めた。
「ではこれからは──」
■
そのあと細かい話をした後、ディノクはダンジョン組合本部から出た。
「あいた──いや違う?」
そこには莉子が居た。
カジュアルな格好をしており、容姿も相まって可愛らしい。
ディノクは元の面影を多少は残しているのでディノクを知る人にとっては血縁か何かだとすぐわかるだろう。
「あー、俺だ。ディノクだ……斬姫、何か用か?」
「ディノクさん?! 女の子になってますけど?!」
「……魔神としての権能で性別ぐらい変えれるからな」
「はえーすっごい……あ、それでどうでした? 戸籍とか大丈夫です?」
「あぁ。ダンジョン組合が作ってくれるそうだから問題ない。今の時代の知識を教えてくれて感謝する」
そう言ってディノクは小さく頭を下げた。
「いやいや、私こそ命を救ってもらったので……それで、これからどうするんですか?」
「今の時代に慣れたら、ダンライバーにでもなろうと思っている。企業勢になるかはまだわからないが」
ダンライバー、という言葉に莉子は大きく反応した。
「でしたらうち──フロンティアに来ませんか? 戦闘力が高いワーカーは大歓迎です!」
莉子がそう胸を張って言った。
「あら、いいんじゃない?」
そう優子が言った。
「そちらの方は?」
莉子が首をかしげながら問いかけた。
「あぁ。俺の母だ」
「ディノクさんのお母さん?! ──再会出来たんですね! よかったです!」
素直に莉子は喜びを表現した。
それに対しディノクは苦笑する。
「まぁ。企業勢になるかはまた考えとく。今の時代に着いて行く必要もあるからな」
「──それなら今度の金曜日、うちでコラボ配信するんですが来ませんか?」
そのことに対しディノクは首をひねった。
「コラボ配信? 第三者が来ていいのか?」
「はい、同箱の人たちやコラボ相手のレイさんも気になってるみたいですし……」
斬姫ルナはフロンティアの中でも古参のダンライバーだ。
後輩も居る。所属数は合計六人で男女で半々だ。
「申し出はありがたいが、まずは生活基盤を整えてからになる。何かあったら連絡しよう……連絡先交換するか?」
そう言ってディノクはカバンからスマホを取り出した。
「します! これが私の電話番号で、メッセージアプリがこれです」
そう言って二人は連絡先を交換した。
「それじゃあ何かあったら来てくださいね! 約束ですよ!」
そう言って莉子は去っていった。
「いい子ねぇ」
優子はそう笑顔を浮かべるのだった。
■
四月十五日。
ディノクが異世界から帰還して一週間と少しが経った。
その間、ディノクは平和だった。
リアルの友人たちとは性別が変わったのでもう会えないし、そもそも大学だけの関係だったのであまり惜しくはない。
ネ友は昔は居たが大学に入るころには疎遠になっていたので問題なく。
女に成ったことでぬいぐるみを買ったり、母と買い物に行ったり、二人でゲーセンで遊んだり、映画やアニメを見たり。
本人にとっては二百年ぶりの日本での生活を満喫した。
その間はパソコンを買ってネットで情報収集をした。変わった法律だとか、ダンジョン関連の法律だとかだ。
そしてディノクは準備期間は終わり、という事でダンジョン配信者になることを決めた。
ディノクの実家は愛知県の名古屋市にある。
ダンジョンは日本だけでも百八個ある。
当然名古屋にもダンジョンがあり、名古屋ダンジョンと呼ばれている。
現在二十層まで潜られているが、さらにその先があるとされその全容は明かされていない。
ダンジョンは満十八歳から入ることが可能で。何があっても自己責任だ。
ダンジョン内で殺されてもレイプされても訴える事は出来ない。
だがダンジョンに入った者は例外なくダンジョンスキルと魔法に目覚めるので戦闘力があるので襲う馬鹿は今のところ居ない。
入場には身分証明書うの提示が必要だ。
そんな名古屋ダンジョンの第一層にディノクは来ていた。
朝の九時頃である。
名古屋ダンジョンの殆どは森で構成されている。
空が存在し、太陽がある。夜も存在する空間型のダンジョンだ。
階層が変わってもそれは変わらない。
その傍には白いカメラが付いた球体、配信用ドローンが浮遊している。
このドローンは【制作】のダンジョンスキルを持つ者が作ったドローンでこれがあればネットを繋げ、配信が出来る。
「うし、やるぞ」
ディノクはそう気合を入れて呟いた。
ディノクは今ダンジョンの第一層の開けた場所に居る。
「配信開始だ」
そう指示を出すとドローンのカメラが赤く光り、配信が始まった。
・うぽつ
・今北産業
・エッッッ
・長身ドスケベ褐色おねぇさん?! 実在したのか?!
コメントが読み上げられていく。
視聴者数は二十人程。初配信者にしては多い方だ。
これにはとうぜん訳があり、配信前日に莉子と連絡し、初配信するから宣伝ヨロ、と頼んでいたのだ。
結果配信前からチャンネル登録者数が三十人程居り、初配信も見られている。
「おー、では自己紹介をしよう。異世界で魔神として君臨し、世界を滅ぼす寸前までいったが追放された魔神、ディノクだ」
・ていう設定ですねわかります
・中二乙
コメントが流れていくが、そのことは信じられていない。
ダンジョン組合からは異世界召喚の事は隠すように、と言われている。
だというのに初手ばらしたがこういう設定でやってるのも何人かいるので配信でネタとして言うぐらいならいいだろとばらしたのである。
「俺のダンジョンスキルは【全意思疎通】。翻訳系のスキルだが攻撃性能もあるぞ」
・円卓と似たスキルか?
・けど攻撃どうやってするんや?
円卓の一人に【翻訳】というダンジョンスキルを持つ者が居る。
だがその男はダンジョンスキルを直接的な戦闘には用いていない、というか使えないはずれタイプのスキルだ。
「まぁ実際に使って見せよう。そのためにもまずは敵に会いに行こうか」
れっつごー、とディノクは森へ踏み入れた。