【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ   作:シラヌイ321

10 / 11
青い広場から、赤い街が消えた。
交換の約束は、まだ残っている。


第9話 九十秒のインフィナイト

第1期 第9話

九十秒のインフィナイト


 

 青い栄養食を掲げても、画面の向こうから返事はなかった。

 蒼界の少年は、黒い大型画面を見上げる。

 

「半分、取っておくって言ったのに」

 

 紅界の配給所でも、焼きパンを持つ少年が表示板を叩いていた。

 終界の人々も救うという方針が公表されたあと、両界の統治機関は共同通信と出力供給を止めた。

 世界内の非常回線は残したまま、向こうとの回線だけを閉じた。現在の生活を守るため。知らない世界へ力を渡すのが、怖いから。

 画面の端で、終界接続の時計だけが動く。

 

終界接続まで、四十九時間十八分四十六秒。

 

 ノア・ギアの格納庫では、ゲンゴがアズールの左腕に青銀装甲を閉じていた。フレアの右脚にも補強を入れ、瞬間加速は三回まで戻った。

 

 ゲンゴはヴァイスの位相刃を戻し、最終点検を閉じた。

 

「三機とも通常戦闘なら動く。直したそばから壊すなよ」

 

 整備台には、終界の映像が残っていた。小さな子供が眠っている。ニルがミラから受け取り、両界にも公開した街の一場面だ。

 レンは眠る子供を見てから、金色の歯車を指した。

 

「あそこへ、調べに行く道を作りたい。こっちの街を消さずに」

「合体すれば、道を固定する力は出る。ただし――」

 

 アウレルの声が止まる。ユナが二世界に共通する合体位置、黄金座標を示した。

 

「捕捉されたら、クアドラは残り時間を待たず接続します。合体するなら、黄金座標を隠し続けなければなりません」

「俺が隠す」

 

 ユナがカインへ顔を向けた。

 

「ヴァイスで、黄金座標を隠せるんですか」

「零座標核で、二機の周りを覆う。合体しても、その位置を外から見せない」

「二機を覆ったまま、どのくらい保てますか」

「そこまでは分からない。核の情報を渡す。計算できるか」

 

 カインがヴァイスの端末を開き、核の制御情報と出力記録を送った。ユナは受け取った数値に、二機を覆う範囲と合体時の負荷を重ねていく。

 しばらくして、計算が止まった。

 

零相遮蔽、計算上の上限九十秒。期限までに分離。

 

「九十秒が上限です。攻撃を受ければ、もっと短くなる可能性があります。遮蔽が切れる前に分離してください」

「道を作って、分離する。それが今回の任務だ」

 

 カナメがレンとアカリを見た。

 

「道ができていなくても、期限は延ばさない。分離の合図が来たら、二機に戻れ」

 

 カインはニルへ向き直った。

 

「俺は遮蔽を支える。ニル、残り時間と二機を見ていてくれ」

「はい。準備ができたら知らせます。分離の合図も、間に合うように私が出します」

「二機に戻ったら、それも知らせろ。確認してから、俺が遮蔽を切る」

 

 ニルはカインを見た。

 

「私に任せるのが、怖いですか」

「任せる。心配もする」

「両方、できるんですね」

「今、覚えるな」

 

 アカリの短い笑いが、赤い通信窓からこぼれた。

 


 

 レンは蒼界の試験席へ、アカリは紅界の試験席へ座った。並んで見える相手の席は、位相窓の表示だ。触れられる距離ではない。

 二人の入力だけを、一体の模型へ送る。

 

『前へ一歩だ』

 

 ゲンゴの指示で、レンは左へ重心を移し、アカリは右脚を蹴り出した。

 模型の腰が落ちる。一歩も進まない。

 

『レン、今は前でしょ!』

「倒れないように支えたんだって」

『支えすぎ! もう一回!』

 

 アズールが提案した。

 

