【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ 作:シラヌイ321
三本の杭の前に立ったのは、三機がよく知る戦い方だった。
七十二時間で来るものが、何なのか。
ノア・ギアが確認できたのは、レン、アカリ、カイン、ニルの四者の自由選択が再接続条件を満たしたことと、QX-04――第四観測機クアドラの本体が別の側にいることだけだ。
白髪の少女も、その場所も、まだ正体不明。
今やることは一つ。三機を直しながら、彼女の信号を追う。
両界を結ぶ共同放送では、蒼界の少年が青い栄養食を掲げていた。
「そっちの丸いの、本当に食べ物?」
『そっちこそ工具じゃないの?』
紅界の少年が焼きパンを見せる。二人は笑い、いつか半分ずつ交換すると決めた。
蒼界の避難所では、幼い娘を抱く父親が端末を伏せた。
「また亀裂が開くなら、もう見せたくない」
紅界の配給所では、杖をついた老人が画面の音量を上げた。
『向こうにも避難所があるなら、話だけは聞かせてくれ』
レンは格納庫の通信窓から、その両方を見ていた。
レン「アカリ。パンの約束、先を越されたな」
アカリ『私たちは一緒に食べる約束でしょ。パンの交換より、大きいって』
「……まだ、三人分だけどな」
『……うん。だから、ちゃんと帰ろう』
赤い窓越しに、アカリが笑う。
同じ床にはまだ立てない。それでも、帰る先はもう一人分ではなかった。
医療区画で、ニルが鏡へ右手を伸ばした。
鏡の中だけ、白い髪の少女の瞳が変わる。右が黒、左が金。
N∞-01 帰還端末ミラ
「ようやく帰れます、始まりの人」
鏡の中の少女が、ニルへ呼びかけた。
「鏡の向こうのあなたは、未来の私なんですか」
ニルの問いに、少女が答える。
「いいえ。私は、あなたの記憶と選択記録から造られました。あなたとは別の端末です」
黒金の亀裂が鏡を走った。ニルの右掌から、赤い血が落ちる。
駆け込んだカインが、その手を掴んで止血膜を貼った。
「手を動かすな。触る前に俺を呼べ」
「次は、触る前にカインを呼びます」
「次を作るな」
黒金に染まった鏡片は、作戦室へ運ばれた。
「ニルから、接続を切れないか」
カインの問いに、ユナはニルの第四選択信号を示した。
「経路だけなら切れます。ただし、ニルが新しい判断を記録できなくなる可能性があります。生命維持と既存記憶は残ります。危険があるため、実行案には入れていません」
「入れるな」
カインが遮る。ニルもユナを見て言った。
「私は、この先も自分で選びたいんです」
ユナが識別形式を照合し、アウレルがノア・ギアの骨格図を重ねる。
人類の符号。母艦と同じ根の構造。百二十七年後という時刻。
照合結果は、一つの結論を示した。
クアドラは、未来の人類がノア・ギアを発展させて造った機体だった。
最後に、金色の都市の地下へ無数の反応が灯った。
「数ある未来の一つです。停止すれば、いずれ生命維持は終わります。接続を許した場合は、現在の両界が上書きされる可能性が高いと判断しています」
ユナは確認できた生命反応と、接続した場合の危険を分けて告げた。
誰がクアドラを暴走させたのか。なぜミラが帰還を望むのか。そこはまだ分からない。
「どちらかを捨てるしか、ないんですか」
ニルが問う。
「捨てない」
『それは嫌』
レンとアカリの声が重なった。
「現在を守る」
『終界の人も助ける。見つけたんだから!』
その直後、警報が二つの世界を貫いた。
蒼界、紅界、零座標に一本ずつ。固定されれば、残り時間は二十四時間まで削られる。
「左腕も右脚も、刃もまだ直しきってねえぞ!」
ゲンゴの怒声を背に、三つの操縦席が閉じた。
アズールの左腕出力は七十一パーセント。フレアの右脚は六十六パーセントで、瞬間加速は一回だけ。ヴァイスの位相刃は未修復だった。
それでも三機は立ち上がる。
「杭を折って帰ろう。敵は追わない」
『了解。寄り道したら怒ってよ』
「もう怒られてる」
三本の杭の前に、青黒、赤黒、黒金の機体が立った。
残響機。未来の本人ではない。三機の行動記録から、予測どおりだった過去の正解だけを写した無人機だ。
蒼界では、レンが避ける先へ青黒い円環が重なる。アズールの両脚が地面へ縫い止められた。
紅界では、同じ角度の赤い拳がぶつかる。傷んだ右脚だけが負け、フレアの背が道路を削った。
零座標では、残響ヴァイスが自分の胸を杭へつなぎ、他の二機へ力を送り続ける。
『皆さんの得意な機能を、別の人に預けてみませんか』
観測席のニルが言った。
カインが回線越しに問う。
『命令は?』
『しません。誰に預けるかも、使い方も、皆さんが選んでください』
ユナが帰還用の位相索を一度だけ逆流させる。貸した機能は、その間、元の機体では使えない。
『レン、アイオン・ロックの外部使用権をフレアへ移せます。実行には、あなたの明示承認が必要です』
アズールの落ち着いた声に、フレアが続く。
『フレア・ドライブの推進権なら、アズールへ移せます! 加速は残り一回です。貸したら、ちゃんと返してくださいね』
レン「アカリ。アズールの固定、預けるぞ」
アカリ『レン、フレアの加速を預ける。任せたからね』
