【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ   作:シラヌイ321

12 / 15
合体すれば、敵に奪われる。壊せば、一億八千四百万人の命が止まる。

別々の二機で、帰り道をこじ開けろ。


第11話 二つ目の心臓

第1期 第11話

二つ目の心臓


 

終界接続まで、三十六時間十八分二秒。

 

 フレアの逃げる先へ、クアドラの掌が回り込んだ。

 右上から覆いかぶさる黒金の指。その下には、ニルとカインを乗せた白い小型艇がいる。

 アカリが操縦桿を引く。さらに上へ逃げれば、ノア・スキフを掌の前に残してしまう。

 

「アカリ、推進を切れ。俺が支える!」

『落とさないでよ!』

 

 赤い噴射が消えた。滑りかけたフレアの腰を、左下から飛んだ青い円環が捕まえる。

 巨大な掌が、その目の前を通り過ぎた。黒金の光は逃げるはずだった上空を裂き、二機の下を白い艇が抜ける。

 固定を支えたアズールだけが、横殴りの衝撃にさらされた。左へ吹き飛ぶ。レンの肩へ拘束帯が食い込んだ。

 

『レン、離して! 今度はこっち!』

 

 レンが固定を解く。自由になったフレアが右から加速し、アズールの右腕を掴んだ。赤い肩装甲が悲鳴を上げる。それでもアカリは手を離さず、二機を塔の陰へ引き込んだ。

 

「……助かった」

『お互いさま。腕、まだ動く?』

 

 レンが操縦桿を握り直すと、アズールの指が一本ずつ曲がった。

 

「動く。そっちは」

『そっちを引っ張れるくらいにはね』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 塔の向こうで、停止都市を包む金色の線が明滅した。街の人々へ命をつなぐ線だ。あの巨体を壊せば、線まで切れる。

 カインは艇を塔へ寄せ、紫の通信を開いた。

 

「未来の俺。さっきの続きだ。もう一つの心臓は、どこにある」

 

 古いヴァイスにつながる回線から、百二十七年後の自分の声が返った。

 

『胸の下だ。ノア・ギアだった頃の心臓が残っている。そこを起こせば、街を止まった時間ごと零座標へ逃がせる』

「現在へ戻す道も要る」

『ああ。向こうからも開いてもらう。だが、街を動かし始めれば出力の八十七パーセントを使う。命を支える分は十三パーセント。二十二分しかもたない』

 

 アカリは、まだ三十六時間余りを示す時計を見た。

 

『こっちは、今の私たちの世界が上書きされるまで。二十二分は、街を動かしてからってことね』

『そうだ。先に胸の四枚を止めろ。四連観測環だ。四枚とも壊すな。止める時刻の差は、〇・三秒以内』

 

 送られてきた位置が画面に重なる。胸の前を回る四枚の歯車。一枚でも動いていれば、こちらの帰り道を先回りして塞いでくる。

 レンは塔の端から、四枚の軸を見比べた。

 

「一枚ずつ追いかけたら間に合わない。先に、止められる位置につく」

『右の二枚は私が行く。左、頼んだよ』

「分かった。合図を送る」

 

 合体はできない。黄金の機体になれば、その座標を敵に奪われる。

 代わりに、動き出す直前の感覚だけを渡す。相手の機体を操ることはしない。

 

クロス・センス。青側、赤側、接続。

 

 フレアが右端の第一環へ飛び込んだ。アカリは殴りたい手を引き、歯車の軸へ足を添える。

 壊さない。止めるだけだ。

 そこへレンの青い円環が重なった。まだ締めない。アズール自身は左上の第二環へ回る。

 

『レン、右から来る!』

 

 黒金の光索が、アズールの右脇へ伸びた。レンはそちらへ逃げかけた操縦桿を押し戻す。通常の推進で左へ折れ、光索を背に通した。

 第二環の軸へ右手をかける。腕が回転に引かれ、肘の警告が鳴った。

 一方、フレアの左拳は第三環の軸へ届いている。アカリは歯を食いしばり、足と拳の間で引き裂かれそうになる機体を支えた。

 

『こっち、長くは待てないよ……!』

「あと一枚。カイン、見えるか」

 

 第四環は、クアドラの左手に隠されていた。

 カインが艇を傾ける。手の甲に沿って滑り、指の隙間へ船首を押し込んだ。最後の航路修正用の噴射。激しい揺れに操縦桿が跳ね、腕を打つ。

 隙間の奥で、第四環の軸が見えた。

 

