ズッタンズツタン!
今日も今日とて桂香は亜季と交互にドラムを叩いていたのだが、
「プール行こうぜ!」
と、クレジットの合間に音祢がカットインしてきて小休止を取らざるをえなかった。
「いきなり何よ……」
「行きたいです!」
「若いねぇ……」
呆れる桂香に目をキラキラさせる亜季。
無論ヨッパは参加する筈がないアピールをしている。
が、
「え、皆で行くしヨッパが車出すんだよ」
「えええええええええええええええええ」
音祢はなんとむごい事を平然と大人に強いた。
「……ほら、プールイベントで亜季と近付くチャンスだよ」
「……余計なお世話が過ぎる」
そして根回しまでしてきた。
「……? なに内緒話してるんですか?」
「なんでもないわ、今度皆で行きましょう」
「えええええええええフレちゃんまで乗り気⁉︎」
「ほらほらあとはヨッパが頷けば良いだけだぜー?」
「ううううう仕方ないなー! お姉さんに任せろー!」
という事になった。
……なんだかんだ、ヨッパは便利なお姉さんポジションである。
そうして当日。
辿り着いたのは彼女達の住む市からは少々離れたところにあるレジャー施設。
わいわいと……主に音祢が……騒ぎながら更衣室に向かう一行。
……だったのだが、
「……亜季ってさ」
「はい?」
「前々から思ってたけど」
「はい」
「案外着痩せしまくるよね」
「あ、あはは……」
事件が、起こっていた。
そう。更衣室という事は、脱ぐのである。
そう。脱ぐという事は、晒されるのである。
平均よりも少しだけ小さな身長にしては、ちょっと、とは言えない程に大きな胸部をお持ちのそれが、まろびでるのである。
「そ、そんなに見ないでくださいよぅ」
「いいや見るねっ!」
「ね、音祢さんは体育で一緒じゃないですか!」
「いや亜季いつも端っこでこそこそ着替えるじゃん」
「うっ」
ここぞとばかりに視姦される亜季。
無論そんな事をされてしまったら胸を隠すのだが、その行為もなんとなく卑猥だな、と思う音祢であった。
「……ふ」
「……よ、ヨッパさん?」
「いや……なんでもないよ……」
「あぁ、ヨッパは無いもんね」
「うるせえやい!」
そしてスレンダーは眩しい何かを見るような目で亜季を眺めていた。
嫉妬しない辺り、大人の余裕を感じる。
「じーー」
「師匠までそんなに⁉︎」
「あ、あぁごめんなさい、つい……」
そして、桂香はその間ずっと亜季をガン見していた。
それを指摘されるまで自分の行為が分からない程に。
なので、
「にやにや」
「……何笑ってるのよヌコさん」
「べっつにー?」
事情を知っている音祢から意味深に揶揄われる事となった。
そんなこんながあったものの、無事に着替えが完了し、
「ひゃほー!」
「きゃー!」
「走らないの」
「若いねホントに……」
プールサイドに、ゲーセンの民達が現れた。
「早く行こうぜ! ね! ね!」
逸る音祢は、デニム地のビキニを着用していた。
それでいて随所に白のレースがあしらわれており、音祢らしい元気っぽさと可愛らしさが両立されている。
「はい! 師匠もほら!」
ウッキウキの亜季は、オレンジチェック柄のビキニだった。
豊満な胸部を支える布地は可愛いフリルがついており、ボトムはスカート状で全体的に愛らしい印象を受ける。
「はいはい……」
苦笑しながらついていく桂香は、白のビキニを纏っていた。
トップスはフロントでクロスされており、後ろで大きなリボンとなって結ばれている。また、パレオを着用している事もあり、黒の長髪とのコントラストが非常に美しい。
「準備運動くらいしなよー?」
大人としてそんな声掛けをしたヨッパは、黒のセパレートを選んでいた。
背中が大きく開いたそれはただのセパレートではなく、ワンショルダー型で肩も大きく出している、色も相まって謂わば大人の色気を感じるものだった。
