あかね1/2 作:直人猫
もうちょいしたら、ガンガンバトルモノにして行きたいです。
あかねの朝は早い。
ギリギリまで惰眠を貪る乱馬や玄馬と違い、規則正しく日が昇り切らない時間に目を覚ますとロードワークへ向かう。
彼女の走行速度は車に匹敵するため、なるべく車通りが少ない車道を走るのことが多い。
その日は、少しだけ山側を走りたいと思ったため、栃木方面へ走っていた。
少し走れば視界に木々広がり、さわやかな空気が胸を満たしていく。
「山側で今日は正解だったな、気持ちがいいや」
車の台数も少なく、快適に走っていくあかね。
ふと彼女の視界がさらに一段と広がる。山を抜け、川が見えてきたのだ。
ここから橋を越えてさらに隣県に向かうのが通常のあかねの走行ルートであったが、その川岸に見慣れぬ大きな影があった。
それは、人の背丈を超えるほど大きな猪。
その額の部分に大きな打撃痕があり、何者かの打撃により一撃で仕留められた事が察せられる。
あかねは、思わず足を止めた。
その一撃が余りにも見事であったからだ。
「すごい…躊躇いもなく正確に打ち抜いてる。それに、急所ではあるけどこんなに大きな猪だと筋肉で防がれちゃう。
よっぽど強い力を持った人が倒したんだ…」
少しだけその遺体を検分するあかね。
見れば見るほど荒々しくも力強い技が想起される。
あかねはぜひこの猪を倒した武道家に挨拶をしたいと思った。
見事な技を褒め、そして叶うことなら手合わせをしたかった。
だが、その猪を倒したであろう武道家の姿はどこにもなかった。
ただし、その川縁に大きなバックパックと男性物だと思われる洋服が散乱していた。
「えっ? 服?」
あかねは、その荷物に近づきそれらを拾い上げる。
すると、その服に隠れていた小さな黒い子豚が転がり出てきたのだ。
あかねを警戒しているのか、唸り声をあげている。
はたとあかねは察した。
この黒い子豚は猪の子供なのではないか、と。
子豚は母を倒された後、何故か全裸になって沐浴した武道家の隙をつき川に叩き落とし母の仇を取ったのだ。
そもそも、全てはあかねの勘違いで猪の子供は瓜坊であるため黒い子豚は生まれようがないとか、ツッコミどころは数あれどあかねの中ではそうなった。
「なんて、気高いのだろう…!」
感動したあかねは、そっと黒い子豚へ手を伸ばす。
子豚は身を低くし、再度威嚇の声を上げた。
あかねは、それを気にせず手を伸ばし続ける。そして、ひょいと優しく抱き上げると流れるようにその体を抱きしめた。
「わ、びしょ濡れになっちゃってたんだ。仇を川に蹴落としたからだね…。待ってて、タオルで拭いてあげるね」
そういうと、首筋に巻いていたタオルで優しくその子豚を拭ってやる。
最初は身を強張らせていた子豚であったが、あかねが危害を加えないとわかったのだろう。
やがて、少しずつ体から力を抜いていく。
「うん、いい子」
あかねはタオルで子豚を胸元で抱きしめながら、くるりと方向転換をする。
もうロードワークを続けるつもりは彼女にはなかった。
そっと腕の中の子豚に話しかける。
「ね、君。僕のうちに来る?」
「ぷぎ?」
子豚は不思議そうな顔をして頷く。いや、頷いたようにあかねには見えた。
それだけで、あかねの中ではこの子豚を連れて帰ることが決まった。
「よし。それじゃあ帰ろうか…名前も考えなきゃ…んー」
あかねは少し悩むように口元に手を当てる。
胸の中の子豚が何かを抗議するように鳴き足元の荷物を指差すが、あかねは気が付かずに悩み続ける。
「うーん、ぶーちゃんは安直かな? それなら…ピッグで…うん」
あかねは胸に抱えていた子豚を天に掲げた。
「君は、ピッグのPちゃんだ!」
子豚がショックを受けたように固まる。
ついで、慌てて何かを主張するかのように荷物を指差すが、やはりあかねには伝わらない。
「大丈夫、もう心配することはないよ」
