あかね1/2 作:直人猫
というか、原作に描写がないだけで、本来これぐらい強いと予想。
戦う描写はハッピー相手が主ですが、あれは相手が悪すぎます。
天道あかねの朝は早い。
日課となるロードワークを5時から3時間。緑なす黒髪をたなびかせ、家の周辺を走るのだ。
練馬区は閑静な住宅街とはいえ、その周辺にはいくらかのビルが建っている。
朝の早い時間は人気が少なく、彼女の走りを妨げるものは少ない。
彼女の息遣いと自転車を凌駕する走行速度に目を見張る者もいない。
16歳になったあかねは、外見はより女性らしく成長していた。黒く艶やかで腰まで届く長い黒髪に加え、身長が伸び、女性らしく丸みを帯び始めた体、そしてしなやかな筋肉。
カモシカのような足、と称される類のもので、この鍛えられた足こそ、あかねが信じられないような速度を出せる要因であった。
その足は、ただ筋肉の力強さがあるだけではない。
ランニングウェアの上下から伸びる手足は、健康的な色気に満ちており、特に言及した短めのパンツから伸びる足は、筋肉の上から柔らかい肉がついておりムチムチとしていて、青少年の目には毒となることだろう。
そして、彼女の筋肉は誰かを傷つけることを想定していない、だが己の身を守るには十全な鍛え方がされているのが見てとれた。
彼女を害するものはこの場においてはいないだろう。
彼女が生きる時代においても、日本は平和であった。
だが、何事にも例外はあるもので、規定位置まで走り終え、家路についていたあかねを悪意なき攻撃が襲う!!
ばしゃり
何故か、帰り道で老女が打ち水をしていた。
まだ春先で涼しいのにも関わらず、何故打ち水をしているのかという疑問が真っ先に浮かぶ。
なにより、その老女は周囲を確認せずに無差別に水を撒いていたのだ。
もしかしなくとも、痴呆が入ってしまっているのだろう。
そして、その撒かれた水は、凄まじい速度で走るあかねに吸い込まれるように空中を飛んだ。
悪意がないのが逆におかしいほど、正確無比に放たれた打水は、芸術的な緩やかな放物線と共にあかねに吸い込まれていき、
全て『受け流された』。
「おはよう、おばあさん」
水は確かに彼女をに向かっていたはずだ。
しかし、それらは瞬きの間に彼女の手のひらの円を描くような動きで、彼女の背後に受け流されていたのだ。
彼女は手をほぼ濡らさずに、老女の傍を挨拶と共に走り去っていく。
遅れて、まるであかねをすり抜けたように、打ち水が背後の渇いた地面を潤す。
老女は、あかねに水を浴びせかけたことにも、あかねが挨拶をしたことにも気づいた様子はなく、彼女が通り過ぎた後も、その場で打ち水を続けていた。
あかねの住む練馬区では、この程度のトラブルはよくあることなのだ。
多少のトラブルこそあったが、あかねはそのまま自宅である天道道場へと走り切った。
そのまま、微かに息を乱したあかねであったが、そのまま足を止めずに道場へと向かう。
「(今日は学校がないから、お父さんにお願いしようっと)」
果たして、彼女の目的の人物は道場の中央に座り深く瞑想していた。
天道早雲。
天道あかねの父にして、天道道場の主。
そして、あかねが修行している無差別格闘天道流の創始者であった。男性にしては長い背中に届く髪をもち、立派な髭を蓄えた彼は一昔前の武士といった出立である。
彼は、あかねが道場内に入ると、気配を察知したのだろうか、緩やかに目を開く。
「おはよう、あかね。今日も精が出るね」
「お父さん、よだれ」
「む、いかん」
早雲は、瞑想、否熟睡から起きた寝起きのまま、口元を拭った。
熟睡の証であるヨダレはしっかりと拭われた。
若干、父と娘の間に微妙な空気が流れる。
「ね、寝てないからね?ほんとだよ?」
「ウンソウダネ」
早雲の弁解もあかねに響いた様子はなく、あかねは苦笑しランニングウェアのまま道場に上がり神棚に一礼する。
