岩と土の塊となった地球に、白い流星が降りていく。
背面のスラスターを駆動させ、銀色の粒子をまとってヴェスキュリアスが崩壊した大地に降りていく。
地球は死んでいた。
声明を育んだ水も、大気もなかった。地形の情報から辛うじて北米大陸と思われる荒野。その上空をただ飛翔する。
コクピット内のムァンは何も言わない。ただ、強く操縦桿を握りしめ、飛翔する。
目的地は、北米大陸の中央に穿たれた巨大な穴。底は暗く、宇宙空間からはただ『穴』としか観測できなかった空間。
(……そこで、呼んでいる)
何者かが、呼んでいる。
わずかに聞こえた声と、直感だけを信じて飛翔した。
◆◆◆
やがて、大陸の中央部にたどりついた。
かつては平野であった土地に、巨大な穴が穿たれている。
大地から垂直に穴が広がっている。質量がぶつかった痕跡もなければ、堀起こした土砂もない。
まさしく、『食われた』ような状態であった。
穴は深く、近くに寄っても、その底は見えない。
「……っ」
ムァンは思わず唾をのんだ。
本当にこの先に行っていいのか、逡巡する。
『……お願い』
だが、呼びかけの言葉は聞こえてくる。
ムァンは迷いを振り切るように首を横に振る。そして、ヴェスキュリアスを飛翔させる。
せめて外壁に沿うように、穴を降下していった。
ただ、ひたすらにヴェスキュリアスは穴を降りる。
すでに大地に熱は残っておらず、いくら深く潜ってもヴェスキュリアスの装甲に異常はない。
邪魔をする存在はいない。現象も何も起こらず、邪魔は入らない。
そうだというのに、寂しいとすらムァンは感じていた。
(……私たちが地球を守れなかったのは、本当だったんだ)
――白銀の守護神――
その結末を読んだときに、感じたこと――本当に、そうだったらよかったのに――
完全な解決までは望んでいなかった。それでも、少しでも救いがあれば――人は消えても、海も空も残っていれば――
そんな甘い理想は打ち砕かれ、目の前にあるのは深い穴。
ただ、ムァンはコンソールに表示される数値を観測する。
(潜り始めてからの時間……ヴェスキュリアスの速度を考えると――)
地球の中央――そこに到達した時であった。
突如、目の前に光があふれた。
淡い、白い光――その中央に、黒い塊がある。
「これは……」
白を食らう黒――まるで、アンゲルスのようであった。
(アンゲルスと同じ……だけど、動く気配はない……)
だが、決定的に違う。
目の前の存在には、敵意がない。
それどころか――
『待って、いたよ』
ムァンに対して、語り掛ける。
地母神と同じように、情報だけが脳に響いてくる。
「あなたは……何者ですか?」
思わず、問いかけていた。
『地球……いや、正確には、地球が最期に残した記憶の残滓かな』
地母神と違う、淡々とした声が告げる。
『君たち風に言えば、あらかじめプログラミングされただけの情報を繰り返す壊れかけの機械なんだ』
「どういうことです?」
『質問は具体的にしてほしい。その文言では答えられない』
その言葉は、挨拶よりも機械的なものであった。
「……分かりました」
『質問は具体的にしてほしい。その文言では答えられない』
返事に対して、機械的なメッセージが返ってくる。
(本当に、決められた言葉に反応してるだけだ)
それは、ムァンにとって、より星の死を実感させるものであった。
(おそらく、地母神と同じように星の意志のようなもの……いえ、その残滓……)
ムァンは息を深く吐くと、短く質問をする。
「あなたが、私をここに呼んだのですか?」
『ああ、そうさ。エテニア――地球の最期に自らの意思をもった君なら、まだ僕の匂いが残っている。それを繋げば、異世界から接触が出来た。地球の民に残された痕跡を頼りに、君の存在を■■■■■に託して正解だったよ』
その言葉を、ムァンは考える。
(この星に最後まで残っていたのはエテニア……だから、何かしらの干渉を行えた……)
渡された情報から仮説を組み立てる。
「それは、私が最期の残された存在であるから、という条件だけなのですか?」
『質問は具体的にしてほしい。その文言では答えられない』
ムァンは首を振ると、別の質問に切り替える。
「ムァン、という存在は知っていますか?」
『質問は具体的にしてほしい。その文言では答えられない』
やはり、とムァンは声に出さずに呟く。
(エテニアは分かってもムァンは知らない。異世界への干渉は行えず、ただ待つことしかできなかったんだ……そうしてまで、伝えたい情報がある)
ムァンはすぐさま質問を切り替える。
「なぜ呼んだのですか?」
端的に、革新的な内容を問いかける。
『最期の情報を伝えたい。それはアンゲルスについてだ』
その言葉を前に、ムァンは息をのむ。
「アンゲルス……」
思わず漏れた言葉。
だが、それは機械的に動く意志には関係がなかった。
『アンゲルス、それは、悪性記憶情報濾過不完全体――記憶と言う情報が、悪性に変化してしまったものなんだ』