きりりとした表情と声で優しくPちゃんへ語りかけるあかね。気のせいだろうか、Pちゃんの黒い毛並みが赤く染まったように見える。
あかねはそのまま家を目指して走り出す。
その速度は行きよりもさらに速かった。
「なんだ、その豚」
朝食の席で起き抜けの乱馬は、あかねの胸に抱かれるPちゃんを見つけて思わず言葉が漏れた。
それに対して、答えたのはなびきである。
「あ、乱馬くんおはよう。あかねが山で拾ってきた猪の子供なんだって! ウチで飼おうって話なってるの」
「猪の子供ぉ?」
なびきはあかねの胸元のPちゃんへ餌としてにんじんのスティックを与えるが、つんと顔を逸らされて相手にされていない。
一方で、早雲はPちゃんに対して眉根を顰めており。あまり気に入っていない様子だ。
「お父さんは反対だ。命を扱うってのは、そう簡単なことじゃないんだよ」
「あら、お父さんだって生き物を飼ってるじゃない」
「えっ、何の話だいかすみ?」
諭す早雲に反論したのはかすみであった。
困惑する早雲に、かすみはそっと玄馬を指差す。
そこには、パンダの姿の玄馬がいた。
「ほら、早乙女のおじさまを」
「いくらパンダの姿だからと言って、人の親友をペット扱いしないでもらえるかな!?」
「居候って、ペット枠の人間でしょう?」
「なびきちゃん!?」
かすみとなびきの姉妹のコンビネーション攻撃に早雲は反論し切れなかった。
居候でバイトをしているが、ほぼ金を天道家に入れない玄馬のその息子の乱馬は共に暮らしているというか飼っていると言っても過言ではないかも知れないと。
パンダの姿の玄馬は何か反論があるようで、看板を手に持ち意思表示する。
『わ、我々はただ飼われている訳じゃない』
「そう言うんならもっとお金を家に入れてくれても良いんじゃない? おじさま」
金庫番たるなびきの言葉に、タイヤを抱っこしパンダの動きをし始める玄馬。
勝敗はついていた。
一方乱馬は、あかねの胸元で彼女に抱かれて上機嫌そうなPちゃんをじーっと見つめていた。
あかねはそっと乱馬に子豚を差し出した。
「どう? 乱馬くんも抱っこしてみる? 可愛いよ」
「あん? 俺は…」
乱馬はジロリとPちゃんを睨むが、Pちゃんもじっと乱馬を見つめている。
数瞬間互いに顔を見合わせ、先に動いたのはPちゃんだった。
「ぷぎー!!」
なんと、怒りの方向を上げて乱馬へ襲い掛かったのだ。
乱馬も即座にそれを迎撃した。
ベシャリと上から押さえつけるようにして、Pちゃんを完封する乱馬。
「あー!? 乱馬くん、いじめないでよ!」
「こいつが襲い掛かってきたんだよ」
「もー、動物のやることだよ? 大丈夫?」
あかねは即座に乱馬の手からPちゃんを救い出すと、優しく撫でる。
なんとなく面白くなくて、乱馬は鼻を鳴らしながらPちゃんの鼻にデコピンを当てた。
それに激怒したPちゃんはあかねの手から離れ、目の前の乱馬にそそと近づきガブリと思いっきりその手に噛みついた。
「いてー!?」
悲鳴をあげて手を振り払う乱馬。
その手の動きで払われたPちゃんは華麗に着地するとそのまま走って居間を逃げ出していく。
「待ちやがれ!」
「あ、ちょっと!? 乱馬くん、Pちゃんを虐めないでよ!!」
乱馬はそのまま走り出したPちゃんを立ち上がり追いかけ始める。
あかねもそれに慌ててついて行った。
Pちゃんは廊下を跳ねて縦横無尽に飛び回る。乱馬もその小さな黒い弾丸と化した動きを目で追えていないようだった。
だが、焦れた乱馬は大きく跳び蹴りを繰り出す。
「庭に叩き出してやる、でーい!!」
腐っても達人。乱馬の蹴りは、Pちゃんを的確に捉え庭へ蹴り出そうとする。
「はい、だから、もうそこまで」
「でぇ!?」
そして、その一撃は横からPちゃんを庇った同じく達人のあかねによって防がれた。
無差別格闘天道流、円環。