『二人の入力を揃えると、片側の判断が遅れます。次の動作を決める側を、交代できるようにしてください』

『会話なら応答率、九十八・六パーセントです!』

 

 フレアが続ける。

 

『言い合いなら、ほぼ完璧ってことね』

「それ、歩けてから喜ぼう」

 

 ユナの出力表示は、四十四パーセントから動かなかった。両界からの供給は零。ノア・ギアの蓄積分だけでは、合体する力そのものが足りない。

 

 その時、黒金の亀裂が二つの空を引き裂いた。

 

終界接続まで、四十八時間五十九分二秒。

 

 停止中の共同画面に、ミラが映った。

 

「通信も供給も止まりました。現在の記録は、別々の生存を選んでいます」

「まだ、決めてない!」

 

 蒼界の女性が画面へ叫ぶ。白い少女の背後で、黒金の扉が開いた。

 二体の人型機が背中合わせに接続されている。蒼界を向く青黒の身体と、紅界を向く赤黒の身体。二つの頭、四本の腕、四本の脚。その中央で黒金の歯車が回った。

 

 青黒い二本の手が蒼界の空を掴む。赤黒い二本が紅界を引く。

 蒼界の避難所に亀裂が走り、紅界の防壁が土台ごと傾いた。

 ユナが叫ぶ。

 

『両界が引き離されています! あの腕を止めてください!』

 

「三機、発進。避難所と居住区を守れ!」

 

 カナメの声で、三つの発進路が開く。

 レンが青い円環で蒼界側の腕を止める。しかし反対の赤黒い手が、境界越しに円環を引き裂いた。

 アカリはフレアを敵の懐へ加速させた。拳が胸をへこませる。その背後から青黒い脚が伸び、赤い巨体を横へ蹴り飛ばした。

 

『逆側から来るの、ずるい!』

『右脚の加速、残り二回です。立てますよ、アカリ!』

 

 フレアが防壁の手前で踏み直す。

 カインは中央の歯車へ位相刃を入れた。四本の腕が黒銀機を捕まえ、歯車へ押しつける。

 青赤の援護線も、中央の逆回転に裂かれた。

 

両界の接続線、切断まで百四十秒。

 

『引き離す力で、蒼界の避難所も紅界の防壁も壊れています! このままでは、どちらの街の人たちも守れません!』

 

 ユナの声が迫る。

 レンは敵の腕を押さえながら、蒼界全域へ回線を開いた。

 

レン「今すぐ向こうを信じろとは言わない。九十秒だけ、力を預けてほしい」

 

「そのあとで、結果を見て決めてくれ。俺たちは、どっちの街も置いていかない」

 

 紅界では、アカリが倒れかけた防壁をフレアの背で支えた。

 

アカリ『知らない相手が怖いのは、私も同じ! でも、知らないまま消したくない!』

 

『私たちに九十秒ください。終わったら、一緒に文句を言おう!』

 

 蒼界の少年が、母親の手を引いて非常供給端末へ走った。

 

「約束、まだ半分残ってるんだ」

 

 母親は家庭の予備電力を選び、送信を押す。

 四十四・〇一パーセント。

 紅界の配給所でも、少年と母親が余剰分のレバーを下ろした。

 病院は生命維持分を残す。家庭、輸送車、工場から、少しずつ光が来る。

 

『規格が違う! そっちは分けろ、こっちは俺によこせ!』

 

 ゲンゴが整備員と供給線を束ねた。

 八十四パーセント。切断まで、五十秒。

 蒼界の管制室で、当直技師が停止命令から顔を上げた。中央予備炉へ手を伸ばす。

 紅界の当直責任者も、環境炉の余剰出力を開いた。二人とも、市民が送る光を見て決めた。

 そのあとで、両統治機関が緊急供給を承認する。

 

合体出力、百パーセント。接続線切断まで、二十六秒。

 

 レンは帰還手順を見た。アカリは歯車に捕らわれたカインを見た。

 

