AI生成らしさ:75%(推定)
説明的な会話、情報の反復、規則的な戦闘描写にAI生成文章の特徴が見られる。一方、主人公・梟の独白には独特な思考の飛躍や不規則な表現が多く、人間による創作・編集の特徴も認められる。
探索者協会本部、会議室。
「………以上で報告を終了します」
報告を終えた職員が一礼し、席へと戻った。
会議室に沈黙が落ちる。
報告された内容は、決して軽視できるものではなかった。
Aランク探索者パーティー、パレット。
その五名が全員死亡したのだ。
「……Aランクパーティーが全滅、か」
出席者の一人が重々しく口を開いた。
「これまでの被害とは深刻さが違う。早急に対策を講じる必要があるな」
「過去の探索者狩り事件との関連性はどうなっている?」
別の出席者が担当職員に尋ねた。
「現時点では、同一犯かどうか断定できる証拠はありません。ただ……」
職員は言い淀んだあと、意を決したように続けた。
「憶測になりますが……あの男の仕業ではないかと」
「我々の決定が!探索者全体の命にかかわるのだ! 憶測で――」
「待ちたまえ」
声を荒らげた男を、年配の出席者が制した。
「君は、過去の探索者狩り事件を担当していたね。聞かせてくれるか」
指名された職員は、少し考えてから口を開いた。
「……今回の探索者狩りには、秩序があるように感じます」
「秩序?」
「はい。こちらの動きを予測し、裏をかこうとしている。少なくとも、そう考えられる行動が見受けられます」
職員は手元の資料に目を落とした。
「ですが、過去の探索者狩りは……」
言葉を探すように、わずかに間を置く。
「災害のように感じました」
会議室が静まり返った。
「何を考えているのか分からない。何を基準に行動しているのかも分からない。こちらの都合も、対策も、まるで意に介していないような……」
「……つまり、別人だと?」
「断言はできません。ただ、私には同じ人物の犯行とは思えないのです」
「しかし、過去の事件と今回の事件に共通点があることも事実だ」
別の出席者が資料をめくりながら口を挟んだ。
「今ここで犯人を推測しても意味がない。重要なのは、これ以上の犠牲を防ぐことだ」
反論する者はいなかった。
「現在の条件は、生け捕りだったな?」
「はい。現時点ではアライブオンリー。危険度はB+となっています」
「だが、パレットが全滅した。これ以上、生け捕りにこだわって被害を増やすわけにはいかない」
出席者の一人が、はっきりと告げた。
「依頼条件を変更しよう。デッドオアアライブ。危険度はSだ」
「殺害を認める、ということですね」
「そうだ。手段を限定せず、犯行の阻止を最優先とする」
異論は出なかった。
「では、対応可能なSランクパーティーは?」
担当職員が資料を確認する。
「疾風は……リーダーの荒巻氏が負傷から回復しておらず、通常の任務に投入できる状態ではありません」
「……黒猫は?」
「黒猫は……無理だろう。こちらの依頼を素直に引き受けるとは思えん」
「……そうか」
男は短く息を吐き、決断を下した。
「ならば、薔薇十字に指名依頼を出せ。依頼条件の変更も、すぐに通達しろ」
「承知しました」
職員が頷き、会議室を後にする。
探索者狩りの事件は、もはや一部の探索者が警戒すれば済む段階を越えていた。
そして、協会がその対応を託すと決めたのが、薔薇十字だった。
……………。
探索者協会東京支部。
薔薇十字の五人は、支部長からの呼び出しを受け、支部長室を訪れていた。
「急に呼び出してすまないね。座ってくれ」
支部長に促され、五人は応接用のソファへと腰を下ろした。
「早速だが、今回君たちに来てもらったのは、探索者狩りの件についてだ」
「探索者狩り、ですか?」
亜紀が尋ねる。
「ああ。先日、Aランクのパレットが全滅した件は知っているね?」
「はい。報道で確認しています」
静香が答えた。
「事態を重く見た本部は、探索者狩りの捕縛依頼について、条件を変更することを決定した。従来は生け捕りを条件としていたが、今後は殺害も許容する。つまり、デッドオアアライブだ」
「……なるほど」
ギゼラは小さく頷いた。
「ですが、条件変更は公開発表されるものですよね? わざわざ私たちを呼び出してまで先に伝える必要があるのでしょうか?」
視線を支部長へと向ける。
「本題は別にあるのでは?」
「察しがいいね」
支部長は苦笑した。
「実は、君たち薔薇十字に探索者狩りの討伐、あるいは捕縛を依頼したいと考えている」
「……指名依頼、ということですか」
真凜が眉を寄せ、隣に座る静香へ、声を落とし、話しかける。
「相手の正体も、実力も、はっきりしていない状況で依頼を受けるのは……」
静香は真凜の言葉を聞いてから、支部長へと向き直った。
「申し訳ありませんが、現時点で討伐依頼をお引き受けすることはできません」
「理由を聞いても?」
「薔薇十字は現在、独自に探索者狩りの調査を進めています。相手の情報が不十分なまま討伐や捕縛に動くのは危険です」
静香は一切表情を変えずに続けた。
「まずは依頼を調査とし、その内容を踏まえたうえで、討伐依頼を受けるか判断させていただきます」
支部長はしばらく静香を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……分かった。では、まずは調査を正式に依頼しよう。討伐については、その結果を待って判断することにする」
「ありがとうございます」
静香が一礼する。
そのやり取りを見届けてから、ギゼラが口を開いた。
「ひとつ、確認してもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「今回の探索者狩りと、過去に起きた類似の事件。協会は両者に関係があると考えているのでしょうか?」
支部長の表情が、ほんのわずかに変わった。
「現時点では、何とも言えない。犯人が同一人物であるという確証はないからね」
「ですが、一部の手口は似ている、と?」
「……そうだね。共通する点があるのは確かだ。ただ、それだけで同一犯と判断することはできないだろう」