「ニル。届くか」

『はい。でも、ここに止まっていたら、艇が挟まれます』

「出口は俺が残す。お前は、止める場所を選べ」

『……通信は、つないでいてください』

「切らない」

 

 ニルの青い右目と赤い左目が、同じ軸を捉えた。

 

「今だ!」

 

 レンが第一環の円環を締めた。フレアの足元で、歯車が止まる。

 〇・一秒後、アズールの右手を中心に第二環も停止した。反動が肘から肩へ突き抜ける。

 〇・二秒。アカリが瞬間加速を入れた。第三環の軸へ添えた拳で、回転と逆向きに押し返す。レンの円環が、その位置を留めた。

 

『第四選択固定!』

 

 白い光が、指の隙間を抜けた。

 四枚目が止まる。最初の一枚との差、〇・二八秒。

 カインが艇を引き抜くのと同時に、クアドラの胸の下で装甲が開いた。

 

 奥に、白い球体があった。

 未来のカインが、息を吐く。

 

『残っていたな。……ノア心炉だ』

 

二つ目の心臓へ、道が開いた。

 


 

 百二十七年前。現在側のノア・ギア作戦室で、ユナが顔を上げた。

 途切れていたヴァイスの受信欄に、同じ短い信号が繰り返されている。

 

「帰還要求です。声はまだ通りません。でも、向こうが帰り道を開こうとしています」

「応えられるか」

 

 カナメに問われ、ユナは必要な電力と今使える分を並べた。

 

「十一パーセント足りません」

「生命維持は残せ。それ以外をヴァイスへ回す」

 

 ゲンゴが暗くなった整備区画の表示を見た。

 

「整備灯までですか。帰った機体を直す場所が真っ暗になりますよ」

「帰ってくれば直せる」

「……そりゃ、そうですね。灯りの分もかき集めます」

 

 通路の青と赤が消えていく。

 ヴァイスのそばでは、アウレルが拘束環の下の傷を押さえていた。零座標核へ手を伸ばし、生体接続を始める。

 

「私が開いた座標です。帰す時にも、使えるはずです」

「アウレル。お前の帰還も含めている」

 

 カナメの声に、その手が止まった。

 

「……分かっています」

「なら、最後までつながっていろ」

 

 ヴァイスの紫色の核から、白い信号が未来へ走った。

 

全員を帰すまで、本艦は航行を終えない。

 


 

 未来側。開いた胸の内側へノア・スキフが寄り、ニルは白い通路へ降りた。

 カインは艇の出口を開けたまま待つ。

 心炉の前には、ミラがいた。黒金の刃が、ニルの胸へ向けられている。

 

「それ以上、来ないでください」

 

 ニルは足を止めた。

 

「さっきは、私たちを逃がしてくれました」

「あれは……命令に反した動作です。繰り返してはいけません」

「では、どうして、まだ刺さないのですか」

 

 刃の先が揺れた。

 

「私は帰還端末です。終界を残さなければ。現在を消しても、ここにいる人たちを……」

 

 ミラは言い切れず、白い球体を見た。

 その表面に、現在側からの信号が浮かんでいる。全員を帰すまで。そこから先を、何度も読み直すように。

 

「帰して、また失ったら?」

 

 ニルにも、失わないと言い切ることはできなかった。

 

「怖いです。私も」

「あなたも?」

「はい。だからカインに、通信を切らないでと頼みました。一人だと、ここまで来られませんでした」

 

 背後の艇から、カインが呼んだ。

 

『ニル。聞こえている』

 

 ニルは一度うなずき、ミラへ手を伸ばした。刃には触れず、その手前で待つ。

 

「あなたの考えも聞きたいです。クアドラの答えではなく、あなたが帰したい人のことを」

「違う答えを言っても、いいのですか」

「はい。違っても、聞かせてください」

 

 ミラの刃が下がった。

 空いた手が、おそるおそるニルの手を握る。

 

「……私も、帰るところを見たいです」

 

 黒と金、青と赤。四つの瞳から白い光が流れ、球体の奥で重なった。

 

双端起動――ノア心炉、再始動。

 


 

 白い鼓動が街へ走った。命をつなぐ線が、金から白へ変わっていく。

 アカリが息を吸った。

 

『つながった……!』

 

 その白が、根元から細くなった。

 クアドラの胸で黄金の歯車が回る。白い心炉から流れ出た光が、そちらへ吸い取られていた。

 