その様子に何か察したのか、早雲は緩やかに立ち上がりあかねと向き合う。
「ああ、今日は日曜日だったね。ロードワークは終わったのかい?」
「うん、箱根まで行って戻ってきたところ。
ちゃんと言われた通り、基礎メニューはこなしてるよ。
だから、お父さん…いい?」
あかねが問いかけた瞬間、彼女と早雲の間柄は親子ではなくなった。
その瞬間から、そこにいたのは無差別格闘天道流の創始者とその一番弟子であった。
「ふむ、そこそこの速度だね。距離を伸ばしても良いかもしれない」
「ありがとうございます」
練馬区から箱根は80km。これを3時間程度で往復したとは思えないほど、疲労を見せないあかねに、早雲はさらに容赦のない距離の追加を伝える。
あかねも、特に怯えることはなく望むところと目が語っていた。
「よろしい。なら、稽古をつけてやろう」
「やった」
早雲は、言葉と共に静かに構えをとる。
喜び、それに応じるように構えをとるあかね。
ピリピリとしたひりつくような緊迫感と共に、闘気が渦巻き始める。
早雲から押し付けられる闘気を、自身の闘気で押し返しながらあかねは歓喜した。
越えるべき壁は、高ければ高いほど良い。
その闘気の押し合いを繰り返していくうちに、あかねは早雲が何倍も大きく見えるような気がした。
いや、事実大きくなっているのだ。
周囲に撒かれた早雲の闘気によるイメージの具現、『無差別格闘天道流、驚嘆飛頭蛮』早雲の得意技であった。
頭部だけ巨大化し、江戸時代の恐怖画のような風貌となった早雲との対峙に、あかねは微笑みと共に、これまで何度も流してきた冷や汗を拭う。
今、この瞬間この道場にいるのは親子ではなく師匠と弟子。
師は、弟子を鍛え上げるのに躊躇などしない、ましてや弟子が厳しくと望んでいるのなら。
「では、流し受け100回から」
「はい!」
言葉と共に、早雲が降ってくる。
巨大化した闘気を纏ったまま、勢いもそのままにあかねへと襲いかかる。
応じるあかねは、それを避けることはせずに、正面からぶつかりにいく。
あわや激突、といった瞬間に早雲の軌道はぐるりと円を描くように揺らいだ。
無差別格闘天道流、円環。
天道流の柔術拳において、最も基本となる受け流しの型。円を描く力を利用することで、相手の力の向きを自由自在に支配し、受け流すことで防御をすることなく己の身を守る技だ。
何を隠そう、今朝に老女へ水を浴びせかけられそうになった時に使った技がこれだった。
巨大化した早雲を、先ほどと同じ要領で受け流す。
結果、楕円の軌跡をとって早雲はあかねの背後にすり抜けていった。
「円がぶれている、もう一度」
『円環』は、早雲が編み出した技であった。
自身の技に敗れる武闘家などいない、武闘家は技を編み出すと同時に、それを破る術を思いつくと言う。
早雲もその例に漏れず、自身の技をしっかりと把握しその対処方法を有していた。
そのまま、二撃目を繰り出すべく飛び上がった。
今度は、『角度』を変えての攻撃。
先ほどが垂直とするなら、今度は斜めからの攻撃。しかも、早雲自身が回転するおまけ付きだ。
「くっ…!?」
早雲の回転に、受け流そうとしたあかねの円が大きく潰れる。
今度は、受け流すことができずあかねに命中し、彼女を大きく吹き飛ばした。
「がはっ…!?」
「相手が回転してくるなら、それを利用しなさい。回転の向きを常に一定にしてはいけない。先週も同じ指摘をした。もう一回」
「くっ、はい!」
再び飛び上がる早雲に、起き上がりながらあかねは答え、また落下を受け流していく。
あかねの休日の朝は、このようにして激しいものから始まるのだった。
結局、この鍛錬であかねが、父に合格をもらえる受け流し方ができたのは、10回にも届かなかった。
そうして、朝の日課を終えてあかねが汚れた服を着替えると、あかねの三つ年上の姉、天道家長女のかすみが朝食を用意してくれていた。
