地上で最初の警告射撃が響いた頃、私は地下収容区画へ続く扉を押し開けた。
背中の荷物が扉の縁に触れる。肩を斜めにして通り抜け、右手のツールバッグを持ち直した。
階段を下りてから、まだ誰とも会っていない。
けれど、目の前の広い通路には明かりがついていた。
左右へ廊下が延びている。壁の表示は、東区画と西区画。それぞれの奥に、同じ色の扉が並んでいた。
ワカモが地下にいるとしても、どの部屋かまでは分からない。
一つずつ確かめるしかなかった。
「止まれ」
東側の角から、機関銃の銃口が向けられていた。
ヘルメットの下に覗く顔を見て、私は足を止めた。
先生の言っていた残る三人のうちの一人、機関銃使いの空井サキ。
「武器を床に置け。その荷物もだ」
彼女の目が、私のライフルと背中を順に捉える。
私はツールバッグを足元へ下ろした。ライフルは手放さない。
サキが顎を引いた。
「こちらRABBIT2。地下中央で警戒対象を確認。共有された写真の生徒だ。ライフル、大型の背嚢、手提げの荷物を携行している」
通信の相手が何か答えたらしい。彼女は銃口をこちらへ据えたまま続けた。
「RABBIT3、侵入者の退路封鎖を要請する。中央から階段へ抜ける方の扉だ」
背後で駆動音がした。
振り返らずに横へ動く。さっき通った扉の更に手前で、防火シャッターが下りてきた。
「封鎖を確認……最後の警告だ」
私はバッグの持ち手を拾った。
相手の指が動く。
荒々しい銃声が地下に反響した。
中央の柱へ滑り込む。角から飛び出した破片が頬を掠め、背後のシャッターに弾が食い込んだ。
――実弾だ。バッグを柱の陰に寄せ、ライフルを構える。
彼女の身体は角の向こうに隠れている。撃つたびに、銃身と片側の肩だけがわずかに出た。
次の射撃が途切れたところで、私はその手前の壁を撃つ。
命中はしなかったが、顔が引っ込んだ。その隙に距離を詰める。
東へ入る角で、もう一度射撃を受ける。
床すれすれに身体を沈めると、背嚢の上を弾が抜けていった。
背中を壁へ寄せる。ここで転送器を壊されたら、ワカモを連れ出せない。
サキは次の扉の陰へ移っていた。
後退しても、銃口はこちらを向いたままだった。
追えば、また次の遮蔽物から撃ってくる。
このまま付き合っている時間はない。
私はツールバッグを低く放り、前方の壁際へ滑らせた。
その音にサキの目が一瞬動く。
反対側から踏み込んだ。
銃口が追ってくる。ライフルで機関銃の先を外へ押し、懐へ入った。
肩に銃床がぶつかったけれど、足は止めない。
彼女が左の肘を突き出す。
受けながらもう一歩進むと、背後の壁に金属音がした。
通路から引っ込んだ保守スペースだった。
サキは壁際の配管にぶつかった肩を引き、私の膝へ蹴りを入れようとした。
軸足の外へ回り込む。機関銃を抱えた腕を押さえ、そのまま床へ伏せさせた。
「っ……離せ!」
彼女はすぐに膝を立てた。
起き上がる力を腰で止め、機関銃のスリングを外す。
銃を脇へ滑らせると、今度は手が腰へ伸びた。
その手首を掴み、もう片方の腕と背中で揃える。
「動かないで」
「誰が……!」
踵が床を打った。
私は彼女を押さえたまま、すぐそばまで滑ってきていたツールバッグを引き寄せた。
外ポケットから幅の広い結束バンドを抜き、両手首を留める。
更に、それを別のバンドで壁際の露出配管へ繋いだ。
引いて確かめる。配管も、バンドも動かなかった。
念のため、彼女の機関銃も保守スペースの入口脇へ移す。
――拘束は出来た。今は、ワカモを見つける方が先だ。
たとえ彼女が足を伸ばしても機関銃には届かないことを確認してから、私はバッグを持ち上げた。
