一対のドラムスティック   作:ハヤ0313

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集えゲーセン女子!

 

 

 

 

 ぽんぽこぽんぽこ。

 今日も亜季はドラムを叩く。

 

「はい、ドッタ、ドドタ」

「はわわ足手! 足足手わからんちんです!」

「まぁそうよね」

 

 土曜日、学校が休みの日。

 あれから連絡先を交換し合った亜季達は、時折メッセージのやり取りを行いながらゲーセンに通う日々を送っている。

 それ故、最近だと休日の日もこのように一緒に過ごす事が多くなりつつあった。

 

「うぅ……手だけ足だけならまだしも、同時に色々入ってくるとホントにわからんちんです……」

 

 なので、亜季の腕前もちょっぴり上達してはいるものの、まだまだ先は果てしない、といったところである。

 

「そんなんで躓いてたらツーバス踏めないぞー?」

「つーばす?」

 

 そんな彼女の事を、後ろで眺めていた音祢がからかう。

 が、そんな専門用語を出されても初心者が分かる筈がない。

 

「……やってみせる?」

「ぜひっ!」

 

 ので、師匠が実演してみせる事になった。

 

 さて、ツーバス。

 ドラムで二つのペダル……キックペダルとも言う……を使用する奏法である。

 主にハードロックやヘビーメタル等で使用され、高速かつパワフルな重低音を鳴らす、いわゆる、ドコドコドコドコ!というやつである。某紅の曲の印象が強いだろうか。

 さて、そのやり方なのだが、ペダルは基本的に足で、踏む。一番大きいドラムに装着されているペダルを、足で、踏む。

 つまり、ツーバス、二つのペダルを踏むという事は、

 

「うわぁ……カッコいいけど、うわぁ」

 

 両脚でドコドコドコドコ!と刻むのである。

 

「自分でやるようになって分かるようになってきたんですけど」

「うん」

「師匠ってものすごく上手いのでは?」

「そうだよ?」

 

 なので、亜季はフレのあまりのそのツーバスの綺麗さに驚き、その完成度の高さに衝撃を超受けた。引く一歩寸前だったかもしれない。

 

 そんな風に、恐れ戦いている時だった。

 

「うーぃ、なんか音ゲー女子増えてんじゃーん」

「げ」

 

 スーツ姿の、いかにもOL、といった風体の女が現れた。

 割と顔が赤らんでいる状態で。

 

「げ、とはなんだぁ? このお」

「いやヨッパいつも酒臭いんだもん」

「おー酔ってるからなー」

 

 酔ってた。超酔ってた。酔っ払いだった。

 そんな酔っ払いと音祢が平然と会話している事にも驚きであったが、亜季はどうしてもツッコみたくて仕方がない事があった。

 

「ひ、昼ですよね……?」

 

 そう。今は土曜の昼間なのである。

 

「うーい、昨日からオールしてー、そのままゲーセン?」

「す、すごいですね」

「すごいだろー」

 

 疑問は解決した、ような気がする。

 ので、これ以上深くツッコんではいけない、と本能的に悟り、亜季は口を噤んだ。

 

「……ヨッパさん、ハウスルール」

「泥酔してないからセーフですぅー」

 

 そんな女の対処に困っていると、クレジットを終えたフレが亜季達の側にやってきた。

 

「あ、師匠。凄く凄かったです、無理です」

「……まぁ、最初からやれとは言わないわよ」

 

 なので、亜季はいつも通り、フレに対して呼びかけた。

 

「師匠お⁉︎」

 

 ので、初見のヨッパとかいう女は驚愕した。

 

「あの! フレちゃんが! 師匠⁉︎」

「……良いじゃないですか、別に」

 

 フレに対して二度見三度見した後にズビシッと指を差すヨッパ。非常に鬱陶しい。

 ので、差された方は頭を抱えた。

 

「はー! 青春だねえ!」

「おっさんくさあ」

「うるさいうるさーい! くそおー寺やってくりゅ!」

 

 音祢はそんなヨッパに慣れているのか、容赦なく切り捨てる。

 が、切り捨てられた方は酒の影響か情緒が不安定なのか、何事か叫びながら別の音ゲーの方へと駆けて行った。

 

「……え、と」

 

 亜季としては何が何やら、である。そりゃそうである。

 ので、説明を求めた。

 

「……はぁ。あの人のプレイヤーネームはヨッパ」

「夜とか週末とかによく来る人で、だいたい酔ってる」

「えぇぇ……?」

 

 ツッコミ所が満載過ぎて、何から聞けばいいか分からなくなる程だった。

 

「そして、寺プレイヤーね」

 

 が、まともに質問出来そうな言葉が出て来た。

 

「寺?」

「ほら、あの鍵盤と皿のやつの音ゲー」

 

 音ゲーと言っても、多種多様である。

 ドラムゲーム、ギターゲームのような本物を模したものもあれば、寺のように鍵盤と皿を組み合わせたもの、他にもボタンを叩くものや、中には洗濯機のような見た目のナニカがあったりもする。

 

「あー、あの難しそうなやつ」

 

 亜季はドラムゲームをやるようになって分かったのだが、その音ゲーの数々、種類によってクセがかなり異なる。

 その中でも寺は、亜季的にはかなり難易度が高そう、という印象を受けたのだった。

 

「そうね。私も苦手よ」

「はえー」

「うっそだー。フレけっこうやる方じゃん」

「えええ師匠あれもけっこうやれるんですか⁉︎」

「……そこそこよ。そもそも」

 

 いつの間にかゾロゾロと寺の後方まで移動している一行。

 そこでは、爆音が鳴り響いていた。

 

「っ⁉︎」

「ヨッパさんが、凄すぎて、ね」

 

 画面は意味不明。

 だが音だけは裏切らない。

 

「うぇーい! ひゃっはーっ!」

 

 爆速で上から下へ落ちてくる大量のノーツ。

 それらを片っ端から正確に鍵盤で弾いていくヨッパ。

 

「酔っ払ってるのになんであんなに上手いのかわかんねー」

「本当に……」

「す、凄すぎて何が何やら分からない……!」

 

 分かるのは、ほぼ常にパーフェクトの判定が出ている、という事。

 

「でもとりあえず叫ぶのはマナー違反だよね」

「本当に」

「あ、そこはそうなんだ」

 

 が、ダメなものはダメである。

 マナーを守って楽しくゲーセンで遊ぼうね。

 

「うーい満足満足ー。えっと、何ちゃん?」

「あ、アキです」

「よーしアキちゃん! 音ゲー女子仲間としてこれからよろしくねって女子って歳じゃないだろって言ったやつ誰だ今ケンカ売ったな売ったよね買うぞ言い値で買うぞ寺で勝負だ!」

「誰も言ってねー」

「全国レベルに勝てるわけないじゃないですか……」

「あ、あはは……」

 

 こうして、ゲーセン仲間がまた一人増えたのだった。

 亜季は元々ぼっちだった。

 それが今や、同じクラスの陽キャグループの一員、他校のクールな女子、謎の社会人お姉さん、と友達や知り合いになっている。

 彼女の世界は広がっていく。

 ゲームを通じて、花開いていく。

 

 

 

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