あかね1/2 作:直人猫
猫と同じ感覚なのかなと思いつつ、自主性に任せる家風なのかもしれませんね。
常識人ぶってますが、彼女もけっこうスチャラカ枠。
そんな所も好きです。
夜討ち朝駆けをすると宣言した良牙は、結局その日以降仕掛けてくることはなかった。
むしろ、あかねの胸元に収まっているPちゃんは日に日に衰弱していった。
「お、おい、良牙どうしたんだよ?」
そっとあかねからPちゃんを奪取した乱馬は、こっそりと問いかけるが彼は子豚のままどこか哀愁を漂わせていた。
そして数日が経った頃、Pちゃんは遂に失踪した。
あかねはいなくなってしまったPちゃんを必死に探し、迷い豚として張り紙を電柱に貼っていた。
「どうしよう、Pちゃん一人で泣いてないかな? 野生動物にいじめられてないかな?」
「大丈夫だろ、あいつがそんなタマかよ。それに、猪なんだろ? 元から野生にいるのが当たり前なんだよ」
「そっか、そうだよね…」
あかねが寂しそうにしているのを乱馬は見ているしか無かった。
あかねがそんな悲しみに暮れる中でも学校はある。
乱馬たちがPちゃんが消えてから一週間たったある日、校門の前で良牙は乱馬を待ち構えていた。
彼は、和傘を手に持ちなぜか、傍には体の半分で体毛の色が違う犬が寄り添っている。
彼は、乱馬とあかねが姿を現すとにやりとニヒルに微笑んで見せる。
そこに、Pちゃんの時の弱々しさはない。
「よう、乱馬」
「あー! おめー! Pちゃんどこ行ってたんだよ心配させやがって!」
「誰がPちゃんだ!!」
良牙は乱馬の胸ぐらを掴んで凄んだが、乱馬はどこ吹く風であった。
「で、何の用だよ良牙」
「乱馬くん、友達?」
そんな二人のじゃれ愛にあかねはひょっこりと顔を出して問いかけた。
そのあかねに、なぜか良牙は頬を赤らめた。
「響良牙だ。こいつとは、友達なんかじゃない…腐れ縁の宿敵だ」
「ふぅん? 君も武道家なんだ」
あかねはジロジロと良牙の全身を眺める。
均整の取れた肉体に見えるが、その実乱馬よりも広背筋が発達しているその肉体に笑みが深まる。
その笑みに何故か良牙はますます顔を赤らめており、凄まじい色になっていた。
だが、あかねは気が付かずに良牙の体だけを見て感嘆の声を上げる。
「へぇ、すごい鍛え方だね、独学で鍛えたの?」
「ああ、まあな」
「なるほど、これは乱馬くんの宿敵っていうのも納得かな」
「ふっ、あかねさんにそう言ってもらえると嬉しいぜ」
「え?」
あかねは目を瞬かせて良牙を見る。
良牙は致命的なミスを犯していた。
「僕、名乗ったっけ?」
良牙は固まった。乱馬に必死で助けを請う目を向ける。
乱馬は仕方ないとため息を吐きながら、あかねに説明をする。
「ほら、あかねもPちゃんを探していただろ? その時にこいつにも事情を説明してたんだよ」
「そ、そーそー! それで名前を教えてもらっててさ!」
「あ、そうだったんだ…改めて天道あかねだよ。よろしくね」
あかねはそのまま手を差し出す。良牙はその手をそっと握った。
互いによく鍛えられたその手を軽く握り合い手を離す。
そして、その後にぐいと二人の間に体を挟める。
「で、なんだよ良牙。Pちゃんを見つけたってワケじゃねーんだろ?」
「ああ、ちょうどお前に復讐してやろうと思ってな、乱馬。果たし合いと行こうじゃないか」
「いいぜ、今からでもやるか?」
「ああ、俺は構わねぇよ」
乱馬と良牙は至近距離で睨み合う。
途端に二人の闘気が漏れ出して、空中で激突し合った。
そして、二人のその会話にあかねは少し驚いたような顔になる。
「えっ? ま、待ってよ乱馬くん。良牙くんと果たし合いをするの!?」
「止めるはあかね。こいつは俺を恨む権利があるし、俺もただ殴られるわけにはいかねぇんだ」
「そう言うことだ。まあ、殺しはしないさ。あかねさんは少しの間待っていてくれれば良い」
「いや、そう言うの良いから」
「「へ?」」
格好をつけてあかねへ言い含める二人へ、あかねは冷めた目と言葉をぶつける。