「待て! 何処へ行く!」
追ってくる足音はなかった。
振り返ると、サキは配管へ背を押しつけ、立ち上がろうとしていた。
両腕が引かれ、そこで止まる。
今のうちに探す。
東区画の手前の部屋は無人だった。次の部屋には空の寝台。その隣は、掃除用具と折り畳まれた椅子。
施錠された扉では、観察窓から見える範囲を確かめた。死角のある部屋だけ錠を壊し、中を覗く。
いない。
奥の扉を開けても、人の姿はなかった。
私は廊下へ戻った。
地上の先生からは、まだ連絡がない。
転送器は二人まで。ワカモと私で戻れば、本体ごと拠点へ移り、三時間使えなくなる。
向こうから迎えに来ることも出来ない。
先生は、それを承知で私に持たせた。
それでも、早く見つければ、地上へ戻って出来ることがあるかもしれない。
私は東区画を引き返した。
中央の分岐を越え、西へ向かう。
* * *
最後の扉が閉まる音が、東の奥から響いた。
続いて足音。さっきより間隔が短い。
私は配管に背をつけたまま、息を止めた。
足音が保守スペースの前を通り過ぎる。角の壁に遮られて姿は見えなかったが、床を蹴る音は中央へ遠ざかっていった。
西へ行く。
もう一度、両腕に力を込めた。
結束バンドが手首へ食い込む。指先が痺れた。留め具は軋みもしない。
「……くそっ」
このまま闇雲に力をかけ続け、首尾よく千切れたとしても手が使いものにならないかもしれない。
武装を使えなくなっては意味がない。私は歯を食いしばるのをやめ、首を後ろへ捻った。
配管は床際から壁に沿って立ち上がっている。私の背中に当たっている部分は金属製。
――そうだ。ここは保守スペース。設備図では、この先で換気系統へ接続していたはずだ。
見上げると天井からわずかに下がった場所に太い継手があり、そこから先は蛇腹状の樹脂製ダクトになっていた。
記憶違いじゃない。天井裏の換気設備へ繋がる構造だ。
あの継手を狙う方が望みがある。
腰をずらし、配管の横の壁へ片方の靴底を当てた。
踏み込む。背中が擦れ、ほんの少し身体が浮く。
もう片方の足も壁へかけた。
手首が引かれる。
そこで止めずに腹へ力を入れ、尻を持ち上げた。配管に掛かったバンドが、ざらついた音を立てて上へ滑った。
数センチ。
足を置き直し、もう一度。
――訓練なら、この姿勢の時点でやり直しだろうな。
でも、そんな事言ってる場合じゃない。
片足ずつ、靴底を少し高い位置へ置き直す。膝を曲げ、壁を踏んで腰を押し上げた。
背中が配管を擦り、手首を繋いだバンドが少しだけ上へ滑る。
身体を支え直し、また足を上げる。
何度か繰り返したところで、靴底が滑った。肩が落ち、手首に鋭い痛みが走る。
声を呑み、壁へ足を突っ張った。
止まるな。
息を吐き、もう一度膝を引きつける。
踏ん張って腰を浮かせ、バンドをずり上げた。背中を擦った同じ場所が、ひりひりと熱い。
見上げても、継手はまだ頭の上だった。
右足、左足。置き直して、また身体を持ち上げる。
脚が震え始めても、一度に登れる高さは変わらない。
少しずつ足を上げ、そのたびに腰と両手を引き上げた。
頭が天井へ近づいた。上体を前へ折って頭を逃がし、もう一度、壁を踏んで腰を持ち上げた。
ようやく、バンドが継手の下へ突き当たった。
継手の縁にバンドを引っ掛け、身体を横へ振ることで、継手ごと樹脂ダクトの根元をこじる。
すぐ頭の後ろで、樹脂が鳴った。
私は足の位置を横へずらした。
継手に掛かったままのバンドを、斜め下へ引く。金属の管ではなく、上に繋がるダクトの根元へ力がかかるよう、身体を捻った。
ぱき、と軽い音がした。
もう一度。
