あかね1/2 作:直人猫
遅効性の爆弾は、どうなるんでしょう?
あかねとシャンプーの戦いは、夕飯が出来たとかすみが呼びにいくまで続いたが、あくまで組手。決着は付かなかった。
錘を捨てたシャンプーの動きは劇的に変わり、あかねの動きが投げ主体であることを見切られたこともあり、戦況はほぼ五分で終わったのだ。
やはり、殺すことを重視し武器を用いたシャンプーよりもそれらを使わない彼女の方が手強かった。
あかねは、戦いの終わりにシャンプーと握手をしながら互いに笑顔を交わした。
乱馬も男に戻った事で、女の乱馬を取り逃がしたと察したシャンプーは一時的に彼女を追いかけるのを諦め天道家に泊まることになったのだ。
あかねは密かに歓喜した。
元々友人こそいるがその特異性故に深い付き合いができず、ましてやお泊まりなど初めての経験だ。
あかねとシャンプーはかすみの料理に舌鼓を打ちながら、互いの技についての感想を述べ合っていた。
シャンプーは日本語が堪能でないためゆっくり話すことが多かったが、彼女の一族ならではの視点を教えてくれた。反対に打撃技が主体で投げや関節技が少ないことから、それらに関してはあかねから伝えることが多かった。
「だから、打撃するとき、拳捻る。
拳の縦と横かわる、防御すり抜けるね」
「なるほど、瞬時にに切り替えられたら対応できないかも。すごいね、シャンプー!」
「ふふん、私まだまだ。ひぃばぁちゃん、もっとすごい」
食事を取りながら、すっかり仲良く話し込む二人に早雲は感動のあまり白米を涙のお茶漬けにしてしまったほどだ。
「あ、あかねが、同年代の子とあんなに楽しそうに話して…ふぐぅっ…!」
「あの子、武術バカすぎて普通のこと話合わないもんねー。友達はいるみたいだけど話を聞いてることの方が多いみたいだし」
そう語るなびきも含めて、天道家の面々は概ねシャンプーとあかねの関係を歓迎していた。
これが面白くないのは乱馬であった。
男に戻っているため相手にされていないが、自分を殺しにきている相手を歓迎しろというのも無理な話である。
それに、シャンプーとあかねの距離感も気に食わなかった。
あかねの距離感は近い。
自分が異性に好かれるわけがないというものと、そもそもの異性という認識が幼い頃からごちゃごちゃに混ざり合っているためかとにかく近い。
ボディタッチこそ少ないが、もう恋人と言っていい距離感で話しかけてくるのだ。
事実、あかねが通う風林館高校では自認あかねの彼氏親友が量産されている。
そして、シャンプーに対してはあかねはより一層距離感が近い。
手などが触れ合うことは当たり前、気がつけばシャンプーはあかねに料理を取り分けてもらうなど、普段の乱馬よりも圧倒的に近い距離にいた。
「(ち、ちくしょう)」
隠れて歯ぎしりをする乱馬。
しかし、相手がシャンプーであることや二人の容姿が整っていることもあり、次第に百合の花が見えてくる。
そんな乱馬にちゃっかり夕飯を共にしていた良牙が小さい声で囁いた。
「男の嫉妬は見苦しいぜ?」
「やかましい、お前はさっさと帰れ」
「おいおい、そんなこと言われたらお前に水をかけたくなるがいいのか乱馬ちゃん」
「あっ、ばかっ!」
良牙が乱馬の名前を呼ぶだけで変化は劇的だった。
一瞬前まであかねと話していたシャンプーの顔がいつの間にか乱馬の隣にあった。
その瞳は黒々としており穴が空いでいるようで、乱馬が思わず悲鳴を押し殺すほど怖かった。
「乱馬、言ったか?」
「ひぇっ、ぼ、僕も乱馬なんですぅ…」
「.…おとこ」
シャンプーはそのまま何度か乱馬の胸に触れる。
そこには、硬い胸筋に守られた男性の肉体しかない。
「お、男で残念だったなぁ?」
ガクガクと震えながら、乱馬は必死に言葉を紡ぐ。
今、言葉を間違えたら殺される確信があった。
そして、しばらく触って本当に男だとわかったシャンプーは、そっと手を引く。
そして、再びあかねの元へ戻っていった。
「…」
シャンプーはもう一度乱馬を疑わしげに見たが、それも一瞬のことだった。
生きた心地がしなかった乱馬は息を荒げながら、良牙へ中指を立てた。
「や、やってくれるじゃねぇか、Pちゃん」
「誰がPちゃんだ!?」
男たちの醜い言い争いの中、シャンプーは天道家に泊まることになった。
しかも、あかねの部屋で、だ。
乱馬に決定権はないが、気まずいことこの上ない。
「シャンプーちゃん、パジャマはあかねのを使ってね?」
「…ちいさい」