乱馬と良牙は奇しくも同じ言葉を出して固まった。
そんな二人の反応を他所に、あかねは乱馬へ指を突きつけた。
「あのねぇ、決闘の約束はそもそも僕の方が先じゃなかった? それを無視して良牙くんと戦っちゃうのはおかしいよ」
「えぅ…」
乱馬はぐうの音もでなかった。
別にあかねとの約束を忘れたことはなかった。しかし、目の前に戦う気満々の相手がいたら目移りしてしまうのが男という生き物なのだ。
そんなすっかりヘタレた乱馬を見て良牙は舌打ちしつつ、今度はあかねと対峙する。
「待ってくれあかねさん。こっちの因縁は中学の頃からなんだ。今回は譲って欲しい」
「ん、どう言うことかな?」
あかねは飽くまで冷静に良牙に続きを促した。
良牙も我が意を得たと言葉を続ける。
「こいつが中国に行く前に俺は決闘を申し込んでいるんだ。決闘が成立する前にこいつが中国に行っちまったから、結局ケリがついていないんだけどな」
「乱馬くん…それはひどいんじゃない?」
あかねは乱馬に白けた目を向ける。
あかねからしたら、乱馬は決闘の約束を守らない相手でしかない。
乱馬はそんなあかねの視線に耐えきれず、必死に弁明を始めた。
「いや、俺は約束時間の通りに決闘場の空き地に行ったぞ。しかも、3日待ったんだ!」
「え? どう言うこと?」
「しかも、決闘場は良牙の家から500mぐらいの場所だぞ!」
「良牙くん…?」
「ふっ…だが、俺が四日目に決闘場に辿り着いた時に貴様はいなかった」
「…良牙くん、もしかして」
あかねは、二人の言動から大凡の事情を察した。
恐る恐る良牙へ問いかける。
「方向音痴、なの?」
「ふ…」
良牙は視線を逸らした。それが答えだった。
あかねは一瞬納得仕掛けたが、それでもと首をふって気を取り直す。
「いや、でも、それはそれ今は今だよ」
「む」
「僕だって戦いたいんだ。君に譲る道理はない」
言い切ったあかねに、良牙は面白そうに笑った。
その笑顔はあかねの意図を察してだろうか、少しずつ獰猛な色が見え隠れし始める。
「くはっ! じゃあ、どうやって決めようか、あかねさん!!」
「僕からの提案は簡単だ。良牙くん、先に僕とやろうよ。勝った方が乱馬くんと勝負するんだ」
「良いだろう、ただ俺は女を殴る拳を持ち合わせてないんでね5…」
その続きを良牙は口に出来なかった。
自分の目の前で、闘気が爆発的に増えるのを感じたからだ。
あかねは笑みを浮かべながら、静かに構え始めていた。気のせいか、彼女の背中で結ばれた長い髪がはためいている。
乱馬は良牙の言い草に頭を抱えた。
あかねは自認が男性に近いからか、自分が性別故に手加減をされることに酷く敏感である。
良牙はその虎の尾を踏んだのだ。
「手加減、出来ると思っている?」
良牙はその闘気に反応し、咄嗟に構えを取る。
だが、何を思ったのかその構えていた手をそっと下ろした。あかねの片眉がぴくりと跳ねる。
そのまま、彼は頭を下げた。
「すまん! あかねさん!! 俺に君は殴れん!!」
「は?」
あかねの声が氷点下になった。
「なに? それは、女を殴れないってこと?」
「ちがう!」
「良いけどね…じゃあ、乱馬くんとは私がやるから君はすっこんで…」
「君が、俺にとって恩人だからだ!!」
あかねの言葉を遮るように言われた言葉は、真に迫っていた。良牙の必死な表情に、少しあかねは意外そうな顔になる。
「恩人?」
「君は、俺をやさしく抱きしめてくれた!」
「「「「えっ」」」」
良牙は、顔を真っ赤にしてそう言った。
放課後の校門前にはそれなりに人がいて、良牙の言葉にざわつき始める。
あかねは一瞬何を言われたのか理解ができず、虚無の表情で固まった。
その間も良牙の言葉は続いた。
「正直、胸が薄くて肋骨が当たっていたかったが、俺はそんなの気にしない! あの温かさは、あの時俺に必要なものだったから!!」
「待って、なんの話!?」
「君は、誰にでも優しい人だ! そんな人を例え比武でも打ち据えることなど俺にはできない!!