『判断核、不安定。終端心炉の自律固定へ移行』

 

 敵の声とともに、黒金の身体が都市の装甲から剥がれた。塔ほどの人型へ折り畳まれ、右手に長い槍を構える。

 レンは胸の歯車を見た。

 

「あれを止める。帰すための力まで持っていかれる」

 

 槍が横に薙がれた。

 空が青、赤、黒金の三つへ割れる。アズールの画面に、それぞれの先で二つの世界を失う予測が並んだ。

 

『三つとも、退避には使えません』

『じゃあ、どこへ――』

「槍の上だ。振り切る前に乗る」

 

 レンが示したのは、三つの裂け目を横切る長い柄だった。

 アカリは笑いかけ、すぐ歯を食いしばった。

 

『それ、外したら痛いじゃ済まないよ』

「足場は俺が支える。……信じてくれ」

『信じてる。だから、ちゃんと支えて!』

 

 フレアが飛んだ。

 赤い両足が槍の柄を踏む。着地の衝撃に膝が折れかけたところを、青い円環が留めた。

 アカリはその一瞬で機体を起こし、柄の上を駆けた。アズールも続く。下では裂け目が閉じ、黒金の空が軋んだ。

 

 敵の胸が近い。

 レンが黄金歯車の外周へ円環をかける。アカリはフレアの拳を引いた。

 

「砕くな。回転を押し返す!」

『分かってる。街ごと帰るんでしょ!』

 

「クロス・ギア――」 『インパクト!』

 

 赤い拳が、青く留めた外周を打った。

 黄金歯車が逆に回る。吸い上げられていた白い光が、心炉へ押し戻された。

 だが、青と赤の索が歯車へ巻きつき、回転を引き戻す。

 

『承認記録が残っている!』

 

 古いヴァイスの回線から、未来のカインが叫んだ。

 

『俺たちのレンとアカリが、固定を許した時のものだ!』

 

 逆流した衝撃が二機を弾いた。

 アズールが左肩から地面へ叩きつけられる。腕が砕け、青い破片が操縦席の前を横切った。

 フレアの右腕は振り抜いた形のまま動かない。アカリが何度引いても、指一本戻らなかった。

 

『右腕だけ、時間が止められてる! アカリ、左は動くよ!』

 

 フレアの声に、アカリは左手をついた。崩れた機体を押し起こす。

 画面の隅では、転送開始後の生命維持の時計が二十二分を切っていた。アズールが、街の移動速度から計算を返す。

 

退避完了予測、四十七分。生命維持は二十二分未満。

 

「……足りない」

 

 レンは残った右腕で、地面を掴んだ。

 別の時計まで急速に減っている。三十六時間先だった完全接続が、生命維持の終わる時刻へ近づいていた。

 胸の歯車を止めなければ、帰す時間も、帰る先も失う。

 

 赤い棺から、未来のアカリの声が漏れた。

 

『もう見たくない。助けようとして、また誰かを失うのは……』

 

 現在のアカリは、止まった右腕を見た。左手だけで操縦桿を握る。

 

「私だって見たくないよ」

『だったら、どうして立つの』

「さっき、街で転びかけた子を見た。お母さんの手、あと少しで届くんだよ」

 

 棺の向こうで、息をのむ音がした。

 

「あの続きが見たい。……一緒に見ようよ」

 

 未来のアカリの指が、赤い承認環を握り直した。

 

『私、本当は……もう一度レンと、どうでもいい喧嘩がしたかった』

 

 輪が外れた。

 クアドラの胸で、赤い索が一本ちぎれる。

 

 隣の棺では、未来のレンがまだ青い環を握っていた。震える指を、現在のレンは通信画面越しに見た。

 怖さを消せる言葉は、思いつかなかった。

 

「離すのが怖いなら、俺を見ていてくれ」

 

 アズールが右腕を突っ張り、片膝を起こす。

 

「次の一秒、俺たちがやる」

 

 青い承認環に、細い亀裂が走った。

 まだ、外れない。

 

 二つの時計の数字がそろい、そのまま一秒ずつ減っていった。

 

生命維持終了まで、二十分五十八秒。完全接続まで、二十分五十八秒。

 

 クアドラが槍を振り上げる。

 レンは残った右手を、もう一度その胸へ向けた。




次回、第12話「選び続ける世界」。

 帰りたいと言えた人と、まだ手を離せない人。二つ目の心臓が動き出しても、二人の戦いは続きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。