10月15日 09:00
私は改めて電話口の相手に向かって告げる。
「…いくつか、質問させてもらいたいことがあってお電話しました」
「でもその前に…思い切り殴ってしまって申し訳ありませんでした。お怪我は大丈夫ですか?」
『今手当を受けてる、当分は大人しくしているよ。心配してくれてありがとう』
『君こそ押さえつけることになってしまってすまなかった。きっと怖かっただろう。ミユこそ怪我はなかったかい?』
「…い、いいえ。怪我なんてないも同然だったので」
――怪我だけじゃなく、押さえつけられた時に怖かったことまで、気にしてくれる。
私は電話から少しだけ口を離し、改めて深呼吸した。
私はこの声の人が先生だと感じる。でも、そう感じるだけで決めてはいけない。シャーレにいる人にも一昨日の夜に確かめた。
だから、この声の人にも。
* * *
10月13日 20:32
先生に見えるあの人が煙の中へ消えてしまい、床へ座り込んで動けなかった私の耳にミヤコちゃんからの通信が飛んでくる。
『こちらRABBIT1。RABBIT4はそのまま現地で待機せよ。後で私が直接向かいます。RABBIT3はⅠ型ドローンを一機、RABBIT4の監視に回してください』
『RABBIT3、了解』
ミヤコちゃんの指示とモエちゃんの返答。その意味を理解したのは数秒後だった。
私のためにドローンを一機割く。何をされたのかと疑われている。
どうしよう、とりあえず返事をしよう。
「ら……RABBIT4。了解しました。ここで待機します」
『ミユ!よかった。少なくとも意識はあるんですね。私はスナッチャーを追います。そこで待っていてください。』
かろうじてここまでのミヤコちゃんの声は理解出来たが、そこから後の作戦経過は良く覚えていない。
モエちゃんの切迫した声と、三体目も囮だったという言葉だけが耳に残っている。あの人を捕まえたという報告は、聞こえなかった。
――しばらくするとミヤコちゃんが目の前にいた。
私の前で身をかがめ、私の目を見ながらこう告げる。
「無事で良かった。でも聞かねばなりません」
「スナッチャーに何を命令されましたか?」
「……何も、命令されていません」
ミヤコちゃんの目が一瞬鋭くなった。
「…何も?本当に?」
「はい、何も」
嘘じゃない。されたのはお願いだ。
「ミユ。私達が敵に見えますか?」
「いいえ、見えません」
ミヤコちゃんが鋭い目のまま続ける。
「拘束を抜けた後、銃を向けていましたね。そこから何故、撃たなかったのですか?」
「っ…す、スナッチャーから背中に何かを押し当てられ、そのあと急に力が抜けました」
あぶない、いま思わず先生と言いそうになった。
「それで、どうにかスナッチャーの拘束から逃れたんですが、手が痺れてしまい、撃てないでいるうちに取り逃がしました」
指を引き金から離したのは、自分だった。そこまでは言わなかった。
『こちらRABBIT3、私からも聞かせて』
モエちゃんの声が通信機から聞こえてきた。
『銃を向けた後、何か話しかけられてたよね。何を言われたの?』
「スナッチャーは〈私達は、ワカモを助けに来たんだ〉と主張していました」
『…へぇ?それなのにミユをねらったって?』
「最後に確認します。ミユ、あなたが先生だと思っているのは誰ですか?」
何をもって正しいのかが私にはまだ分からない。
報道やシャーレにいるあの人が言っているように、スナッチャーは本当に得体の知れない悪い人なのかもしれない。
さっき背中に押し当てられた何かのせいでおかしくされた可能性もある。でも、それも分からない。
ただ、ミヤコちゃん達が望む答えは分かる。
今ここで、さっき逃げていった方かもとは口に出来なかった。
「…その、意味が分かりません。先生なら今シャーレにいるんじゃないんですか?」
「……何があったかは話せそうですね。今から先生にも繋ぎます」
一旦ミヤコちゃんは立ち上がり、しばらく端末を開いて何かを操作した。