それに納得できない気持ちもよくわかる! 気が済むまで俺を打ち据えてくれても良い!! いや、むしろしてくれ!?」
「なになになに!? なんなの、怖いよぉ!?」
良牙の勢いに次第に押され始めるあかね。
ドン引きした彼女は良牙と距離を取ろうとするが、背後にいた乱馬にぶつかってしまう。
慌てて顔を見上げると、乱馬は俯いており表情が読めない。
「あ、ごめん、乱馬くん。そ、それより、あの人おかしいよ!? 薬でもやってるの!?」
「ああ、そうだな」
乱馬が、一歩踏み出した。
ズン!!!!と校門前のアスファルトにヒビが入った。
慌てたように野次馬たちが逃げ出していく中、あかねは恐る恐る乱馬へ声をかけた。
「ら、乱馬くん?」
「良牙」
俯いていた顔を乱馬があげる。その表情は満面の笑みであった。
良牙はその笑顔に対して直感で動く。
防御の体勢。
その判断ができたのは、彼が一流の武道家であったからだ。
「殺す」
強烈な踏み込みと共に、背中からのタックル。
一切の加減のないその一撃は、良牙を大きく吹き飛ばし背後にあった塀へと激突させた。
乱馬は、先ほどまでとは打って変わった憤怒の表情で吹き飛ばされた良牙へ向けて跳躍した。
「あかねに手を出すんじゃ、ねぇぇぇええええ!!」
「不意打ちとはお行儀が悪くなったじゃねぇか、乱馬ぁ!!」
その見え透いた跳躍に、吹き飛ばされたにも関わらずさして痛痒を感じていなさそうな良牙は咄嗟に足蹴りを繰り出す。
ガキン!!!!と人体ではなくまるで鉄と鉄がぶつかったような音を出し、彼らの蹴りは交錯した。
「おかえしだ」
乱馬の蹴りを止めた良牙は、そのまま空中で不安定な体勢の乱馬を蹴り飛ばす。
乱馬は頭に血が昇っていたこともあり、そのままおおきくグラウンド方面へ吹き飛ばされていった。
良牙はちらりとあかねを見ると、優しく微笑んでその乱馬の後を追って行った。
悲鳴が上がる。
それは、いつのまにかあかねの周囲にいた少女たちが色めき立つ声だ。
「す、すごい! 天道さんを二人の男性が取り合ってるわ!?」
「どちらを選ぶの、天道さん!?」
周囲の視線があかねに向く。しかし、そこにあったのは照れたように顔を赤らめるあかねの姿ではなく、真顔で大きく舌打ちをし吹き飛ばされた二人を睨むあかねであった。
「て、天道さん?」
「え? ああ、ごめん。人を無視して勝手に盛り上がってるバカ二人がいるからちょっと追いかけてくるね? また明日!
