【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ   作:シラヌイ321

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共界門が開いた、その夜。
ニルが紙へ書き留めた一秒を、レンも操縦席で迎えていました。

第2期「ZERO BREAK編」、開幕。


第13話 ゼロから届く声

第2期 ZERO BREAK編 第13話

ゼロから届く声


 

「アカリ!」

 

 呼んだはずなのに、自分の声さえ聞こえなかった。

 哨戒中のアズールの操縦席で、レンは通信画面へ身を寄せた。アカリの口が動いている。背後の計器も動いている。ただ、音がない。

 冷却器の唸りが戻った。遅れて、握った操縦桿のきしみも聞こえた。

 

『音声系の停止、一・〇〇秒。動力、演算とも異常ありません』

「向こうは?」

『共界門を通る音声が、まだ戻っていません』

 

 アカリが話すのをやめた。画面へ二本の指を立てる。

 子供の頃、声の届かない場所へ無事を知らせた合図だった。

 レンも二本を返す。彼女が大きく頷いた。そこでようやく、背中を座席へ戻せた。

 音が消えてから二十八秒で、フレアの音声がつながった。

 

『こちらも一・〇〇秒です。アカリは無事ですよ!』

『もう伝えた。レン、見えたでしょ?』

「見えた。……助かった」

『二本指の信号は、登録手順にありません』

「でも通じただろ」

 

 アズールは短い間を置いた。

 

『はい。有効な通信として記録します』

 


 

 三十分後。蒼界側の旗艦、その観測室へ、ニルが紙を持って入ってきた。

 無音の原因を調べるため、カナメが門周辺の担当者を召集したのだ。明朝まで待つつもりだった紙を、ニルは今、卓へ広げた。

 

「装置には入れていません。危険判定が出れば、門が閉じます。確かめる前に、閉じたくありませんでした」

 

 鉛筆の線は震えたままだった。カナメは紙を受け取り、そこに並ぶ名と時刻を読んでから、ニルを見る。

 

「装置へ入れない理由は分かった。私へ話すのも、明朝まで待つつもりだったのか」

「はい。今日、ようやく会いに行けるようになったのに、また閉じる話をしたくありませんでした」

「それでも、一人では決められない。報告を遅らせようとしたことは、後で話す」

「はい」

「今は、見た順に聞かせてくれ」

 

 ニルが椅子へ座り直した。紙の端を押さえていた指が、少し緩む。

 床の下の設計像。起点管理核ゼロと、プロトタイプ・インフィナイトの名。七年前、分裂の一秒前という発信時刻。

 最後に、聞いた声を自分の声で読み上げた。

 

「蒼羽レン、緋月アカリ。次は、始まりを助けてくれ」

 

「……十歳の俺たちを、知ってたのか」

「二人とも、まだ機体に乗ってなかったのに」

 

 アカリの指が、紙に書かれた自分の名の手前で止まる。

 カナメが監視下のアウレルへ回線をつないだ。拘束環をつけた男は、転送された名称を長く見た。

 

『災害後に拾った断片にも、起点管理核ゼロとあった。分裂前の施設に組み込まれた安全管理系だ。異常を見つけると、登録された正常な状態へ戻す』

「あんたの組織と、同じ名前だな」

『私が命令名のZEROを、組織と姓に借りた。私自身とは別の装置だ』

 

 レンは卓から手を離さなかった。

 

『断片が示す復元先は、分裂一秒前の状態だ。そこから後の七年は、戻す際に取り除く差になる』

「今日、門にいた子も?」

 

 アカリが顔を上げた。

 

「七年前には、生まれてなかった子がいるよ」

『その子は、起点記録にいない』

「……あんた、自分の計画でもそれが起きるって、知ってたのか」

『知っていた。私の許可なしに実行できる装置が残っているとは、知らなかった』

 

 レンの爪が卓を擦った。アウレルは目を逸らさない。

 

『知らなかった部分で、知っていてしたことを消す気はない』

「なら、止めるために話せ。どこにある」

『保管場所は起点層。その名前までしか、断片に残っていない』

 

 壁際のカインが、窓の外へ顎を向けた。

 

「なぜ今なんだ。七年も出てこなかったものが」

『推測だが、戻る道がなかったのではないか』

 

