私の前世は明日を救えなかったスーパーロボット   作:狼二世

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36.接触、アースポイント

 旅立ちの朝は、普段と変わらなかった。

 朝、普段と同じ時間に起きて、ナナミの用意した朝食を食べる。

 トキハもナナミも、普段と変わらない様子で談笑をして、朝の支度をする。

 ――さすがに今日のトレーニングはキャンセルっすね――

 

 その言葉を聞いたムァンは、ようやく自分が普段とは違うことをすると認識出来た程だった。

 

 いつもの白い白衣を翻らせ、赤いオープンカーにトキハはまたがる。

 今日はムァンも一緒なことだけが違った。

 

「いってらっしゃ~い」

「うん、夕飯よろしくね~」

 

 ナナミの言葉に、いつものようにトキハは答える。

 助手席に座ったムァンは、手を振り返して。

 

「はい、行ってきます」

 

 ずっと、遠くなるまでナナミを見ていた。

 

◆◆◆

 

 朝風の吹き抜ける島を、オープンカーに乗ったトキハが駆け抜けていく。

 海鳥の声を聞きながら道路を行き、島の裏側へ。基地に辿り着くと、格納庫へ。

 重い扉が自動的に開き、格納庫が開放される。

 その最奥、ヴェスキュリアスは聳え立っていた。

 

「それじゃあ、あとは分かってるわね」

「……」

 

 そこで、ムァンはじっとトキハの顔を見る。

 

「何かあるの?」

「何というか、あっさりしてますね」

 

 すると、呆れたように頭をかくと、トキハは少女に言う。

 

「あのねえ……戻って来るって約束したのなら、それで十分よ」

 

 最後は、口の端を持ち上げて、笑顔をつくっていた。

 

「……そうですね」

 

 だから、ムァンも同じように作り笑顔を浮かべる。

 それが強がりでも、普段通りに振る舞うのだ。

 

「では、行ってきます」

 

 この先、普段通りに旅立って、普段通りに帰って来る、そのために。 

 

◆◆◆

 

 ムァンがセスキュリアスのコクピットに乗り込むと、低い軌道音が聞こえてくる。

 待ちかねていたかのように、ヴェスキュリアスに光が宿る。

 少女がシートに座り、コンソールを操作する。ステータスは全てグリーンで、今すぐにでも飛び立てる状態であった。

 

「お待たせしました、ヴェスキュリアス」

 

 旅立ちの相棒を前に、少女は操縦桿をゆっくりと撫でる。

 

「今日は私の我儘を聞いてもらいますよ」

 

 ヴェスキュリアスのAIは何も答えない。ただ、機械は駆動し続け、今か今かと飛翔を待っていた。

 コンソールに情報が送られてくる。デッキが開放され、スタッフの退避も完了した。

 ムァンは操縦桿を握る。機体とのリンクは即座に連結され、小さな少女の肉体と、鋼の巨人が繋がった。

 

 一歩、踏み出す。巨人が歩き、開放されたデッキへと進む。

 空が見える。どこまでも青い空に、障害はない。

 

「ヴェスキュリアス、出ますっ!」

 

 背面ユニットの最下部――三層目が銀色の光を帯びると、浮遊感がコクピットに伝わってくる。

 重力の楔を断ち切るように、ヴェスキュリアスが飛翔をした。

 

 見る見るうちに海が遠くなり、島が小さくなっていく。

 コンソールが切り替わる。周辺の海域と、針路。そして『目的地、アースポイント』と記されたナビゲート。

 

(ナビが入っている……用意してくれてたのですね)

 

 急に入れたものではない。トキハが用意してくれたナビに従って、ムァンは飛翔する。

 目的地は、アースポイント――グソウ博士が異常を感じ取った地点へと向かった。

 

◆◆◆

 

 人目を避け、海の上をヴェスキュリアスは飛翔する。

 目的地となるアースポイントは、アマツシマより遥かに南であった。

 

(確か、南の方面にはまだ人類の文化は及んでいない筈)

 

 この大地の人類の文化件は、ムァンが住んでいた東の大陸に集中していた。

 南の地方は未開の地であり、人を軽々と踏み潰せる巨獣や伝染病の蔓延る地――と、伝え聞いてはいた。

 

 事実、南へと向かう海上には船は一つもない。

 海へと繰り出せるだけの文明は、少なくとも存在していなかった。

 

 やがて、南の先に陸地が見えてくる。

 海岸を少し進むと、そこは密度の高い森林が広がっていた。

 森の隙間を縫うように流れる川と、緑の大地の隙間にぽつぽつと見える山以外は何もない土地――その遥か先に、クレーターのように円形に広がる山が見える。

 

「……アースポイント」

 

 ヴェスキュリアスは徐々に高度を下げる。

 モニターには、地上の様子が鮮明に映し出されていく。

 

(人が建てたような施設はない。道も無ければ痕跡もない。まさしく、未踏の地……)

 

 ヒトの気配、と呼べるようなものはなかった。

 グソウ博士が調査に来た、というのも俄かには信じがたい。それほどまでに隔絶されていた土地であった。

 

 木々の隙間から、猿人のような巨獣がヴェスキュリアスを眺めていた。敵意はなく、ただ、突然の来訪者に興味があるだけ。

 5メートルを超す巨鳥が姿を見せる。分厚い緑のじゅうたんの下には、それらに匹敵する生物がうごめいている――そう、ムァンは推測した。

 

(刺激をしないように……)

 

 間違って接触しないように、慎重にヴェスキュリアスは飛ぶ。

 密林を跳び越え、山を越え――そして、円形の山の中心にある、湖が見えた。

 

「ここが、ポイントアース」

 

 ムァンは操縦桿を離すと、ゆっくりとヴェスキュリアスを着地させる。

 異変を感じとり、鳥たちが一斉に鳴き、飛び立つ。

 色とりどりの羽が舞うなか、白金の巨人は大地へと降りた。

 

「……困った」

 

 そこで、ムァンは呟いた。

 

(……確証はないけれど、『何か』があると分かる)

 

 ――胸が、頭がざわついて来る。

 ――何かが、ここにある。

 ――ムァンは、本能的に感じ取っていた。

 

 その予感は、すぐに現実になる。

 

『……来ました、ね』

 

 言葉という形をもって、ムァンへと接触をした。

 

「……誰!?」

 

 ムァンの言葉に、声は答える。

 成熟した女性の、落ち着いた声が聞こえてくる。

 

『初めまして、この大地に生まれ落ちた子にして、我が姉妹の最期を見届けた命よ』

 

 まるで、子を迎える親のように、親愛の言葉を続ける。

 

『我が姉妹――そなたが地球と呼んだ大地の、最期の願いを叶えるため、しばし我の言葉に耳を傾けてはくれませんか?』

 

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