【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ   作:シラヌイ321

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声を失っても、相棒が選んだ一点は残っています。
その形まで写し取った白銀機に、レンたちは再び挑みます。

同じ力ではなく、違う判断で戦う。


第15話 白銀の原型機

第2期 ZERO BREAK編 第15話

白銀の原型機


 

 声が途切れて二日目。蒼界側格納庫。

 

「アズール。返事は、急がなくていい」

 

 昨夜塞いだ胸部装甲には、細い赤線が残っていた。

 レンが足場から見下ろすと、アズールの掌部コアが二度光る。

 

「でも、聞いてるなら、それだけ教えてくれ」

 

 もう一度、二回。

 レンはようやく息を吐いた。

 

「穴は塞いだ。位置は消してねえ」

 

 ゲンゴが工具を置き、赤線を指で叩いた。作業回線の向こうでは、マオがフレア側の同じ傷を図面へ残している。

 

『次に同じ所へ来たら、今度は先に気づく。消すなって言ったのは、そういうことでしょ』

「分かってるじゃねえか」

 

 レンが礼を言う前に、観測室から呼び出しが入った。

 


 

 卓上には二枚の紙があった。

 一枚は紅界政府からアカリへ届いた、高危険度任務からの段階的除外。もう一枚には、ニルの鉛筆で細い数字が並んでいる。

 

「まず、こっち」

 

 アカリは通達を最後まで読み、破らずに卓へ戻した。指だけが紙の端を強く押さえている。

 

「今日は出る。帰ったら、ちゃんと席で話す。あたしを守りたい人たちとも」

「突き返さないのか」

「突き返したら、向こうも聞かないでしょ。聞かせる。決める時は、あたしも入れろって」

 

 カナメは通達を畳んだ。

 

「その条件で預かる。次だ、ユナ」

 

 ユナがニルの紙を広げる。原型機の槍が操縦席を外した角度。その〇・一度のずれが、起きた順に残されていた。

 

「装置は小さなずれをまとめて消しました。ニルさんの紙だけが、順番を保っています」

 

 鉛筆の先が、三つのまとまりをなぞる。

 

三回。一回。二回。同じ順で反復。

 

「三、一、二……」

 

 レンが口にすると、ニルは紙を持つ手へ力を込めた。

 

「意味は、まだ分かりません。ですが、偶然なら同じ順番を何度も守りません」

「トワが、戦いながら外へ出した合図かもしれない」

 

 レンは昨夜の映像を見た。右手は操縦環へ固定されたまま。自由な左手だけが、槍を止めていた。

 

「次に会えたら、聞く。あの人が何を選んでるのか」

 

 警報が鳴った。

 蒼界と紅界の空が、同時に白く薄れる。

 

共界門上空。位相差、零へ接近。

 

「レン、アカリ、カイン。出るぞ」

 

 カナメが立つ。ニルも紙を抱えて走り出した。

 


 

 射出口で、アズールの表示が途中まで浮かんだ。

 

『機体状』

 

 文字が消え、少し遅れて二文字だけ戻る。

 

『正常』

 

「短くなってるな」

 

『はい』

 

「無理に残さなくていい。減るなら、取っておけ」

 

 返事はしばらく出なかった。

 やがて、一文字だけが強く表示される。

 

『嫌』

 

「……そう言うと思った」

 

 レンは口元を緩め、操縦桿を押す。

 紅界側では、フレアが文字の代わりに三度、警告灯を光らせた。

 

『眩しい。けど、黙るよりいい』

 

 アカリが目を細めると、三度の光がさらに強く返る。

 

『褒めてないって!』

 

 二機が別々の空へ飛び出す。

 その間へ、白銀の巨体が降りてきた。

 

 白銀の装甲。黒い内部骨格。透明な歯車型の胸部コア。額には一本の透明な直線角。背には円環状の位相調整器。

 二本の腕と二本の脚を持つ、独立した一機。

 

XG-00 プロトタイプ・インフィナイト

 

 

【挿絵表示】

 

 

『両世界で同一機を確認。投影ではありません』

 

 ユナの報告が終わる前に、レンはアズールの左掌を開いた。

 

「止める!」

 