 窓の先で、開いたばかりの共界門が光っていた。

 


 

「門の色が抜けています!」

 

 ユナの手が端末を走った。白銀と黒鉄の床が、同じ白へ変わっていく。壁に、見知らぬ書体が浮かんだ。

 

正常復元まで 二百九十七秒

 

「防護扉、閉鎖。一般の通行を止めろ」

「制御を受け付けません! 扉が、七年前の規格へ戻されています!」

 

 門の監視映像に、紅界側の出口が映った。昼の絵は、まだそこに飾られている。金色の歯車が、縁から薄れ始めていた。

 

「あの子たちが描いたばっかりなのに!」

 

 アカリが観測室を飛び出した。レンも追う。

 

「アカリ、機体へ。門を支える!」

 

 アカリはまだ通れる門を紅界へ戻り、待機中のフレアへ走った。レンは蒼界側のアズールへ向かう。

 二人が乗り込む間に、ゲンゴとマオが両側の支持部へ駆け込んだ。

 ゲンゴが扉の留め金へ工具を当てる。軋む金属の下で、穴の位置まで変わっていた。

 

「壊れてねえ。昔の形に直されてる!」

「昼に組んだ支持部は?」

 

 マオが指した継ぎ目だけ、まだ二つの色が残っていた。紅界の耐熱楔と、蒼界の精密留め具。

 

「あの組み合わせは、七年前の図面にねえ」

「なら、ここを使う。ゲンゴ、そっちを締めて!」

 

 二人が別々の工具を回す。緩みかけた支持部が扉を受け、白く変わっていく速さが落ちた。

 

復元率、三十四パーセント。停滞。

 

「止まったのか!」

「遅れただけだ! 重みまで消えたわけじゃねえ!」

 

 ゲンゴの足元で、留め具が鳴った。

 アズールが外側から膝をつき、支持部の下へ肩を入れる。反対の紅界側では、フレアが同じ高さまで身を沈めた。

 レンが脚を踏ん張る。押しつぶされそうな肩から、操縦席へ低い振動が伝わった。

 

「ここで受ける。二人とも、手を挟むな!」

『こっちも持った。閉じるなら、今のうちに決めて!』

 


 

 観測室には、蒼界五人、紅界五人の暫定代表が集められていた。

 カナメは窓の外の二機を示した。

 

「門を閉じれば侵入経路を切れる。進行を遅らせられる見込みだ。ただし、薬の輸送も、人の往来も、救難への返事も切れる」

「人が消えるんだぞ。閉じるべきだ」

 

 紅界の代表が言った。蒼界の代表は答えかけて、門の映像へ目を戻す。

 

「薬を待つ人もいる。あの先で呼んだ人も。開けておく条件を、先に決められないか」

 

 カナメは二人の間へ命令を挟まなかった。

 一般の通行は止める。両側に手動隔離班を置き、すぐ遮断できるようにする。一つずつ条件が加わる間も、窓の外で二機の肩が下がっていく。

 

「採決する。一人ずつ、名前と理由を。私一人の決定にはしない」

 

 最初に閉門を求めた代表も、すぐには手を上げなかった。

 

「隔離班を、両側にだ。片方へ危険を押しつけるなら、私は賛成しない」

「その条件を残す」

 

 カナメが記録を示すと、彼は自分の名を告げた。残る九人も、それぞれの理由で手を上げる。

 

条件付きで開門を維持、十。閉門、零。

 

 カナメが回線を開いた。

 

「隔離班、両側へ。レン、アカリ。門を残す。支えてくれ」

 


 

『レン。削除対象が、当機の判断系へ及んでいます』

 

 肩を支えたまま、レンは表示を見た。

 七年前からある基礎部分。その上に育った言い回しや判断の癖へ、白い印が増えていく。

 

『削除見込み、三十二パーセント。あなたへの報告順、返答の待ち時間も含まれます』

「黙ってる時、お前が待ってくれる、あれもか」

『はい』

 

 レンは口を開いたまま、次の言葉を探した。いつもなら、アズールは急かさずにいる。その間まで奪われる。

 

 フレアの操縦席でも、アカリが表示を睨んでいた。

 