「なるほど」
ギゼラは納得したように頷いた。
しかし、その目は支部長から離れなかった。
「では、もうひとつ。『梟』と名乗る人物に、覚えはありませんか?」
その場の空気が変わった。
亜紀がギゼラへ視線を向け、静香は支部長の反応を注意深く見守る。
支部長はすぐには答えなかった。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「……梟、か」
その名を確かめるように呟いてから、ギゼラへと視線を戻した。
「それは……富士樹海の時に現れた、あの男のことかな?」
まるで、その名前を初めて聞いたかのような口ぶりだった。
「分かりました。ありがとうございます」
ギゼラは、それ以上追及することなく会話を切り上げた。
「支部長。今回の探索者狩りについて、協会が保有している情報を提供していただけますか。こちらの調査にも必要ですので」
静香がそう申し出ると、支部長は頷いた。
「分かった。準備ができ次第、君たちに渡そう」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
静香が立ち上がり、ほかの四人もそれに続く。
五人は支部長室を後にした。
……………。
薔薇十字のセーフハウス。
五人が室内に入ると、静香は扉を閉め、念のため周囲に人の気配がないことを確認した。
「それで、支部長の話だけど……」
亜紀が口を開きかけたところで、ギゼラがソファに腰を下ろした。
「その前に、少し整理しましょうか」
全員の視線がギゼラに集まる。
「まず、支部長は梟という人物を知っている。これは間違いないでしょうね」
「どうしてそう思うの?」
真凜が尋ねた。
「私が『梟』という名前を出したとき、支部長はすぐには答えませんでした。長い沈黙のあと、富士樹海の時の男か、と聞き返した。あれは、心当たりがなければ出てこない反応だと思います」
「……確かに、ただ名前を知っているか尋ねただけなのに、あの間はおかしいね。富士樹海の男ならもっと反応が早いはず」
亜紀が腕を組む。
「少なくとも、彼についてどこまで話すべきか、慎重に選ぶ必要がある程度には知っているのでしょう」
ギゼラは頷いた。
「そして、過去の探索者狩りについても、彼が関わっていた可能性を疑っている。私はそう見ています」
「でも、支部長は今回の事件との関係について、はっきりとは答えなかったわ」
静香が指摘する。
「ええ。そもそも、過去の探索者狩りが彼の仕業だったとしても、今回の犯人まで同じ人物だとは限りません」
ギゼラは少し考えるように間を置いた。
「むしろ、私は別人だと考えています」
「根拠は?」
静香が尋ねた。
「彼の仕事に対する姿勢です。彼には彼なりの流儀がある。今回の探索者狩りには、犯人自身の意思を誇示するような遊びが見受けられます。少なくとも、私が知る彼のやり方とは違います」
「……あの男らしい、と?」
明美が小さく呟いた。
「ええ。もちろん、私が彼のすべてを知っているわけではありませんが」
ギゼラはそこで一度、言葉を切った。
「そして、もうひとつ。支部長は私たちを使い潰すつもりではないと思います」
「どうして、そう言えるの?」
真凜が不思議そうに尋ねた。
「私たちは協会にとって貴重なSランクパーティーです。もし彼が今回の犯人だとするならば、私たちに勝ち目はありません。そんな相手に私たちをぶつければ、協会にとっては大きな損失でしょう」
「……討伐依頼を保留したときも、無理に受けさせようとはしなかったわね」
静香が思い返すように言った。
「そうです。私たちの判断を尊重した。少なくとも、今すぐ私たちを危険に放り込むつもりはないように見えます」
「でも、支部長が何かを隠している可能性はあるんでしょう?」
亜紀の問いに、ギゼラは迷いなく頷いた。
「もちろんです。彼について、協会がどこまで情報を持っているのか。なぜ今まで公にされていないのか。気になる点はあります」
「結局、信用はできないってことね」
静香の言葉に、ギゼラは微笑んだ。
「信用するかどうかと、敵かどうかは別の話です。支部長が何かを隠しているとしても、それだけで私たちを害そうとしているとは限りませんから」
誰もすぐには答えなかった。
ギゼラの推測が正しいと決まったわけではない。支部長の沈黙も、言葉の選び方も、いくつもの解釈ができる。
「……今は、協会から提供される情報を待つしかないわね」
静香が結論を出すように言った。
「それと並行して、私たちの調査も続ける。今回の探索者狩りが何者なのか、まずはそこを明らかにしましょう」
「賛成です」
ギゼラが頷く。
「彼のことも、協会のことも、今はまだ推測にすぎませんからね」
そう言って、ギゼラは話を締めくくった。
……………同じ頃。
陽キャと同志静香に、どうやって接触するべきか。
梟は一人、頭を悩ませていた。
普通に声をかけるというのは論外だ。そんなことをすれば、ただの顔見知りに話しかける不審者で終わってしまう。
それでは駄目なのだ。
目指すべきは、偶然の出会い。
それも、ただ偶然に出会うだけではない。
何かしらの事件が起きたところに颯爽と現れ、圧倒的な実力を見せつける。あるいは、誰も気づかなかった異変をいち早く察知し、意味深な言葉を残して立ち去る。
後になって思い返したとき、あの男はいったい何者だったのかと首を傾げたくなるような出会い。
そう。謎めいていて、格好良く、そして強者の風格が漂う出会いだ。
思わず誰かに話したくなるだろう。
そして、それが噂になる。
完璧である。
問題は、そんな都合のいい機会がどこに転がっているのかということだった。
「………………」
梟は考え込む。
自然な出会いを演出する以上、ある程度は状況を整える必要がある。だが、あからさまに準備したと悟られては意味がない。
自然な偶然を演出する。
言葉にするのは簡単だが、実行するとなると難しい。
何か、こう……運命的な巡り合わせというものが欲しい。
トレインを仕掛けて助けに入るか? 裏で賞金をかけて危険を演出するか?