『…こちらシャーレ執務室。霞沢さん。お怪我はありませんか?』
「は…はい、先生。擦り傷だけです」
私は、さっきミヤコちゃん達にしたのと同じ説明をした。
シャーレにいる人は私以外の三人へ映像の確認を指示し、私には地下の居住区画で休むよう告げた。
「はい、分かりました」
私にはどっちが本物の先生なのか分からない。感覚では逃げていった方だけどその感覚自体を信用出来ない。
だから、聞いてみよう。
「ところで先生、今日の潜伏ポイントなんですが以前ここに潜んでいた時にお会いしたのを覚えていますか?」
『ええ、物陰に隠れていたところでしたね。声を掛けると驚いていましたが』
――違う。ネズミに怯えていた私を先生が見つけたのは、港のコンテナの間だ。この工場のことは、その時に話した。
――仮に電話先の相手が本物だとしても記憶違いはありえる。でも少なくとも不正解だった。
「…ありがとうございます。スナッチャーに襲われてなんだか不安になったんです。どこに隠れても襲われるんじゃないか。みたいに」
『…本当にお疲れ様でした。まずは戻ってきてください』
シャーレとの通信が切れる音がした。
* * *
10月15日 09:01
――あの玩具工場が隠れ場所に向いていることを話した相手は、小隊の皆と先生だけだ。
小隊の皆がわざわざ漏らすとは考えづらい。それなら、電話口の相手は何を手掛かりに、あそこにいる私を見つけたのか。
「…では、改めて、一昨日のことです。どうして私があの場所にいると分かったんですか?」
『…以前、港のコンテナで偶然会った日があったのを覚えている?』
「…は、はい」
『…あの時、荷役事務所か玩具工場の跡地がいい感じだって、そう話していたのを思い出したんだ』
『それで、まずは玩具工場の方を当たってみて、ドアが少しだけ開いているからもしや…と思ってみたら当たりだった。これで答えになってるかな?』
――あんな些細な、私以外にはどうでもよさそうな出来事もちゃんと覚えてくれていた。でも、もう少しだけ。
「ありがとうございます。続けて質問させてください。スナッチャーさん…あの時裏口に来た、白い髪でドレスを着た凄い綺麗な人はあなたの仲間なんですか?」
『…そうだね、私に協力してくれている生徒の一人だ』
「サキちゃんの報告では、あの人は狐坂さんと一緒に、その場から消えたそうです。あなたは、どうして同じ方法で逃げなかったんですか?」
『……まだ他の人には話さないでほしいんだけど、あれで全員が逃げられるわけではなかったんだ。ワカモの救出を優先して、私は自力で戻ることにした』
……皆で使えないなら、生徒を先に逃がして、自分は残る。
私の知っている先生なら、そうすると思った。
「その方との交戦記録も聞きました。サキちゃんの銃を壊さなかったそうですね」
…いくらか意地悪な問いかけなのは分かっている。でも聞いておこう。きっと先生なら。
「どうして壊させなかったんですか? そのままにしておけば、サキちゃんはまた撃ってきます。狐坂さんを助けるにも、壊しておいた方が確実だったはずです」
電話口側で一瞬声が止まる。何か話し声が聞こえる。
『…彼女にはワカモ救出を最優先にしてくれと頼んだ。壊さなかったのは彼女の選択だ』
『でも、サキが自分の銃を大切にしていつも手入れを熱心にしているのは知っている。だから〈壊してでも止めろ〉とはどのみち言わなかったと思う』
――やっぱり、こっちだ。敵対していても必要以上の攻撃を望まない。
電話口の相手のほうが本物だと考えた方が妥当だ。
「…あの、いったい今何が起こっているんですか?知らない人がシャーレにいて先生だと名乗っている。それなのに誰一人としておかしいと指摘しない。私も一昨日まで分からなかった」
先生は、自分が分かっている範囲のことだと断った上で教えてくれた。
十月十日の夕方から異変が起こったこと。人の認知を狂わせる干渉が行われていること。
先生は、細かく説明すると長くなるから簡単に、と続けた。