あかねは、乱馬の攻撃の勢いを殺すことなく背後に流した。これにより、乱馬は勢いが殺されることなく真っ直ぐ庭へ突っ込んでいく。
バシャーン!と水飛沫をあげて、乱馬は天道家の庭の池へ吸い込まれて行った。
「な、何しやがる!?」
水に入ったことで女に変わった乱馬は、池の中で立ち上がりあかねを怒鳴りつけた。
しかし、そんな乱馬にあかねも怒ったように眦を釣り上げる。
「だから、いじめないでって言ったでしょ? 動物のすることなんだから、そんなにカッカしちゃダメだよ」
「そいつが俺に先に噛み付いたんだろうが!」
「それでも、武道家が武術を身につけたのは弱いものを虐めるためじゃないはずだよ」
「ちっ…」
あかねの正論に面白くなさそうに乱馬は自ら上がると、そのまま自分の上半身を包んでいたタンクトップを脱ぎ絞る。
豊かな双丘が顕になり、思わずあかねは顔を赤らめて逸らした。
「ちょっ、急に脱がないでよ!」
「うん? なぁに、恥ずかしがってんだよ」
「だ、だって!」
不思議そうにあかねを見る乱馬。
同じ性別なのに何を焦る必要が、と考えたところで彼女に成人男性の記憶があることを思い出す。
どうやら、彼女は男の裸も女の裸も見るのが恥ずかしいらしい。
にやぁ〜と乱馬の顔がいやらしく歪む。
普段、鈍感さを発揮して自分を惑わせるあかねにやり返す絶好の機会であると。
「どうした、あかね? 今は女同士だろう? それとも、男同士の裸の方が良かったか?」
「ち、違うもん!」
必死に視線を逸らすあかねにすすすと近づく乱馬。
普段のあかねらしからぬ反応に、乱馬の笑みは深まるばかりだった。
「ぷぎー…」
ふと、あかねの胸元に囲われていたPちゃんが鳴いた。
Pちゃんは、女に変わった乱馬と居間でタイヤを転がすパンダとで何度も視線を行き来させる。
「ん?」
「どうしたの、Pちゃん?」
あかねと乱馬は二人して様子がおかしいPちゃんの顔色を伺うが、彼はそのままブルブルと体を震わせると、そのまま勢いよくあかねの腕の中から飛び出した。
「わ、どうしたの!?」
「なんだなんだ?」
そして、Pちゃんは乱馬に向かうでもなく家の中に走って行ってしまう。
「乱馬くんが虐めるからだよ」
「そうかぁ? なんか妙だったなぁ」
「もう! 違うなら仲直りも兼ねて、乱馬くんが迎えに行ってよ!!」
「へいへい」
珍しく怒るあかねに、乱馬は絞り終わったタンクトップを着直してため息をつく。
そして、そのままPちゃんの後を追いかけようとした乱馬をあかねが呼び止める。
「あ、それと」
「なんだよ、まだなんかあんのかよ?」
「その…池に落としちゃってごめんね? タオルとか用意しておくからPちゃん見つけたら一緒に入っちゃって」
「…」
そして、照れた表情を浮かべてあかねは庭から室内へと戻っていく。乱馬はそれを見送りながら、あかねはやっぱりずるいなぁと再認識するのであった。
ともあれ、乱馬はあかねの姿が見えなくなるまであかねの照れ顔を噛み締めた後、Pちゃんを探しに室内へ向かうのであった。
Pちゃんは、なぜか折よく風呂場の脱衣所にいた。
まるで、なかに入ろうとするかのように風呂場のドアを小さい前足で叩いている。
「なんだ、こんな所にいやがったのか」
嫌がるPちゃんを踏んづけて捕まえた乱馬は、そのままついでとばかりに自分の服を脱ぎ捨てた。
なぜか、Pちゃんは乱馬が裸体を晒すと大人しくなる。
乱馬は怪訝に思ったが、特に気にすることなくそのまま風呂場に入った。
途端、シャンプーの香りが乱馬の鼻腔をくすぐる。
それは、あかねが普段使っているシャンプーの香りだった。
あかねは、ロードワークを行ってきた。
つまり、ひと足先にあかねは風呂に入っていたのである。
「…」
乱馬は、なぜか頬を赤ながらその場で深呼吸をした。
その間もPちゃんは、鳴きながら乱馬の手の中で暴れている。