「俺は行く。九十秒で、二機に戻って帰る」

『私も行く。カインを置いていかない!』

 

『アズール。青側判断系を保ち、合体を承認します』

『フレアも承認! 赤側の判断は、私が持ちます』

 

 四者の返事が揃う。レンは赤い通信窓を見る。

 

「……終わったら、ちゃんと会いに行こう」

『今の、取り消さないでね』

 

「カイン、腕を引く!」

『頼む。抜けたら隠す』

 

 レンは押さえていた腕を、青い円環ごと外へ引いた。ヴァイスの肩を押す手が浮く。

 カインは歯車から位相刃を抜き、浮いた指を弾いた。空いた側へ肩をねじ込む。残る三本の手が黒銀の背を削り、機体が拘束を抜けた。

 境界中央へヴァイスを据え、カインが呼ぶ。

 

『ニル、ここで支える。二機は?』

『準備できています』

 

 ニルの返事を受け、カインが遮蔽を展開した。紫の膜が青銀と赤金を包み、九十秒の計測が始まった。

 

「フェイズ・ドッキング!」

『今度こそ、前へ一歩!』

 

 二機が光へほどけ、装甲と機能を一つの人型へ重ねる。二本の腕、二本の脚。胸に黄金の歯車。

 操縦席では、位相表示のアカリがレンの隣に見えた。薄い光の壁の向こうの手には、まだ届かない。

 

 


 

 残り八十七秒。

 インフィナイトが踏み出す。レンは左へ、アカリは正面へ動かそうとした。

 脚が互いを引き、腰が落ちた。

 

『練習と一緒!』

「再現するところ、そこじゃない!」

 

 四本の拳が黄金胸部を叩いた。視界が跳ね、レンの奥歯がぶつかる。

 八十三秒。

 

「操縦権を片方が手放せば、安定します」

 

 ミラの声に、アカリが答えた。

 

『嫌。その次は、私が決めるから』

「なら、まずアカリ。前へ出てくれ。俺が支える」

 

 赤い加速で、巨体が拳の間へ入る。左右から腕が閉じた瞬間、レンが操縦環を引いた。

 

「次は俺。止める!」

 

 アカリが加速を預ける。青い円環が四本の腕を固定し、機体だけが隙間を抜けた。

 引き離す腕が止まると、接続線の切断表示も止まった。完全に切れる前に両界を留めた。遮蔽の九十秒だけは進み続ける。

 赤い拳が敵の胸を打ち抜く。

 

『操縦入力一致率、三十一・四パーセント。機体応答は百パーセントです』

 

 アズールが告げた。二人は交代で次の動きを決め、決めなかった側がその動きを支えている。

 

 五十九秒。

 敵は世界を引く手をいったん離し、背中から分かれた。青黒と赤黒の二体が左右を塞ぐ。片方がレンの固定先へ先回りし、もう片方がアカリの加速先を殴る。

 紫の膜に裂け目が走る。黄金の光が漏れた。

 

『漏出、一パーセント!』

『まだ隠す!』

 

 カインの額に血が流れる。

 いつもの担当に戻れば、敵の記録どおりになる。

 

『レン、固定貸して!』

「貸す。加速は俺に」

『うん、預ける!』

 

 レンが青側の固定権限を、アカリが赤側の加速権限を開く。

 

アズール:赤側への固定権限移譲を承認。フレア:青側への推進権移譲を承認。

 

 AIは別々のまま、操縦者だけが機能を交換した。貸した権限は返るまで、元の操縦者には使えない。

 アカリの円環が赤黒い足を止める。レンの加速が青黒い巨体の背後を奪う。

 二体の間で、黒金の歯車が引き伸ばされた。

 

 四十九秒。

 レンの画面に、歯車の内側の都市が映る。眠った子供も、その奥にいた。

 

「中心が、終界への扉だ。全部壊したら、道も消える」

『だったら、道は残す。殴る場所、教えて!』

 