この干渉は、誰を先生だと思うかをすり替えるものらしい。シャーレにいる人が先生ではないのでは、と疑いかけても、辻褄が合う理由を思いつき、納得してしまうのだという。
――確かに。地下で狐坂さんと話した時も、先生には叱ってほしい気持ちが伝わらなかっただけだと、私は納得してしまった。
叱ってもらえなかっただけなら、どうして狐坂さんは、あの人を偽物だとまで言ったのだろう。あの時の私は、そこまで考えなかった。
「ありがとうございます。私からもお話します」
私は、狐坂さんとの出来事を先生に説明した。放火の話はモエちゃんから聞いたものだと断り、どうしてそんな話をしたのか本人に尋ねた時のことも伝えた。
話し終えた後、先生は言った。
『なるほど、ワカモから聞いた話とも合致する。ありがとう』
そうだ。
「あの、そういえば先生。狐坂さんは無事でしょうか…シャーレにいた頃は凄い苦しがっていて」
『ワカモのことを心配してくれてありがとう。もう大丈夫だ。あの頭痛と耳鳴り音も治まった』
先生は、ワカモは先生について考えるたびにその干渉を受け、頭痛を起こしていたのかもしれない、と説明した。
私の背中に貼ったのと同じことをすると、その頭痛も耳鳴り音も消えたのだという。
「あの……先生。またお電話させてもらってもいいでしょうか?」
『勿論さ。こんな状況だが生徒のお悩み相談ならいつでも歓迎だ』
「っ」
思わず息が詰まる。
先生は今、生徒に追われ、怪我の手当てを受けている。とても他人を気遣っていられるような状況ではないはずだ。
それでも私達の悩みを歓迎し、向き合ってくれる。そんな風に言ってくれるのか。
「はい。今日は本当にありがとうございました。」
通話を切る。
ほっと一息をつく。
――電話をかける前に、周りは確かめた。でも、話している間も気を配るべきだった。
最後の方は、はっきり〈先生〉と呼んでいた。その声を、誰かに聞かれるかもしれないのに。
* * *
10月17日 夕方
先生と電話してから、二日が経った。
何をされたのかは結局分からないが、受け答えから見て任務上の支障はない。何かあったら、自分達がなんとしても止める。
三人はそう言って、シャーレにいるあの人を説得してくれた。
予定どおり、明日の十八日にゲヘナ学園の風紀委員への引き継ぎが終わるまで、私もRABBIT小隊の一員として常駐護衛を続けることになった。
……皆に庇ってもらいながら、私は先生との電話を隠している。
護衛を続けながら、これから自分はどうすればいいのか考えていた。
思いつく道は、三つあった。
一つ目は、今の私には誰が先生に見えているのか、正直に話すこと。
口下手な私が、皆に分かってもらえるよう説明出来るだろうか。
考えてみても、うまくいくところが思い浮かばなかった。
二つ目は、連絡先を処分すること。
先生には悪いけれど、スナッチャーの〈洗脳〉とやらは私には失敗したことにして、このままRABBIT小隊のRABBIT4でい続ける。
……これも、無理だ。
シャーレにいるあの人がスナッチャーの話をする時、私はその顔をまともに見られなくなっていた。
皆には先生に見えている。その目が、私にはひどく冷たく感じられる。
今は生け捕りだと言っている。
でも、いつまでそうなのだろう。次も逃げられたら、今度は実弾を使えと言い出すかもしれない。
その時、狙撃を命じられるのは私だ。
わざと外すことなら、出来る。
でも、私が当てると信じて動いている皆を、危険にさらすことになるかもしれない。
先生を撃ちたくない。
私を庇ってくれた皆の信頼も、裏切りたくない。
あの夜、シャーレへ戻ってからの報告を思い出した。
* * *
10月13日 夜
「左脇腹と左大腿にゴム弾を命中させ、右手首に手錠を掛けました。しかし、もう片方を掛ける前に抵抗され、取り逃がしました」
ミヤコちゃんは、机の向こうに座る人をまっすぐ見ていた。
私は少し後ろで、その横顔を見ていた。
「申し訳ありません。あと少しのところでした」
