【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ   作:シラヌイ321

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七十二時間の向こうから、白い少女が帰還を告げる。
三本の杭の前に立ったのは、三機がよく知る戦い方だった。


第8話 終界の少女

第1期 第8話

終界の少女


 

終界接続まで、六十三時間四十分二十二秒。

 

 七十二時間で来るものが、何なのか。

 ノア・ギアが確認できたのは、レン、アカリ、カイン、ニルの四者の自由選択が再接続条件を満たしたことと、QX-04――第四観測機クアドラの本体が別の側にいることだけだ。

 白髪の少女も、その場所も、まだ正体不明。

 今やることは一つ。三機を直しながら、彼女の信号を追う。

 

 両界を結ぶ共同放送では、蒼界の少年が青い栄養食を掲げていた。

 

「そっちの丸いの、本当に食べ物?」

『そっちこそ工具じゃないの?』

 

 紅界の少年が焼きパンを見せる。二人は笑い、いつか半分ずつ交換すると決めた。

 蒼界の避難所では、幼い娘を抱く父親が端末を伏せた。

 

「また亀裂が開くなら、もう見せたくない」

 

 紅界の配給所では、杖をついた老人が画面の音量を上げた。

 

『向こうにも避難所があるなら、話だけは聞かせてくれ』

 

 レンは格納庫の通信窓から、その両方を見ていた。

 

レン「アカリ。パンの約束、先を越されたな」

アカリ『私たちは一緒に食べる約束でしょ。パンの交換より、大きいって』

 

「……まだ、三人分だけどな」

『……うん。だから、ちゃんと帰ろう』

 

 赤い窓越しに、アカリが笑う。

 同じ床にはまだ立てない。それでも、帰る先はもう一人分ではなかった。

 


 

 医療区画で、ニルが鏡へ右手を伸ばした。

 鏡の中だけ、白い髪の少女の瞳が変わる。右が黒、左が金。

 

N∞-01 帰還端末ミラ

 

「ようやく帰れます、始まりの人」

 

 鏡の中の少女が、ニルへ呼びかけた。

 

「鏡の向こうのあなたは、未来の私なんですか」

 

 ニルの問いに、少女が答える。

 

「いいえ。私は、あなたの記憶と選択記録から造られました。あなたとは別の端末です」

 

 黒金の亀裂が鏡を走った。ニルの右掌から、赤い血が落ちる。

 駆け込んだカインが、その手を掴んで止血膜を貼った。

 

「手を動かすな。触る前に俺を呼べ」

「次は、触る前にカインを呼びます」

「次を作るな」

 

 黒金に染まった鏡片は、作戦室へ運ばれた。

 

「ニルから、接続を切れないか」

 

 カインの問いに、ユナはニルの第四選択信号を示した。

 

「経路だけなら切れます。ただし、ニルが新しい判断を記録できなくなる可能性があります。生命維持と既存記憶は残ります。危険があるため、実行案には入れていません」

「入れるな」

 

 カインが遮る。ニルもユナを見て言った。

 

「私は、この先も自分で選びたいんです」

 

 ユナが識別形式を照合し、アウレルがノア・ギアの骨格図を重ねる。

 人類の符号。母艦と同じ根の構造。百二十七年後という時刻。

 照合結果は、一つの結論を示した。

 クアドラは、未来の人類がノア・ギアを発展させて造った機体だった。

 最後に、金色の都市の地下へ無数の反応が灯った。

 

終界生命反応 一億八千四百万人。全員、低活動状態。

 

「数ある未来の一つです。停止すれば、いずれ生命維持は終わります。接続を許した場合は、現在の両界が上書きされる可能性が高いと判断しています」

 

 ユナは確認できた生命反応と、接続した場合の危険を分けて告げた。

 誰がクアドラを暴走させたのか。なぜミラが帰還を望むのか。そこはまだ分からない。

 

「どちらかを捨てるしか、ないんですか」

 

 ニルが問う。

 

「捨てない」

『それは嫌』

 

 レンとアカリの声が重なった。

 

「現在を守る」

『終界の人も助ける。見つけたんだから!』

 

 その直後、警報が二つの世界を貫いた。

 

