【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ   作:シラヌイ321

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七年を取り戻せても、今いる君を消すなら、いらない。
青、赤、紫。三機は別々のまま、誰も杭にしない救出へ。


第6話 誰も選ばなかった世界

第1期 第6話

誰も選ばなかった世界

 

 紅界の鉄橋が、蒼界のビルを突き破った。

 砕けた窓が避難列へ降る。レンはアズールを割れた壁へ滑り込ませ、左腕で支えた。

 

「アズール、破片を止めて!」

『固定対象、二百七十一。安全上限を超えています』

 

 青い円環に、ガラスが止まる。固定は一秒。ほどける前に次の輪を重ね、レンは落下物を支え続けた。

 右掌は橋の先端へ。押し返せば、紅界の避難路まで崩れる。

 赤い通信窓が開き、アカリの声が飛んだ。

 

『こっちは根元を掴んだ。重なった部分だけ、外すよ!』

「右へ十二度。下に人がいる!」

『了解。そっち、持つ?』

『避難完了まで四・八秒です』

「五秒、持たせる!」

 

 紅界でフレアが鉄橋を引いた。青い掌へ鉄骨が食い込み、レンの背が座席へ押される。左腕を下げるな。目の前の背中を、全部通せ。

 赤い機体が重なった部分を抜き、無人の荒野へ投げた。

 五・一秒。ビルから圧力が消える。

 

『予定を〇・一秒超過しました』

「避難者は?」

『全員無事です』

「……なら、持った」

 

第三ゼロ・アンカー。完全起動まで、十一時間四十一分十二秒。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 同じ衝突が、百八十七か所で始まっていた。

 ノア・ギアへ戻った二機の窓に、カインが黒い扉の座標を送る。

 

『行き先は原初座標。七年前の記録で、今の世界を塗り潰す場所だ』

「昔へ戻れるんじゃないんだな」

『戻すのは記録だけだ。今の子供も、街も、消される』

 

 ゲンゴが、ヴァイスの損傷した肩を応急装甲で覆った。主動力は六十一パーセント。空洞になった胸へ、青と赤の補助回路を組み込む。

 青側のレンと赤側のアカリは、位相窓に映っている。並んで見えても、身体は別々の世界だ。

 

『扉は一度だけ開ける。開けたら、俺の力では帰れない』

『帰りは、ノア・ギアがつなぐ』

 カナメが応じた。

『ニルを救出。第三の杭を停止。アウレルは生きて確保する』

『……殺すなと?』

『会う前に答えを決めるな』

 

 カインは二本の位相刃を見た。返事の代わりに、握り直す。

 残り十一時間二十六分。応急修理と発進準備に、二時間。

 


 

 残り九時間十八分。

 三つの発進路から、青、赤、黒銀が飛んだ。

 ヴァイスの二刃が黒い扉へ食い込む。アズールは開いた片側を固定し、フレアが反対側を押す。

 黒い装甲の継ぎ目から、紫の火花が噴いた。

 

 ユナの警告が、三者通信へ入った。

『このままでは、帰還能力を失います』

『分かっている。先に――』

「三機一緒だ!」

『置いていく気、ないからね!』

 

 青と赤の腕が、ヴァイスを支えた。

 三機は合体せず、扉の隙間へ突入する。母艦から伸びた黄金の位相索が、ヴァイスの背部へつながった。

 

『帰る場所を見失うな』

 

 扉が閉じた。

 七年前の午後四時十七分。止まった時計の下へ落ちた三機は、別々の街区へ引き離された。

 仲間の通信が、雑音に変わる。母艦へ続く帰還索は、位置記録への応答がここで途切れた。

 

 アズールの前で、十七歳のアカリが手を振っていた。

 同じ学校へ通い、喧嘩も仲直りもして、七年を隣で過ごした少女。

 

「レン、遅い。帰ろう」

『記憶と生体反応を照合。重大な矛盾は確認できません』

 

 アズールの声に、レンは息を止めた。

 白い道路で見た、抜け落ちた記憶とは違う。ここには失敗も、痛みもある。選ばれていれば、続いていた七年だ。

 操縦席が開く。差し出された手は、すぐそこにある。

 

「ここを選んだら、今の街は?」

『分裂後の存在は、発生しなかったものへ戻します』

 

 街全体から返事が響いた。原型炉の声だ。

 アズールが、現在の街で助けた人々の名前を開く。分裂後に生まれた子供もいる。

 

『この一覧を消去しますか』

「残して。俺が帰る方へ」

 

