あかね1/2 作:直人猫
そのため、自分の料理にも悶絶するのですが、その料理過程をしっかり克明に描き出した新アニメは素晴らしいと思いました。
『精斗部神時屋のツボ』の効果により疲労困憊となった乱馬は、翌日から地獄のような筋肉痛に襲われていた。
歩くだけでも顔を顰めるほどの激痛が走る中、乱馬は地面に埋めたことへの玄馬の復讐により休むことを許されなかった。
ぜーはーと喘鳴を漏らしつつ、杖を突きながら登校する乱馬にあかねは横を歩きながら苦笑する。
「無理せずに休めば良いのに」
「ぜー、ぜー、親父が許さねーんだよ…」
「乱馬くんがボコボコにした後に置いて行ったからでしょー? もー、せっかく戦えると思ったのにこんな事になるなんてなー」
あかねは少し意地悪く口にする。
バツが悪そうな乱馬はそっぽを向いたが、その方向に移動し乱馬の視界に戻る。
「うそうそ、すっごい修行をしてでも僕に勝ちたいと思ってくれたんだよね?」
「ふん…」
乱馬は覗き込んでくるあかねを見下ろしつつ、もう一度視線を逸らして少し照れたように鼻を鳴らした。
どこか、甘酸っぱい雰囲気が流れる。
今だ、と乱馬は手を伸ばす。そして、さりげなくあかねの手を取った。
ゴツゴツとした少女らしくない手。
まるで、何かを握ることでついたかのように、タコだらけの掌だった。
何より、乱馬よりも手が大きい。
「(あれ? あかねの手…男らしいな?)」
「乱馬くん? 何してるの?」
いつの間にか、あかねは乱馬より前を歩いており首を傾げていた。
そう、あかねは目の前にいる。
ならば、この手は誰のものなのだろうか?
「九能先輩と手を繋ぐなんて」
「だぁぁぁぁあ!?」
乱馬は筋肉痛も忘れて手を振り払うと、思わずその顔面を蹴り飛ばしていた。
だが、筋肉痛のあまりその威力が大幅に減衰されたのか、九能はその一撃を受けても平然と乱馬へ怒る。
「何をする早乙女乱馬! 突然手を握ってきたからびっくりして握り返してしまったではないか!」
「握り返さんでいい!!」
筋肉痛であったにも関わらず、いつも通りに動いてしまった乱馬は悶絶する。
それを冷めた目で九能は見下ろしていた。
「なにを悶えているのだ貴様は。気色悪い」
「だ、誰のせいだと…」
乱馬は九能を憎々しげに睨みつつ向き直る。
自分の弱さを見せることはプライドが許さなかった。
それに九能は尊大腕を組み、乱馬と眼光を飛ばし合う。
「で? 何の用だよ、九能」
「ふん。僕とてわざわざ貴様の顔など見たくはなかったが、貴様を倒してあかねくんを自由の身にするまではそうもいかんのだ」
九能はそう言って制服の胸元から書状を取り出し、乱馬に投げる。
それを受け取った乱馬は、ひらひらとそれを手でひらめかせた。
「で、性懲りも無く果たし状ってか? こりねーな、先輩も」
「ふ、時と場所は今この場で構わんな?」
「ああ! かかってこい!」
乱馬が胸を張ると、そそとあかねが道を戻り近づいてくる。そして、不思議そうに乱馬へ問いかけた。
「いいの? 乱馬くん」
「? なにがだ?」
「いや、筋肉痛…」
「はっ」
あかねの言葉に乱馬は己の状態を思い出した。筋肉痛で歩くだけでも激痛が走ることを。
さぁっと乱馬から血の気が引く。
「や、先輩。今日はちょっと都合が悪くてさ、明日まで待ってくれねーかなーって」
「問答無用!」
「だよなぁ!? 離れてろ、あかね!」
乱馬は素早くあかねを押し出すと、襲いかかってきた九能を迎撃するべく動き出す。
九能はいつもの大上段からの切り下ろし。
対する乱馬はそれを飛び上がって回避してからの飛び蹴りでの迎撃を狙う。
しかし、飛びあがろうとした乱馬の足に激痛が走る。
おかげで、不恰好な回避になってしまい空中で隙を晒してしまう。
それを見逃す九能ではなかった。
「隙ありぃ!」
切り下ろしを止めることなく、切り上げに変えて一閃。
その一撃は乱馬の脇腹を打ちのめした。
「っーーーーー!?」
「あ、当たった!?」
打撃の痛みと筋肉痛による痛みの相乗効果で悶絶する乱馬。
九能は、初めて乱馬に一撃を当てたことに感動していた。乱馬は涙目になりながら九能を睨みつけ、即座に感動している九能へと反撃の蹴りを見舞う。
「ただでさえ、いてーのに何しやがる!!」
ばきり! と今度こそ蹴りは九能に命中したが、普段のような威力を発揮することはなかった。
不思議そうに乱馬を見る九能。
「なんだ? 全く蹴りが痛くないぞ、早乙女乱馬。
さては、僕を舐めているのか?」
「ちげーよ! 誰が手加減なんてするか!
