父の両手持ちの構えを見て。
しかし、僕の心は不思議と高鳴っていた。
研ぎ澄まされた強者の構え。
その剣が描く、美しい輝きをこの目で見て思い出す。
(そうか、僕が剣に憧れて、好きになったのは――)
すべての原点がここにある。
もう震えはない。
逃げもしない。
だって、十分なくらい背中は押して貰えたから。
僕は今日、この停滞した日々にさよならを告げる。
「――ふっ」
父上に迫る。
ここからは未知の世界。
目をかっぴらいて相手を観察する。
微細な動きから次の動作を予測して備えて。
そのからはじき出される最適解を延々と振るい続ける。
「くっ!」
思考する余地もなく、眼前に大剣が迫る。
屈む暇もなく、剣で防ぐも弾き飛ばされる。
転がりながら受け身を取って立ち上がる。
圧倒的な力と技。
彼の微細な動きから枝分かれする無数の剣戟。
「はっ――」
胸が高鳴る。
自分が笑っていることに今気づいた。
僕は父上の美しい剣戟を目の当たりにして、笑っているんだ。
どうして? 決まってる。
剣は、どこまでもどこまでも、僕を魅了するからだ。
◇
『フィンは目がいいな』
これはまだ父上が優しかったころ。
兄も姉もみんな生きてた、幸せな時間。
『そうか、フィンは剣が好きだからか。だからすぐに技を覚えられるし、小さな動きから予測もできるんだな』
ごつごつした手で頭をなでられた。
その感触を今でも覚えている。
『みんな大人になるとそれをどうにも忘れてしまう。だから、フィン、お前は忘れないでくれ』
僕を見る、この目が好きだった。一本の剣のように、まっすぐ通れないこの目が。
『まあ、力も技もまだまだだから宝の持ち腐れだがな』と、最後に父は冗談交じりに苦笑した。
でも、それから兄が死んで、姉が死んで、六人いた兄弟たちがみな死んでいき。
父はついに笑顔を見せることはなくなった。
*
楽しい。
それだけが頭を満たしている。
成長して、筋肉がついて、技も磨かれた。
父とこうして剣を交えている。
この時間が、心底楽しい。
父はもうとっくの昔に死んでいる。
叶わないはずの再戦が今ここにある。
もう二度と、父と話すことはできない。
僕ではない誰かが聖剣に選ばれたとき、父は果たして何を思ったのか。
僕と父の間に、どのような会話がなされたのか。
想像しただけでも気が重くなる。
父は最期に何を思ったのか。
すべては何も分からずじまい。
だけど、この戦いには意味がある。
ただの自己満足かもしれない。
だけど、彼の剣を見れてよかった。
切実にそう思う。
「ぁ……――」
視界が赤色に染まって、はじめて気づく。
僕の身体はボロ雑巾のように満身創痍だった。
もはや、力は残されていない。
『ィ……』
父が僕を見据える。
まだまだ父の剣技へは辿り着けない。
身体が成長してなお、これほどまでの差があった。
『ギ…………ィ……ッ!』
直後、ばき、という鈍い音と共に骸骨の膝が割れる。
連鎖して父の身体はボロボロと崩れていった。
「……ははっ」
消耗戦。人間の生身とは異なり、相手は骨。ダメージはすべて骨へと蓄積される。
当然、生身よりも脆い。
「フィンっ!」
一気に力が抜けて倒れこむ。
遠くで彼女の声がする。
体中痛いが、不思議と気分は悪くない。
意識が微睡む中で、薄く開いた瞳でただ白髪の少女を探していた。