今度は、天井へ続く蛇腹が大きく潰れた。
そのまま体重を預ける。
裂ける音とともに継手が割れ、管の先端からバンドが抜けた。
両腕を引き留めていた力がなくなり、私は尻から床へ落ちる。
「っ、たぁ……」
頭上でダクトが揺れていた。割れた継手の破片が、ヘルメットを叩いて落ちる。
引き抜けたバンドの輪には、裂けた樹脂が引っかかっていた。
バンドそのものは、一本も切れていない。
だが、壁からは離れた。
膝を胸へ寄せ、背中の両手を尻の下へ通した。装備に引っかかったところを身体を捻って抜き、片足ずつ潜らせる。
ようやく手が前へ来た。
腰のナイフを抜く。
痺れた指で柄を握り直し、刃をバンドへ当てた。
短く引く動作を繰り返すと、太い帯が切れた。
開いた手に血が戻ってくる。指を握り、伸ばす。
よし、動く。
愛銃は壁際に置かれていた。拾い上げ、弾帯と機関部を確かめる。破損はない。
私が通路へ出るのとあわせ、西区画の扉を開け閉めする音が聞こえた。
誰かを連れて歩く足音も、話し声もない。
――あの相手は収容室の位置を知らない。まだ探している。
わざと東へ引いたのは、無駄じゃなかったようだ。
西の奥から二番目。
その場所へ辿り着くまでに、もう一度止める。
私は機関銃を抱え、中央へ走った。
* * *
分岐の先に、白い髪が見えた。
相手は西区画の三つ目の扉へ手をかけていた。大きな背嚢がこちらを向いている。
私は柱の縁から銃を出し、引き金を絞った。
初弾が相手のすぐ脇を叩く。
顔がこちらへ向いた。足が動いたのは、そのあとだった。
さっきの接近戦にはなかった遅れだ。
続く弾が肩へ当たり、黒い服が跳ねた。
それでも相手は背中を見せて逃げず、こちらへ向き直りながら壁の陰へ入った。
「そこまでだ!」
返事の代わりにライフルが出てきた。
私は柱へ戻る。縁を弾が削った。
肩に当てた。
だが、それより前に、背嚢を私から遠ざけていた。
荷物が邪魔で動けなかったのか。
反対側から通路を窺う。
相手は次の戸口へ移ろうとしていた。横を向いた身体の後ろに、背嚢の端が出る。
私はそこへ狙いをずらした。
撃った瞬間、相手は進むのをやめた。
背嚢を壁へ押しつけるように身を捻り、自分の腕をこちらへ出す。
弾が前腕を打った。銃口が下がる。
そこまでして守るのか。
中身は分からない。予備の弾薬か、何かの機材か。
ただ、壊されたら困るものが入っている。
私は柱から出て、中央の床を横切った。
その間に距離を詰めてくるかと思ったが、相手は動かなかった。
背中の荷物を隠したまま、ライフルだけをこちらへ向ける。
射撃を受ける前に西区画の壁へ入った。
――これなら止められる。倒せなくても良いんだ、この先へ進ませなければいい。
「こちらRABBIT2。警戒対象と西区画で交戦中。地下へ増援を頼む。相手は背中の荷物を庇ってる。重要な機材を携行している可能性がある」
『こちらRABBIT1。ヴァルキューレの警備班を地下へ向かわせます。戦闘を継続出来ますか』
「出来る。正規の階段から中央へ入ってくれ。侵入側の出口は閉めたままでいい」
『了解しました。先生の退避は完了しています。私は地上のスナッチャーを追います』
「RABBIT4は?」
聞く間にも、白い髪が動いた。
私は射撃を加える。相手が扉の陰へ戻ったのを見て、角へ身体を引いた。
『意識はあるよ。こっちは私が見てる』
モエの声だった。
「分かった。頼む」
私は通信を切った。
ミユのことは気になるが、私まで地上へ行けない。ここを空ければワカモが奪われる。
銃声が止むと、扉を押す音が聞こえた。
相手は私の方を向いたまま、後ろ手で部屋を確かめていた。