「わ、すごいナイスバディ! ど貧乳のあかねの服が入らないわけだ」
「おねーちゃん? 僕は胸は気にしてないけど悪様に言われるのはやだよ??」
「乱馬くーん、見に来なよー。女の乱馬といい勝負のおっぱいしてるよー」
「勘弁してくれませんかねぇ、なびきさん!?」
散々弄り回された乱馬は、シャンプーの疑惑の視線を振り解くべく風呂場へと逃げ込んだのだ。
「ち、ちくしょう、なびきのやつ完全に俺を強請ってやがるぜ」
ため息をつきつつ、乱馬はそっと湯船に浸かる。
そして、温かい湯に体を任せてゆっくり伸びをすると、今日1日の疲れが湯に溶け込んでいくようだった。
そんな時に、さきほどからかわれた言葉が思い出される。
『わ、すごいナイスバディ!』
「…確かに、デカかったな」
ぽつりと言葉が漏れた直後、お湯に顔面を叩きつける乱馬。
男の子ため、大きなものに惹かれてしまうのはしかたがない。揺れてると視線が行ってしまうのだ。
これまでは、命のやり取りをしていたためとてもそんな目では見れなかった。
しかし、落ち着いて見目麗しいシャンプーを思い起こすと、少しだけ邪な気分になってしまう。
「ダメだダメだ! 思い出せ、母なる大地を!!」
乱馬はあかねのあまりにも平らな胸を思い起こす。
全てを平等に受け止めてくれそうな、あの胸を。
しかし、乱馬の若さはどうしてもシャンプーの豊かな山岳を忘れることはできなかった。
「あかね! 俺に力を貸してくれ!!」
乱馬はざばりと風呂から上がり、頭と体を手早く洗う。その際、石鹸が入口まで転がっていってしまう。
そのことに気がつき一旦泡を洗い流すと、乱馬は風呂場のドアに右手をついてそれを取ろうとする。
その瞬間、ガチャリとドアが開いた。
「!?」
むにゅり。
乱馬の右手が覚えがある感触を掴んだ。
しかも、前に感じたものよりもはるかに大きく柔らかい感触だ。
「…え"」
乱馬が顔を上げれば、そこには裸のシャンプーの乳を揉みしだいている自分の手があった。
自分のもので見慣れている乱馬。しかし、自分の物を触るのと他人の物を触るのは全く違った。
そして、裸のシャンプーは美しかった。
ただでさえ美しい顔面に、豊かな胸、くびれた腰とそこから続くすらりとした足は大変魅力的だった。
慌てて後退り、乱馬は首を振った。
「ま、待て待て待て!? 違うんだ!?」
そんな顔を真っ赤にして否定する乱馬に、シャンプーはニコリと微笑んだ。
ニコリと微笑んで拳を握った。
「そりゃそうだよな!?」
乱馬はそっと目を閉じて頬を差し出し、その拳を受け入れることにする。
シャンプーはその殊勝な態度に拳をやめてビンタに切り替えた。
そして、乱馬は来る痛みを覚悟した。
シャンプーが踏み込む気配がする。
直後、ズルッガン!!と鈍い音がした。
恐る恐る乱馬が目を開けると、そこには目を回して倒れるシャンプーがいる。
その足元には、石鹸。
どうやら、乱馬を叩こうとしたところ石鹸に足を取られ転び、頭を打ってしまったようだ。
「…ま、ま、まずい!?」
乱馬の顔が真っ青になる。
ただでさえ、女の状態でいざこざが有るのにそれがさらに増える予感しかしなかった。
そして、乱馬の被害はそれで終わらない。
「シャンプー? すごい落としたけど大丈夫?」
ガチャリと脱衣所の扉が開かれ、あかねが入ってきた。
乱馬は全裸で慌てている。
その様は脱衣所へ入ってきたあかねにしっかりと見られてしまう。
「……」
「……」
無言になる乱馬とあかね。
乱馬はそっと涙を流しながら、股間を風呂桶で隠す。
そして、震える声であかねに頼んだ。
「ごめん、お風呂でバッティングしちゃってぇ…」
「ああ、えっ、倒しちゃったの?」
「ち、違うんだよ勝手にシャンプーが転んだんだ!」
「えっ、じゃあシャンプー頭をぶつけちゃったの!?」
慌てたようにあかねは、シャンプーを抱えた。
その前にシャンプーの体をバスタオルで包む紳士っぷりを発揮し、彼女を抱えあげる。
そして、乱馬へのフォローも忘れない。
「あ、乱馬くんもお風呂上がったら出てきてね…それと、男性はサイズじゃないっていうけど立派だと思うよ」
「言わんでいい!」
そう叫ぶ乱馬へ微笑みかけながら、あかねはシャンプーを抱えて出ていった。
へろへろとその場に倒れ込みつつ、乱馬はあかねの反応に頬を噛んだ。
「俺は平均よりデカいはずなんだ…というか、あいつなんであんなに平気…。男性の記憶があるからだよ畜生!」
そして、ノロノロと体を拭いてから居間へと向かうのだった。
