一対のドラムスティック   作:ハヤ0313

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待ってください!

 

 

 

 ぽんぽこぽんぽこ。

 今日も亜季はドラムを叩こうとして、

 

「むー」

 

 待ち人が来ずにそわそわしていた。

 

「師匠が来ない……!」

 

 そう、桂香がまだ来ないのである。

 ちなみにあれから彼女の風邪は治り、いつも通りにゲーセン通いは復活している。今日は単に遅いだけである。

 ならば一人で始めれば良い、という意見が聞こえなくはないがそこは女子高生。何をするにしても一緒でないと、という生態なのである。

 

「んー」

 

 が、この間まではそうではなかった。

 

「今日もあたしが教えよっか?」

「む」

 

 桂香の風邪。

 その際には二人で遊んでいた。

 

「フレに特訓の成果見せてやろうぜぃ」

「っ! うん!」

 

 故に、桂香抜きで遊ぶ、という事に対して、少し慣れ過ぎてしまっていた。

 

「あら……」

 

 だから、

 

「……ヌコさんから教えてもらっていたの?」

「あ! 師匠お疲れ様です!」

「フレ遅いぞー」

 

 遅れてやってきた桂香の表情がどことなく固い事に、気付けなかった。

 

「……あぁ、私のいない間」

「あ、はい! 秘密特訓です!」

「ぁ……ゃ、その、フレ」

「……ふぅん」

 

 元気に返事をする亜季に対し、何かに気付いた音祢。

 ……そして、どこか冷たい声の桂香。

 

「し、師匠……?」

 

 だから、亜季もナニカに気付く。

 

「じゃあ今度はヌコさんから教えてもらうと良いわ」

「え、え? え⁉︎」

「帰るわ」

 

 だがその気付きは致命的に遅かった。 

 

「えええええええ師匠⁉︎ 師匠⁉︎」

「あーごめん、ごめんて」

「何も悪くないわ、じゃあ」

 

 だから、桂香はそう言い放って、その場を後にしようとして、

 

「んお? お取り込み中?」

 

 今しがたゲーセンに来たばかりのヨッパとぶつかりそうになり、

 

「いえ……じゃあ私はこれで……」

「あ、帰るの? 気をつけてー」

 

 今度こそ、ゲーセンを後にした。

 

「あう……」

「あー……」

 

 残された者達の空気は、控えめに言って最悪だった。

 

「……どしたのキミ達」

 

 なので、流石のヨッパもツッコまざるをえない。

 

「……実は」

 

 そんな年長者の言葉に、高校生達は非常に気まずそうにしながら、事情を話し始めた。

 

「あー」

 

 そうして一部始終を聞いたヨッパは、納得した、という声をあげる。

 

「そりゃあよくなかったかもねえ」

「うぅ」

「むぅ」

 

 なので、亜季としては縮こまるしかないし、音祢としてもバツの悪そうな顔をするしかない。

 そんな彼女達を見て、ヨッパは一つ、溜息を吐く。

 

「仕方ない、お姉さんに任せなさい」

 

 

 

 桂香は無心で歩いていた。

 何も考えず、何も感じず、ただの帰り道をなんてことのないように歩いていた。

 

「待って、待って待ってフレちゃん足速い……!」

 

 日頃運動不足の女が後ろから声をかけてくるまでは。

 

「……ヨッパさん?」

「や、やっと、ぜぇ、ぜぇ、追い付いた……!」

「えぇぇ……」

 

 が、あまりの様子にちょっぴり引いた。

 

「と、とりあえず落ち着いてください。コンビニで水でも買ってきましょうか?」

「かひゅー、かひゅー」

 

 本当は、気遣いの達人か?などとツッコミを入れたかったらしいが、そんな余裕すら無かったらしい。

 という訳で、二人は近くの公園に移動し、ヨッパは桂香が買ってきた水を一気飲みした。

 

「っくぁー! 生き返る! ありがとねフレちゃん!」

「い、いえ……」

 

 まるでビールのCMみたいだ、と桂香は密かに思った。

 が、

 

「というかヨッパさん、どうしたんですか……?」

 