そんな水着を事前に一緒に買いに行った時は一悶着どころではなかったのだが、ここでは割愛する。
「じゃあ私は浮き輪レンタルしてくるわ」
「え」
「え」
「え」
「……なによ」
という訳で、いざプール、といったところで桂香が横道に逸れた瞬間、その場が凍った。
「……フレ、泳げないの?」
「え、えぇ……」
「意外です……」
桂香がカナヅチだと発覚した。
「アキさんは、泳げるの……?」
「は、はい」
「意外ね……」
日頃のぽんぽこイメージ的には泳ぎもダメなイメージだったらしい。
「私は師匠が泳げないのが意外です」
「悪かったわね」
「あ、いや、なんでも完璧なイメージがあったので、苦手な事あったんだって感じで」
「私にだって苦手な事くらいあるわよ……」
神格化され過ぎである。
「じゃあフレ! 亜季に泳ぎ教えてもらいなよ! 私はヨッパと遊んでるからさ!」
「っ⁉︎」
そこで、キラーパスが放たれた。
そんなもの通るか、ヨッパが乗る筈がない、と思う桂香だったのだが、
「うぇーい! 来たからには全力で遊ぶぜー!」
なんとヨッパが乗った。
「ちょ」
「ひゃはー!」
「ひゃはー!」
なので、
「あ、あはは……師匠、どうします?」
そういう事になった。
ぱしゃぱしゃ。
亜季に手を引かれながら、桂香はぎこちなく泳ぎを教わる。
「えへへ、師匠に教えるのっていつもと立場が逆で新鮮です」
「そ、そうね」
手取り足取り。ドキドキしながら。
「でももう少し身体から力抜いても大丈夫ですよー」
「そ、そうね」
が、どうにも緊張が抜けない。
そりゃそうである。
柔らかいおててと常に触れているのである。
そりゃそうである。
爆乳が常に目の前にあるのである。
そりゃそうである。
そりゃそうなのである。
「浮くコツは脱力ですっ!」
そう言って身体を揺らす亜季。
桂香はまた正面のそこに視線が吸い寄せられたり、その大きな浮き袋の影響なのでは?と思ったりもしたが、がんばって脳内から消し去った。
「……アキさん」
「はい?」
「貴女も色々遊びたいのではないの? その、流れるやつとか、アレとか」
それどころか、話を逸らした。
いや、そうでもしないと雑念がヤバいのである。
……桂香としては、意識したとはいえ、どうしてこんなにもいきなり身体的にも気になってしまうのか不思議でならなかった。
なにせ同性である。そんなもの、自分の身体で見飽きているのである。
が、どうにも、非常に、気になる。
「あはは……気にはなりますけど、師匠の方が大事かなって」
「ッ⁉︎」
しかも、そんな事を言われてしまえば、勘違いもしてしまいそうになる。
ので、
「……じゃあアレ、行ってみたいから連れていってくれる?」
少し呆れた風を装い、亜季の後ろを指差した。
「な……」
が、連れていかれた先は予想外の場所だった。
「……? どうしました師匠?」
いや、正確には予想外ではない。
アレなる場所、ウォータースライダーを所望したのは間違いなく桂香である。
だが、だがしかし。
「二人乗り……っ⁉︎」
「珍しいですよねっ!」
そんな事は聞いていなかったのである。
しかも滑っていく先達を見れば、同乗者の距離がかなり近い。触れ合っていると言っても過言ではない。
「師匠どっち乗ります? 前行きますっ⁉︎」
「え? あ、前っ⁉︎」
「あ! 順番来ましたよ!」
「え⁉︎ えぇっ⁉︎」
急かされる。時間など無い。よって選択肢など無い。
故に前。亜季の前。
するとどうなるか。
「!?!?!?!?!?」
ふよん、と、柔らかいものが、背中に密着した。
それは、紛う事なく、
「きゃあああああああっ!」
「きゃあああああああっ!」
などと考える間もなく、二人の乗るスライダーは流され始めた。
「ゃあっ⁉︎ っ⁉︎ きゃあああっ!」
それはそれはもう流されまくる。
