私の前世は明日を救えなかったスーパーロボット   作:狼二世

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34.異変の兆候

 ムァンへ向けたグソウ博士の視線はすぐに外れた。ムァンはただ、銀色の瞳で博士を見つめ返す。

 言葉と視線――その意図を理解出来ない程ムァンは愚かではない。

 当然、それはトキハも同じであった。

 

「ムァンとアンゲルスの出現が関係しているとでも言うの?」

 

 明らかに苛立ちが混じったトキハの言葉と視線。博士はただ静かに受け止めると。

 

「ああ」

 

 ただ、肯定だけをする。

 靴が床を叩く音がする。ムァンの隣から聞こえてくるその音は、トキハが発したものだった。

 

 音は再び聞こえてくる。先程よりも大きかった。

 だが、博士は無視をして話を続けた。

 

「ムァンは、エテニアとしての記憶を継承している。どういう原因かは分からないが、現象として観測されている」

 

 ムァンは静かに首を縦に振る。

 何度も確認をしたことではあるが、ムァンの中に眠るのは本の中にはない、エテニアのみが体験した記憶も残っている。

 ――地球が本当に滅亡したことをしっているのは、当事者たちだけなのだから――

 

「記憶、という無形の存在であるが。それは、我々とは違う形で地球とこの大地を繋いでいると言える」

 

 それが有形であるか、無形であるかの違いはある。

 けれど、確かに『存在』が世界を越えて受け継がれた。

 

 まるで、神に導かれて異世界へとやってきたトキハたちのように――

 ――そして――

 

「世界を超える存在――それに、お前も心当たりがあるだろう」

 

 ――もう一つ、世界を越えてやって来る存在がある。

 空に黒い穴を穿ち、この世界に襲来する災厄が――

 

「……あのねえ!」

 

 今度こそ、怒りを抑えきれずにトキハが立ち上がる。

 眉間にしわを寄せ、怒りの形相で博士を睨む。これほどまでに感情を露わにした姿を、ムァンは再会してからはじめて見た。

 だが、ムァンはそれとは対照的に、冷静であった。

 

 だから、その言葉を続ける。

 

「アンゲルス」

 

 静かに、博士の問いに対する言葉を言う。

 

「ムァン!」

「トキハ、博士の言っていることは正しいです。現象に対して分析を行うのは、必要なことです」

 

 なおも冷静さを失っているトキハに対して、ムァンはただ静かに告げる。

 

「分かってるけど……分かってるけどさっ! この子がアンゲルスと同じなんて思えない!」

 

 そこで、博士はわざとらしく息を吐く。

 

「あのなあ……言っておくが、ワシはムァンがアンゲルスと同じであるとは言うつもりはないぞ」

 

 博士の言葉を聞き、ようやくトキハは止まった。

 

「アンゲルスの特異体の出現と、ムァンの記憶の引継ぎについて、同根の因果があるのではないか、と考えている」

 

 因果関係はあるかもしれないが、それは別のこと。

 アンゲルスとムァンの覚醒はまた、『共通する』何かがあるだけで、別々のものである、と。

 

「ワシだけじゃない。そのうちアマツシマの中でも気がつく人間が出てくる――それになにより、ムァンはいつか自分でも気がつくだろう」

「……そうですね」

 

 事実、博士から情報を並べられた時にムァンは気がついていた。

 

「関係はある、だが、それはあくまで影響を受けているだけであり、別の存在である。それを調べて未来への憂いを断つ。それが必要ではない、か」

 

 トキハぐしゃぐしゃと髪をかき回す。

 

「……はあ、その通りよ」

 

 そうして、トキハもようやくすわりなおした。

 置かれていた紙コップのお茶を飲むと、一気に飲み干す。それを確認すると、博士は次に進む。

 

「ワシの方に、一つ心当たりがある」

 

 すると、博士はタブレットを取り出して画像を表示する。

 深い森林に囲まれた未開の地。クレーターのように円形に広がる山と、その中央に広がる湖の光景であった。

 ムァンは、その景色に見覚えはない。だが、トキハにはあった。

 

「アースポイント?」

 

 そうだ、と博士は言う。

 

「アースポイントとは、なんですか?」

「アタシたちがこの世界に降り立った時の座標。この世界で、一番地球に近い場所って意味よ」

 

 かつて、宇宙船ごとこの世界に来た時に初めて見た景色。

 そこが、異世界と地球を繋ぐ、もっとも近い場所――そうして、アースポイントとトキハたちは名付けた。

 

「そこで、異常な魔力反応があった。ワシが世界をまわって異常がないか確認をするのも、無駄ではなかったということだ」

「……地球に最も近い場所で、異常が発生、か」

 

 トキハは、確認をするかのように言う。

 博士は頷くと、言葉を続ける。

 

「……ワシに言えるのはここまでだ。この情報をどうするか、どう向き合うかは、お前たち次第だ」

 

 そうして、博士は二人を交互に見る。

 ムァンは静かに頷き――

 

「はいはい、分かったわよ……お爺ちゃんが頑張って見つけた成果だもの、役にたてないとね」

 

 トキハは、誤魔化すように軽口を言う。

 

「安心して。困難に立ち向かうなんて、いつものことなんだから」

 

 その言葉に、強がりが混ざっていることは二人は理解していた。

 けれど、その上で――

 

「そうだな、トキハそう言う娘だ。それを選べる娘だ」

「はい、信じています」

 

 信じている、という。

 皆の期待は本物であった。

 

「……まったく」

 

 そうやって、困ったように笑う。

 地球の時と同じ、逃げずに立ち向かう少女の愚痴があった。

 

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