終端接続杭、三基出現。完全固定まで、十一分四十秒。

 

 蒼界、紅界、零座標に一本ずつ。固定されれば、残り時間は二十四時間まで削られる。

 

「左腕も右脚も、刃もまだ直しきってねえぞ!」

 

 ゲンゴの怒声を背に、三つの操縦席が閉じた。

 アズールの左腕出力は七十一パーセント。フレアの右脚は六十六パーセントで、瞬間加速は一回だけ。ヴァイスの位相刃は未修復だった。

 

 それでも三機は立ち上がる。

 

「杭を折って帰ろう。敵は追わない」

『了解。寄り道したら怒ってよ』

「もう怒られてる」

 


 

 三本の杭の前に、青黒、赤黒、黒金の機体が立った。

 残響機。未来の本人ではない。三機の行動記録から、予測どおりだった過去の正解だけを写した無人機だ。

 

 蒼界では、レンが避ける先へ青黒い円環が重なる。アズールの両脚が地面へ縫い止められた。

 紅界では、同じ角度の赤い拳がぶつかる。傷んだ右脚だけが負け、フレアの背が道路を削った。

 零座標では、残響ヴァイスが自分の胸を杭へつなぎ、他の二機へ力を送り続ける。

 

『皆さんの得意な機能を、別の人に預けてみませんか』

 

 観測席のニルが言った。

 

 カインが回線越しに問う。

 

『命令は?』

『しません。誰に預けるかも、使い方も、皆さんが選んでください』

 

 ユナが帰還用の位相索を一度だけ逆流させる。貸した機能は、その間、元の機体では使えない。

 

『レン、アイオン・ロックの外部使用権をフレアへ移せます。実行には、あなたの明示承認が必要です』

 

 アズールの落ち着いた声に、フレアが続く。

 

『フレア・ドライブの推進権なら、アズールへ移せます! 加速は残り一回です。貸したら、ちゃんと返してくださいね』

 

レン「アカリ。アズールの固定、預けるぞ」

アカリ『レン、フレアの加速を預ける。任せたからね』

カイン『ヴァイスの外部亀裂を二機へ預ける。中核は帰還路に残す』

 

 三機の身体は分かれたまま、機能だけが渡る。

 

アズール/フレア:返却条件を指定してください。

 

レン「生きて帰った時」

アカリ『生きて帰った時』

 

 今度は二人の声がぴたりと重なった。

 人の選択を受け、二機のAIが貸与を承認した。ヴァイスの外部亀裂が青と赤へ分かれ、代わりに両機の安定出力が黒銀機を支える。

 

クロス・ギア・シフト!

 

 アズールの背へ赤い光が爆ぜた。

 レンは脚の固定を解かない。借りた加速で地面ごと蹴り砕き、一息で青黒い影の背後へ回る。さらにヴァイスから借りた外部亀裂へ敵の円環を流すと、残響機自身の脚が止まった。

 

「自分の正解なら、受け取れ!」

 

 青い肩が残響機を杭へ叩き込む。黒金の柱に亀裂が走った。

 

 紅界で、アカリは立ち上がらない。突っ込んでくる赤黒い足だけを、借りた円環で止める。

 上半身だけが勢いのまま投げ出された。

 

『うわ、重っ! 止める方がきついじゃない!』

 

 アカリは借りた固定で残響機の足を止め、ヴァイスから借りた外部亀裂を杭の真上へ開く。残響フレアが自分の加速で落ち、杭を根元から砕いた。

 

 零座標では、残響ヴァイスが杭の前をふさいでいた。その胸から伸びる一本の線が、背後の杭につながっている。

 カインは、ヴァイスが握る折れた剣を見た。刃は根元に短く残っているだけだ。届かせるには、敵のすぐ脇まで踏み込まなければならない。

 

カイン『レン、力を貸せ。アカリ、お前もだ』

レン『送ってる。そっちは頼んだ!』

アカリ『任せて。思いっきりやって!』

 

 二機から力が届く。ヴァイスの腕の揺れが収まり、短い刃が敵の胸と杭を結ぶ線へ向いた。

 カインは操縦桿を押し込む。ヴァイスが敵の脇へ踏み込み、剣を振り上げた。

 