次女であるなびきは、すでにちゃっかりと席につい ており、涼しげな早雲とボロボロになったあかねを待っている。
そして、随分と道場を転がり、道場の床を自身の体で綺麗にした様子のあかねに、ため息をついた。
「あんたねぇ、そんなだからまともにモテないのよ」
姉の言葉に、特に気にした様子もなくあかねは席に着くと小首を傾げる。
「僕が、誰かにモテてどうするのさ?」
「バカねぇ、貢いでもらえるでしょう? あと、私が要求される写真の難易度が下がるのよ!!」
言葉と共に、なびきの手により並べられる写真の数々。
それには、普段からしっかりしているあかねにしては珍しい隙が多い寝起きの姿から、着替え途中の下着が見えないギリギリのライン、そして母の死から長くした髪の毛をまとめるためにうなじを見せているシーンなど、多岐に渡った。
あかねの行動は早かった、顔を真っ赤にし即座にその写真を姉という名の悪魔から奪いにかかる。
「なっ!? いつの間に、こっちに渡して!! 肖像権の侵害だよ!」
「おっと…何訳わかんないこと言ってんのよ、5000円でどう?」
しかし、なびきは手慣れたもので即座に写真を引っ込めると、返す手で金を要求する。
貯金や儲け活動に余念がないなびきはともかく、あかねも品行方正ではあるが、流石に高校生のお小遣いでは限界があった。
ましてや5000円は茜にしてみれば中々の大金である。
そして、この時代にあかねが言う肖像権に対する配慮など存在しないし、その言葉はまだ存在しなかった。
よって、なびきは堂々と盗撮写真をあかねの前でヒラヒラとはためかせる。
「払うわけないでしょ!」
憎々しげに姉を睨めば、その様子になびきは嘆息し…そっともう一度手を差し出し、行うのはまさかの値段の再交渉。
「3000円」
「値段の問題じゃぁないよ!」
「はい、そこまでよ」
くわん! じゅうっ。
なびきの脳天に、ためらいなくフライパンが落とされ、さらにはそのフライパンが熱っされたものであったので堪らない。
「あっつぅい!?」
「あかねをいじめすぎないの。脆い子なんだから。
いじめるにしても、家族間でお金のやり取りをしてはダメよ」
フライパンが出てきた割に、たいして怒った様子もなく言い聞かせるような穏やかな声音は、まるで母性の象徴。
その声の主は、現在の天道家の台所の支配者兼家事の全てを取り仕切る長女かすみのものだった。
「だってぇ、お姉ちゃん。こうしないと、この子は変に大人ぶるのだもの。変に溜め込むと、また私はおかしいんだー! って叫ぶわよ?」
頭をさすりつつ、ぶすくれてなびきはそう口にした。
それに微笑みを返しつつ、かすみは朝食の準備の最後としてお茶を淹れ出す。
「そうねぇ、あかねは変なところで引っ込み思案だものね」
「それは! …そうかもしれないけれど」
「だから、私に感謝してくれて良いのよ? 2000円で良いわ」
「払わないよ!」
あかねの特異性をなんでもないことのように受け流すかすみと、平気でいじるなびきのに、素直にそれを認めるあかね。
そんな毎日が、あかねの日常であった。
そして、そういった姉妹の姦しさに嬉しそうに笑みを浮かべるのは、早雲であった。彼は、妻の仏壇に朝の線香をあげ終え、居間へ戻ってきたところだ。
「うんうん、姉妹仲が良いことは良いことだ」
「末の娘がお金をせびられてるのは良いのお父さん?」
「いやあ、かすみの朝食はいつも美味しそうだなぁ!」
そう言って早雲は席に着く。
あかねからのジト目を無視し、そして家族が揃って手を合わせる。
いただきます、の声が居間に響いた。
かすみの用意したいつも通りの朝食を食べる、天道一家。途中途中あかねにちょっかいを出すなびきと、呆れながらそれを受け流すあかね、その様子を気にした風もなくニコニコと見守るかすみ、そして新聞を読みながら朝食を食べる早雲。
