ぽんぽこぽんぽこ。
今日も亜季はドラムを、
「うぇへへへへへへへへへへえ」
……叩いている場合ではなかった。
「ど、え、ど、どうしたの音祢さん……?」
亜季が思わずドン引……心配する程に、音祢が気色悪……妙な笑い方をしていた。
なので非常に気を遣った聞き方をしたのだが、
「今日ねえ、クロエちゃん来るんだあ」
「クロエさん?」
「んふ、あたしの彼女」
「彼女さん!」
なんと、噂の彼女と会うとのこと。それは確かにテンションも高まるというもの。
「……彼女さん、ここに来るんですか?」
「そだよー! ふぅーっ!」
しかも来店するらしい。
もう鰻登りである。
「という事はゲームする人なのかしら」
「そーそー、あたしをギター沼らせた張本人」
曰く、クロエちゃんとやらの影響でギターゲームを始めたらしいのだが、彼女が大学進学で離れ離れになった後でもどハマりする程にのめり込んでしまったらしい。
「……ちなみにどんな人?」
亜季が、問いかける。
「んふ、可愛くてー美人でー」
「……おぉー」
どこか、見ながら。
「お茶目なとこがあったりー、たまに意地悪でー」
「……へぇー」
どこか、音祢の後ろを見ながら。
「うん、超ラブリーだよっ!」
「そっかー愛されてるなー」
「ォアーッ⁉︎ クロエちゃんいつからいたのっ⁉︎」
という訳で、音祢は後ろから推定クロエちゃんに思いっきり抱きしめられた。
「沼らせた、のとこからかなー」
「最初からじゃん! 声かけてよ⁉︎」
「いやー、つい、ねー」
にこやかな笑顔で頬擦りするクロエらしき人物。
音祢は顔を真っ赤にするも、満更ではない様子を見せる。
無論、周りはポカン、としていた。
「という訳で、音祢の彼女やってるクロエでーす、よろしくー」
そこでようやく自己紹介がなされた。
亜季と桂香としては、ゆるい、そんな印象だった。
「音祢から聞いてるけど、そっちの二人がドラムやってる子かなー?」
「あっ、はいそうです!」
相変わらず音祢を抱きしめたままクロエが二人に問いかける。
そんな彼女に面食らうも、とりあえず亜季が返事をした。
「そっちのコミュ障気味のが師匠やってんだよクロエちゃん」
「誰がコミュ障よ」
残念な評価である。
「そうです! 師匠は恥ずかしがり屋なだけです!」
「誰が恥ずかしがり屋よ」
散々な評価である。
「師匠はクール過ぎるんですよ」
「く、クール?」
「一歩間違えると……」
「間違えると?」
「……大変な扱いになります」
「どっちの扱いでもないわよ」
「仲良いねーキミ達ー」
そんな亜季達のやり取りを見て、クロエはくすくすと笑い、
「あ、もしかして付き合ってるー?」
「!?!?!?!?!?」
「!?!?!?!?!?」
そんな爆弾を落とした。
無論、当事者達はそれはそれはもう動揺した。
「つつつ付き合ってません!」
「つつつ付き合ってないわ!」
それはそれはもう息ぴったりである。
「すごーい拒否するじゃーん」
「いやクロエちゃんぶっ込みすぎだよ……」
「えー? だってすっごい仲良さげ……」
クロエに悪気は無い。
悪気は無いのだが、当事者達からすればたまったものではない。
心臓がドッドッドッと激しく鼓動を刻み、顔が真っ赤で互いの顔を見れない状態に陥っている。
まぁそりゃそうである。
「私達基準で考えないの」
「はーい……なんかごめんね?」
「あ、あはは……ちょっと驚いただけですから……」
「い、いえ……大丈夫、です……」
ちょっと驚いただけで済んでないし大丈夫でもないのである。
亜季は相変わらず顔真っ赤で頰をかいているし、桂香も桂香で顔真っ赤で髪先をくるくるとしている。
思春期か。思春期である。
「よーし、お礼にセッション祭しよー!」
「お礼になってんのそれ」
「いーじゃーん。音ゲープレイヤーが集まったらセッションでしょー? 時間貸しの料金はおねーさんが払うからさー」
久しぶりの解説となるが時間貸しとは、一クレジット百円とは違い、ゲーセンにもよるが一時間あたり何円、などの貸切プレイをしているところもあるのだ。
フリープレイ、などと呼ばれる事もある。
「まぁそうだけどさー……もう。亜季、フレ、なんかごめんね?」
「ううん、大丈夫!」
「問題、ないわ。アキさん先どうぞ」
「は、はい!」
そうして、セッションプレイが始まった。
……亜季は思う。
恋人同士に見えた。顔が熱い。ドキドキがまだ止まらない。
そういえば師匠も顔が赤かった気がする。
「ほーら選曲するぞー」
「あっ、うん!」
「お手並拝見だねー」
「……そこそこ初心者なので加減してあげてください」
後ろをちらり、と確認する亜季。
そこにはいつもの桂香の姿。
「ほら、始まるわよ」
「わわっ、はい!」
……気のせい、だったのかもしれない。
だが彼女は忘れている。
元々桂香は表情が薄い事を。
感情を表面に出す事を良しとしない事を。
そして知らない。
亜季と知り合ってから、よく感情を出すようになった事を。
亜季の前では特に感情を出している事を。
だからこそ、彼女は感情を、表情をコントロールする事を得意としている。
それを、亜季は忘れ、知らない。
そして何より、何故自分がドキドキしたのかを、亜季自信、知らない。