銀の光が海を貫く。
光の筋に沿って海が割れ、左右に波が巻き起こった。
ヴェスキュリアスは正面に展開したフィールドを盾に特異体シーサーペントを押し出すと、そのまま島から遠く離れた地点へと吹き飛ばす。
黒い球体が海面に叩きつけられる。
衝撃で巻き上がった海水が滝のように降り注ぐ中、アンゲルスはゆっくりと浮上する。
黒い球体にすいついていた海水が下に延びる。黒い頭を持ち、海水の肉体を持つ海蛇は、ゆらりとヴェスキュリアスを眺めているようであった。
「さあ、あなたの相手は、この私とヴェスキュリアスです!」
ヴェスキュリアスの背面ユニットが展開する。最上部の翼から細かいビームが放たれると、海蛇へ向かって直進する。
海蛇が身震いをしたように震えた。体を構成する海水を分離させると、黒い粒子で覆う。それらは、質量弾となってヴェスキュリアスへと向かってくる。
ビームと黒い粒子が接触する。
ヴェスキュリアスは海蛇を中心として一定の距離を保ちながらビームを放つ。海蛇もまた、無限とも言える海水から弾をつくり、迎撃を続ける。
無限とも言える攻撃の応酬は、無限とも言えるリソースを持つ海蛇が徐々に押し始めていた。
「広域ビームによる攻撃では貫けない」
『ムァン! 分析結果が出たわ!』
コンソールに指令室からの解析データが送信されてくる。海水と球体。それに、驚くべき密度の数字が表示されている。
『海水を超高密度にして利用している。ただのビームでは倒せないわ』
なるほど、とムァンは頷いた。
ただのアンゲルスであればビームを受ければ消滅をする。だが、敵は海水を利用していた。
一見すると数メートルの水球であるが、アンゲルスは驚くべき密度で水を利用している。それが防壁とり、ビームそのものの粒子運動を殺していた。
海蛇も、その優位性を理解していた。
再び海蛇が身震いをし、海水の塊を生み出す。黒い粒子を纏うと、誘導弾のようにヴェスキュリアスに迫って来る。
「ならっ!」
すぐさまムァンは行動を切り替える。
最上部のユニット停止。同時に、下部のスラスターにエネルギーを集中、速度を上げる。
「見せてあげます、これが回避に集中したヴェスキュリアスの機動です!」
急加速したヴェスキュリアスが飛翔する。
それを追いかけるように海水の塊が追いかけるが、まったく追いつくことは出来ない。
大きく迂回するように回り込む。海蛇を中心として180度回り込む。
迫りくる海水の塊、そして、海陀が一直線に並ぶ。
「ビームドライブユニット展開!」
最上部の羽が動く。肩部まで移動すると、頭を挟み込むように直線に覆いかぶさる。
同時に、翼に取り付けられた砲門が一斉に敵へと向かう。
「続けて、砲門軸合わせ!」
銀色の光が翼の先に集中する。粒子が集中し、強烈な閃光を放つ。
「ハイ・ブラスト!」
全ての砲門の軸を合わせた一撃が放たれる。光の波は一直線の長大なビームとなり放たれた。
光は海の塊を飲み込み、一撃で消滅させる。それだけにとどまらず、海蛇の体を貫く。
(急展開だったので、直撃はさせられなかった)
海蛇の核たる黒い球体が揺れる。
急下降すると、海へと潜り込んだ。
『ムァン、気を付けて。海の中から狙ってるわ!』
「わかってます」
ムァンはコンソールを切り替える。アクティブになっているビームユニットへのエネルギーの供給を減らす。
最上部の翼は再び背に戻る。代わりに、中層のバリア発生装置が動く。
背面のジョイント部分が伸びると、機体の前面に展開する。それを、ヴェスキュリアスの腕は掴む。
(さあ……いつでも来なさい)
海が揺れた。黒い塊が見えた。
ヴェスキュリアスの眼下、海がせり上がると海蛇の顎が迫る。
だが、その攻撃は予想出来ていた。
「フィールドブレード、セット!」
バリアユニットが光を放つ。普段はバリアとして利用されている粒子が、剣の形になる。
両腕に装着されたバリアユニットを交差させる。その交点が海蛇と接触する。
海水が弾ける。バリアの出力を集中させたバリアが、海水で出来た表皮を切り裂く。
「海水を防壁としているなら、それと切り離す!!」
飛行ユニットが光を放つ。
外皮を沿うようにヴェスキュリアスが飛翔する。
皮を切り裂き、そのまま首へ――フィールドブレードの一閃が放たれる。
黒い球体と海面が切り放たれる。同時に、黒い球体を守っていた海水が弾ける。
剥き出しになった核――それが好機であると、ムァンは即座に理解する。
「終わりですっ!」
フィールドブレードが黒い核に突き刺さる。
「バースト!!」
ムァンの意志に応じて、ブレードを覆っていたフェールドが膨張する。
その一撃は、特異体を爆発させた。
空間に黒い粒子がまき散らされる。
その一つ一つが、海へと消えていく。
これで特異体は倒した、だが、まだ戦いは終わっていない。
「穴は!?」
空に穿たれた穴は、まだ健在である。
だが――
『そっちは任せて』
トキハの声とほぼ同時に、空の穴に亀裂がはしる。
やがて、穴は砕け、再び青空が見える。
遥か遠く、戦域の中央――二機のヴェスレギオンが、穴を閉じたのだった。
『出力じゃヴェスキュリアスには及ばないけど、捨てたものじゃないでしょ?』
コンソールに表示される情報が切り替わる。
敵対する存在の消滅。出現点の破壊。
気がつけば、海の波も穏やかになっていた。
「そうですね。頼もしい、仲間です」
『ええ、もちろんよ』
遥か遠く、島へと帰還する白い巨人が見えた。
その先の街は、何も欠けていない。
ようやく、ムァンは操縦桿から手を離した。