今日は筋肉痛でまともに動けねーだけだ!!」
「あっ。乱馬くん、それを言っちゃうと…」
「あっ」
売り言葉に買い言葉。あかねの指摘で、自分の弱みを漏らしてしまった乱馬は慌てて口を塞ぐがもう遅い。
九能と目が合ったので、可愛らしく微笑むがその微笑みに九能は獰猛な笑みを返した。
「なるほどなるほど…貴様は、筋肉痛でまともに動けず弱っていると」
「な、なんだよ…」
乱馬は警戒して少し後ずさる。しかし、九能は肩の力を抜いて木刀を下ろす。
「見くびるなよ。この九能帯刀、剣士としての誇りがあるから、弱いものいじめはしない。それに、今の貴様に勝ったところで意味はないだろう」
黙っていれば美形なその顔に似合う男らしい笑顔を浮かべる九能。
だが、言葉とは裏腹にその木刀はいつの間にか振り上げられ、躊躇なく乱馬に振り下ろされていた。
命中ギリギリに真剣白刃取りの容量で受け止めた乱馬は、顔を引き攣らせた。
「おい、それならなんだこの木刀は!」
「おや…手が勝手に…」
「剣士の誇りとやらはどうした!?」
そのまま立て続けに振り下ろされる木刀。
乱馬は、なりふり構わない全力の回避で地面を転がりながらなんとか逃げ延びる。
九能は静かな歩法で乱馬を追い詰めながら、後悔するように男泣きした。
「確かに誇りも大事だ…だが、貴様に挑み続けて一週間。
その間、一度も勝てたことがない…。せめて一度ぐらいは勝ってみたいと思うのが男心というものだろう!」
「人の弱みに漬け込もうとして、何が男心だ!?」
「悪く思うな! そぉれ、突き突き突き突き突きぃ!!」
一切の躊躇のない九能の連続突きが繰り出される。
乱馬は最早なりふり構わずに地面を転がることで、なんとか九能の連続突きを避けた。
だが、乱馬が回避したことで突きの剣圧を受けることになった民家の壁は、ガラガラと音を立てて壊れて行く。
「わ、すごい。剣圧だけで、ブロック塀が…」
あかねは崩れたブロック塀を見て拍手した。
乱馬やあかねならば一撃で砕くことが可能ではあるが、一般人にすぎない九能がやってのけるのは重みが違う。
少しずつではあるが、学生ながら達人の域に迫っているのだ。
「感心しとる場合か!?」
乱馬はあかねの手を取って逃げ出す。取り敢えず、学校につけば授業もあるし安全だろうという思いだった。
「逃すか!?」
九能は乱馬たちを追いかけようと動いたが、それを横から伸びてきた手によって阻まられる。
「なっ!?」
久能を止めたのは、メガネをかけたおじさんであった。
咄嗟に距離をとった九能は、木刀を構え直す。
目の前の相手は一般人にしか見えなかったが、乱馬を追おうとした矢先のことで九能は強く警戒した。
「貴様、何者だ!」
「この家の持ち主ですが?」
青筋を浮かべた男性は、九能が破壊した塀の持ち主であった。
彼の家は塀が壊されたことですっかり丸見えになってしまっている。
すっかり怒り心頭な彼は、九能を逃すことなくその場で説教を始める。
その説教を聞き流しながら、九能は乱馬への恨みを募らせていた。
「(おのれぇ、早乙女乱馬! このままでは済まさんぞ!!)」
「君、聞いているのかね!? 警察を呼んでも構わないんだよ!?」
彼が解放されたのは、散々叱られ、相手の気が済んでからであった。
一方、乱馬はあかねと共に早々に九能から逃げ、学校に到着し授業を受けていた。
体の調子は少しずつ戻っているものの、どうしても体を動かすと痛みが走る。
そのため殆ど席から動くこともできず、昼食も学食で済まそうとしていたたのだが激戦区の中にわって入る気にもなれず諦めた。
そのため、空きっ腹を抱えて教室で机の上に突っ伏すしかない乱馬であった。
「乱馬くん、まだ辛いの?」
手に弁当が入った巾着を持ったあかねが近づいてくる。
乱馬は、それに力無く頷いた。
「ああ…もう今日は大人しくしておくに限るぜ」
ぬくぬくと机で目を閉じた乱馬に、少しあかねは考えるようにして指を立てた。
「そっか…お弁当を作ってきたからもし良かったらと思ったんだけど…寝てた方が良さそうだな」
「へ?」
「じゃあ、ゆっくりして…」
「まっ、まったまった! 弁当食べたい! あっ、いててて…」
「ちょ、無理しないで!?」
乱馬は去ろうとするあかねを慌てて呼び止めた。
立ち上がった拍子に体が痛んだが、それよりも今は大事なことがあった!