そのまま、朝食を食べ終えたところで、かすみが食後のお茶を用意した。
そして、そんな折にポン、と早雲が膝を打った。
「ああ、今日のお昼頃にお前たちの許嫁が来るから」
「「「は?」」」
直後、ドンドロドンドロという擬音が聞こえてきそうなほどの覇気と共に三姉妹の鋭い眼光が早雲を貫いた。
たじろぐ早雲。
視線が鋭いままの三姉妹は、絶対零度の視線を実の父親に向けながら、手始めになびきから口を開く。
「何? 許嫁? 聞いてないんだけど?」
「い、いや、お父さんの親友の息子でな。早乙女 乱馬くんと言うんだ。
お前たち3人の誰かが彼と結婚してくれて、道場を継いでくれれば我が天道家も安泰だ」
「でも、会ったこともない人となんて困るわ。
それと、私は年下は嫌よ?」
勝手な理論を告げた父に、自分自身の好みを押し付けるかすみは、そっと隣に座るあかねを抱きしめた。
「それに、あかねを見てよ」
「む」
「自分が普通に道場を継がせてもらえると思ってたから、びっくりしちゃってるわ」
「なんと!?」
かすみの腕の中のあかねは、なるほど確かに放心していた。
それもそのはず、毎日父と共に稽古し技を教わり、またそれに習熟していった彼女ほど天道道場の次代に相応しい存在はいなかった。
事実、かすみもなびきも欠片も武道に興味を示さなかったこともあり、早雲はあかねが望めば彼女に道場を渡すつもりであったのだ。
早雲も、放心した様子のあかねの姿を見てようやく己の失策を悟った。
「ち、違うんだよ、あかね! お父さんは…」
「お父さん…ぼく、邪魔だった…?」
「違うとも! あかね以上に天道流の次代に相応しい子はいないよ!?」
「でも、何処の馬の骨とも知らん奴に道場を明け渡すんでしょう? 道場いくらすると思ってんのよ、せめて売却にしてよ!」
ようやく絞りだすように声を出したあかねに、必死に彼女を持ち上げる早雲。その早雲になびきは、他とは違う着眼点で抗議する。
それに対して、早雲は話題をずらすことを試みた。
もっとも、その言葉に反応するのは放心したあかね以外のかすみとなびきだけであった。
「さ、早乙女親子は武者修行の旅に出ていてね、中国に渡っていたんだ。
今朝、手紙が届いてね。いよいよ日本に戻ったらしいから我が家に来てくれるらしい」
「え? 今日うちに来るの? お茶っ葉あったかしら?」
「へぇ、中国に…で、年は? ハンサム?」
「知らん」
キッパリ、いっそ清々しいまでに早雲はそう宣言した。
「はぁ? 知らない?」
「だって、会ったことないんだもん」
父のその言葉に処置なし、となびきは首を振った。
だが、同時に玄関の方が少し騒がしくなった。
ガンガンとドアが叩かれている。
同時に高めの抗議するような声が響く。おそらく、女性のもののように思われる。
「あら? お客様かしら?」
「お、おお! 待ちわびたぞ、乱馬くん!」
「わー、ハンサムだと良いけど」
まず早雲となびきが、玄関に走って向かっていった。その騒がしい二人が居間から出ると、コチコチと時計が秒針を刻む音だけが聞こえる。
そんな中、かすみはいつもの調子で告げる。
「おとーさん、ああ言うところがあるのわかってるでしょ?いつまでも、気にしいだとおかーさんも安心できないわよ?」
「わかってるよ…びっくりしただけ」
「そ…なら、良いわ。挨拶はしましょうね」
かすみの問いかけにあかねが反応すれば、戻ったと判断したのだろうかすみはゆっくりと彼女を撫でていた手を止め、立ち上がった。
そして、二人して歩きだせば、あかねは少しだけ思い出す。
かすみは、もともと冷たくはなかったが、結構心に突き刺さることを言う人だったし、ずっと微笑んでいるような人ではなかった。
それに、『最も自分に関わりたがらない人』だった。
事実、幼い頃のあかねは、彼女が自分と遊んでくれた記憶は全くない。
変わったのは…いつからだったろうか?
