かくして、勇者一行は記録係を残して全滅した。   作:夜泥棒

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第二話 弱虫

 

「外丸にも、魔獣がいるけど……かなり少ない。本城に籠ってるのか?」

 

 王城は「外丸」と「内丸」の二重構造になっている。

 騎士団の訓練場や庭園が広がる外丸に対し、その中心に位置する内丸には、王族の居住区や大広間を備えた『本城』がそびえ立っている。

 

「やっぱり本城に何かがある」

 

 魔獣は基本、多種同士で協力したりはしない。

 観測できる魔獣たちも例にもれず、互いにテリトリーを犯さないように牽制しあっている。つまりは本城の中で生態系が構築されているということだ。

 

(この監視塔から中は見えない。やっぱり内丸に入ってから聖剣を探す)

 

 聖剣なんてほんとにあるのだろうか。

 そんな疑問を振り切って、塔を下ろうとしたその時。

 

「なっ! 女の子がどうしてあそこに!?」

 

 本城の中腹、ガレージに立ち尽くす少女の姿が飛び込んでくる。

 淡い光に包まれた彼女は一瞬こちらを見ると、嬉しそうに微笑んで。

 

『きて』

 

 と一言。

 すぐに光となって消えていく。

 少女の姿を見て、心のどこかが叫んでいる。

 この感情は何か。それさえも分からぬまま、あふれ出す激情に駆られて、僕は剣を握った。

 

   *

 

 内丸には本城からの地下避難経路の出口が設けられている。

 そこを利用して本城へ忍び込もうと思う。

 

「――」

 

 荒れ果てた王城の姿は、場違いだが神秘的でもあった

 崩れかけの建造物とそれに纏わる蔦の緑。

 僕が生まれて育った場所だ。どこか寂しいような、ともすれば安堵に似た感情が湧いてくる。

 本城へと続く道からやや外れた場所に位置する礼拝堂の裏。

 

「昔はよくこの場所で泣いてたっけ」

 

 剣の稽古でくちゃくちゃにされて、逃げつく場所はここだった。

 暗くて、人がいなくて、安心する。しかし、何よりも――。

 

――痛いのも辛いのも苦しいのも嫌だよね。でも何より、あなたが好きなものを好きに思えなくなる、この場所が私は憎いな。

 

 記憶の片隅から誰かの声が蘇る。

 

「誰だっけ……ここで……確かにここで僕は誰かと……」

 

 考えても答えは出ない。

 できれば日が高いうちに足を進めたい。夜は魔獣が活性化するからだ。

 

「……今はいい。まずはここから本城に侵入だ」

 

 避難通路の入り口をこじ開けて、地下通路を進む。

 

  *

 

 本城の謁見の間にて。

 かつては煌びやかな装飾で彩られていたが、今では厄災の瘴気によって廃れ切った剣呑な空気が漂っていた。

 その広間には複数の骸骨の化け物が蔓延っている。

 剣を携えるもの、弓を握るもの、槍を構えるもの。

 一つ一つの所作に洗練された技が伺える。

 その中で一体。

 空の玉座を守護する騎士が一人。

 他の骸骨とは異なる高貴な防具を身に着けたその骸骨。

 

「――」

 

 広間の大きな扉がゆっくりと開かれる。

 骸骨兵は戦闘態勢に入る。

 開かれた扉から飛び出したのは一人の少年――フィン。

 

「――ふぅっ」

 

 深呼吸を一回。フィンの瞳に謁見の間に居座る化け物たちが映り込む。

 

「うああああああああああっ!」

『ギィ!?』

 

 骸骨兵と目が合った瞬間、フィンは弾かれるように地を蹴った。

 

(左足から踏み込む旧王国式の歩兵型。一撃の後は右に重心が傾く――そこだ)

 

 先頭の骸骨兵が振るった剣を交わし、頭を跳ねる。から、と髑髏が落ちる軽い音。まず一体。

 状況を理解したのか、一斉に骸骨兵たちが動き出す。

 統率された動きで陣形を組むために動きだす骸骨兵。

 そのうちの一体が矢を放った。すぐに首のなくなった骸骨を縦にして防ぐ。

 そのまま、フィンは先ほど倒した骸骨兵から剣を奪い投擲する。

 風を切って回転したそれは、一体の骸骨兵の頭を貫く。

 

『ギビィ!』

『ギィ!』

 

 一体が倒れこんだ拍子に、芋ずる式に陣形が破綻していく。

 混乱の中、フィンは玉座へ一直線に駆け、骸骨兵達の頭を踏み台に跳躍する。

 背後に骸骨兵達を据えて、フィンは玉座を見上げる。

 

「……くっ」

 

 その瞳には空の玉座を守護する一体の骸骨騎士。

 歴戦の凄みを感じさせる重厚な鎧を身にまとたそいつは、ゆっくりと剣を抜く。

 骸骨騎士は右手で剣を握り、左手を後ろに組んだ。

 まるで、師匠と弟子の指南稽古のようだ。かかってこい、と言われているような気がした。

 

「…………お父上」

 

 フィンの顔が歪む。

 付随して、手足が突然震えだす。

 骸骨騎士はゆっくりとこちらへ近づく。

 動かなければならない、だが動けない。

 フィンの身体は恐怖に支配されていた。

 

――いつになったら、俺を超えるんだ。今のままでは片手で事足りる。

 

 父の言葉が蘇る。

 

(や、やっぱり………僕には)

 

 腰が引ける。

 フィンに剣を振らせ続けた言葉。

 この人生を呪い続けた、原因の一つ。

 

「…………む、むりだっ」

 

 がくがくと体が震える。奥歯がかみ合わない。

 剣を構えることすらできない。

 怖い。怖くて怖くてたまらない。

 骸骨騎士、いや父の屍が振り上げた剣。

 煌めく刃に、目を細める。

 

「――止まって!」

 

 刹那、声がした。

 同時にかすかな光が広間を染める。

 恐る恐る目を開けると、刃はフィンの首すれすれで止まっていた。

 広間の骸骨たちはいっせいに硬直した。

 何が起こったのかと声の主を探すと。

 

「こっち! はやく!」

 

 謁見の間の脇、一人の少女を見つける。

 フィンは半ば転がり落ちるように玉座への階段を下り、震える手足で少女の背を追った。

 

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