…………ずるい」
珍しく本気で機嫌が悪そうなあかねが最後の台詞を小さく低音で吐き捨てて乱馬たちを追いかけて大きく跳躍すると、騒いでいた女子たちだけが残される。
そのうちの一人が、ぺたんと腰が抜けてアスファルトに座り込む。彼女は、顔を赤く染めて震えていた、、
「天道さんのマジギレ低音ボイス…しゅき」
「「「それな!?」」」
女子たちの結束は高まったようだった。
一方、吹き飛ばされた乱馬は空中で即座に体勢を整えてグラウンドに着地し冷静になる。
周囲では運動部たちがなんだなんだと乱馬をみている。
先ほどの良牙の発言は、Pちゃん状態の時のもののはずだ。
であれば、わざわざ目くじらを立てるほどのものでもない。だが、何故だろう。
あかねを前に素直に気持ちを吐露する良牙の姿は気に食わなかった。
「…とりあえず、ぶっ潰すか」
「出来るもんならなぁ!!」
自分の独り言に応じるような良牙の怒声が聞こえた直後、乱馬は手をついてロンダートの要領で前転し体の向きを入れ替える。
直後、一瞬前まで乱馬がいた場所に良牙が降ってきた。
ベコリ!! と良牙の拳の振り下ろしの一撃でグラウンドが大きく凹み、周囲は悲鳴をあげて逃げ出していく。
構えたのも一瞬、走り出し距離を詰めようとする乱馬。良牙は自身の額に巻かれたバンダナを取り外し、ブーメランのように乱馬目掛けて投げつける。
放たれたそれを乱馬は足を止めることなく防ごうとするが、ふと嫌な予感を感じてその場に止まり右足を軸に半回転。バンダナを回避する。
弧を描くように乱馬の傍を通り過ぎたそれは、すぱりと乱馬の頬を切り裂いた。
「おいおい、周りに被害を出すんじゃねぇよ」
「お前が避けなければ問題ねぇよ!」
「聞けない相談だ」
バンダナを乱馬が避けた隙をついて良牙は乱馬目掛けて駆け出した。
その勢いを乗せた突きを、乱馬はもう半回転することで回避する。
そして、二人は再び示し合わせたように互いに回し蹴りを放った。
再び、鉄と鉄がぶつかり合うような音が響き、二人は距離をとって構えを取る。
良牙は自身の対面で構えを取る乱馬に、ニヤリと笑いかけた。
「ふっ! なんだ、随分と隙だらけだ弱くなったか、乱馬!?」
「抜かせよ、お前に合わせてやってんだ」
乱馬は少しだけ苛立たしげにそう返した。乱馬は自分の心が抑えきれていないことを自覚しつつ、それを脱却できないでいた。
しかし、乱れた心では良牙に太刀打ちできない。そう察した乱馬は、早乙女流の技を使うことに決めた。
「しゃーねぇ。良牙、無差別格闘早乙女流『魔犬慟哭波』を見せてやるぜ」
「なに!? 魔犬慟哭波だと!?」
乱馬は背筋を伸ばしたまま中腰になり、両手を体と平行になるように構える。
そして、闘気を溜めながら後ろへ下がって良牙と距離をとった。
良牙はその技とやらを警戒して攻撃を仕掛けることができず、その場で構えて警戒をする。
「(なんだ、何をしやがるつもりだ?)」
そして、乱馬は充分に間を取ったところで大きく息を吸い込んだ。
「ばーか! あーほ! まぬけ!! Pちゃん!!」
「は?」
乱馬の口から飛び出た罵声に、良牙の頭に一瞬の空白ができる。
真剣勝負、そして相手の技を警戒していたからこそ出来た隙だった。
「もらったぁ!!!!」
当然、乱馬はそれを見逃さない。
打って変わって一気に良牙との距離を詰めると、呆然とする彼の顔面へ蹴りをお見舞いする。
「ぐっ!?」
「どんどんいくぞぉ!」
そのまま、乱馬は反撃で拳を繰り出す良牙へ執拗に蹴りを繰り出し、叩き込んでいく。
武道家、それも達人クラスの戦いは技の鋭さや威力だけを競うのではない。如何にその技で相手に存在しない隙を押し付けることができるか、である。