 レンは操縦席を閉じた。少女の手を取らなかった。

 

「一緒に過ごした七年は、今も欲しい。でも、あの人たちは消さない」

 

 青い円環が地面へ広がる。欲しかった街が、光へほどけた。

 

 フレアの前には、壊れなかった配給所があった。

 避難路で救えなかった女性が、「おかえり」と笑っている。水も食べ物も足りている。アカリは開いた席から、身を乗り出した。

 

「会いたかった。ずっと……謝りたかった」

「もう頑張らなくていいよ」

 

 フレアが赤い名簿を開く。今の居住区にいる七歳の少女と、五歳の兄弟。ここでは、その三人が生まれない。

 

「両方、残してよ」

『原型炉へ要求しました。回答は、同時維持不能です』

 

 アカリの手が、途中で止まった。

 相棒は、どちらを選べとも言わない。

 

「忘れないよ。あなたのことも」

 

 涙を拭き、席を閉じる。

 

「でも、今のあの子たちも、絶対に失わない」

 

 赤い拳が地面へ触れた。帰る先をアカリが告げると、フレア・ドライブの光が街をほどいた。

 

 カインの前では、幼いニルが白い研究室に立っていた。

 若いアウレルが頭を下げる。

 

「すまなかった。お前たちは部品ではない」

『帰ってきて、カイン』

 

 七年、聞きたかった言葉だった。

 カインは機体を降り、ニルへ手を伸ばす。

 

「今度は忘れないか」

『絶対に忘れません』

 

 完璧な答えに、指が止まった。

 今のニルは、そう約束しなかった。失っても、何度でも思い出すと、自分で言った。

 

「……俺は、あいつの続きを聞く」

 

 カインはヴァイスへ戻る。二本の刃で、白い研究室を切り裂いた。

 許せるか分からない今を、選んだ。

 


 

 三機が、別々の足場へ叩き戻された。通信がつながる。

 中央にいる白衣のアウレル。その上に、ニルの透明な収容室。男の胸から黒い管が、原型炉へ伸びていた。

 

『現在の記憶を保持。改変はありません』

「アカリ、いるか!」

『いる。帰ったら、話の続きね』

『二人とも、前を見ろ』

 

 カインが刃を向けた先で、黄金の輪が折り畳まれた。

 三重の輪を背負う白金の人型機が、アウレルとニルを包んで立つ。

 

識別、F-00オリジン。胸部の透明な核に、ニル。

 

「胸は壊すな。外を開ける!」

 

 アズールが円環を放つ。

 第一の黄金輪が回った。腕が構える前へ戻り、円環まで掌へ押し戻された。

 

『行動が〇・八秒、戻されました。記憶は保持しています』

『なら、次はこっち!』

 

 フレアが踏み込む。拳が敵の顔へあと十センチ。

 第二輪が回り、赤い機体は出発点へ戻った。推進器の熱だけが残る。

 ヴァイスが背後へ回り、二刃を振る。第三輪が回り、黒銀の機体も元の位置へ戻された。肩の応急装甲に、新しい亀裂。

 

 フレアの警告が赤い通信を走る。

『傷も、負荷も、戻りません!』

 ユナの解析が三機へ届いた。

『原初回帰一回ごとに、外の残り時間が二十七分減っています』

 

 その声に重なって、白い刃が三機へ降った。

 レンは掌を上げた。青い輪が戻される。肩へ白刃が刺さり、操縦席が横へ跳ねた。

 庇おうとしたフレアも戻され、右脚を切られる。ヴァイスの背部装甲を刃が貫いた。

 四度目の原初回帰。残り七時間三十分。

 

「輪だ。順番に光ってる!」

 

 レンは白い刃を避けながら、三輪の記録を開いた。

 

『輪の間隔は〇・〇二秒。全周〇・〇六秒。一機ずつ処理しています』

「三機、同時に入る。誤差は〇・〇一秒以内!」

『今度は、俺も時刻を渡す』

 カインの声が返った。

「アズール、リンクするぞ!」

 レンも相棒へ呼びかけた。

『出力と開始時刻を共有します。操縦権は各機で保持。接続を承認します』

『フレア。ニルを傷つけずに、胸を開こう!』

『はい。こちらも承認します!』

 

 青と赤のペンダントが光った。ヴァイスの胸の補助回路にも、紫の光が走る。

 カインが開始信号を送った。

 

トライ・ギア・リンク。三機独立制御。同期誤差、〇・〇〇七秒。

 

