特異体は消滅し、空の穴も砕かれた。
空と海に青さが戻る。
荒れていた海面も徐々に穏やかになっていく。
遠くに海鳥が見えた。島に向かって飛んでいる。
その警戒感のない姿を見て、ムァンはようやく息を吐いた。
『ムァン、戻って来て。警戒はヴェスレギオンを飛ばすから、あなたは体力を温存して。ただでさえ華奢な体なんだから』
通信越しの言葉に、少しだけ頬を膨らませた。それを見ていたトキハが、意地悪そうに笑っていた。
◆◆◆
島の裏側、基地のデッキに白銀の巨人が降り立つ。
ヴェスキュリアスが格納庫へ入場すると、白衣姿のトキハが待っていた。
『ムァン、ハンガーの方に足場を設置するから、そっちから降りて』
トキハが指さした先には、ヴェスキュリアスの大きさに合わせたハンガーがある。
誘導に従って移動させ、固定が確認されると胸部のハッチを開く。そのまま足場へ飛び移ると、ゆっくりと下降をする。
足場の下には、気がつけば人が集まっていた。
「「「「お疲れ様です!」」」」
全員が一斉に敬礼をした。ムァンは思わず圧倒され、目を白黒させてトキハを見る。
トキハ呆れたように溜息を吐くと、スタッフに言う。
「ほらほら、ムァンが困ってるでしょ。みんな仕事に戻った戻った」
「ええ、もちろんです。明日、アンゲルスがやって来ても万全なように、すぐさま整備しますよ」
――そうだ、データの更新を――
――特異体が出たんだから、対策を――
皆が自分の仕事を確認する。やることを思い出すと、すぐに散っていった。
ムァンの戦いは終わった。だが、バックアップするスタッフの仕事が本格化するのはこれからである。
飛び交う会話や走る人々。それを、ムァンは頼もしそうに眺めていた。
「士気は高いのですね」
「当然よ、アタシが鍛えたスタッフたちだからね」
その言葉に、ただただ頷くだけであった。
◆◆◆
それから、ムァンはよく覚えていない。
様々な報告などがあった筈であるが、気がつけば疲れが表に出ていた。
一度意識を失った後、気がついたのは基地の外――
夕暮れの海岸線を、赤いオープンカーに揺られている時であった。
「気がついたムァン、一段落したらいきなり電池が切れたみたいに眠っちゃうからビックリしたわよ」
「……ごめんなさい」
寝ぼけた頭に、夕暮れの海風が浮きつける。
海は穏やかで、いつも見ている風景と変わりはない。
――そう、変わりはない。
遠くから子供の声が聞こえてくる。
あれだけの戦いがあったのに、島はもう平穏を取り戻していた。
「……いい島ですね」
「ええ、あなたが守ったんだから」
「いいえ、トキハが普段から戦っているからこそ、です」
「まったく、エテニアと違って可愛げがあるんだから」
上機嫌なトキハの横顔を眺めながら、ムァンもまた、自然と顔をほころばせていた。
◆◆◆
海岸線を通り、トキハ神社の前を横切る。そのまま坂道を上ると、丘の上の洋館が見えてくる。
洋館の前では、ちょうどナナミが待っていた。
「おかえりなさいっす、お二人とも!」
「ただいま~、おなかすいた~」
その姿を見た時、何故かムァンは一度立ち止まる。
「……ただいま、です」
「どうしたんすか? 帰りの挨拶なんて、はじめてじゃないっすよね」
どうしてだろうか。自分の中に問いかける。
「その……」
すると、極めてシンプルな答えが返って来る。
「いつも以上に、帰って来れたことが嬉しくて」
目の前の女性が無事であることが嬉しかった。
「……ナナミが無事でいたのに、安堵してます」
それを聞いて、ナナミとトキハは悲鳴をあげる。
「トキハ様見ましたか!」
「ええ、やっぱり最高のリアクションじゃないの!」
「あーもう! 二人ともやめてください!」
島の夕暮れは、にぎやかに過ぎていった。
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