そんなことを考えていた、そのとき。
手元のスマートフォンが鳴った。
「…………電話?」
画面に表示された名前を確認する。
探索者協会、東京支部長。
少し意外な相手だった。
何か用件でもあるのだろうか。
梟は通話ボタンを押し、いつも通りの落ち着いた声で応じた。
「もしもし」
『ああ、私だ。突然すまないね。今、少し時間はあるかな?』
「はい。問題ありません」
『そうか。実は、富士樹海の件で連絡したんだ』
富士樹海。
ああ、あのときのことか。
梟はすぐに思い当たった。
『君が救助してくれた件だが、協会の規定上、報奨金を支払うことになっていてね』
「仕事ですので」
『君にとってはそうかもしれないが、協会としては規定を曲げるわけにもいかない。受け取ってもらえると助かる』
「……協会の規定ということでしたら、ありがたく受け取らせていただきます」
報酬が出るというのなら、断る理由もない。
仕事に対する正当な対価だ。ありがたく受け取っておこう。
『ありがとう。手続きについては、後ほど担当から連絡させるよ』
「承知しました」
これで用件は終わりだろうか。
梟はスマートフォンを耳に当てたまま、再び思考を巡らせようとした。
陽キャと同志静香。
やはり、出会いの演出が重要だ。
例えば、二人が窮地に陥ったところへ現れ、敵を一瞬で片付ける。そこで名乗ることもなく立ち去れば、謎の強キャラとして申し分ない。
いや、待て。
助けた相手に何も告げず立ち去るのは格好いいが、その後の接点がなくなるのではないか?
かといって、連絡先を交換するのも違う気がする。
いや、薔薇十字の一人を仕事だと言って狩るか?
そうすれば、復讐のために相手からこちらを探してくるかもしれない。
復讐相手のことは隠すか? それでは噂にならないのではないか?
「………………」
梟は考え込んだ。
何かが違う気もする。思考が雑になっているのではないか?
難しい。
『……ところで、最近はダンジョン内が騒がしくてな』
「そうなのですか」
考え事をしながら、梟は相槌を打った。
『探索者を襲う不審者が出ているらしい。君も気をつけたまえ。……いや、余計な心配だったかな』
「お気遣いありがとうございます」
ダンジョン内の事件。
探索者を襲う不審者。
梟にとっては、今のところ特に関心を引く話ではなかった。
それよりも、陽キャと同志静香との出会いである。
どうせなら、二人が探索中のダンジョンに偶然居合わせるのがいいだろうか。
いや、偶然にしては都合がよすぎる。何か自然な理由が必要だ。
『実際、探索者に被害が出ていてな。立ち入りが制限されているダンジョンもある』
「それは大変ですね」
『………………』
電話の向こうで、わずかな沈黙があった。
梟は気づかなかった。
いや、気づいたところで、特に気に留めなかっただろう。
『今回の事件は、探索者狩りと呼ばれている。君は何か心当たりがないかね?』
「………………いえ、特には」
探索者狩り。
その言葉を聞いても、梟の反応は変わらなかった。
心当たりなどない。
そもそも、そんな事件が起きていること自体、今初めて聞いたのだ。
……いや、待て。
何かのニュースで見たような気もする。
………………。
脇チラ。
「………………」
違う。今はそういうことを考えている場合ではない。
『そうか……』
支部長の声が、少しだけ沈んだ。
『実は、過去にも似た事件があってな。そちらは未解決のままなんだ』
「………………」
梟は黙っていた。
何を答えればいいのか分からなかったからだ。
似た事件と言われても、心当たりがないものはない。
俺も昔、似たようなことはやったのに、ニュースにも噂にもならなかった……。
あれだけ派手に噂になるよう、緻密に計画を立てて実行したのに、結局、噂にはならなかった。
不愉快だな……………。
電話の向こうでは、支部長が何かを考えているようだった。
やがて、小さく息を吐く音が聞こえた。
『ふぅ……。協会としても、全力を挙げて対処に当たっている。今回はSランクのパーティーにも協力を依頼した』
「そうなのですか」
『薔薇十字に調査を任せている』
「………………薔薇十字、ですか」
梟の声は、変わらず淡々としていた。
しかし、その内心は違った。
っしゃオラアアアアアアアアアアアアア!!!