早乙女流にはいくつかそう言った技が存在し、魔犬慟哭波もその一つであった。
強力な技を相手に警戒させ、ただ罵倒するだけ。虚をつくことに特化したものだった。
それ故に、一度ハマったこの技は致命的な隙を作り出し良牙はその隙をつかれたのだ。
隙を突かれたものは負けるしかない。
「お、おおおおおお!!!!」
蹴られ、殴られ乱打を浴びる良牙は普通の達人ならば倒れてもおかしくないその状況で、咆哮して拳を振るった。
その一撃は一斉攻勢に出ていた乱馬を押し除けることに成功した。
だが、乱馬も良牙も止まらない。
乱馬はこのままの勢いで良牙を仕留めたいし、良牙が逆転するにはカウンターを決めて一撃で優位に立つ必要がある。
二人は最後の力を込めて、持てる全力で拳を繰り出した。
「ーーーーそこまで」
二人の腕を横合いから掴む手があった。
それは、二人の拳の力を利用し誘導し、円運動へ変換する。
直後、乱馬と良牙の体は空中にいた。
何故か、地面へ頭を向けた姿勢のまま。
二人の中心に立っていたのは、誰あろうあかねであった。
そのまま二人はあかねの手の動きに従い、頭から地面に落ちた。
「「ぐぇ!?」」
男二人は同時に悲鳴をあげ蹲る。
脳天から己の拳の勢いのまま地面に叩きつけられたのだ。その痛みは推してしるべし。
あかねは悶える二人を腕を組んで見下ろしていた。
「楽しそうだね?」
その声は冷え切っていた。
痛みから復帰した二人が見たのは、底冷えする視線を向けてくるあかねであった。
「僕を無視して勝手に戦い始めて…羨ましいよ」
「いや、あの…」
「えーっと、これは」
その目を見た二人は痛みも忘れてその場に正座をする。あかねは二人をじっと見た後に、首を振った。
「いや、良いんだよ。僕も男の気持ちはわかる…テンション上がったらそのままいっちゃうよね。
でも、無視は良くないと思う」
懇々とあかねは諭すように告げだ。
そして、じっとりとした視線を乱馬へ向けた。
「特に乱馬くん…前から決闘の約束してるのに…ずっと無視されてて僕かなしいよ」
「そ、それは…」
「この前は、僕とやろうって言ったのに…あんなに熱く求めてきたのに!」
「ら、乱馬きさまぁ!?」
そのあかねの言葉に良牙はいきりたち、あかねの登場で戻ってきた運動部たちの野次馬がざわざわと囁き合う。
乱馬は良牙に襟首を掴まれガクガク揺さぶられながら、乱馬はそれら雑音を一切相手にせずあかねだけを見ていた。
あかねはじっと乱馬を見つめている。
「ごめん、女々しいかも知れないけど…相手にされないのは、寂しい」
「あかね…俺は」
「僕だと、乱馬くんのライバルになれないのかな?」
あかねは乱馬に素直な気持ちを伝えた。
その瞳はどこか不安げに揺れている。
「すまねぇ、あかね。俺は…」
乱馬は一度目を強く閉じて覚悟を決める。
「俺は、俺はお前にカッコ悪いところを見せたくねぇんだ! すまねぇ、見栄っ張りで!!」
「乱馬くん…」
「俺はお前に嫌われたくなくて…逃げちまってた!
俺はかっこいいところだけお前に見ててもらいたいんだ!」
「…いや、そういうの良いから」
ばっさり。
あかねは、乱馬に冷たく言った。
乱馬とあかねの間に冷たい風が流れる。
あかねはそっと乱馬に近づき耳元で囁く。
「僕も、男みたいなものだって知ってるでしょう? もっと男友達みたいに接してよ」
「それは…」
「というか、そういうの気にしないでよ!
女扱いじゃなくて、武道家として扱って欲しいんだよ!
ぶっちゃけ、僕が女性っぽいのって髪型と顔だけじゃない!? 胸もめっちゃ薄いよ!?