「えっ、べ、弁当作ってきてくれたのか?」
「うん、簡単なものだけどね。食事も修行だから、体を作るためのご飯を自分用に作ってるんだ」
「な、なるほど! なら、俺も貰っていあか? どこで食べる!? 教室でいいか!?」
「う、うん、早口だね乱馬くん。じゃ、じゃあ、はいこれ」
乱馬は務めて冷静に弁当を食べたいと伝えただけなのに、なぜかあかねは少し引いていた。
乱馬は体が痛まないように、体の各部位を最小限だけ動かしてスマートな動きで立ち上がる。
こうすれば、筋肉の収縮を抑えることができて、筋肉痛を引き出さないのだ。
その動きはどこかペンギンに似ていた。
あかねはそんな乱馬の様子を楽しそうに見ながら、手にしていた二人分の弁当箱を取り出す。
それは、いわゆるどか弁というもので、銀色の平たい大きな長方形の弁当箱であった。
その大きさはなかなかなもので、乱馬でも十分に腹を満たせそうな大きさであった。
乱馬はあかねの手作り弁当を前に、踊り出しそうになるのを抑えながら瞳を輝かせる。
「おお、量もあるんだな!」
「僕も結構食べるからね…はい、お箸」
「サンキュー!」
乱馬はあかねから割り箸を受け取ると、両手を合わせる。修行の旅に出ていた乱馬であるが、そう言った礼儀には玄馬がうるさかったため作法は守るタイプであった。
「いっただきまーす」
そのまま、乱馬は意気揚々と弁当の銀色の蓋を開いた。
そこには、弁当箱ぎっしり詰まったおかずの数々が広がっていた。
まず目につくのは、これでもかと水分を飛ばして作られたチキンのペーストに彩り以上に栄養価を気にしたと思われるブロッコリーの山だった。
そして、ドブ川の色をした謎のペーストが一角を堂々と占拠しつつ、その隣にウサギになりたいのかと思うほどギチギチに詰められた生野菜。
そして、辛うじて汁物だったとわかるほど水気がないドロドロの汁物が、飲みやすいようにパステルカラーのシリコンカップに入っている。
そして、トドメとばかりに色とりどりのサプリメントがデザートのごとく弁当箱の端に添えられていた。
所謂、完璧なディストピア飯がそこにあった。
「…ん????」
一瞬現実を受け入れきれなかった乱馬が、目を瞬かせるが彼の目に映る映像は変わらなかった。
ディストピア飯がそこにあった。
乱馬がマジマジと見つめたからか、あかねは少し照れたように頬を赤る。
「ご、ごめんね、こんな見栄えが悪い手作り感あふれる料理で…もっとお店みたいにできれば良かったんだけど」
「お、おう、全然そんなことないぜ?」
工場で作られてるものかと思った、と乱馬はなんとか口に出さないように堪えた。
乱馬はあれほどあかねの料理を楽しみにしていたのが嘘のように、嫌な予感を覚える。
しかし、まだ望みはあった。
「(み、見た目がアレだが味は違うかもしれねぇ)」
この見た目でも、もしかしたら味は絶品の可能性があると乱馬は恐る恐る箸を手に取る。
そして、弁当箱へと箸を伸ばすが、まずどれから食べるか悩ましかった。
どれも、大変見た目は悪いからだ。
ただ、味がわかっているものをまず食べようと決める。いきなり未知のものに箸を伸ばすのは危険だ。
そっと、パサパサになっているチキンに箸を伸ばし、口に運ぶ。
一瞬にして口内の水分が持っていかれ、それと同時に口の中に鶏肉の味が広がった。
くどく、もったりとしたタンパク質の味だ。
鶏胸肉らしい、まったくしっとりしていない味だった。
「(わ、わかっていたはずだ! こういう味だって、まだ耐えられる…!)」
ついで乱馬は、山を形成しているブロッコリーに箸を伸ばした。このブロッコリーの恐ろしいところは、マヨネーズや調味料が付いていない筋肉を作るための茹でただけのブロッコリーだった。