 アズールの左掌が開く。青い円環は敵の腕ではなく、午後四時十七分の時計を掴んだ。

 戻される開始点を、動かさない。

 

レン「俺が止める。アカリ、踏み込め!」

 

 フレアの右拳が引かれた。第二輪が光る。赤い機体が後ろへ引かれ、足裏が足場を削る。

 アカリは操縦環を押し切った。

 

アカリ『戻される分まで、前へ行く!』

 

 青と赤の間にできた〇・〇二秒へ、ヴァイスが飛び込む。

 第三輪が光る直前。紫の刃が、白い回帰の道を断った。

 

『切った。今だ!』

 

 赤い拳が白金の胸へ届く。

 フレア・バースト。装甲を砕く衝撃を、青い円環が外へ留めた。中のニルへは通さない。

 割れた装甲の奥へ、ヴァイスの二刃が走る。アウレルから炉へ続く黒い管が見えた。

 三色の力が、開いた一点へ集まる。

 レンが呼び、アカリとカインが声を重ねた。

 

「トライ・ギア――」

『リベレーション!』

 

 赤い拳が継ぎ目を押し広げる。飛ぶ破片を青い円環が留め、紫の刃が裂け目をこじ開けた。

 反動が三つの座席を叩く。三人は、操縦環を離さなかった。

 三重輪が砕けた。白金の胸が、外側へ開く。

 透明な収容室は、残った。

 

 オリジンが膝をつく。第三の杭は止まらない。

 残り七時間二十九分。空に映った青い街と赤い街が、互いへ滑り始めた。

 


 

 青と赤の掌が、閉じかける胸の外殻を押さえた。

 制御室へ実体で入れるのは、零座標に適合するカインだけ。短距離転送環へ、カインが立つ。

 

『一人で決めないで。声は届くから』

 

 アカリに頷き、三者通信を開いたまま転送した。

 透明な壁の前にニル。その足元で、アウレルが胸の管を押さえていた。

 レンとアカリは各機に残り、青と赤の窓へ映っている。

 

「離せ。上書きを止めろ」

「今切れば、両世界が激突する」

『事実です。炉は引き寄せながら、速度も抑えています』

 

 ユナの声に、カインの手が止まった。

 ニルが透明な壁へ両手を当てる。

 

『私が演算を引き受ければ、収容室は開きます』

「また、お前一人を残すのか!」

 

 レンの画面には、三つの答えが並んでいた。アウレルを残す。ニルを残す。カインを戻す。

 

『俺なら――』

『駄目。七年前と同じ場所へ、同じ人を戻さない!』

「一人じゃなく、分けよう。青が蒼界を止める。赤が紅界を押す。紫が間に、ぶつからない空間を作る」

『母艦へ負荷を分散できます。ただ、帰還索の位置記録への応答が途切れています』

 

 侵入時の黄金線を、母艦へつなぎ直さなければならない。

 

『私が一度だけ、つなぎます』

 ニルが言った。

『記憶を失うかもしれません。でも、失っても思い出すと、私が約束しました』

「……一人で決めるなと言っただろ」

『決めません。三人へ、協力をお願いします』

 

 レンが青い半歯車を掲げ、アカリも赤を向けた。カインは黒い識別環を外し、透明な壁へ当てる。

 三つの信号が届く。壁が開いた。

 倒れてきた白い身体を、カインが両腕で受け止めた。

 

『覚えています。あなたが、私に名前をくれたこと』

「……あとでもう一度、聞かせろ」

 

 ニルを床へ座らせ、アウレルへ向き直る。

 

「お前も、接続を切れ」

「切れば、七年前を訂正できない。私は、子供に選択を押しつけた。だから――」

「だから、謝る相手ごと消すのか!」

 

 カインの拳が、男の頬を打った。

 二度目の拳は、上げたまま止まった。青と赤の窓の二人が、続きを待っていた。

 

「俺も、全部消えろと思った。……だが、消したら聞けない」

 

 ニルへ、アウレルへ、順に目を向ける。

 

「許せないまま、聞き続ける。生きてるなら、答えは変えられる」

 

『償う相手まで消したら、謝れないよ』

 アカリが続けた。

 アウレルの指が、胸の留め具へ触れる。ニルは男を見た。

 

『番号で呼んだことは、許していません。でも、次に何を選ぶかを、見ます』

 

 男が、黒い装置を引き抜いた。

 床が跳ねた。炉から黒い光が噴き、第三の杭との接続が切れる。

 