遠慮なく殴ってきて良いから!?」
必死にそう告げるあかねであったが、乱馬は立ち上がると悲しげに首を振る。
「あかね、薄くても胸は胸だ」
「ああ、薄いのも良いもんだ」
「良牙くんも何言ってるの!?」
何故か同意し始める良牙にあかねは困惑した。
そして、乱馬はあかねの肩にそっと手を置いて諭し始める。
その表情はとても落ち着いており清々しいものだった。
「あと、前にお前の胸を揉んだ時めっちゃ柔らかかった。だから、すげー意識してる。かなりエッチな目で見てる」
力強くいう乱馬に、周囲は騒めいた。
あかねは乱馬の言葉を一瞬理解できなかったのかポカンと聞いていたが、やがて意味がわかったのだろう顔がドンドンと赤くなる。
「あの、違くて…」
「もう、そんな関係に?」「くそ、俺たちのあかねちゃんが…!」「なんだ、この脳が破壊される感じ…」「早乙女を仕留めよう、それしかない」「それは賛成だ、だが、待てまだ聞くことがある」「男子サイテー」
群衆の中から一人エロ学派が歩み出る。メガネをかけた凛々しい少年だ。
彼は乱馬に問いかけた。
「早乙女…一つ聞きたい!」
「なんでぃ」
「あかねちゃんの胸は、どうだった?」
「最初触れた時は、かなり壁で胸じゃないと思った…だが、思い起こせば硬さの中に柔らかさーーーー」
「わぁぁぁぁぁ!!!!」
あかねは最後まで乱馬が話すまで持たなかった。
顔を真っ赤にさせ、その場から走り去っていく。
その背中を見送りながら、乱馬は冷や汗を拭った。
「危ないところだった…あかねが下ネタが苦手で助かったぜ」
乱馬とて、あかねと戦いたくない訳ではない。しかし、その前にもっと強くなっておきたいし、そのためには多くのものと戦う必要があった。
乱馬は、ゆっくりと背後にいる良牙を振り返る。
「さて、続きといこうぜ、良牙」
しかし、それに応える声はない。
代わりにそこには彼が着ていた衣服と空になったバケツだけが残されており校門に向かう黒い子豚が見えた。
周りは良牙が居なくなったことから決闘が終わったと判断したのか、通常通りの活動に戻っていく。
乱馬は、良牙の服を持ちワナワナと震えた。
つまり、良牙は乱馬との決着よりもPちゃんとしてあかねの傍にいることを選んだのだ。
「待て、エロ豚ぁ!!!!」
乱馬の怒りの咆哮を轟かせ、子豚になった良牙を追いかけた。
そして、あかねは顔を赤くして家路を走っていた。
自分がエッチな目で見られていることを彼女は先ほど初めて自覚をしたのだ。
しかも、それは自分が友達だと思っている相手。
顔の熱はしばらく覚めそうにない。
「うううう…なんで僕なんかを」
そう呻きながら、屋根を駆けるあかね。
そして、はたとあることに気がついた。
「も、もしかして、乱馬くん…まともに女性とお付き合いをした事がない?」
あかねが持つ成人男性の記憶では、女性とそう言った恋人同士の関係になったものはない。
それ故に恋愛ごととなると途端に疎くなるあかねであったが、修行漬けの乱馬も同様であることに気がついた。
恐らく、乱馬の人生は男性との関わりばかりで女性との関わりなどほぼなかったのだろう。
だから、初めて一応生物学上は女性であるあかねの体に触れてしまったことでおかしくなったのだ。
また、今では自分の体がグラマラスの女性のものになってしまったため、それと真逆の貧乳に反応してしまっているのだろう。
あかねはそう結論づけた。
「よ、よし、決めた。それなら、乱馬くんにはもっと女の子と触れ合ってもらおう! それで、普通の女の子は僕と違うってわかってもらえれば僕と思いっきり決闘してくれるはず!」
あかねは決心した。
必ず乱馬に『女の子の良さ』を分かってもらおうと。
彼女が乱馬にまたはぐらかされたと気がつくことはなかった。
こうして、あかねちゃんは誤解を深めていき、シャンプーたちの存在を歓迎する感じになります。
それはそれとしてあかねちゃん、そろそろガチバトルしたいよね?
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