薔薇十字。
陽キャと同志静香が所属している、あの薔薇十字。
つまり、今の事件を追っていれば、二人と接触する機会が生まれる可能性があるということだ。
しかも、向こうは協会から依頼を受けて動いている。
こちらが無理に接触しなくても、自然に出会える状況が整うかもしれない。
これは……。
これは、使えるのではないか?
梟は内心で、静かに拳を握った。
事件の調査中に現れる謎の人物。
必要なことだけを告げ、颯爽と立ち去る。
向こうからすれば、調査中に偶然居合わせた正体不明の男。
こちらから接触したわけではない。事件に関わる理由もある。
悪くない。
いや、かなりありだ!
あとは、どのタイミングで姿を現すかだが。
「………………」
梟は平静を装ったまま、支部長の話に耳を傾けていた。
探索者狩りの事件そのものには、相変わらず何の興味もなかった。
だが、薔薇十字が関わっているというのなら話は別だ。
陽キャと同志静香に、格好良く、謎めいた存在として出会う。
そのための機会が、思いがけず転がり込んできたのだから。
『では、また何かあれば連絡するよ』
「承知しました」
通話が切れると、登録された番号へ発信する。
トゥルルルル、トゥルルルル。
数回の呼び出し音の後、相手が電話に出た。
「私です。仕事を依頼します。薔薇十字の現在地と、今後の動向を調べてください」
……………。
「報酬は弾みます。急ぎでお願いします」
通話を切り、梟はスマートフォンをしまった。
これで、あとは彼女たちの動きに合わせて現れるだけだ。
よし……!これで自然な形で接触出来る!!
……………。
「資料を持ってきました」
静香と真凜が戻ってきたのは、それから三十分ほど経った頃だった。
二人がテーブルの上に資料を広げる。そこには、過去に発生した探索者狩りの事件と、今回の事件に関する情報がまとめられていた。
「これが過去の事件の記録です。発生場所は……全国各地、バラバラですね」
真凜が資料をめくりながら言った。
「ええ。特定の地域に集中しているわけではありません。対して、今回の事件は関東圏に集中しています」
ギゼラは資料に目を落としながら答えた。
「それに、犯人は同じダンジョンで連続して襲撃を行っていません。協会の警備が厳重な場所も避けているように見えます」
「警備の状況を把握しているってこと?」
亜紀が尋ねた。
「その可能性はあります。ただ、現時点では断定できません。単純に、襲撃しやすい場所を選んでいるだけかもしれませんから」
ギゼラは一枚の資料を手に取り、目を通した。
「ですが、どちらにせよ一つ気になる点があります」
「気になる点?」
静香が聞き返す。
「今回の事件に関する情報は、探索者協会を通じて公開されています。犯人がそれらの情報を参考に襲撃先を選んでいるのなら、こちらから公開する情報によって、犯人の行動をある程度誘導できるかもしれません」
「誘導、ですか?」
「ええ。もちろん、必ず反応するとは限りません。しかし、犯人が公開情報を利用している可能性がある以上、試す価値はあるでしょう」
ギゼラは資料をテーブルに置いた。
「例えば、薔薇十字がどこへ向かったのか。あるいは、どのダンジョンで警戒が強化されているのか。そうした情報が犯人の判断材料になるのなら、こちらから情報を流すことで、選択肢を絞り込めるかもしれません」
「つまり、実際とは違う情報を流すということですか?」
真凜が確認する。
「そうです。ただし、露骨な罠だと思われては意味がありません。犯人自身が、自分の判断で襲撃先を選んだと思える状況を作る必要があります」
「うまくいかなかったら?」
静香が尋ねた。
「その場合は、犯人が公開情報をどの程度参考にしているのか、判断する材料になります。もちろん、それだけで犯人の行動を完全に予測できるわけではありませんが」
ギゼラは微笑んだ。
「少なくとも、何もせずに待つよりは有益でしょう」
「なるほど……」
亜紀は腕を組み、資料に目を落とした。
「でも、具体的にはどこを狙うの?」
明美が尋ねる。
「現在の条件から考えると、候補は二つです。埼玉県の秩父ダンジョンと、東京都の西多摩ダンジョン」
ギゼラは地図を広げ、それぞれの場所を指し示した。
「どちらも関東圏にあり、これまでの事件の傾向から大きく外れていません。警戒状況や探索者の動向を考えても、十分に候補となります」
「なら、どちらかに誘導するの?」
「ええ。もっとも、どちらを選ぶかは慎重に考える必要がありますね」
ギゼラは二つの地点を見比べたあと、ふと顔を上げた。
「静香。貴方なら、どちらを選びますか?」
「……なんで私に聞くの?」
静香は怪訝そうに眉を寄せた。
「貴方はトラブルに好かれていますから」
ギゼラは楽しそうに微笑んだ。
「それ、何の参考になるのよ」
「いえ、何となくです」
「何となくで聞かないで」
静香は呆れたように息を吐いた。
「……まあ、いいわ。犯人が本当に襲撃しやすさを優先しているなら、私たちがどちらへ向かうかより、向こうが安全だと思える場所を選ぶはずよ」