私は次の壁の張り出しへ移る。
こちらは、何処なら射線が通るか分かっている。
扉の開く向きも、廊下が狭くなる位置も覚えている。
相手はそのたびに足を止めていた。
部屋へ顔を向ければ、背嚢が出る。
私へ正面を向ければ、中を確かめるのが遅れる。
一度目と同じように詰めてくるなら、背嚢へ撃ち込んでやる。
ライフルの銃口がこちらを捉えた。
私は引っ込んだ。壁を叩く二発の音を聞いてから、低い位置へ銃を出す。
相手は一つ先の部屋まで下がっていた。
まだ届かない。
撃ち続ければ、向こうも進めない。だが、こちらの弾が先に尽きる。
短く切る。背嚢が壁から離れる瞬間だけ狙う。
撃つたび、硝煙が狭い廊下へ溜まった。
擦り剝いた手首に汗が沁みる。機関銃の重さが、いつもより指にかかった。
相手の目がこちらを向いた。
今度は踏み込んでくる。
私は銃口を振り、背中へ回る荷物の端を追った。
相手は半歩出たところで止まり、扉の陰へ戻った。
その顔が、一度だけ通路の入口へ向く。
複数の足音がした。
「ヴァルキューレ警備班、地下へ到着!」
「西区画だ! 突き当たりへ向けて撃つな、収容者がいる!」
私は叫び、前へ出た。
今なら挟める。
相手は私へ向けていた銃を下げ、次の扉の錠を撃った。
銃声が重なり、扉が内側へ開く。
奥から二番目。
「狐坂ワカモ」
白い髪が戸口へ消えた。
私は銃を抱え直し、走った。
* * *
金属の落ちる音がした。
収容室の一つ手前で足を止め、壁に沿って中を窺う。
侵入者が、椅子の前に屈んでいた。
長い柄の工具を閉じる。拘束具を繋いでいた鎖が切れ、床へ垂れた。
手首の方は、もう外されている。
「立てる?」
ワカモは答えなかった。
額を押さえていた手を椅子へつき、身体を起こそうとする。その膝が途中で折れた。
白い髪の生徒が工具を置き、脇へ腕を差し入れる。
「……頭が、割れそうで……」
ワカモの声は掠れていた。
頬に髪が貼り付き、唇の色が薄い。
「歩かなくていい。ここから出る」
私は銃口を戸口へ入れた。
「その手を離せ!」
相手が顔を上げる。
ワカモを椅子の横へ座らせる動きと、ライフルを持ち上げる動きが重なった。
私は壁へ戻った。戸口のすぐ外を弾が通り、向かいの壁に穴が開く。
追撃はなかった。
廊下へ出てくる気配もない。
私を追い払えれば、それでいいのか。
「対象はこの中! 一人は戦闘困難、もう一人が銃を持ってる!」
追いついた警備班へ伝える。
二人が向かいの壁につき、一人が後方を押さえた。
室内から声がした。
「あなたの銃と弾薬は、何処」
「……取り上げられました。この部屋には……」
私は警備班へ手で合図した。
二方向から戸口を押さえる。機関銃を大きく振り回す余地はない。壁際へ寄せ、短く構え直した。
侵入者は室内を一度だけ見回した。
それから戸口のこちらへ視線を向ける。
「悪いけど、今回は諦めて」
「ですが……あの不届き者を……」
「もう探してる時間がない」
床で硬いものが擦れた。
背嚢の留め具が外れる音がした。
私は戸口の低い位置から顔を出した。
大型のケースが床に置かれている。白い髪の生徒はその側面を開き、畳まれていた部材を引き出した。
狭い室内へ、低い振動音が満ち始める。
あの荷物だ。
壁を壊すものか。こちらを吹き飛ばすための兵器か。
銃口をケースへ下げる。
「起動させるな!」
私が撃つと、相手は片膝をついてその前へ出た。
弾が肩を打つ。身体が揺れた。それでも、ケースから退かない。
背後でワカモが身を縮めた。
私は引き金を離した。
この角度では、侵入者を抜けた弾がワカモへ届く。