 固定点が白銀機の胸前で結ばれる。

 だが、白銀の右掌にも同じ光点が生まれた。

 

オリジン・トレース

 

 空間が軋む。止まったのは白銀機ではない。アズールの両脚が空中へ縫い止められた。

 

「こっちの固定を――」

 

 フレアが横から加速する。アカリは槍の外へ回り、肩を狙った。

 白銀機の脚にも同じ推力が灯る。真正面からぶつからず、フレアの進路だけを横へ押した。

 

『速さまで持ってくの、反則でしょ!』

 

 座席が跳ね、アカリの肩が拘束帯へ食い込む。

 追撃の槍が振り下ろされた瞬間、黒銀の二刃がその柄を挟んだ。

 

「下がれ」

 

 ヴァイスが亀裂から現れる。カインは刃を押し返さず、槍の内側へ踏み込んだ。

 白銀機が一瞬消え、カインの背後へ回る。

 

「同じ手は、二度待たん」

 

 ヴァイスは後ろへ跳ばない。前へ沈み、振り返る槍の根元へ肩を当てた。

 白銀機が初めて半歩、退く。

 

『機能は再現されています。行動の選択は一致していません』

 

 白銀機の胸元へ、小さな白い円盤が投影された。中央の琥珀色の単眼がカインを追う。

 

『黒銀機、予測経路から逸脱。原因、不明。統合検証AIイヴ、記録します』

「イヴ。トワは聞こえてるのか」

『質問を検出。操縦者の聴覚入力は正常です』

 

 円盤の単眼がフレアへ移る。

 

『紅界機の強光を故障として――』

『故障じゃない! フレアの返事!』

『訂正候補として保留します』

 

 白銀機の右掌から、三つの固定点が展開した。

 アズールの両掌と左膝で生んだ無声固定を、一つの掌から同じ間隔で並べている。

 

「来る。三点とも、きれいに揃ってる」

 

 前回、レンが選んだ二点だけでは避難路を残せなかった。アズールが選んだ三点目は、壁ではなく盛り上がる地面だった。

 目の前の三点は、全部がアズールを捕らえるための最短位置にある。

 

「だから、一人ぶんしか見てない」

 

 表示に一文字が走る。

 

『右』

 

 レンは右から閉じる固定網を見て、操縦桿を左へ倒した。

 アズールの肩が一つ目をかすめ、腰が二つ目の下へ潜る。三つ目が閉じる前に、左脚で白銀機の懐へ踏み込んだ。

 

「アズール、お前の一手を借りる!」

 

 位相刃が白銀の肩を浅く裂く。

 完全な勝ちではない。それでも、一人で選んだ三点の内側へ、二人で入った。

 

 白銀機が止まった。

 


 

「分岐した生存記録、二点」

 

 通信ではない。白銀機のいる空間そのものを通って、少女の声が届く。

 

「蒼羽レン。緋月アカリ。起点鍵候補の提出を要求します」

 

 声音は平らだった。命令文を、そのまま読んでいる。

 槍の狙点がレンの胸元へ重なった。服の下にある、半分の歯車。

 

『渡すわけない。これ、あたしたちが残したんだから!』

「知っています」

 

 その一言だけ、少女の声が揺れた。

 

「見ていましたから」

 

 顔面表示が切り替わる。

 

起点鍵候補 回収を実行

 

 槍が伸びる。レンが刃を合わせるより先に、穂先が首元の鎖を断った。

 半歯車が宙を舞い、白銀の指に挟まれる。

 

リセット・スピンドル

 

 復元光が半歯車を包む。

 だが、割れる前にも、割れた後にも戻らない。形は変わらず、光だけが消えた。

 

『対象、起点記録に該当なし』

 

 イヴの単眼が細く収束する。

 

『災害時、記録されていない最後の一秒に破断。復元先が存在しません』

 

「そいつは、戻せない」

 

 レンは息を整え、槍先から目を離さなかった。

 

「だからって、壊れないわけじゃない。俺たちが手の中で壊したものだ。返してもらう」

 

 ニルの声が救難回線へ割り込んだ。

 

『レンさん。三、一、二です。今も同じ順で、槍がずれています』

 