かすみと共に玄関に長い廊下を歩けば、そんなことが思い起こされ…そして、駆け戻ってきたなびきと早雲に目を向くこととなる。
「え、どうしたの、おとーさん、おねーちゃん」
「乱馬くんを迎えに行ったんじゃなかったの?」
そう言った瞬間に、それは来た。
のっしのっしと玄関から、二足歩行でなにかを肩に担ぎ歩いてくる。
体長2mあまり、白黒の体毛、愛嬌のある顔立ちだが侮ることなかれ主食は笹だが肉食獣の基本性能はクマと同じ。
甘粛省、四川省、陝西省にのみ生息する動物ーー、そうパンダがそこにいた。
「これがおとうさんのお友達?」
かすみの問いかけに、首を振り無言ながら必死に否定する早雲。どうやら、驚きすぎて言葉も出ないらしい。
そんな早雲の背中に隠れながら、なびきが捲し立てる。
「友達でなかったらなんでパンダが来るのよ、不自然よ!?」
「そもそもパンダが来ることが不自然だよ、おねーちゃん」
あかねは、苦笑しながらなびきに指摘し、そのまま前に出た。
ただ、目の前の相手に挑むために。
家事はかすみ、金勘定はなびき、荒事はあかね。
天道家の役割分担は、そうなっている。
なお、なびきに金勘定を任せると勝手に自分の小遣いを増やすため監視は必要という問題があった。
そして、あかねにも問題がある。
彼女は、強い者に喧嘩を売る悪癖があった。
前に出たあかねの眼力は、そのパンダの力量を正確に見抜いている。
強い。
生物としてのスペックが問題なのではない。
そのスペックに合わせ、その立ち居振る舞いが一流の武術家であるのだ。
ともすれば、自分より遥かに格上、父である早雲に並ぶほどの達人であった。
そんな相手に挑まないのは、武術家として情けない限りだ。
それに、パンダが肩に担いでいるのは、おさげ髪の少女であった。まるで、パンダの拘束を外そうともがいているように見える。おそらくは、このパンダに攫われた子なのだろう。
ならば、武術家が動かぬ道理なし。
あかねは、微笑みと共に父より前にでて自然体に歩き出しながら口を開いた。
「無差別格闘天道流ーーーー天道あかね」
それは、名乗り。
あかねの意識を武術家へと切り替えるためのスイッチであった。
そのまま、何故か少し動揺した様子のパンダを気にせずに、歩みを止めず、あかねは一息にパンダの胸元へと踏み込んだ!!
パンダは、困惑した様子を見せ後ろに下がろうとするが、肩に担いだ少女と何故か背負っている荷物のせいでその速度はゆっくりであった。
いくら達人とはいえ、自由に身のこなしが出来ないならばやりようは、いくらでもある。
あかねは、そのまま距離を取ることも許さず、パンダの腕を掴んだ。
そして、そのまま自分側へ腕を引く。
引かれれば、それに抵抗するべく力を入れてしまうもの。
その瞬間を見誤らず、あかねはパンダの足を自身側に払い、そのまま頭を掴み押し込むように引き倒した!!
自身が引っ張られることに抵抗しようとする力すらも利用し、相手の頭蓋を大地に叩きつける技、柔術の極みの一撃。
無差別格闘天道流『餓者天槌』
餓者髑髏が、その手を叩きつけるごとき猛撃はパンダを床板に叩きつけ、その意識を刈り取った。
パンダを倒したことで、彼に抱えられていた少女は支えを失い、ふわりと空中に浮いている。
あかねは、そんな彼女が地面に落ちる前に、速やかに姫だ気にして抱え、パンダから背を向ける。
あかねに抱き止められた少女は、何故か頬を赤らめつつあかねを見上げていた。
そのまま、彼女を丁寧に優しく下ろしつつあかねは問いかける。
「大丈夫? 怖かったよね」
「え、あ、はい…」
「もう大丈夫だよ…パンダとかどこの動物園から逃げ出してきたんだろうね?」
「えっと、逃げ出してきたと言うか、脱法パンダというか…」
あかねが、はてと首を傾げていると少女は目を泳がせつつ口をもごもごとさせた。
どこか、初々しくも甘酸っぱい雰囲気が漂う。
さて、パンダにすっかり萎縮していた他の天道家の面々であったが、倒されたとあってようやく二人へ近づく。
「ちょっと、これちゃんと気絶してるんでしょうね?」
なびきは、胡乱げな目で倒れ伏し舌を出して伸びているパンダをつつく。
意外とゴワゴワとした毛並みに眉を顰める。
「あかね、怪我してない?そっちの貴女も」
「見事な技だったなぁ…あかね、立派になって。それにしても、先ほどのパンダの動き…どこかで?」
かすみは、ペチペチとあかねと少女を触り怪我の有無を確かめ、早雲はあかねの成長を喜びつつもパンダの動きに思うところがあったようだ。
あかねは、どこか誇らしい気持ちと気恥ずかしさで頭を掻く。
「えへへ、相手もすごい達人だったけど…荷物を持ったりこの子を抱えてたから」
「それでも、凄かったさ。うむ、さすが私の娘」
「あ、あの!」
そんな天道家におさげ髪の少女は声を張り上げ、注目を集める。
そのことに気がついたのか、少女は少し顔を赤らめる。
そして、彼女はこう告げた。
「さ、早乙女乱馬です。すみません」
頬を赤らめる様は少し艶っぽく、少女らしい魅力に溢れている。よくよく見れば、大変美しい。
小柄な体躯にアンバランスな胸部によく引き締まった腰、コレがいわゆるトランジスタグラマーというものだろう。
そう、美少女なのだ。
早乙女 乱馬ちゃんは、男ではなかった…!