『界面衝突まで、五分!』

 

「行け」

「お前もだ。生きろと言って、置いていけるか」

 

 カインはニルと、倒れたアウレルをヴァイスの後部区画へ転送した。

 最後に自分も環へ入る。

 

『カイン、戻って!』

「……すぐ戻る」

『うん。声、つないで待ってる!』

 

 白い制御室が崩れた。

 カインが席へ帰ると、ニルを補助席へ移し、アウレルを後部区画で拘束した。

 


 

 残り三分四十秒。

 ニルの右の青い目と、左の赤い目が灯る。位相索をつなぐ一度の作業、その最初の接続が弾かれた。

 白い髪から光の粒が落ちる。

 

「ニル。何を覚えてる」

『カインが、私に名前をくれました』

 

 二度目。青側が応じた。

 

『レンとアカリを救う方法を、教えてくれました』

 

 三度目。赤側も応じる。

 

『忘れても、何度でも思い出します』

 

 黄金線が張った。ノア・ギアの声が戻る。

 

『帰還記録、確認。全境界杭を展開する!』

 

 母艦の黄金環へ、三機の線が集まった。

 一人を杭にしない。四つの支点で、二世界を支える。

 アズールが蒼界側へ飛ぶ。

 

「アイオン・ロック、世界座標固定!」

 

 青い円環が地平線へ閉じた。両腕の装甲が剥がれる。操縦環がレンの手を後ろへ引き、肘に痛みが走る。

 フレアは紅界の界面へ両掌を当てた。

 

『フレア・ドライブ、全出力!』

 

 右脚が沈む。既に裂けた外装が熱で剥がれ、冷却管が露出した。アカリは息を吐き、両脚で踏ん張った。

 ヴァイスは、二つの間へ立つ。残る零座標を、逃げるためではなく、衝突しない空間へ開いた。

 黒い背部装甲が弾け、白金の外殻を押さえて傷んだ位相刃の一本が、ここで砕けた。

 七年前と同じ痛みが、カインの胸へ刺さる。

 

『カイン』

 補助席から、ニルが呼んだ。

「今度は、落ちない」

 

 残り三十秒。母艦が傾く。それでも、四つの支点は離れない。

 十秒。重なった建物が薄れる。

 五秒。黒い歯車へ亀裂。

 一秒。

 

「今だ、離す!」

『押し返す!』

 

 青い固定がほどけ、フレアが紅界を押して跳んだ。ヴァイスが中央の亀裂を閉じる。

 黄金線が三機を引き寄せた。

 

第三ゼロ・アンカー、停止。蒼界・紅界、各位相へ復帰。

 

 黒い歯車が、光になって降る。

 二つの世界は一つにならず、それぞれの空へ戻った。

 蒼界のビルから赤い鉄骨が消え、紅界の橋には基部と避難路が残った。

 青と赤、二つの避難列が、止まらず先へ進んでいく。

 


 

 母艦の医療区画は、三つの位相窓でつながっていた。

 レンの両腕に固定具。アカリは痛む右脚を寝台へ乗せている。身体同士には、まだ手が届かない。

 修理画面には、アズールの左腕主装甲喪失、フレアの右脚外装半壊、ヴァイスの背部外装損傷と位相刃一本喪失が並ぶ。

 零位相区画で、ニルが自分の白い手を見ていた。

 

「端末機能は安定。記憶欠損も確認されません」

 ユナの報告を聞き、カインが初めて肩を下ろす。

『カイン、あとでもう一度、聞きますか』

「……聞く」

 赤い窓で、アカリが小さく笑った。

 

 アウレルは拘束室で生きている。回復後の事情聴取も、終端機関ゼロを率いた責任も、消えない。

 ユナが新しい信号を開いた。

 

「杭の停止直前、原型炉が自動送信しました。アウレルの操作ではありません」

 

 行き先は青でも赤でも、原初の側でもない。第四の方向だ。

 ニルが目を見開いた。

 

『七年前、暴走の直前にも届いた信号です』

 

 星のない空間で、四つの黒金の歯車が回る。巨大な人型の影が、こちらを向いた。

 

三名による自由選択を観測。再接続条件、成立。

 

 二つの空に、同じ黒金の点が灯った。

 救えたはずの夜へ、向こう側から影が動き始める。




失った人を忘れず、今いる人も消さない。
次回、第7話「第四の選択者」。救った二つの空を、同じ黒金の影が見ていた。
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