「皆さんが無事に戻ったことが何よりです。月雪さん、自分を責めすぎないでください」
あの人はそう言った。
ミヤコちゃんの肩が、ほんの少し下がった。
「……ありがとうございます。今回の動きを整理し、次の確保に繋げます」
私は、何も言えなかった。
先生を撃った。手錠を掛けた。
そのことを、ミヤコちゃんはこの人へ報告している。
あと少しだったと、悔しそうに。
* * *
10月17日 夕方
銃の帯を握る手に、力が入っていた。
ミヤコちゃんは、先生の言葉をいつも真剣に聞いていた。
私達の中で一番まっすぐ先生を尊敬しているように見える。
――そのミヤコちゃんが、先生を撃った。
ゴム弾でも、先生には痛かったはずだ。電話では当分大人しくしていると言っていた。
電話で聞いた先生の言葉が、今になって重く感じられた。
自分が撃って、手錠を掛けた相手が、本当の先生だったと知ったら。
ミヤコちゃんは、あの報告をどんな気持ちで思い出すのだろう。
……もし、次は捕まえてしまったら。
私が逃げ道を塞いで、サキちゃんとモエちゃんが追い込んで。
今度こそミヤコちゃんが、両手に手錠を掛ける。
そうして皆で連れて帰った先生が、シャーレにいるあの人の手で命を落としたら。
私は首を振った。
まだ起きていない。そうなると決まったわけでもない。
でも、起きてからでは遅い。
皆は先生を守ろうとしている。
そのために頑張ったことを、後から一つずつ悔やまなければならなくなったら。
それを知っていたのに、私は皆の隣にいたかったから黙っていました、なんて。
――それは、皆への最悪の裏切りだ。
裏切りと言うなら、先生へこっそり連絡していることだって、皆からすれば同じかもしれない。
でも、捕まえるふりを続けているだけでは、何も変わらない。
小隊には残りたい。先生の力にもなりたい。
だって、今、先生を先生だと分かる生徒は、私を含めてもほんの僅かしかいない。
私は影が薄い。幼稚園の時も訓練生の時も、誰も来てくれない間は、怖くて仕方がなかった。
でも後で声をかければ、私がここにいると分かってくれる。忘れられていた理由が分かるし、謝ってくれることもある。
――今の先生は、そうじゃない。
声をかけても自分が〈シャーレの先生〉だと分かってもらえないどころか、「お前は先生の名を騙る偽者だ」と非難されてしまう。
もしも私が今の先生と同じだったらどうなるだろうか。見知らぬ私っぽい誰かがさも以前からRABBIT4ですという顔で小隊の皆のそばにいたら。
ミヤコちゃん達がその誰かへ親しげに話しかけ、冗談を言って笑い合っているのを、目の前で見たら。
私が声をかけても、一瞬訝しげな目を向けられただけで
「
と、その誰かへ笑いかけられてしまったら。
「……っ……!」
体中の血が凍ったかのような感覚に襲われた。気付けば、片方の手でもう片方の腕を強く掴んでいた。
……無理、だ。私だったら絶対に耐えられない。もしもミヤコちゃんにそう言われたら?と一瞬考えただけでもこれほど恐ろしいのにそれが現実に起こる。
サキちゃんにもモエちゃんにも言われてしまう。しかも、寝ても覚めてもずっとそのまま。
今、まさにそんな世界の只中に置かれている先生を見捨てる?嫌だ、そんなことは出来ない。したくない。
残る三つ目は、小隊に残りながら先生の力になることだった。
皆が先生を捕まえてしまう前に、元に戻す方法を見つけたい。
……どうすればいいのか、まだ分からない。
皆に気付かれず、何が出来るのかも。
それでも、探すなら、その方法だと思った。
もう少し考えれば、何か思いつくかもしれない。
そんなふうに先延ばしにしていた私に、夕方の定例報告で新しい予定が告げられた。
「検査……ですか?」
『はい。ミレニアムには、この手の分野に明るい専門家がいましてね。昨日行われた聖園さんの調査でも、他の生徒とは異なるデータが確認されたと、本日報告を受けています』
シャーレにいる人は続ける。
