ズッタンズツタン!
今日も今日とて桂香は亜季と交互にドラムを叩いていたのだが、
「夏祭り行こうぜ!」
とまぁ、音祢がまた夏の企画を提案してきた。
「貴女はいつも急ね……」
「え、行ってみたいです!」
「仕方ないから行きましょう」
「弟子に甘くなぁい……?」
即落ち二コマである。
桂香的には、亜季との距離を縮める事が出来ていない、と焦っているのである。
「じゃあ当日ここに集合ね!」
「分かったわ」
「はーい!」
なので、そういう事になった。
「キミ達すっかりここがホームになったねぇ……」
そんな三人を苦笑しながら見つめる大人が一人。
「あれ、ヨッパ行かないの?」
「泥酔して良い?」
「オッケー来んな」
「でしょ?」
そうして迎えた夏祭り当日。
「お、皆かわいいねぇ」
ゲームセンターには、浴衣姿の人々が案外ちらほらと見かけた。
その中で、音ゲーコーナーには特に目を引く浴衣姿の美少女達がいた。
「えへへ……」
白地に赤さざんかで彩られた浴衣を纏った亜季。
「そう」
青藤が描かれた浴衣を纏った桂香。
「でしょー!」
薄クリーム地に向日葵で彩られた浴衣を纏った音祢。
「やー、馬子にも衣装とはこの事だねぇ」
「ぶっとばすぞ⁉︎」
「冗談冗談」
それぞれ事前に浴衣を着てこようと示し合わせて、この日を迎えたのであった。
桂香からすれば、
「面倒」
との事であったのだが、残り二人から押し切られたのであった。
「まだ時間あるからギターやって良い?」
「良いわよ」
「えー、いいなー」
しかしお祭りまではまだ時間があるようで、ドラム勢を尻目にクレジットと投入する音祢。
そんな彼女を見て、流石にドラムを浴衣では出来ないですよね、と桂香に話を振ろうとした亜季であったが、
「……左ペダルオフにすれば出来るかしら」
「えぇぇ……」
不穏な事を呟きながら既にクレジットを投入している桂香の姿を見て、流石にちょっぴり引いた。
なおそれなりにプレイ出来ていた。
「よーしフレ! セッションしようぜー!」
「良いわよ」
「ちょ、あの、皆見てる……!」
なので、そんな浴衣プレイなどしていれば物珍しいにも程があるというもので、たいそうオーディエンスが沸いたそうな。
「やー、楽しかったー」
「ええ、今日はもう終わりで良いわ」
「これからですよ⁉︎」
そういう訳で、夏祭りは始まった。
会場はかなり広く、人々でかなり賑わっている。
「屋台いっぱいありますねー」
「わたあめとか懐かしいわね」
「子供っぽ」
「む」
「あ、でも大人向けでぱちぱちするんですって。ぱちぱち?」
屋台の一つ一つを冷やかしたりしながら、会場を巡る三人。
射的や金魚すくいなども楽しんだりして、ゆっくりと次は何をしよう、と相談していた時だった。
「お! お化け屋敷だって!」
音祢が指差した先には小規模ながら、おどろおどろしい建物が鎮座していた。
「へー、ああいうのもあるんだ」
「なんでもあるのね」
「行ってみようぜ!」
テンション高く誘う音祢。
こうなってはもう止める事が出来ないと分かっている二人は顔を見合わせて苦笑し、受付にお金を払う事になった。
「け、結構本格的だったわね……」
「ふ、普通に怖かったです……」
しばらく後、桂香と亜季はかなり涼しい思いをして出てきた。
のだが、
「あれ? 音祢さんがいない……」
そばに、誘った張本人がいない事に気付いた。
「中ではぐれたのかしら……?」
そんな事はないと思うのだけれど、と呟く桂香であったのだが、巾着の中でスマホが震えるのを感じ、取り出すとそこには、
『亜季と二人っきりで楽しんで!』
などと、余計な気を回したメッセージが入っていた。
「音祢さんからですか?」
「え、えぇ……」