「固定、俺に戻してくれ。中心を見たい」

『了解。加速も返してよね』

 

 二人の選択を受け、二機のAIが権限を元の操縦者へ戻した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 青側の手で歯車を固定し、赤側の手で回転を前へ押す。二体が背後から拳を叩き込んだ。

 胸の装甲がきしむ。三十五秒。漏出、三パーセント。

 黒金の観測線が、紫の裂け目を覗いた。

 

『まだ、渡しません』

 

 ニルが自分の第四選択信号を重ねる。白い光が観測線を逸らした。

 二十五秒。歯車の奥で、細い航路が開き始めた。

 二十秒。敵の二体が終界へ下がる。道ごと閉じようとしている。

 

「歯車は残す。分離命令にだけ、衝撃を届かせる!」

『じゃあ私が、そこを撃つ!』

 

 十五秒。レンが青い円環を重ね、アカリが拳を引く。

 十秒。

 

ツイン・ギア・バースト!

 

 青赤の衝撃が、中央の一点で爆ぜた。

 壊れたのは、二世界を引き離せという命令だけ。歯車と都市への道は残る。切り離された二体が光へ崩れた。

 六秒。航路が広がる。

 四秒。座標が止まった。

 

残り二秒。分離の合図。

 

 ニルの合図を受け、レンとアカリが分離を選んだ。二機のAIが承認し、黄金の身体が青と赤へ分かれる。

 〇・七秒。完全なアズールとフレアが、それぞれの世界に戻った。

 ニルが二機の帰還を告げる。

 〇・三秒。カインが遮蔽を解除し、ヴァイスの紫の膜が閉じた。黄金座標はもうない。

 零秒。

 敵の観測線が、誰もいない境界空間を貫いた。

 


 

 レンはアズールの両脚を地面につけた。紅界で、フレアも膝を伸ばす。

 中央ではヴァイスが、残った黒金の歯車を支えていた。

 

『固定権限、レンへ返却を確認』

『推進権、アカリへ戻りました!』

 

 別々の相棒の声に、二人とも息を吐いた。

 共同画面にも青と赤の街が戻る。戦闘中に送られた供給線を通じて、通信が再接続されたのだ。

 少年が栄養食を掲げる。向こうの少年も、パンを見せた。

 

『まだ取ってある?』

「ある。そっちは?」

『あるよ』

 

 レンはその短い会話を、最後まで聞いた。

 

終界航路、安定時間十七分四十秒。

 

『通せるのは、人型機一機と小型艇一隻です。今回の記録で再形成し、次は終界側の出口を指定できます』

 

 ユナが告げる。現在を上書きする接続とは違う、細い道が一本だけ残った。

 アズールとフレアを別々に通すことはできない。通過中は黄金座標で二機の位置を一つに保ち、遮蔽下のインフィナイトで入る必要がある。

 

『着いてから分離したら、同じ場所に出られる?』

「出られる。帰り道の確認は、まだ要るけど」

『うん。だから、四人で帰るんでしょ』

 

 アカリが、位相窓のこちらへ手を上げる。レンも上げた。間にはまだ二つの世界がある。

 

「……今度は、その手に届きたい」

『やっと先に言った』

 

 カインが別回線を開いた。

 

『俺とニルも行く』

『私はまだ、返事をしていません』

『来るか』

『はい。私も、そこにいる人に会いたいです』

 

 終界接続まで、四十八時間五十五分三秒。

 歯車の向こうで、金色の都市が動かずに待っている。

 青と赤の棺。その奥の紫の生命反応。

 誰がいるのかは、まだ見えない。

 道の先で会うために、次は四人が渡る。




次回、第10話「同じ世界で、君に会う」。光の壁の向こうへ。
 印象に残ったのは、市民が送った光でしたか。それとも、次の一歩を交代して決めた二人でしたか。

 感想をいただけると、次の一話を書く力になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。