ゲームセンター。
多種多様な遊戯設備がある、いわゆるアミューズメント施設。
「…………」
そんな慣れ親しんだ施設に、今日も亜季は入店する。
自動ドアが閉まるなり外界との接続が断たれ、一気に騒々しさに包まれる。
そして目の前に広がる大きな空間、多種多様なゲーム機の数々。
正にそこは、アミューズメントなテーマパークだった。
その一角で、爆音が鳴り響いていた。
「やってるやってる」
思わず早足になる亜季。
そこには、ドラムセットが、あった。
爆音と共にスティックが舞う。
重低音と共にローファーが踊る。
リズムと共にセーラー服が揺れる。
「……っ」
画面は理解出来るようになった。
だからこそ音が正確無比である事が信じられない。
「すごいなぁ……」
見入っていた。
桂香の超絶技巧に、見惚れていた。
「あ、一曲目だったんだ」
だから、次の曲、また次の曲が始まっても、その少女を見詰めていた。
べつに亜季とて、いつも桂香を見ていない筈がない。
だが、何度見ても桂香に惹かれた。
凄いと思った。綺麗だと思った。
そして……
「お疲れ様です師匠」
「あら……来ていたのね。お疲れ様アキさん」
「はいっ」
プレイが終わった桂香に声をかける亜季。
だがそんな桂香が不思議そうに亜季の隣を見る。
「ヌコさんが居ないのは珍しいわね」
「あー……と、友達と遊んでから来るそうです」
「そうなの」
「ヨッパさんはまだ来ないですよね?」
「まだ早いんじゃないかしら」
「ですよね」
つまりしばらくは二人きり、という事になる。
まぁ二人きりになったところで結局ドラム人口は変わらないため、回しプレイする事も変わらないのだが。
「じゃあアキさん、次やる?」
という訳で、桂香は次を促した。
「んー」
故に亜季は、桂香から選んでもらったスティックをケースから取り出し、キュッと握り締め、だが戻した。
「師匠」
「ん?」
そして、静かに話し始めた。
「ここで、ドラムを教えてくださいってお願いしてしばらく経ちましたよね」
「……? そう、ね?」
クレーンゲームをしに来ただけだったのに、桂香に見惚れてる内に音祢からセッションに無理矢理誘われて、パスカードを作る事になって、そう長くしない内に見取り稽古をしていたら目が合って師匠に。
よくよく考えてみたら普通に声をかけて教えてもらってた方がスムーズだったのではないか、とさえ思う。
だが、こんな変な切掛だったからこそ、ここまで仲良くなれたのではないか、と亜季は思う。
そして、
「あれから色々ありまして……その……」
だからこそ、縁が深まって、桂香の事をよく知れて、
「っ! 待ちなさい」
「うぇっ⁉︎ は、はい!」
が、なにやらストップがかかった。
「……お願いだから待って」
「は、はい……?」
桂香が、真剣な様子で亜季を止める。
「っ!」
そして、亜季の手を取って、
「あのね? 亜季さん」
「は、はい」
亜季の目を、一直線に射抜いて、
「私は」
「っ! 待ってください!」
「んんっ!」
ので、桂香はキャンセルさせた。
「その先は言わせません!」
「待ちなさい、私が先に言うのよ」
「私が先です!」
「いいえ私よ、師匠特権よ」
「なっ⁉︎ 卑怯ですよ⁉︎」
「悔しかったらスキルポイント越えてみなさい」
「無理ゲーじゃないですか⁉︎」
もうお互い言っているようなものである。
だが彼女達的には何か譲れないものがあるのだろう。
なのでどっちが言うか問題でやたら言い合っていたのだが、
「あーもう!」
手をギュッと握り、至近距離で見詰め、叩き付けるようにして、
「好きです! 桂香さん!」
そう、伝えた。
「……っ」
勝負は亜季の勝ち。
負けた桂香は、いつも通りの無表情を少しだけ驚いたような顔付きに。
それ故、亜季は勝利したものの、だんだん自信が無くなって不安げな表情になっていく。
だが、
「……私も、好きよ。亜季さん」
「桂香さんっ!」
「ゎっ」
ふわ、と微笑まれ、亜季は満面の笑みとなって桂香をそのまま抱きしめた。
「桂香さんはもう少し表情豊かにしてくださいよぅ」
「……善処するわ」
「……でもそんなとこも好きです」
「……度し難いわね」
抱擁を一度解く二人。
だが、その手はずっと握られたまま。
「……全然心のこもった言葉じゃありませんでしたね」
「とんだコメディ展開だったわね」
「もうちょっとこう、ロマンチックなの期待してました」
「貴女そのためにヌコさん撒いたんでしょう?」
「う、バレてました?」
「途中からね」
くすくすと笑い合う二人。
だが、ここに想いは成就した。
「……好きです」
「……好きよ」
だから、二人の距離は徐々に近付いていく。
「…………」
「…………」
そして、
「っ!」
「っ⁉︎」
亜季のスマホが、震えた。
「ぉ、お母さんからでした……あは、あはは……」
「お、お母様なら……仕方ないわね……」
ここで音祢やヨッパ、クロエだったらぶっころ案件である。
「…………」
「…………」
手を握り合う二人。
だが、
「ぷっ」
「ふふ」
くすくすと、笑い合う二人。
へにゃり、とした笑顔の亜季に、花開いたような笑顔の桂香。
亜季はいつも通りだが、桂香を知る者が見たら驚く事だろう。
「もう今日はドラムとかの気分じゃないですね」
「何言ってるの。最近調子良いんだからがんばりなさい」
「ええええええええええ⁉︎ 今日くらい良いじゃないですか⁉︎」
「ダメよ」
お花畑の亜季と違い、桂香は変わらない。
だが手を握り合ったまま椅子に座ったあたり、桂香も感情がおさまっていないらしい。
「……いつからだったんでしょうか」
ふと、亜季が問いかける。
自分達はいつから好きの感情を持ち始めたのか、と。
「貴女に派手に告白された時からよ」
「えええええいつですかそれ⁉︎」
「覚えてないの?」
「お、覚えてないですよぅ!」
「呆れた。じゃあ貴女はいつから私の事……」
季節はそろそろ夏が終わる頃。
恋が成就し、素敵な日々が始まりを迎える。
だが彼女達は変わるようで変わらない。
仲睦まじい関係を築き続け、だが時には喧嘩する事もあるだろう。
しかしそれでもきっと、一緒にこの場所で、このゲームで培った思い出は裏切らない。
「あ! そうだ桂香さん!」
「なに? 亜季さん」
「恋人になった記念でスティック交換しませんか⁉︎」
「……その心は?」
「ほら! 仲良くなった子同士でサンダル交換とかするじゃないですか!」
「……するわね」
「だからどうでしょう!」
「……ちなみに初心者を卒業しかけている亜季さん的に無茶を言っている自覚はある?」
「ありまぁす……」
しょんぼりする亜季。
そりゃそうである。自分に合ったスティックというものがあるのである。
「……もう。一本出しなさい」
「ふぇ?」
だから、桂香は苦笑して一本だけを交換した。
「でも、これじゃあ……」
「さ、新しいスティック買いに行くわよ」
「え? え?」
「これは記念用」
「ええええええええ桂香さんがデレた⁉︎」
「うるさいわね」
そうして二人はゲームセンターを後にした。
スティックケースの中で一対のドラムスティックが軽く音をたてる。
色も長さも重さも素材も、何もかもが違う二本。
だが寄り添ったそれは、睦まじく、いつまでも一緒だった。