一口食べれば、茹で時間が足りていない芯に青臭さがよく残り、ブロッコリー独特の風味もガッツリ残っている味がする。
ブロッコリーの良くないところが、全て遺憾無く発揮されていた。
「あ、乱馬くん。このペースト、食べてみてオリジナルなんだ」
「お、おう」
あかねは、ニコニコとまったく味覚に通用を感じていないかのようにブロッコリーと鶏胸肉とペーストを食べ進めていく。
そして、期待にこもった目で乱馬を見つめた。
乱馬は覚悟を決めて、ペーストと謎の汁物にも箸をつけた。
ペーストは、肝臓系の何かと大量の野菜が煮詰められた味がする。そして、一切塩味を感じさせないのは栄養バランスに配慮しているからだろう。
というか、なぜかちょっと甘いのが余計に嫌だった。
そして、謎の汁物は極限まで水分を飛ばした味噌汁らしきものだ。シリコンカップに並々と注がれてしまったそれを飲み干すと、汁物のはずなのにとどめとばかりに口内の水分全てが持っていかれた。
「……」
「ど、どうかな? 味もそこまで悪くないし、栄養バランスも完璧だと思うんだ」
そわそわしたあかねが、乱馬へと問いかける。その表情は期待に満ちていた。
乱馬にその期待を裏切ることはできなかった。
「か、完璧な栄養バランスだぜ! そらでいて、こんな味が出せるとは!」
「えへへへ、でしょう? おねーちゃんたちは、二度と食べたくないっていうけど、やっぱり男ならこう言うのでいいんだよね!」
「(おじさんっ! あんたも犠牲者かっ!!)」
おそらく、乱馬が来るまであかねの料理の餌食になっていただろう早雲に敬意を表しながら、乱馬はディストピア飯を食べ進めていく。
乱馬がそれらを食べ進めるごとに喉が渇いていき、まるで砂漠の真ん中にいるような気分になっていく。
「(このままだと、口の中の水分を全て取られて負けるっ! なら、ここは…!)」
スピード勝負!!!!
乱馬は大量のパサチキを口内に放り込むと同時に、ブロッコリーも食べてそこから微かに残された水分を摂取する。
ペーストは野菜に付けることで対処をする。
生野菜に含まれる水分がこれほどありがたいことはなかった。
そして、それらを食べ切った乱馬は笑顔であかねに告げる。
「いやー、美味かった! あかねは料理もできるんだなぁ」
「乱馬くん、食べるの早いね。流石男の子!」
「へへっ、それほどでも」
「良かったら…明日から毎日作ってこようか? 一人分も二人分も手間は変わらないし」
「え"っ」
乱馬は逡巡する。
このディストピア飯を毎食は、それこそ管理された人類でなければ難しいだろう。なにより、かすみの上手い食事を食べてしまうと酷さがより際立つような気がしてならない。
喉から、「いらねぇ」と言う言葉が出かかる。
だが、同時に乱馬の男としての本能が囁く。目の前の女を落とすのに、手料理を作ってもらうなどの接点は大事であると。
「そっか…大変じゃねぇか?」
「ううん! 任せて!」
「じゃ、頼むわ」
男の本能に従った。自分のQOLを下げてでも、相手に合わせることが時には必要なのだ。
乱馬は、弁当箱をあかねに返すと残ったサプリを手に取る。
「俺、水がないとサプリ飲めないタイプだからちょっと買ってくるな!」
「あ、ごめんね気が回らなくて」
「気にすんな、あかねもいるか?」
「ううん、僕はなくても飲めるから大丈夫」
「そ、そうか」
乱馬は大量のサプリを物ともしないらしいあかねに少し引きつつも、彼女と別れて教室を出る。
そのまま、筋肉痛に痛む体を引きずって自動販売機へ向かった。
一刻も早く水を飲みたい!