相手はライフルを胸へ吊り、片腕でワカモを抱え起こした。
もう片方の手が、機材の把手を掴む。
空になった背嚢は、その腕に引っかけられていた。
足元に細い光が走った。
壁でも、私達のいる戸口でもなく、二人を囲むように伸びていく。
――逃げるための機材だったのか。
背嚢を守り続けていた動きが、ようやく繋がった。
私は銃口を上げ、戸口へ踏み込んだ。
「止まれ!」
相手はこちらを見た。
右腕にはワカモ。左手には機材。もう銃を構えていない。
なら、掴める。
私は全力で床を蹴り、ワカモを支えている腕へ、左手を伸ばす。
白い光が視界を塞いだ。
光が収まった瞬間、そこには何もなくなっていた。
指先が、何にも触れなかった。
踏み込んだ足だけが床に着く。
私はつんのめり、空いた椅子へ肩をぶつけた。
音が消えていた。
さっきまで目の前にいた二人も、広げられていた機材もない。
背嚢も、ライフルも消えていた。
「……何処だ」
窓はない。扉は私の後ろに一つだけ。
警備班が室内へ入り、寝台の下と壁際を確かめる。
隠れられる場所など、最初からなかった。
私は椅子から手を離した。
手袋に白い埃がついていた。
あと一歩だった。でも、もう誰もいない。
床には切れた鎖と、外された拘束具が落ちていた。
その横に、口の開いたツールバッグがある。
私は膝をつき、中を確かめた。
ボルトカッター。短いバール。交換用の刃を収めたケース。
さっき私の両腕を縛ったものと同じ、幅の広い結束バンドも残っていた。
ボルトカッターは刃にこそ傷がついているが、全体を見ても使い込まれた様子がない。新品を持ち込み、今の作業で傷がついたのだろう。
これだけの工具がある。その気になれば、私の銃も壊せたはずだ。
給弾部でも機関部でも、開いて潰してしまえばいい。すぐには直せない箇所など、いくらでもある。
私は機関銃へ目を落とした。
自分で回収し、ここまで撃ち続けてきた銃だ。
壊しておく方が、間違いなく確実だった。
それでも、相手はそうしなかった。
拘束した時点で充分だと思ったのか。時間が惜しかったのか。
理由は分からないが、私を撃ち倒すよりワカモを連れ出すことを選び続けたということだ。
『こちらRABBIT1、RABBIT2、状況は?』
ミヤコの声に、私は顔を上げた。
通信を開く。
「こちらRABBIT2。狐坂ワカモを奪われた」
喉が詰まりかけた。
息を吸い、続ける。
「警戒対象が携行していた機材を起動。二人とも室内から消失した。転送手段と思われる。機材も一緒に消えてる。行き先は不明」
回線の向こうで、短い銃声がした。
『……了解しました。負傷の程度は』
「戦闘は継続出来る。警備班もいる」
私は空の椅子を見た。
「ワカモの銃と弾薬は持ち出されていない。別の保管場所を探す時間がなくなって、回収を諦めた模様。会話も録音済みだ」
『分かりました。RABBIT2、地下現場を保全。転送器と侵入者の装備について確認を続けてください』
『地上のスナッチャーは、私とRABBIT3で追跡します』
「了解」
通信を切り、私は警備班の一人へ証拠品保管場所の再確認を頼んだ。
残された工具には、それ以上触れないよう伝える。
東へ誘導した。拘束を抜けた。荷物を狙って、ここまで進むのを遅らせた。
その間に増援は来たし、武器を探す時間も奪えた。
けれど、先生に託された任務の一番肝心な部分は――
「……ちっ」
私は鉄帽の鍔を掴み、深くかぶり直す。
手首に痛みが走る。
地上にはまだ一人いる。
だが、そちらはミヤコとモエに任せる。
空となった収容室に残されたツールバッグへ視線を戻す。
私には、ここで確認すべきことが残っている。