私の前世は明日を救えなかったスーパーロボット   作:狼二世

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41.黒の巨人

 地球に穿たれた穴から銀色の光が飛ぶ、空へ――宇宙へ向かってヴェスキュリアスが飛翔する。

 

(はやくっ!)

 

 操縦桿を握るしめるムァンは、さらに力を強める。すでに出力を全開にしているスラスターが悲鳴にも似た轟音を発する。

 それでも、勢いを緩めるわけにはいかなかった。

 

 地球の残滓の異変と同時に、周辺の環境にも変化があった。

 岩塊が崩れ、落下していく。黒い塊に吸い込まれるように散っていく。

 本能的に危険を察知したムァンは、影響下から逃げるために全力でヴェスキュリアスを飛ばす。

 

(結局、あの時とおなじだ)

 

 その中で、思い出す。

 地球を失った日。宇宙に逃げて、結局その拠点も捨て、ヴェスキュリアスを犠牲に逃げ出した日。

 結局、肝心な時に勝てずに、大切なものを零れ落としてしまう。

 

(ヴェスキュリアスの力を借りても、肝心なものに手が届かない)

 

 自分の小さな手を見る。操縦桿ですら大きく見える華奢な腕が震えている。

 いつだって、自分の小ささを思い知る。八つ当たりをしたい衝動を抑えて、ヴェスキュリアスを飛ばす。

 

 小さいから、弱いから。

 そんなものが必死に生き延びるために戦って、どうなるのか。

 

(……それでもっ)

 

 ムァン自身に答は出せない。出来ることなんてないかもしれない。

 

(……それでも、私は忘れない)

 

 それでも、死にたくない、忘れたくない、それがアンゲルスに繋がると分かっていても、生きることを選ぶ。

 

◆◆◆

 

 銀色の流星――ヴェスキュリアスが地球の穴から飛び出した。

 スラスターから銀色の光をまき散らし、岩塊を背に軌道上へ。

 朽ちた宇宙ステーションに着陸をすると、ようやく一度動きを止めた。

 

「――はあっ、はあっ――すうっ」

 

 大きく息を吐き、そして、吸い込む。

 肉体の熱が少しだけ引いたことを確認すると、モニターに視線をうつす。

 

「地球が……」

 

 地球が揺れていた。

 地球の残滓である岩と土――そして氷が震えていた。

 それらが収縮していく。かつて地球の中心であった地点へと集まっていく。

 

 すべての存在が――情報があつまって、黒い塊になっていく。

 ――アンゲルス――その誕生であった。

 

 大量の質量が黒い塊になった。

 それは、最初は丸い。だが、すぐに四肢が出現する。

 そして、巨大化――人の形になっていった。

 だが、大量に出現するアンゲルスとは違う。四肢に対して頭と胴体が大きい赤ん坊のような姿ではなく、大人のような姿になっていった。

 

「なるほど……子供が大人になった、とでも言うつもりですか」

 

 地球であったものが、黒い巨人となる。

 宇宙空間に聳え立つ巨人。コンソールに表示された情報では、二百メートルを超えていた。

 

「地球そのものを犠牲にしたというには、小さすぎる」

 

 だが、その強がりは震えていた。

 黒い。アンゲルスはその体を黒く染めている。

 今でこそ地球の残滓から得られた情報から、情報そのものが集積して黒くなっていると理解できる。

 だからこそ、その密度の違いをムァンは理解できていた。

 

(どうする……)

 

 様子をうかがうムァンをあざ笑うかのように、黒い巨人はゆっくりと動き出す。

 黒い粒子をまき散らしながら、宇宙を動き出す。

 

 ――その目的は――

 

(……肥大化した情報の塊が、リソースを求めてほかの星を襲う)

 

 わかっていた。

 だからこそ、ムァンは決意を新たにする。

 

「……させません」

 

 震える手を勇気でおさえて、ヴェスキュリアスに問いかける。

 

「……ヴェスキュリアス、やれますか」

 

 機体は答えない。ただ、いつものようにムァンの指示をまっている。

 

「いえ、付き合ってください」

 

 ヴェスキュリアスの背面ユニットが展開する。

 各部に銀色の粒子が発生し、臨戦状態に移行する。

 

「行きますよ、ヴェスキュリアス!」

 

 スラスターが駆動する。

 一気に加速をすると、宇宙空間を直進。そのまま移動を始めたアンゲルスの前面に移動する。

 同時に、最上層のビームドライブユニットをアクティブ。砲身の軸を合わせると、即座にチャージを開始する。

 

「ハイ・ブラスト!」

 

 銀色のビームが放たれる。

 その一撃は一直線に進み、アンゲルスの頭部へ突き刺さる――

 ――だが、アンゲルスは止まらない。無意味と言わんばかりに、そのまま移動を続ける。

 

「ハイ・ブラストでもダメ……」

 

 ならば、とすぐに武装を切り替える。

 中層のバリアユニットを腕部に固定し、アンゲルスに突撃をする。

 

「フィールドブレードでっ!」

 

 銀色の斬撃を見舞う。首にかけて、真一文字に切り裂く――

 その筈であったが、その一撃は皮一枚断てずに受け止められる。

 

 刃が震える。接触した地点から黒い粒子が――悪性の情報が噴き出す。

 

「あっ……」

 

 ムァンの脳裏にノイズが襲い抱える。

 言葉とも映像でもない、ただの情報の塊。それが襲い掛かってくる。

 猛烈な吐き気、痛み、耐えようにも眩暈が襲ってくる。

 それでも、剣を振ろうとする――

 

 だが、それは物理的に止められた。

 顎で、虫をはじくようにヴェスキュリアスが飛ばされる。

 

「あ……がっ」

 

 コクピット内に伝わる衝撃に、ムァンは思わず声を漏らす。

 だが、攻撃は終わらなかった。

 モニターに、黒い塊がうつる。

 それが腕であると気が付くのと、ヴェスキュリアスが吹き飛ばされるのは同時であった。

 

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