右へ左へ激しく揺さぶられながら水飛沫をあげまくりながら、落下しているのではないかと錯覚する程の速さで桂香達は流されていく。
そして、
「きゃあっ⁉︎」
「きゃあっ!」
かろうじて可愛い声は維持したまま、最後の広場へと着弾した。
「楽しかったですね!」
「た、たいへんな目にあったわ……」
「もう一回乗りませんかっ!」
「も、もう一回……いっ⁉︎」
はしゃぐ亜季に対し恐れ慄く桂香。
もう背中の柔らかい記憶など忘れたかのように後ろを振り向いた。
が、その瞬間、表情を凍らせた。
「……? ……っ⁉︎」
「ッ!」
そして遅れて異変に気付く亜季。
即座に周囲から隠すように亜季を抱き締める桂香。
そう。
亜季のトップスが、流されていた。
亜季の上半身が、こう、素晴らしき状態になっていた。
「あわ、あわわわわわわわわわ」
「静かに」
「は、はぃ……っ」
騒げば周囲に勘付かれる。そう伝える桂香。
冷静だ、と改めて師を尊敬する亜季であったのだが、桂香はそれどころではなかった。
「……っ」
亜季の胸が、ダイレクトに柔らかい。
なにせ裸の胸なのである。
なにせあの爆乳なのである。
そりゃ、そうなのである。
しかも先程、目に焼き付いたのは、ふるん、と震えた豊満な双丘とその頂点にあった薄桃色の、それ以上はやめよう。
とにかく、えっちなのだ。
「どこに……」
「あ! あそこに!」
「……このまま移動するわよ」
幸いにして、亜季のトップスはそんなに離れた場所には流されておらず、そう苦労せずに回収する事が出来、なんとか、なんとか着け直す事が出来た。
「……ふぅ。た、大変でしたね、あはは」
「ほ、本当にね」
幸運にも周りには人はおらず、目撃者はいないようだった。
「……スライダーはもうやめておきますか」
「……そうね」
なので、そういう事になった。
「音祢さんとヨッパさん探しに行きます?」
「そうね。どこに居るのかしら……」
広場から上がり、ごく自然と手を繋いで歩く二人。
が、案外あっさりと残りの二人は見つかった。
「あ、流されてる」
「言い方」
二人はぷかぷかと、浮き輪を使って流れるプールで遊んでいる音祢とヨッパを見つけた。
「……ちょっと」
ので、桂香は静かに怒った。
「人に泳げないのとか言っておいてそれはないんじゃないの」
「ええー? 流れるプールだよー?」
「ここはそういうとこじゃーん」
ので、桂香は怒った。
「ぉあーっ⁉︎」
「目に水がーっ⁉︎」
バシャバシャ水をかけまくって制裁した。さもありなん。
「あはは……そろそろお昼ごはん食べませんか?」
「そうね、こんな二人放っておいて行きましょう」
「えー⁉︎ あたし達も行くよー!」
「おいてかないでー!」
そんなこんながあり、一日中楽しんでその日は終わる事になった。
「……楽しかった」
帰宅後、桂香は多大な疲労感と共に一人ごちる。
ゲーセンに一人で通っていた頃では考えられなかった遊び。
それもこれも、亜季にドラムを教えるようになったから。
そして、
「……っ」
亜季に好意を抱くようになったから。
「……本当に、考えられないわね」
変わった。そう思う。
だけど、悪い気持ちはしない、そう思う。
「……って!」
が、
「何も進展してない……!」
そう。今日の目的は亜季との仲を深める事だったのである。
あった事といえば亜季のぽろん事件だけだったのである。
何も深まっていない。亜季への造詣が深まっただけである。やかましいのである。
「こ、こんな筈では……!」
思わずベッドの上でごろごろ転がる桂香。
だが、彼女は気付いていない。
ごく自然と手を繋いだ、という事に。
あれは、信頼の証。友愛の証。
亜季は確かに元々桂香に対し心を許していた。
だがそれは崇拝に近いもの。
だが、何かが今日変わった。
何がどう変わったのかはまだ分からない。
「ううううう……!」
だが間違いなく、進展している。