「そうですね。だからこそ、こちらの動向を利用してもらうのです」
ギゼラは地図の上に指を置いた。
「協会から、ひとつ情報を流してもらいましょう」
「情報?」
静香が聞き返す。
「東京支部から、薔薇十字とともに西多摩ダンジョンの視察・調査を行い、警戒態勢を強化すると発表してもらうのです」
「実際には秩父へ向かうのに?」
「ええ。犯人がその情報を目にし、私たちとの遭遇を避けようとするなら、秩父を選ぶ可能性があります」
「でも、そんな情報を信じるとは限らないわよ」
静香の指摘に、ギゼラは頷いた。
「もちろんです。犯人が別の情報源を持っている可能性もありますし、そもそも公開情報を参考にしていないかもしれません。ですが、犯人が襲撃先を選ぶ際に情報を利用しているのなら、試す価値はあるでしょう」
ギゼラは地図の上で、西多摩と秩父を交互に指した。
「西多摩に私たちがいると思わせ、その間に秩父を調査する。犯人が動かなければ、それもまた情報のひとつです」
「結局、賭けってこと?」
「そうとも言えますね。ですが、候補が二つに絞られている以上、何もせずに犯人が現れるのを待つよりは、こちらから仕掛ける価値があると思います」
ギゼラは静香を見た。
「いかがでしょう?」
静香はしばらく地図を見つめていたが、やがて頷いた。
「分かったわ。協会にも協力を頼みましょう。情報を流すなら、私たちだけでやるより確実でしょうし」
「そうですね。では、秩父を重点的に調査する準備を進めましょう」
ギゼラは資料をまとめながら、穏やかに微笑んだ。
「犯人がこちらの思惑どおりに動いてくれるといいのですが」
その言葉に、静香は小さくため息をついた。
「……本当に、そう簡単にいくのかしらね」
誰も、その問いに確かな答えを返すことはできなかった。
……………。
東京近郊、マンションの一室
インカムから聞こえる音声を頼りに、地図を指先でなぞる。やがて秩父で指が止まる。
「……ここか」
苦しそうで、それでいて楽しそうな声だった。
……………。
トゥルルルル、トゥルルルル。
「……私です」
情報屋からの連絡に、梟は電話へ出た。
陽キャと同志静香との出会いの舞台は、いったいどこになるのか。
「ええ。秩父ですか……メンバー全員? ありがとうございます」
通話を終え、梟は小さく頷いた。
秩父のダンジョン。
なるほど。陽キャと同志静香がそこへ向かうのなら、行き先は決まった。
秩父のマーカーってどこに設置したっけな?
………ああ、20階層だったわ。
……………。
埼玉秩父ダンジョン、入口。
「入る前に、毒対策について相談したいんだけど」
装備の最終確認をしていた明美が、四人に声をかけた。
「協会から提供された資料によると、探索者狩りは毒を使うみたい。だから、何かしら対策をしておきたいの」
「アンチドートを持っていくのでは駄目なのですか?」
真凜が尋ねる。
「もちろん、それも選択肢の一つよ。ただ、戦闘中に毒を受けた場合、ポーションを取り出して飲むまでに時間がかかるでしょう?」
「それに、キュアポイズンを使う方法もありますが……」
静香が言葉を継いだ。
「対象に触れる必要がある。戦闘中に毒を受けた仲間へ接近して、解毒魔法を使うのは簡単ではないわね」
「そういうこと。そこで、アンチステータスドラッグを使う方法も考えているの」
明美が取り出したのは、小さな薬瓶だった。
「服用してから一定時間が経過すると効果が現れて、その後二十四時間、毒や麻痺なんかの状態異常を防いでくれる。ただし、副作用があるわ」
「回復魔法や回復ポーションも効かなくなる、という話ですね」
ギゼラの言葉に、明美は頷いた。
「そう。強化魔法も含めて、状態を変化させる効果を受けつけなくなるの。毒を防げる代わりに、回復もできなくなる。戦闘が終わった後も、効果が切れるまでは治療できないわ」
「それは……静香にとっては、かなり大きな制約ですね」
真凜が静香を見る。
静香は回復役であると同時に、前線で剣を振るう戦士でもある。負傷した仲間を治療できなくなるだけでなく、自分自身が傷を負った場合にも、その場で回復する手段を失うことになる。
「ええ。だから、できれば使いたくはないわね」
静香は率直に答えた。
「でも、今回の相手に対して、戦闘中に解毒する余裕があるかしら?」
ギゼラが問いかける。
「パレットはAランクの五人組でした。それを、探索者狩りは単身で全滅させています。毒を受けてから薬を取り出すまでの数秒。その時間を、相手が見逃してくれるとは思えません」
淡々とした口調だったが、その言葉は重かった。
「……私たちでも、パレットを相手に単身で戦って勝つのは困難でしょうね」
真凜も同意する。
「私たちはSランクよ。連携もあるし、個々の能力だって高い。でも、それは相手も同じ条件で戦ってくれる場合の話。罠を仕掛け、毒を使い、こちらの隙を狙ってくる相手に、正面からの戦闘力だけで勝てるとは限らないわ」