カイン『ヴァイスの外部亀裂を二機へ預ける。中核は帰還路に残す』
三機の身体は分かれたまま、機能だけが渡る。
アズール/フレア:返却条件を指定してください。
レン「生きて帰った時」
アカリ『生きて帰った時』
今度は二人の声がぴたりと重なった。
人の選択を受け、二機のAIが貸与を承認した。ヴァイスの外部亀裂が青と赤へ分かれ、代わりに両機の安定出力が黒銀機を支える。
アズールの背へ赤い光が爆ぜた。
レンは脚の固定を解かない。借りた加速で地面ごと蹴り砕き、一息で青黒い影の背後へ回る。さらにヴァイスから借りた外部亀裂へ敵の円環を流すと、残響機自身の脚が止まった。
「自分の正解なら、受け取れ!」
青い肩が残響機を杭へ叩き込む。黒金の柱に亀裂が走った。
紅界で、アカリは立ち上がらない。突っ込んでくる赤黒い足だけを、借りた円環で止める。
上半身だけが勢いのまま投げ出された。
『うわ、重っ! 止める方がきついじゃない!』
アカリは借りた固定で残響機の足を止め、ヴァイスから借りた外部亀裂を杭の真上へ開く。残響フレアが自分の加速で落ち、杭を根元から砕いた。
零座標では、残響ヴァイスが杭の前をふさいでいた。その胸から伸びる一本の線が、背後の杭につながっている。
カインは、ヴァイスが握る折れた剣を見た。刃は根元に短く残っているだけだ。届かせるには、敵のすぐ脇まで踏み込まなければならない。
カイン『レン、力を貸せ。アカリ、お前もだ』
レン『送ってる。そっちは頼んだ!』
アカリ『任せて。思いっきりやって!』
二機から力が届く。ヴァイスの腕の揺れが収まり、短い刃が敵の胸と杭を結ぶ線へ向いた。
カインは操縦桿を押し込む。ヴァイスが敵の脇へ踏み込み、剣を振り上げた。
短い刃が、胸から伸びる線を断ち切った。杭とのつながりを失った残響ヴァイスが、膝から崩れる。
ヴァイスは崩れた敵の横を抜けた。目の前に、三本目の杭がある。
ヴァイスが剣を横へ振り抜く。刃が杭に食い込み、黒金の柱を断ち切った。
完全固定まで、二秒。 一秒。 停止。
三本の杭が砕ける。
二十四時間への短縮は起きなかった。
止めたのは期限の短縮だけだ。六十時間を超える終界接続の時計は、まだ減り続けている。
破片から戻った黒金の光が、ノア・ギアの観測席で人の形を結んだ。
白い髪。黒い右目。金の左目。
帰還端末ミラ 現在側物質密度三・八パーセント
半透明のミラが、ニルへ手を伸ばす。
「終界の人々は、あなたを忘れなかったのです。だから私は、あなたの姿に造られました」
「戦争を止めるため、クアドラは未来を一つに固定しました。その結果、新しい選択も時間も止まりました」
ミラの話を聞き、ニルが尋ねた。
「私に、来るよう命令しているんですか」
ミラは、伸ばした手をそのままに答えた。
「命令はしません。終界へ来るかは、あなたに選んでほしいのです」
ニルはその手を見た。背後でカインが名を呼ぶ。
「行きません。でも、あなたが守ろうとしている人々を、私にも見せてください」
ニルは、止血膜の貼られた右手を上げ、自分でその手を重ねた。
止まった都市。眠る人々。巨大なクアドラ本体。その深部に、青と赤の透明な棺が浮かぶ。二つの棺と、その奥に青、赤、紫の生命反応がある。顔も名も、黒金の遮蔽で見えない。
「黄金座標が生まれれば、それは現在への最短経路になります。クアドラが捕捉すれば、残り時間を待たず接続は成立します」
ミラの身体が粒へほどける。
「それでも、どうか来てください。誰が待っているかを知れば、あなたたちは来るのです」
光が消えたあとも、ニルの右手は前へ伸びていた。
カナメが現在の二世界と、止まった未来を並べる。
「この方針で指揮を執る。蒼界を残す。紅界も残す。終界の一億八千四百万人も救う」
アウレルが目を伏せた。
「……私の知る限り、その答えは存在しない」
「なら、作る」
カインが即答する。
作戦名は、デュアル・フューチャー。
最初の仕事は、終界へ渡る細い道を作ること。
三機が整備台へ戻ると、借りていた機能はそれぞれの機体へ返った。
カナメは終界の映像と、現在の二世界が消える危険を両界へ公開した。
蒼界の広場で、男が拳を握る。
「まだ生まれていない未来のために、俺たちが消えるのか」
紅界の配給所では、女性が眠る子供の映像へ手を伸ばした。
『でも、見つけた命を置いていくの?』
答えは割れた。だからこそ、誰か一人へ決めさせることはできない。
レンは赤い通信窓を見る。アカリもこちらを見ていた。
『終界へ行けたら、同じ場所に立てるかな』
「会えたらさ、今度は一緒に帰りたい。帰り道も、ちゃんと作ってからな」
『もう、先に会いたいって言ってよ』
「……会って、四人で帰る」
アカリが一瞬黙り、それから笑った。
『……うん。それなら許す』
敵の奥に、救うべき人がいる。
そして黄金座標は、捕捉された瞬間に終界を現在へ招く。
次回、第9話「九十秒のインフィナイト」。黄金座標を開かず、終界への道を作れるのか。
よければ、ひとつだけ教えてください。
印象に残ったのは、力を預け合った三機の戦いでしたか。それとも、ニルとミラの選択でしたか。
感想をいただけると、次の一話を書く力になります。