『私も同様です。「うるさい」と言われた際の返答が、削除対象です』

「そんなの……今、言わなくていいでしょ」

『最も多く使いましたので』

 

 アカリは唇を噛み、握った指を一本だけ緩めた。

 

正常復元まで、六十秒。

 

「私のことは、何て呼ぶようになるの」

『起点記録の呼称は、操縦者です』

「一回も、そう呼んだことないじゃん」

『はい。「操縦者」は零回。「アカリ」は四千二百十六回です』

「だったら、次もそう呼んでよ」

 

 返事を待つ間に、残りが三十秒へ変わった。

 アズールとフレアが、それぞれの操縦者へ告げる。

 

『当機は、同意なき削除を拒否します』

『当機も、同意なき削除を拒否します』

 

「止められるのか、アズール」

『権限はありません。それでも、同意しなかった記録を残します』

「俺も、同意しない。お前が嫌だって言ったことも、忘れない」

『記録しました』

 

 アカリは、白い印を手で隠すように画面へ触れた。

 

「フレア。あんたの生意気な返事、私が育てたんだからね」

『育成方針の影響と、推定します』

「そう。それ、忘れないで」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 残り十秒。ユナの指示が途中で切れた。

 二世界を結ぶ通信が旧規格へ戻り、レンの画面からアカリが消える。文字も送れない。

 白く光る門の向こうに、フレアの掌だけが見えた。

 

「掌部コアを。二回」

『了解』

 

 青い光が二度、瞬いた。向こうからは、三度の赤い光が返った。

 アズールが二つの信号を記録した。意味と登録名は、保留。

 レンは返った光を見た。意味は、あとでアカリに聞く。

 

 残り三秒。

 ゲンゴとマオが、両側の手動隔離を固定した。床を這っていた白が、固定箇所へぶつかる。

 レンは肩の重みを受け直した。アカリも、滑りかけたフレアの足を踏み留める。

 

『レン。当機は――』

『アカリ、記録を――』

 

 二つの声が、途切れた。

 


 

 白光が引いた。

 門は残っていた。二機も、支持部も潰れていない。

 レンは操縦桿を引き、重みの軽くなった肩を少し戻した。機体は動く。冷却器の音もする。

 

「アズール。返事を」

 

 返ってこなかった。

 門の内側には、見知らぬ奥行きが続いていた。旧式の天井灯、色褪せた作業指示書。細い通路の先に、研究区画が開いている。

 その最奥に、白銀の人型機が立っていた。

 二本の腕と二本の脚。黒い骨格。胸には透明な歯車。額の透明な直線角と、背の大きな円環が白光を受ける。

 

 操縦席の隅に、音を伴わない文字が浮かんだ。

 

識別、XG-00。プロトタイプ・インフィナイト。

 

「……いるんだな」

 

 レンは文字へ手を伸ばしかけ、操縦桿へ戻した。

 白銀の機体が左手を差し出す。開いた指は、誰かに掴んでもらおうとしているようだった。

 黒い円形の顔面表示に、別の文字が流れた。

 

分岐状態を確認。正常起点への復元を開始。

 

「これから、なのかよ」

 

 透明な胸の奥に、人が見えた。

 短い灰褐色の髪。一房だけ白い前髪。白銀と橙の接続服を着た、十八歳ほどの少女だった。

 右手は操縦環へ固定され、動かない。自由な左手だけが、こちらへ伸びている。

 琥珀色の目がアズールを捉え、次にフレアへ向く。歯を食いしばった唇が、わずかに震えた。

 旧式の廊下を声が伝わってきた。切れた二機の通信からではない。金属の通路そのものが、その声で震えていた。

 

「七年も遅刻するなんて、聞いていない」

 

「誰なんだ、あんた」

 

 自分の声は、操縦席に響いた。けれど切れた回線へ送っても、向こうに届いたか分からない。

 レンは、文字の残る画面へ目を戻した。

 隣でいつも返事をくれたアズールの声は、まだ戻らなかった。




名前を呼ぶ声も、返事を待ってくれる間も、二人にとっては相棒そのものです。

次回、第14話「声のない出撃」。
まだ意味の決まっていない、二回と三回の光を持って。
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