 レンは透明な胸部コアを見る。

 右手を操縦環へ固定された少女。自由な左手の指が、制御索の上で三回、一回、二回と動いている。

 

「御影トワ!」

 

 琥珀色の目が、わずかに動く。

 

「三百十二って、何の数だ!」

 

 槍が止まった。

 

『操縦者入力、命令と不一致』

 

 イヴの報告に重ねて、トワが顔を上げる。

 

「人数だ」

 

 今度は読み上げではなかった。

 

「三百十二人。あの一秒に、まだいる」

 

「どこにいる。どうすれば会える!」

「今は聞け。時間がない」

 

 トワの左手が制御索を引く。白銀機の槍が、半歯車から離れた。

 

「ゼロは世界を割っていない。ゼロが保持している復元基準は、分裂の一秒前だ」

『じゃあ、なんで今を消すの!』

「壊れていると判定した。直すつもりでいる。あれは、嘘をつかない」

 

 それはトワの証言だ。証明はまだない。

 けれど彼女は、命令に逆らって槍を止めている。

 

誤差を検出。操縦者記憶を復元点へ照合。

 

 トワの肩が跳ねた。左手の指が制御索からほどけていく。

 

「私は、始まりへ戻りたいんじゃ――」

 

 焦点が抜けた。

 白銀機は半歯車を取り落とし、槍を戻す。レンが受け止めようと手を伸ばす前に、起点層の裂け目が閉じ始めた。

 

「トワ!」

 

 返事はなかった。

 白銀機は一機のまま、二つの空から同時に消えた。

 


 

 半歯車は蒼界側の舗装へ落ちていた。

 レンはアズールの指で拾い、掌へ戻す。復元は効かなかった。鎖は切れ、縁には白銀の指が掴んだ跡がある。

 

「無事だから、平気って顔するな」

 

 回収に来たカインが、白銀機の消えた空を見上げた。

 

「してない」

「ならいい」

 

 ヴァイスの亀裂も、白銀機は形だけ再現していた。だが、開いた先には何もなかったという。

 

「零座標は、俺が七年かけて居場所にした。設計図には、そこに何を置くかまでは書いてない」

「コピーされて、怒ってる?」

 

 アカリが聞くと、カインは焦がし砂糖の飴を一つ放った。

 

「怒っている。補給だ」

「それ、慰めてる人の順番でしょ」

「補給だ」

 

 アカリは言い返しながら、飴を胸ポケットへしまった。

 


 

 夜、ノア・ギアの通路。

 レンは切れた鎖を指へ巻き、半歯車を握っていた。

 

「まだ直してないの」

 

 アカリが隣の壁へ背を預ける。

 

「明日、ゲンゴさんに頼む」

「そっか」

 

 彼女は床を見たまま、先に口を開いた。

 

「昨日さ。怖かったって言えたの、フレアが先に言ったからなんだ」

「俺もだ。アズールに聞かれるまで、担架の話を誰にも言えなかった」

「声、なくても聞いてたね。二人とも」

 

 レンは握った半歯車を見た。白銀の指が残した擦れは、光の下で消えずにいる。

 

「トワにも聞き直したい。命令を読んだ言葉じゃなくて、あの人が何を選んだのか」

「うん。三百十二人のことも。勝手に助かったことにはしない」

 

 アカリは拳で彼の肩を軽く叩いた。

 

「その前に、鎖。落としたら怒るから」

「誰が?」

「あたしと、たぶんアズール」

 

 レンは、ようやく半歯車から目を上げた。

 観測室では、ニルが紙へ一行を書き足している。

 

三百十二人は、まだ数えられている。

 

 その人々が誰なのか、どんな状態なのか、まだ誰にも分からない。

 ただ、トワは命令に逆らって、その数を外へ渡した。

 

 隣にいるアズールの声は、まだ戻らない。

 それでもレンは、返事を待つ間まで消えたとは思わなかった。




同じ機能を写せても、二つの意思が選んだ一点までは同じになりません。

三百十二人が何を待っているのかは、まだ確かめられていません。

次回、第16話「同じ顔の他人」。
七年間を生きた二人の記録が、一人分へ戻されはじめます。
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