それに気付いた亜季が問いかけるも桂香は何と返したものか一瞬考え、
「お腹が」
「お腹が」
あまりにもひどい事を言おうとしている事に気付き、
「減ったから何か買ってくるから先に回ってて、との事よ」
「なるほど!」
という事にした。
『という事にしたわ』
『食いしん坊か!』
改めて二人で夏祭り会場を回る事になったのだが、
「な、なんだか混んできましたね」
「そうね……」
亜季の言う通り、すれ違う人と肩がぶつかるのではないかという程に人通りが増えてきていた。
「ぁっ」
「っ!」
そんな時、亜季が転びかけてしまった。
だが即座に桂香が抱き留め、事なきをえる。
「ぁ、ありがとうございます……」
「気をつけなさい」
「は、はい……」
恐らく慣れない浴衣と人混みでよろけてしまったのだろう。
きゅっ、桂香の浴衣を握り、体勢を持ち直す亜季。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
「なら、良いのだけれど……」
そして、自然と手を繋いで歩き出す二人。
もう転ばないように、と。そうするのが当たり前、とでもいうように。
「師匠。なんでそんなに普通に歩けるんですか」
「体幹の差……かしら」
「体幹」
「ツーバスよく踏んでるしね」
「ドラムの腕前の差……!」
だがどこまでいってもドラムの話をするあたり、色気も何も無い。
しかし、
「あ」
ドォン、と大きな音と共に、大輪の花が夜闇に咲いた。
「花火だ!」
「もうそんな時間だったのね」
そう、この夏祭りのメインイベントの時間が近付いてきていたが故に、人通りが極端に増えていたのであった。
「綺麗……」
「そうね……」
何発も、何発も打ち上がる。
人通りから外れ、木陰で花火鑑賞する二人。
「…………」
「…………」
ふと、桂香は亜季の横顔を見る。
花火の閃光が彼女のかわいらしい顔を映し出し、より魅力的になって桂香の心に突き刺さる。
故に、思う。
これは、いわゆる良い雰囲気なのでは、と。
手に、力がこもる。
「……?」
亜季が、桂香の様子に気付く。
「師匠……?」
見つめ合う二人。
空気が、変質する。
手の重なり方が、変わる。
「あの、アキさ」
「あーっ! ここにいたーっ!」
「っ⁉︎」
「っ⁉︎」
空気が霧散した。
思わず手を離す二人。
「……あ」
そんな二人を見て音祢は、
「……あー」
屋台の食べ物を手に、やってしまったか?という顔をしたが、
「や、やっと合流出来たわね!」
「そ、そうだね!」
桂香自身がフォローを入れ、事なきを得た。
「師匠……?」
「なんでもないわ、頭に虫がついていただけよ」
「ぴっ⁉︎」
非常にチキンである。
いや、致し方ない事ではあるが。
そんなこんながあったものの、夏祭りは平和に終わった。
『今日はごめん!』
「いいわよ別に……」
という訳で、反省会が行われていた。
『戻るタイミング見誤った!』
「だからいいわよ別に……」
『遠くから見守るべきだった!』
「いいわよ別に……ってそれはやめなさい」
悪趣味である。
『でも良い感じだったんじゃないの?』
「……どうかしらね」
『手繋いでたし』
「女の子同士ならそういうものでしょ」
『まぁねぇ』
そう。女子同士ならそのくらいやる、というのが問題なのだ。
それ以上の関係に進みたいのだ。
『亜季との関係は出来てんだから、もう一押しなんだけどなー」
「それが出来たら苦労しないわよ……」
そうして、今日も作戦会議は続く。
桂香は変わった。
以前なら誰かに頼るなどしなかった。
誰かに頼る必要などなかった。
だが友達が出来、恋する人すら出来た。
変わる。変わっていく。
少女達の世界が、変わっていく。