居間では、シャンプーが寝巻きに変えられて横たえられていた。
顔が真っ青な乱馬は、もうどうすればいいか分からなかった。
早雲もお手上げなのか、目頭を押さえている。
「乱馬くん…君はその…すごい運が悪いね」
「すみません…」
「いや、でも今回は事故だろう」
遠い目で告げる早雲に、あかねがフォローするように告げる。
「大丈夫だと思うよ。シャンプーだってそんなに誰かを殺したいわけでもないだろうし」
あかねは特に乱馬を意識した様子は一切ない。
本当に自分の股間は些細なことなのだと余計に悲しくなる乱馬。
そうこう話していると、シャンプーの瞼が震えゆっくりと目を開く。
「あ、シャンプー起きた…大丈夫?」
「あかね…」
どこか茫洋としたシャンプーはゆっくりと顔を上げる。咄嗟にあかねに支えられながら、彼女は小さく口を開く。
「わたし、負けたね…」
「え、えっと、勝負じゃないと思うけど…」
「でも、全力で首を飛ばすつもりだった一撃避けられたね」
「そ、そんな…シャンプー」
シャンプーはゆっくりと周囲を見渡し、パンダとなった玄馬の背後に隠れた乱馬を見つけて近づいていく。
そして、そっと手を伸ばしその顔を掴んだ。
「ひゅぇっ」
「ぬぅ!? 死の接吻再びか!?」
「男でも女でも命狙われるのねー」
「シャンプー、許してあげられないの?」
シャンプーは悲しげにあかねに微笑み…
そっと、乱馬に口付けた。
「我愛你」
そのまま、舌も入れている様子で、艶やかな水音が響く。
天道家の居間から音が消えた。
一番最初に正気に戻ったのは、乱馬であった。
ぐいとシャンプーを引き離し、顔を真っ赤にしながら口元を拭う。
「な、何を」
シャンプーはめげずに再び乱馬に近づきながら、その胸に抱き付く。
「女傑族の女、余所者の女に負けた場合その相手殺す。
余所者の男に負けた場合その相手夫にする!」
そして、乱馬の胸に体を擦り付けた後、そっと乱馬の顔を再び抑えて優しく口付けをしようとする。
「我的愛人♡」
下から乱馬を見つめてくる表情は一生懸命で、どこかいじらしい。
純粋に真っ直ぐな瞳で乱馬を見つめていた。
乱馬らそれにくらくらとしながら、力の入らない手でシャンプーをどかそうとする。
だが、その前に意外なことにあかねがシャンプーの腕を掴んでいた。
「なにか? あかね」
「あ、あかね」
不思議そうなシャンプーに、まさか助けてくれるか嫉妬してくれたのかと乱馬の声がはずむ。
しかし、あかねの様子はどこかおかしかった。
「それで、いいの?」
「?」
「掟で、負けたから、それが男だったから夫にするの? 愛してるのそれは?」
「女傑族、掟を守る大事。新しい強い血、一族に入れるの女の役目」
「そんなの…!」
大きな声をあかねは上げた。
そして、少し混乱したように自分が何に怒っているのか分からないのか、彼女は顔を上げる。
どこまでも、あかねはシャンプーを見つめていた。
そして、一筋涙が溢れる。
その涙の意味は、乱馬にもシャンプーにも分からなかった。
ただ、その涙にシャンプーも少し動揺したようだった。
「あ、あかね?」
そっと乱馬から離れ、あかねに触れようとするシャンプー。
しかし、その前にあかねは背を向けて走り出してしまう。廊下に出て玄関へ向かう足音が響いた。
シャンプーは、少し驚いたように手を差し出したまま固まっている。
「あらあら、ちょっと行ってくるわね」
かすみは、あかねが去った後にエプロンを手早く畳むと居間を出ていく。
早雲は苦笑し、なびきはあかねに呆れているようだった。
そして、早雲は固まる乱馬とシャンプーへ優しく声をかける。
「あかねのことは、かすみに任せてもう寝なさい。
大丈夫、明日には君にきっと気持ちを伝えられるようになっているはずだ」
最後の言葉は、シャンプーに投げかけ、彼はそっと台所へ向かって行った。
なびきは特に何も言わずに、居間を出て自室へ向かったようだ。
乱馬も立ち上がった。
だが、シャンプーはそれについていくことなく、居間に座ったままだ。
「…シャンプー…寝るときはあかねの部屋な」
「うん」
ただ、シャンプーはあかねが消えた玄関を見つめて、膝を抱えて座る。
乱馬は、静かに顔芸をしていた玄馬の首元を掴み、引きずって自室へ戻って行ったのだった。
たぶん、それは恋愛感情など関係なしに自分を選んで欲しかった子供じみた独占欲。
次話からじっくり書きたいので、毎日更新とはならないかもです。悪しからず。