探索者狩りがパレットを倒したという事実は、単純な戦闘力だけでなく、相手を倒すための準備と手段を持っていることも示している。
そして、薔薇十字がその実力を軽視できる理由はなかった。
「……分かったわ」
静香が口を開いた。
「アンチステータスドラッグを使いましょう。毒を受けてから対処するより、最初から防ぐことを優先するわ」
「静香、本当にいいの?」
明美が確認する。
「ええ。回復できなくなるのは痛いけれど、毒で動けなくなれば、それどころじゃないもの」
静香は仲間たちを見回した。
「ただし、一つ約束して。薬の効果が続いている間は、戦闘が終わっても回復できない。負傷を後回しにすることもできないわ」
そこで一度言葉を切り、念を押すように続けた。
「致命傷だけは、絶対に避けて。どれだけ有利に戦えていても、無理をしていい理由にはならない。全員、生きて帰ることを最優先にするわ」
四人が頷く。
それぞれが薬瓶を受け取り、アンチステータスドラッグを服用した。
毒への備えは整った。
探索者狩りに関する情報も集めた。相手の手口も、これまでの被害も把握している。
もちろん、油断するつもりはない。相手はAランクパーティーを単身で全滅させた実力者だ。
だが、こちらもSランクパーティー、薔薇十字。十分な準備を整え、五人で連携すれば、捕らえることはできるはずだ。
――あの男が、犯人でなければ
……………。
秩父ダンジョン、第十七階層。
「……待って」
先頭を歩いていた明美が足を止めた。
「どうしました?」
静香が尋ねる。
明美は返事をせず、少し先の地面を見つめていた。
そこには、足跡が残されていた。
「足跡ですね。新しいものでしょうか?」
亜紀が近づき、慎重に確認する。
「うん。たぶん、そんなに時間は経ってないよ」
明美は足跡の先へ視線を向けた。
ダンジョンを単独で探索する者は少ない。仲間と連携できないソロ探索者は、危険への対処が難しいからだ。仮に単独で活動する者がいたとしても、その多くは上層にとどまる。
それなのに、ここは十七階層だ。
「この深さまで、一人で来た人がいるのかしら……」
真凜が疑問を口にした。
「それだけでも十分に珍しいわ。しかも、この足跡……」
明美は地面を指さした。
足跡は、はっきりと残されていた。隠そうとした形跡はない。むしろ、誰かに見つけてもらうことを意識したかのように、目立つ形で続いている。
「獲物を誘い込むための罠ね」
明美の言葉に、静香は迷いなく頷いた。
「でしょうね。ここまで露骨なら、偶然とは考えにくいわ」
「足跡を辿った先に、罠か待ち伏せかって感じだね」
亜紀も周囲を見回しながら言った。
「相手はAランクパーティーを全滅させた実力者です。罠を仕掛けて待ち受けていると考えるべきでしょう」
「ふふ。わざわざ舞台まで用意してくれたのですから、見に行かない手はありませんわね」
ギゼラが楽しげに微笑む。
「ギゼラ、あまり油断しないでください」
「もちろんです、静香。罠だと分かっているのですから、警戒は怠りませんよ」
軽い口調とは裏腹に、ギゼラの視線は周囲を注意深く捉えていた。
静香は仲間たちを見渡した。
相手が自分たちを誘い込もうとしているのなら、その意図に乗ってやればいい。罠の存在を承知している以上、何も知らずに踏み込むのとはわけが違う。
それに、こちらはSランクパーティーの薔薇十字だ。
相手がどれほどの実力者であろうと、五人で連携し、十分に警戒して臨めば対処できる。静香には、その自信があった。
「進みましょう。足元と周囲への警戒を忘れずに。何か異変があれば、すぐに知らせてください」
「了解」
四人の返事を聞き、静香は再び歩き出した。
五人は足跡を追い、十八階層へと続く道を進んでいく。
その先に待ち受けるものが何であろうと、退くつもりはなかった。
……………。
埼玉、秩父ダンジョン二十階層。
ダンジョンの壁に突如、漆黒の渦が出現し、そこから梟が飛び出してきた。
梟は両手に魔力を集めたまま、周囲を鋭く観察する。
危険はないと判断すると、警戒を緩め、周囲に視線を巡らせた。
足跡、魔力残滓、音。
この場所をしばらく人が通った形跡はない。
そう判断した梟は、十九階層へ続く道に向かって歩き出した。
十八階層へと辿り着いた梟は、ふと足を止めた。
ん? 人の気配?
………………一人だな。
陽キャや同志静香は群れで動く。なら、別口か。
梟は気配のする方へ視線を向けた。
黒ずくめの男が、何かを仕掛けている。
なにしてんだろ?
罠? いっぱい仕掛けてんな。
毒の匂い……爆炎石……短矢……クレイモア。
人間用か……。
もしかして、コイツが同志静香の的かな?
しばらくコイツを張ってれば、同志静香が来るかもしれないな。
梟は気配を消し、男の様子を窺うことにした。
………………暇だな。
暇を持て余した梟は、改めて男を観察した。
この男…
俺と服装被ってね?
どうでも良いけど、町中で同じ服の人がいるとモヤッとするよね?
