私の前世は明日を救えなかったスーパーロボット   作:狼二世

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29.生みの親たるもの

 老人の視線を前に、ムァンは思わず背筋を伸ばした。

 先程までトキハと冗談を言い合っていたはずの老人は、すっかり長い経験を重ねた賢者の顔になっていた。

 

「話を聞かせてもらえるかな」

 

 その問いかけに頷くと、ムァンは自分自身が置かれている状況について話始めた。

 

「まず最初は――」

 

 最初は、幼い日に本を読んだ時のこと。蘇ったエテニアとしての記憶と、それを抱えて生きてきた日々。

 

「――胸の内に違和感はありました。けれど、それも日々を過ごすうちに自分の一部になっていき――」

 

 いつかはただの娘として大人になり、慎ましい生活の中で死んでいく。

 それを打ち破ったのが、アンゲルスであった。

 

「全てが燃やされ、死を覚悟した私は――それでも、ヴェスキュリアスに救われました」

 

 そこまで聞いた時に、グソウ博士は話を止めた。

 

「すまん、確認をいいか?」

「はい、何か気になる点が?」

 

 博士は、大きく頷く。

 

「ヴェスキュリアスに救われた――それは、ヴェスキュリアスが自発的に動いたということか」

「はい、間違いありません。今、ここに居る私が証拠です」

 

 博士は短く唸ると、椅子に深く腰掛ける。

 

「勝手に……か」

 

 博士はトキハを見る。トキハもまた、顎に手を当ててあらぬ方法を見ていた。

 

「ヴェスキュリアスは確かに造りなおしたが、その時はトキハでも動かせなかった。それどころか、システム全体が沈黙していた」

「ええ、シンクロドライブがウンともスンとも言わないどころか、機体そのものが休眠しているような状態だったわ。アタシだけじゃない、島の人間もダメだし、この大地の人でもダメだった」

 

 ムァンがヴェスキュリアスに乗る前、機体を動かせる人間は誰も居なかった。

 それどころか、自律起動システムすら動くことはない。

 地球に居た際、エテニアはムァンが乗り込む前から稼働はしていた。まったく異なる状況を前に、グソウ博士も匙を投げざるを得なかったのだ。

 

「トキハ、その日、ヴェスキュリアスがどう動いたログはあるか?」

「うん、すぐに確認した。夕方に急に動き出したと思ったら、基地を飛び出してった。動きも早すぎて、ヴェスレギオンでも間に合わなくて――しかも、同時にアンゲルスの出現。それからの急な消失――ホント、大変だったわよ」

 

 ムァンの街が燃えた日、トキハたちが何もしていなかったわけではない。

 アンゲルスの出現を遅れて感知したものの、それは短時間で消えた。

 ――僅かな時間で街が一つ消え、ヴェスキュリアスによって穴が閉じられた――

 その後、状況の確認などのため、ヴェスレギオンで周辺を調査――している内に、ムァンがやって来たのだ。

 

「……なるほど。パイロットが見つかったから目覚めたのか……それとも……」

 

 博士は確認するかのように何度も繰り返していた。

 

「すまんな、その後の話について、聞いてもいいかな」

「はい、わかりました――」

 

 ひとまず、ムァンは話を続ける。

 島へと訪れたこと。その生活と、再び戦いへと挑んだこと――

 

 そして、前世の記憶をよみがえらすきっかけとなった本を頼りに、ここまで来たこと。

 

「なるほど、この本が、か」

 

 博士はムァンから本を受け取ると、パラパラと頁をめくる。

 どこか、寂しげな顔をしていた。

 

◆◆◆

 

 やがて、博士が本を閉じる。

 ムァンは改めて博士に深々と礼をした。

 

「お元気そうでなによりです……と言っていいのでしょうか」

「なあに、まだ現役じゃからな、これでもこの世界でやることは残っているんじゃよ。あの日、多くの犠牲を出して逃げのびた以上、ワシらには戦い続ける義務がるからな」

 

 そう言うと、グソウ博士はトキハに深々と頭を下げた。

 

「きゅ、急にどうしたんですか?」

 

 困惑するムァンを前に、博士は老練の顔を見せた。

 

「ワシは、お前に――いや、エテニア謝る必要がある」

 

 トキハもまた、頷いていた。

 

「ヴェスキュリアスに自爆装置を積んだ。それは、エテニアを犠牲にすることを前提にしたシステムじゃった。親が、子を殺すことを前提にしたシステムを産むなど、許されることではない」

 

 ムァンはどうしていいか分からず、トキハも顔を見る。

 トキハは何も言わず、ないも答えない。

 

「……いいえ、博士の使命を考えるなら、当然の判断です。当時、あの危機的状況において、最後の切り札を用意するのは当然のことですから」

 

 だから、博士は首を横に振る。

 

「その言い訳をして、今もヴェスレギオンには自爆装置がある……まったく、本来ならムァンの前に出るのも恥知らずのようなものなのだがな」

「はいはい、そーいうことは言わない。そうでしょ、ムァン」

 

 ようやく、ムァンは二人に助け舟を出した。

 

「ええ。私の中にあるエテニアの記憶が言っています。自分が命をかけたのは、トキハや博士を守るためです。それ以上のものはないのだ、と」

「……そうか、ありがとう」

 

 老人が顔を上げる。

 額から、苦労が一つ抜けたようであった。

 

◆◆◆

 

 ――それじゃあ、アタシたちは都に行くから。

 

 話が終わると、トキハはムァンを連れて外へと出た。 

 扉が閉じるまで手を振って見送った後、博士は顔を険しくする。

 

「……さて、ワシも一つ、考えないとな」

 

 ――まだ、老人にも出来ることがある。

 作業途中のモニターに向かいなおると、老人は老人の戦いを再開した。

 

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