金属の床と壁を、靴が叩く。
硬い音が長い廊下に反響しながら響いていく。
グソウ博士と別れたムァンとトキハは、地下通路をまっすぐに進んでいく。
「博士、元気そうでしたね」
「元気じゃなきゃ困るのよ。島の仕事をアタシに押し付けて外に出てるんだから、勝手に乗たれ死ぬなんて絶対に認めないんだから」
「ふふっ、そうですね」
子供っぽい悪態をつくトキハ見て、ムァンは笑っていた。
◆◆◆
地下基地を進み、エレベーターに乗り込んで上昇。
ついた先は石造りの地下室。エレベーターの扉だけが異質な存在として浮かびあがっていた。
地下室を出ると、古めかしい館。内部には薪や切り倒された木材がまとめられていた。
「普段は木こり小屋として擬態してるの、ほら」
トキハが扉を開けると、森の風景が見えた。
ムァンは促されるままに外に出る。
扉を出た先は、剥き出しの土の地面であった。
振り返ると、先程まで居た小屋――木造の簡素な小屋がある。その地下に地球文明の秘密基地があるとは、知らなければ判断出来ないだろう。
基地の入り口にあたる木こり小屋があったのは、森と草原の境界線上。木々の先にはなだらかな丘。その先には、城壁に囲まれたアンカレラの都へ続く道が見えた。
「さて、それじゃあ行きましょうか」
ムァンはトキハに従って歩き出す。
その先には、城壁に囲まれた街――アンカレラの都がある。
◆◆◆
街道を進み、旅人や商人に混ざって都の城壁や。
街を囲む堀、それにかかる跳ね橋を超えると、門番に呼び止められた。だが、トキハが懐から証書を取り出すと、すぐに顔色を変えて二人を通した。
城壁の中は、石造りの街。ムァンが住んでいた街よりも道は広く、通行量も多い。
道行く人々も活気がある。
「どう、第一印象は」
「西洋の近世に近いですが、それに加えて魔法技術もあります」
ムァンは道端にある街灯を見る。鉄の塔の上には、魔法鉱石で出来た光がついている。
それだけではない、街の地下には水路があり、それもこの大地特有の魔法技術によって制御されている。
「さすがよく見てるわね」
「忘れてませんか。私はこれでも十年この世界で生きているんですよ」
「そりゃそうよね」
実のところ、ムァンが住む街でも部分的に魔法によるインフラは制御されていた。
見た目は西洋のファンタジー、けれど、その中身にはことなる技術がある。
ムァンにしても、幼いころから学問を学んでいる。識字率についても地球の中世とは比べ物にならない程高い。
だが、どうしてもアマツシマなどに比べると、発展途上の技術でもある。
「トキハは、何故技術的な介入を行わないのですか?」
「理由はいくつかあるけど、大事な二つ」
トキハは指を一本立てる。
「まず、再現できるか確信がないから。地球で言う化石燃料とかがこの世界に十分埋蔵されてるかも分からない。アマツシマ一つならなんとかなるけど、世界そのものとなると話が違うわ」
地球の文明は、人類の届く範囲に利用可能な鉄などの金属や、硫黄などの地下資源、そして、化石燃料があってこそ出来た。
一見すると地球に似た世界であるが、同じ資源が存在するかは分からない。
そうなると、トキハたちが来る前から発見されている資源で発展した文明の方が、存続できる可能性が高い。
「次に、アタシたちと同じ文明を発展させても、アンゲルスには勝てない」
トキハは二本目の指を立てる。
「この世界独自の技術の発展によって、アンゲルスの打倒の可能性を見出せるか、それにかけてるのよ」
地球の文明は、アンゲルスによって滅ぼされた。
同じ技術で戦っても、勝てる見込みは低い。そうであるならば、現地の独自の技術の発展に期待する。
それが、トキハたち地球の移民が出した結論であった。
「まあ、アタシたちが偉そうにお導きだとか言うのは傲慢にも程があるでしょ」
「ええ、現地で育って身として、反発を覚えるのも想像出来ます」
よろしい、とトキハは言う。
「さて、ここよ」
そして、路の先にある大きな館を指さした。
「文豪『ツヅキ=マガラケス』資料館」
広い扉は開け放たれ、ぽつぽつと客もいる。
ムァンの記憶を蘇られせた本は、本人が思っていたよりも大きな存在であったようだ。