……………。
秩父ダンジョン、第十八階層。
「止まって!」
先頭を歩いていた明美の声に、五人は即座に足を止めた。
「罠よ。足元にワイヤーが張ってある」
明美が指さした先には、細いワイヤーが通路を横切るように張られていた。
その先には、複数の爆炎石が仕掛けられている。
「……ずいぶん分かりやすい罠ね」
真凜が呟いた。
「ここまで来る探索者なら、まず見落とさないでしょうね」
「わざと見つけさせてるってこと?」
亜紀の問いに、静香が頷いた。
「でしょうね。足跡も露骨でしたし、探索者狩りがこの先で待ち受けていると考えてよさそうです」
「ふふ。随分と物騒な歓迎ですわね」
ギゼラが微笑む。
「どうする? 解除する?」
明美が尋ねた。
「いいえ。無理に触れる必要はありません。迂回しましょう」
静香は通路の脇にある岩場へ視線を向けた。
爆炎石から距離を取りながら、回り込めそうな場所がある。
「隊列はそのまま。周囲への警戒は続けてください」
「了解!」
明美を先頭に、五人は慎重に岩場を回り込んでいく。
そのときだった。
――ピン。
小さな金属音が響いた。
「……っ!」
明美が振り返る。
張られていたワイヤーが、不意に引き絞られていた。
「耐爆防御をっ!」
真凜が叫んだ。
直後、爆炎石が炸裂した。
轟音とともに炎が噴き上がる。
五人は即座に反応した。
明美と真凜が身をかわし、ギゼラの前には鉄の盾が展開される。
静香と亜紀も爆風を避け、飛散する破片から身を守った。
だが、爆発はそれだけでは終わらなかった。
次の爆炎石が起爆し、さらに炎が広がる。
「連鎖してる!」
亜紀が声を上げた。
「岩陰へ!」
静香の指示で五人が動く。
その瞬間。
炎の向こうから、黒い影が飛び出した。
「亜紀!」
静香が叫ぶ。
亜紀は反射的に振り返った。
迫っていたのは、黒ずくめの男。
その手には剣が握られていた。
「っ!」
亜紀は咄嗟に身をひねった。
しかし、完全には避けきれない。
刃が右腕をかすめ、血が散った。
「右腕! 出血微量! 行けるよ!」
亜紀の報告とほぼ同時に、真凜が踏み込んだ。
「させない!」
剣と剣が激しくぶつかり、金属音が響く。
男はすぐさま次の一撃を繰り出した。
真凜はそれを受け流し、踏み込む。
互いの刃が交差した。
「……っ!」
男の脇腹から血が飛んだ。
真凜の剣が届いたのだ。
男は即座に距離を取った。
しかし、その退路にはすでにギゼラの魔法が迫っていた。
「逃がしませんわよ」
無数の鉄の針が、男へ向かって飛ぶ。
男は剣を振るい、いくつかを弾いた。
だが、すべては防ぎきれない。
針が肩をかすめ、黒い服を裂いた。
「明美!」
「分かってる!」
明美が追撃に移る。
男は片手を突き出した。
魔力が収束する。
「来ます!」
ギゼラの警告と同時に、光弾が放たれた。
明美が身をかわす。
光弾は地面に着弾し、土煙を巻き上げた。
その隙に、男は通路の奥へと跳び退いた。
「逃がさない!」
明美が駆け出そうとする。
だが、次の瞬間、ぴたりと足を止める。
「……また罠か!」
目の前には、細いワイヤーが張られていた。
明美は舌打ちすると、ワイヤーを避けて追跡を再開した。
男はその間にも、通路の奥へと下がっていく。
「追いましょう。ただし、罠への警戒は続けてください」
静香の指示に、四人が頷いた。
五人は再び動き出した。
通路の奥では、男がこちらを待ち受けていた。
明美が距離を詰めようとした瞬間、男の手から光弾が放たれる。
「っ!」
明美が身をかわす。
その背後から、ギゼラが鉄の刃を飛ばした。
男は剣で弾き、岩陰へと下がる。
「まだ逃げるか!」
真凜が距離を詰める。
しかし、男は岩陰から魔法を放ち、接近を阻んだ。
「真凜、無理に追わないで!」
静香の声に、真凜が足を止める。
光弾が目の前を通り過ぎ、背後の壁に着弾した。
男はその隙に、さらに奥へと下がっていく。
「……厄介ですわね」
ギゼラが呟いた。
男は一定の距離を保ちながら、魔法を撃っては後退する。
こちらが近づけば攻撃し、足を止めれば姿を見せる。
完全に逃げ切ろうとはしない。
「でも、こっちの攻撃も通ってる」
明美が男の脇腹を見た。
真凜が負わせた傷からは、まだ血が滲んでいる。
「ええ。無理に急ぐ必要はありません」
静香が頷いた。
「連携を維持して、少しずつ追い詰めましょう」
五人は警戒を怠らず、追跡を続けた。
曲がりくねった通路。
岩陰に仕掛けられた爆炎石。
足元に張られたワイヤー。
男はそれらを巧みに利用しながら後退していく。
明美と真凜が前方を警戒し、ギゼラが魔法を迎撃する。
静香は全体の動きを見ながら指示を出し、亜紀は最後尾から周囲を確認していた。
男が放った光弾を、ギゼラの鉄の刃が撃ち落とす。
ギゼラが続けて針を放ち、男は岩陰に身を隠してやり過ごした。
「……ちょこまかと!」
明美が舌打ちする。
「焦らないで。相手のペースに付き合わないこと!」
静香が注意を促した。
男は再び魔法を放つ。
五人がそれに対処する間に、男はまた距離を取った。
追跡はしばらく続いた。