香りの堪能を邪魔された乱馬は、鬱陶しそうにPちゃんを洗面器に叩き込むと風呂桶でお湯を掬う。
「ぶぎー!? ぷぎ、ぷぎー!?」
「暴れんなっての…へへ」
あかねの残り湯か…と感慨深く思いながらより一層暴れ始めたPちゃんへそれをかけた。
バシャバシャとPちゃんへ続け様にお湯をかけると…気がつけば目の前に全裸の男が立っていた。
「は?」
「殺してやるっ!!」
目の前の全裸の男は、呆然とした乱馬目掛けて拳を繰り出した。
「だわっ!?」
思わず風呂桶でその一撃を防ぐと、乱馬は相手をまじまじと見つめて驚愕した。
「あっ、あーーーーー!? お前っ! 良牙か!? 響良牙!!」
「うるせぇ、ぶっ殺してやる!!」
乱馬は中学からのライバルの名前を呼んだが、ライバルは懐かしい話をするなど無いようだ。
続け様に立ち上がり拳を繰り出す。
そのあまりの鋭さと、無理な大勢であったこと、女に変わっていたことも合わさり流石の乱馬も反撃ができない。
必死に壊れ続ける風呂桶を盾に悲鳴を上げた。
「待て待て待て!? というか、お前お湯をかけたら戻るってことは…呪泉郷に落ちたのか!?」
自分や父玄馬と同じ現象に驚愕する乱馬へ、良牙は彼を睨みつけながら話し始める。
それは、良牙が天性の方向音痴を発揮して決闘に遅刻し、乱馬が彼を待たずに中国へ向かってしまったことで起きた悲劇だった。
乱馬を追いかけた彼は、何故か呪泉郷に辿り着きそこでパンダを連れた女に蹴落とされ、黒豚溺泉で溺れてしまったと言う。
二人で温泉に浸かりながら、乱馬は眉を顰めた。
「待て待て、それは俺のせいじゃ…」
「パンダ連れてんだろお前! しかも、女になった姿は俺を落とした女と瓜二つだ!!」
「…っすぅ〜」
「以来、俺は食われかけたり、溺れかけたり、情けないやら悲しいやら散々な目にあって地獄を見てんだ!!」
「お、おう」
「てめぇに復讐しなきゃ、気がおさまらねぇ」
何も言えなくなってしまった乱馬だった。
流石の彼も、蹴落とした相手の人生が滅茶苦茶になったと言われたら謝るしかない。
良牙は、ざばりと風呂から上がると乱馬を指さした。
「覚えてろ、乱馬。俺はお前に復讐するために四六時中見張ってる。いつ襲われるか分からん恐怖に怯えて眠れ」
「りょ、良牙」
「あばよ」
「待て、良牙お前これからどこに…」
「お前には関係ねぇ」
そう告げると、良牙は水道の蛇口を撚り洗面器に水を貯めた。
そして、迷うことなく自分でそれを被り子豚の姿になる。
「は?」
そのまま、彼は体を震わせて水を弾くと軽い足取りで居間へ向かっていく。
「て、てめぇ、まさか…」
乱馬は風呂から上がりながらその後に続いて、居間へ戻っていく良牙へ問いかけた。
「まさか、お前…しばらくあかねに面倒見てもらうつもりじゃねーだろうな?」
良牙は一瞬その足を止めて、乱馬を振り返る。
その目はいやらしく歪んでいた。
「ひ、人の婚約者に何するつもりだてめー!?」
直後、乱馬も激発し良牙を追いかけ始める。
そして、脱衣所の扉をガラリと開けると、
「あっ」
「えっ」
目の前にバスタオルを持ったあかねがいた。
乱馬はゆっくりと己の姿を視界に収める。
当然ながら、全て脱ぎ捨てており生まれたままの姿であった。
あかねも釣られるように、一度乱馬の股間に視線がいき、ゆっくりと乱馬へ視線が戻る。
その顔は、赤らんで涙目だった。
「ら、乱馬くんの、えっち…」
「ち、違うんだぁ!?」
この日以降、天道家の新しい家族にPちゃんが加えられた。
同時に、あかねはしばらくの間乱馬を見るだけで頬を赤らめるようになってしまった。
乱馬は、それを解消するのに三日を要したのだった。
良牙くん、ちょっと不幸なのにちゃっかり恩恵受けてたらしてるのが好きです。
プライドを捨てて豚になりきった男は面構えが違います。
私もあかねちゃんに飼ってもらいたいですが、添い寝はちょっと嫌です。
感想評価お待ちしてます。