『霞沢さん。あなたもスナッチャーに接触し、何かをされています。今のところ支障はないようですが、念のため調べてもらいましょう』
『ミユ、明日でいったん交代になりますから、その後で診てもらえればと思って。先生には私から提案したんです』
『何もなければ安心出来ますし、聖園さんとの違いを調べれば、先生を名乗るあの男が何をしたのか、手掛かりになるかもしれません』
ミヤコちゃんの言葉が、胸に刺さった。
心配してくれている。
私が大丈夫だと言っただけでは安心出来なくて、確かめようとしてくれている。
……この会話が通信機越しでよかった。間違いなく今の顔は青ざめていただろうから。
「は、はい。分かりました……」
どうにか返事をする。
続く説明を聞きながら、私は銃の帯を握りしめていた。
検査って何だろうか?ウソ発見器みたいなものだったら、どうしよう。
誰が先生に見えるかを、機械で調べられたら。
――私なんかが、誤魔化し通せるとは思えない。
でも、嫌だと言えば理由を聞かれる。
皆が心配して用意してくれた検査を、どうして受けたくないのか。
その理由だけは、誰にも言えなかった。
報告が終わり、通信が切れた。
私はゆっくり息を吐いた。
ど、どうしよう。
相談出来る相手は、一人しか思い浮かばなかった。
右腰のポーチへ手をやる。布越しに、小さく折った紙の感触があった。
「ミユ」
びくりと肩が跳ねた。
顔を上げると、廊下の向こうからモエちゃんが歩いてくる。
「交代まで、まだあるよね。そっちで端末の確認しててもいい?」
「う、うん……」
ポーチから手を離した。
そういえば、今日はよくモエちゃんと顔を合わせる。
さっきも、一人になれそうだと思ったところで声を掛けられた。
私のことが、まだ心配なのかもしれない。
モエちゃんは近くに腰を下ろし、端末を開いた。
私は持ち場へ向き直る。
今は、かけられない。
もう少し後で。一人になれる時に。
けれど、その日のうちに、安心して電話をかけられる時間は見つからなかった。
* * *
10月18日 06:45
地下居住区画で私達の寝場所として与えられた4人部屋で眠っていた私は起き、周囲を見渡す。
ミヤコちゃんとサキちゃんのベッドは、もう空だった。二人は昨夜、引き継ぎのため早起きすると言っていた。
モエちゃんのベッドはまだ膨らんでいる。起床時間は七時だから私もちょっと早めに起きてしまったようだ。
――もしかすると非常識な時間かもしれない。でも、先生に相談するなら今はチャンスだ。
そう思った私は、大急ぎでパジャマから制服に着替え、連絡先の書かれた紙と端末だけを持って廊下に出た。
廊下の隅まで移動した私は改めて紙を取り出し、もう一度この番号を入力する。
『…ミユ?どうしたの?』
「もしもし、先生ですか。すみませんこんな朝早くに」
――私は状況を説明した。護衛の引き継ぎが終わり次第ミレニアムの専門家による検査を受けること。検査を誤魔化せる自信がないこと。
小隊の皆を裏切りたくないこと、でも先生を撃ちたくないし皆に撃たせたくもないこと。全部。
一気に喋り終わって息をついた。
検査が怖い。皆にも知られたくない。そんなことばかり話していたけれど、まず聞かなければいけないことがあった。
『ミユ。ひとまず落ち着いて。その検査なんだけど』
「…そういえば先生。私にしたのと同じことを他の皆にも出来ますか?」
思わず先生の発言に食い気味に重ねてしまったが、今はこの点を確認したい。
『…一度に全員は、無理だ。でも順番になら可能だ』
「本当ですか!じゃあ先生。私、それに協力します」
皆を戻せる。その答えが嬉しくて、思わず声が大きくなってしまった。
「どうか、皆を元に戻すお手伝いをさせてください」
それも余計にいけなかったのだろう。
「…ミユ。あんた…今、誰と電話してる?」
あっ
モエちゃんが、開いたドアのところに立っていた。
いつからそこにいたのか、分からなかった。
一節にまとめるつもりが長くなったので前後編にします。