喉が渇いているのもそうだし、なにより口の中の不快感を拭い去りたかった。
必死の思いで辿り着いた自動販売機。
だが、そこには『故障中』の張り紙が!
「ち、ちくしょう!」
自動販売機に見捨てられた乱馬は周囲を見渡す。
彼の視界に水道の水飲み場が映る。
「も、もう、水道水でもいい!」
乱馬は走って水道へ向かうと、水を飲もうと蛇口を捻る。
その瞬間、水柱が立った。
「たわば!?」
乱馬はたっぷりと水を飲み込む代わりに、頭から大量の水を被ってしまう。
その水に押しやられ、ひらりと『水道管故障中、触るな』の張り紙が宙を待った。
「ぺっぺっぺ、水は飲めたけど女になっちまった! それに、この水を止めねぇと…」
乱馬は、なんとか水柱の中に手を差し込み水を止めようとするが、女となり力が下がったことや筋肉痛により前に進めない。
「くそ、蛇口を閉められねぇ…!」
その時、乱馬の背後から手が伸ばされる。
それは、太い男の手であった。
その手は水柱の中の蛇口を手にとると、力強い動きでそれを閉めた。
すると、あれほど吹き出していた水柱が途端に止んだ。
後には、水に濡れた乱馬と手を差し伸ばしてくれた者だけが残る。
「わりぃな、あんた。助太刀感謝するぜ」
乱馬は、背後を振り向いて感謝を述べると顔を引き攣らせて固まった。
「なに、気にするな。困っていた時はお互い様だ」
そこにいたのは、誰あろう九能帯刀であった。
壊した塀の持ち主にたっぷり叱られた彼は、重役登校でたった今学校に着いたばかりだった。
そこで、困っている乱馬の後ろ姿を見て助けに来たのだ。
「君、怪我はないか?」
「えっ、えっと、はい」
当然、彼は目の前の女が乱馬であることに気が付かない。
そして、それ故に乱馬の前で見せない紳士的な態度で振る舞った。
「……むふ」
訂正。水に濡れて張り付いた乱馬の胸部を見て、鼻息を荒くしていた。
乱馬に怖気が走る。
九能は顔を赤くしつつ、乱馬へ問いかけた。
「ところで君、今日は学校でおさげ髪の男…早乙女乱馬は見かけたかな?」
「えーっとぉ、見たような見なかったような」
「そうか、見かけたら注意した前よ! あいつは、僕との勝負から逃げた臆病者である上に、あかねくんを毒牙にかけた色魔だからな!
君のような美しい子も狙われるかもしれん!
あんな奴、男じゃない!!」
その言葉は、乱馬の逆鱗に触れた。
どん、と九能を突き飛ばす。
いつの間にか体は動くようになっていた。
それが、あかねのタンパク質まみれの弁当を食べたことによる超回復だとは乱馬は知るヨシもなかったが、乱馬は指を突きつけて九能へ宣言する。
「もう我慢ならねぇ! 好き放題言いやがって、俺はいつでも相手になってやるぜ!!」
「な、なに?」
急に見知らぬ女子に宣戦布告をされたことで戸惑う九能。彼のあまりにおバカでおめでたい頭脳は、一つの結論を出す。
「な、なるほど! つまり、僕と付き合いたいと!
よし、君が勝ったら交際してあげよう、僕は力いっぱい負けるぞ!」
即ち、交際の申し込みであると。
「誰が交際を申し込んどるかー!!!!」
乱馬は切れた。
凄まじい手加減なしの蹴りが炸裂し、そのまま九能はどぎゃんと大空へ蹴り出された。
大きく宙を舞い、そのまま学校の敷地外へと飛んでいきながら九能は思う。
「な、何と強く、そして可憐なのだ…!
惚れたぞ、好きだぁ! おさげの女!!!!」
蹴り飛ばした乱馬は、その大声での告白を聞きながら鳥肌を立てていた。
「二度と戻ってくんな、ばーか!!!!」
翌日から、乱馬を襲わずにおさげの女を探す九能の姿が見られた。
乱馬は、彼の前で二度と女にならないと誓った。
当然の如く、それは守られることはないのである。
おさげ髪の女ギミックは有効に使っていきます。
次回は、いよいよ私の推しが登場します。
そろそろストックが尽きそうですが、のんびりやっています。
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