亜紀の右腕には、依然として傷が残っている。
だが、動きに変化はなかった。
男は一度だけ、その姿を確認した。
「……効果なしか」
小さく呟くと、再び魔法を放った。
ギゼラが鉄の刃で迎撃する。
空中で魔法が弾けた。
「……おかしいですわね」
ギゼラが眉をひそめる。
「何が?」
明美が尋ねた。
「彼、逃げる気も逃がす気もないようですわ」
「誘ってるってこと?」
亜紀が尋ねる。
「その可能性はありますわ」
「最初から罠だって分かってる。ここまで来たんだから、今さら引き返すつもりもないよ」
明美が答えた。
「ええ。ですが、警戒は強めましょう」
静香が言った。
男は再び振り返り、魔法を放つ。
ギゼラが迎撃すると、男は通路の角へ姿を消した。
「追うわよ!」
明美は通路の角で足を止め、周囲を確認した。
「……進路に罠はなし。進むよ」
五人は慎重に角を曲がる。
その先には、広い空間があった。
奥は行き止まり。
黒ずくめの男が、こちらを向いて立っていた。
背後に逃げ道は見当たらない。
男は剣を下げたまま、静香たちを見つめている。
「……ようやく追い詰めたわね」
真凜が呟いた。
静香も男の背後を確認した。
ここなら、相手の動きを制限できる。
こちらは五人。陣形を整えれば、逃げ場のない相手を包囲することも難しくない。
それに、男はすでに負傷している。
静香は剣を構えた。
「……追い詰めたわよ」
男は何も答えなかった。
ただ、静香たちを見つめている。
その様子に、明美が眉をひそめた。
男は逃げようとしない。
それどころか、どこか余裕すら感じられる。
明美は周囲に視線を巡らせた。
地面。
壁。
天井。
そして、男の立っている位置。
「……待って!」
明美の声が響いた。
「誘い込まれた! ここはあいつの罠が――」
……………。
秩父ダンジョン、第十八階層。
梟は岩陰に腰を下ろし、通路の奥を眺めていた。
先ほどまで罠を仕掛けていた黒ずくめの男は、外敵を迎撃しに向かった。
おそらく薔薇十字だろう。
ならば、ここで待っていれば連れてきてくれるかもしれない。
そう思って待っていたのだが……。
……遅いな。
そろそろ自分から迎えに行くか?
梟が立ち上がろうとした、その時だった。
通路の奥から足音が聞こえてきた。
おっ。
来たか?
黒ずくめの男が角を曲がり、広間へ駆け込んでくる。
その後ろから、五人の女性が続いた。
……おおっ!
同志静香じゃん!
陽キャもいる!
おぉ〜! 良い子、良い子!
やるな、お前!
梟は黒ずくめの男に向かって、心の中で拍手を送った。
……ん〜?
あらためて見ても、あいつ。
俺と服装被ってるよな?
黒コートだし。暑いでしょ?うん。暑いよ!
……待てよ。
パクられたっ!
アカウント乗っ取りかっ!
運営さん! 対処お願いします!
…………。
……落ち着け………。
それより、どうやって登場しよう?
梟は広間へ視線を戻した。
黒ずくめの男と薔薇十字が向かい合っている。
ふむ。
ここで颯爽と現れて、両方まとめて相手にする。
謎の第三勢力!
おおっ!
格好いいじゃん!
……いやいや、待て待て。
何のため?
突然現れて、理由もなく暴れ始める。
……プロっぽいか?
シャシャってないか?
うーん。
微妙だな。
じゃあ、薔薇十字に加勢する?
いや、それこそなんで?
別に依頼されたわけでもないし。
黒ずくめの方に加勢するのも……。
そもそも、あいつ俺のこと知らないだろ。
いきなり味方が増えたら困るよな。
……いや、困るかどうかは知らんけど。
梟は腕を組んだ。
難しいなぁ。
やっぱり登場には理由が必要だ。
強いだけじゃ駄目なんだよ。
謎の強キャラには、それ相応の振る舞いというものがある。
……あっ。
そうだ。
狩りの途中で、たまたま戦闘に出くわしたことにしよう。
うん。
それなら自然だ。
他人の獲物を横取りしない。
余計なことには首を突っ込まない。
おおっ!
プロっぽい!
これはいいぞ!
梟は満足げに頷いた。
そうなると、今は手を出さない方がいいな。
横殴りはマナー違反だしね。
まさにプロ!
梟は一人で感心した。
もっとも、同志静香と陽キャには生き残ってもらわないと困る。
俺の噂を広めてもらわなきゃいけないし。
まあ、生きてればいいか。
他の三人は……。
うん。
別にいいや。
それより、ちゃんと俺に気づいてくれるかな?
梟は広間を見渡した。
今いる岩陰から出れば、すぐに見つかるだろう。
……いや。
それじゃ自分から登場してるじゃん。
偶然居合わせた感じがしない。
うーん。
じゃあ、ここで待つか。
そのうち誰かが気づくだろ。
梟は岩陰に座り直した。
よし。
設定は完璧だ。
あとは自然に見つかるだけ。
……できれば同志静香に見つけてほしいな。
あれなら、きっといい感じに驚いてくれるだろうし。
梟は期待を込めて広間へ目を向けた。
さてさて。
どうなるかな?
目の前で戦いが始まるであろう場所を、梟はのんびりと眺め始めた。
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