カイン『俺一人を、杭にはしない!』

 

 短い刃が、胸から伸びる線を断ち切った。杭とのつながりを失った残響ヴァイスが、膝から崩れる。

 ヴァイスは崩れた敵の横を抜けた。目の前に、三本目の杭がある。

 ヴァイスが剣を横へ振り抜く。刃が杭に食い込み、黒金の柱を断ち切った。

 

完全固定まで、二秒。 一秒。 停止。

 

 三本の杭が砕ける。

 二十四時間への短縮は起きなかった。

 止めたのは期限の短縮だけだ。六十時間を超える終界接続の時計は、まだ減り続けている。

 


 

 

【挿絵表示】

 

 

 破片から戻った黒金の光が、ノア・ギアの観測席で人の形を結んだ。

 白い髪。黒い右目。金の左目。

 

帰還端末ミラ 現在側物質密度三・八パーセント

 

 半透明のミラが、ニルへ手を伸ばす。

 

「終界の人々は、あなたを忘れなかったのです。だから私は、あなたの姿に造られました」

「戦争を止めるため、クアドラは未来を一つに固定しました。その結果、新しい選択も時間も止まりました」

 

 ミラの話を聞き、ニルが尋ねた。

 

「私に、来るよう命令しているんですか」

 

 ミラは、伸ばした手をそのままに答えた。

 

「命令はしません。終界へ来るかは、あなたに選んでほしいのです」

 

 ニルはその手を見た。背後でカインが名を呼ぶ。

 

「行きません。でも、あなたが守ろうとしている人々を、私にも見せてください」

 

 ニルは、止血膜の貼られた右手を上げ、自分でその手を重ねた。

 止まった都市。眠る人々。巨大なクアドラ本体。その深部に、青と赤の透明な棺が浮かぶ。二つの棺と、その奥に青、赤、紫の生命反応がある。顔も名も、黒金の遮蔽で見えない。

 

「黄金座標が生まれれば、それは現在への最短経路になります。クアドラが捕捉すれば、残り時間を待たず接続は成立します」

 

 ミラの身体が粒へほどける。

 

「それでも、どうか来てください。誰が待っているかを知れば、あなたたちは来るのです」

 

 光が消えたあとも、ニルの右手は前へ伸びていた。

 

 カナメが現在の二世界と、止まった未来を並べる。

 

「この方針で指揮を執る。蒼界を残す。紅界も残す。終界の一億八千四百万人も救う」

 

 アウレルが目を伏せた。

 

「……私の知る限り、その答えは存在しない」

「なら、作る」

 

 カインが即答する。

 作戦名は、デュアル・フューチャー。

 最初の仕事は、終界へ渡る細い道を作ること。

 

 三機が整備台へ戻ると、借りていた機能はそれぞれの機体へ返った。

 カナメは終界の映像と、現在の二世界が消える危険を両界へ公開した。

 

 蒼界の広場で、男が拳を握る。

 

「まだ生まれていない未来のために、俺たちが消えるのか」

 

 紅界の配給所では、女性が眠る子供の映像へ手を伸ばした。

 

『でも、見つけた命を置いていくの?』

 

 答えは割れた。だからこそ、誰か一人へ決めさせることはできない。

 

 レンは赤い通信窓を見る。アカリもこちらを見ていた。

 

『終界へ行けたら、同じ場所に立てるかな』

「会えたらさ、今度は一緒に帰りたい。帰り道も、ちゃんと作ってからな」

『もう、先に会いたいって言ってよ』

「……会って、四人で帰る」

 

 アカリが一瞬黙り、それから笑った。

 

『……うん。それなら許す』

 

終界接続まで、六十二時間三十一分九秒。

 

 敵の奥に、救うべき人がいる。

 そして黄金座標は、捕捉された瞬間に終界を現在へ招く。




次回、第9話「九十秒のインフィナイト」。黄金座標を開かず、終界への道を作れるのか。
 よければ、ひとつだけ教えてください。
 印象に残ったのは、力を預け合った三機の戦いでしたか。それとも、ニルとミラの選択でしたか。

 感想をいただけると、次の一話を書く力になります。
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