 そもそも必死になってまで追いかけてきた理由である。問題はそこなのである。ヨッパの奇行でうやむやになっているが、本題はそれなのである。

 

「んくっ……あー、ね」

 

 それを受けてヨッパは水を飲み干し、

 

「あれはないよね」

「……っ」

 

 そう、告げた。

 端的な言葉。何を指しているか分からない言葉。

 

「……別に、なんでもありません」

 

 だが、十分に伝わった。

 故に、桂香はそう返す。

 

「私もそういうの経験あるよ」

「そう、なんですか?」

「そりゃキミ達より人生経験長いからね」

「はあ」

 

 寄り添うヨッパ。

 それでも桂香はなんでもないのだという。

 

「……で? ならどうして機嫌が悪くなったのかな?」

「…………」

 

 だが桂香は言葉に詰まる。

 なんでもないから、なんでもない事にしたいから、言葉に詰まる。

 

「アキちゃんが他の子に取られちゃったのが面白くなかった?」

「ッ!」

「そっか」

「そんなことありません」

「……そっか」

 

 だから、桂香は否定する。

 違うのだと、そうじゃないのだと。

 

「まぁでもさ」

「……はい」

 

 そんな風に桂香が自分の内面と向き合っていると、ヨッパはまた口調を改めた。

 

「気にしなさんなって」

「えぇぇ……あんなこと言ったのにですか」

「ごめんごめん。まぁ根拠無しに言ってるわけじゃなくてさ」

「……というと?」

 

 ……長い付き合いの桂香だから知っている事だが、ヨッパもシラフの時くらいある。

 その時は皆の頼れるお姉さん、といった雰囲気になり、言う事も真面目な内容になったりする傾向がある。

 だから、桂香はわりと、ヨッパの事を頼りにしている。内緒だが。

 

「フレちゃんを驚かせたかったんだって、上手くなったねって褒められたかったんだってさ」

「…………」

 

 思い出すのは、秘密特訓、と言っていた亜季の事。

 非常にドヤ顔をしていたな、と桂香は思う。

 

「それにさ」

「……?」

 

 だから、思考が油断していたがために、諸々が直撃する事になった。

 

「師匠!」

「あの子、キミのこと大好きだから大丈夫だって」

「ッ⁉︎」

「じゃーあたしはヌコちゃん説教してくるから二人でゆっくり話しなねー」

「待っ⁉︎」

 

 公園をクールに去るヨッパ。

 と入れ替わりに爆速で公園内に入ってくる亜季。

 無論、桂香は心の準備など出来ていない。

 

「師匠! あの! その、ぁの、ぇと!」

 

 だが、それは実は亜季の方もそうだった。

 どうやら何を言えば良いか分からず、だが何か言わなければならない、と思ったが故に飛び出てきたらしい。

 

「……なにかしら」

「うっ……」

 

 桂香から、冷たい声が出る。

 が、これは単に桂香も桂香でどんな感情を出せば良いか分からず、つい平坦な口調になってしまっただけである。

 

「ぁ……」

 

 故に、それを否定しようと再度口を開こうとして、

 

「私! ぁーぅー分かんないとにかく! 私! 師匠のことが好きです!」

「ッ⁉︎」

 

 よく分かんない告白を、受けた。

 

「あ違う」

「違う⁉︎」

 

 だが違うらしい。

 

「違くないです! いやそうじゃなくって! いやそうでもある? うーんうーんうーん! いやこの好きというのは」

「アキさん」

「あ、はい!」

「落ち着きなさい」

「は、はぃ……」

 

 よく分からない話になった。

 

「……全く、バカみたいじゃない」

「ふえ?」

「こっちの話よ。それで、結局何が言いたいのかしら?」

 

 だから、そう促し、ゆっくり言葉を引き出していった。

 

 二人並んでベンチに座り、くすくす笑いながら語り合う。

 誤解と謝罪と、また繋がる関係。

 だが繋がった関係は、少しだけ波紋を残した。

 言葉にした。言葉に出した。

 否定はしたし、違うと認識もしている。

 関係は変わらない。

 今は、変わらない。

 

 

 

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