「お、男の子じゃ、なかったのかな?」
「ちょっと! お父さん、これのどこが男なのよ!」
早雲の呆然とした言葉に、なびきは乱馬の乳房を揉みしだく。
早雲の言葉を否定するかの如く、その胸は豊かであった。もちろん、乱馬の赤面は酷くなる。
「ちょっと、やめ…」
「おねーちゃん、やめたげてよ。せっかく来てくれたんだし、婚約者とか変な話にならなくてよかったよ、僕は」
そっと乱馬を庇うように前に出るあかね。
それに、なびきは少し呆れたような目を向ける。
「あんたは、乱馬くんに道場が取られなくて嬉しいだけでしょーが」
「そ、そんなことないし!」
「男の子って聞いたのになぁ…それに早乙女くんはどこに?」
「あ、それは…」
早雲の疑問に答えるかの如く、そっと乱馬はパンダを指さす。
どうやら、早雲の友人の早乙女は、そこのパンダであるようだ。
全員の目が点になる。
気まずい沈黙が流れ、なびきが口を開いた。
「お父さんの友達、パンダじゃん…」
「おかしいなぁ!? 彼は人間だったはずだよ!?」
「その、説明しますんで、お湯用意してもらっていいですか?」
乱馬は神妙な顔になり、そう天道家へお願いする。
顔を見合わせた面々であったが、ひとまず彼女の言う通りにすることにした。
かすみはそのまま居間へ戻っていきつつ、乱馬に微笑みかける。
「ごめんね、お湯が沸くまでもうちょっとかかるから、ゆっくりしていってね乱馬ちゃん」
「あ、なら、その間に道場案内してあげるよ…見たいでしょ?」
あかねは、居間に入ろうとした乱馬の手を引き、歩いて行く。
その向かう先は、道場であった。
突然手を引かれた乱馬はなぜか赤面し、その視線はあかねと握られた手を何度も往復している。
「ほら! こっちこっち!」
「え、や、あの…手ぇ」
「…いいの、お父さん?」
ちらり、と去っていったあかね達を見やり、なびきはため息をつく。
なびきには、あかね思考が簡単に読めた。
「あかね、やる気だよ」
「ん、構わんよ。『自分と同じぐらいの強さのもの』とぶつかるのは、良い経験になる。
わしも、早乙女くんとは、そう言う関係だった。
乱馬ちゃんも、あかねとそのような関係になって…婚約者は無理でも友になってくれると嬉しい」
早雲はどこか懐かしそうに微笑んだ。
その顔は優しく強い父親の顔だった。
そんな、良き父親の顔をした早雲へ、なびきも笑顔を返す。
「じゃ、そのパンダ運んでおいてねー」
「え"」
そのまま、なびきは居間に戻ってしまう。
天道家で父を尊重し、色々と手伝ってくれるのは、あかねだけであった。
早雲は、しょんぼりと体重300kgはあろうかという巨体と共に悲しみを背負った。
原作あかねちゃんは、寸胴と言われていますが普通にスタイルはいいと思います。
今作あかねちゃんは、僕っ子黒髪ロングで足がムチムチな代わりに、ど貧乳です。
本格的に武道をしているため、手足は長いイメージ。