突如コクピットに響いた声を前に、ムァンは思わず固まった。
トキハも声とも違う。地母神が伝えてくる情報とも違う、童女のような無邪気な声。
モニターの映像を見返す。周囲は月の荒野で生命の気配はない。
では、この声はいったい何者なのか。
「あなたはいったい……」
問いかけると、嬉しそうに返事が返ってきた。
『あ、ちゃんと声が出た感動もあまりに忘れていました。私はヴェスキュリアスのパイロット支援AIエテニア、その二代目です』
「二代目?」
『ええそうですよ、お姉さま。ハードを再現したのなら、当然ソフトだって再現しないといけないじゃないですか!』
感情を表現するかのようにコンソールが明滅する。人間が使う笑顔の顔文字まで出している。
『トキハ様とグソウ博士はヴェスキュリアスを再現しました。それはもう、ハード面は依然と遜色のない状態です! けれど、私の覚醒まではできませんでした』
「え、ええ、二人から話は聞いています。トキハが乗っても起動せず、自律行動もできなかったと」
『はい、その通りです』
ヴェスキュリアスはムァン以外の誰も動かすことはできなかった。
島にいる間、それとなく住民に対して検査を行っていたこともムァンは知っている。
『最初に何かを感じたのは、5年前』
「私が記憶を取り戻したとき同じですね」
それは、ちょうどムァンが本に触れて記憶を取り戻したときと重なる。
『ええ、それがきっかけだったんだと思います。私が私として意識を取り戻したのです』
ムァンがエテニアとしての記憶を取り戻したのと同時期に、新たなるエテニアにも変化が訪れたというのだ。
『とはいっても、完全に動けるようになったのは、お姉さまが私を求めた時になりますよ』
だが、それは不完全であり外部とコミュニケーションが出来なかった。
そのまま、半覚醒状態で放置――それが動けるようになるまでなったのは、ムァンが力を求めた時であった。
『それでも何故か声だけは出なくて……それがやっと! 今!! 出るように!!! なったのです!!!!』
そして、今、ついに覚醒をした。
「……案外、私の意識とリンクしているのでしょうか」
5年前、エテニアとしての記憶を取り戻した。けれど、それで終わった。
街が襲われた日、戦う意思をしめした。それに呼応するかのようにヴェスキュリアスも動き出した。
そして、今日――自分自身の中にある理由を見つけた時――ヴェスキュリアスもまた、新たなる自分を取り戻した。
『そうかもしれません。何せ、拾い物の知識で生み出した機械ですからね』
冗談めかして言う様に、ムァンも自然と笑っていた。
「グソウ博士が聞いたら泣きますよ」
『事実ですからっ!』
「まったく……」
ムァンは息を吐く。
もう、体は震えていない。
操縦桿を強く握ると、前を見据える。
「それだけ言えるなら、まだ戦えますね」
『もちろんです、お姉さま! 何せ、ヴェスキュリアスはみんなを守るスーパーロボットですから』
操縦桿を握る手に力がこもる。だが、不必要に強くない。
自然と、けれどしっかりと、操縦桿を握りしめる。
ヴェスキュリアスが立ち上がった。
月に叩きつけられたダメージはけっして小さくはない。
けれど、まだ戦う力は十分に残っている。
「それならっ!」
ムァンはダッシュボードにしまっていた虹入りの欠片を取り出す。
七色の光は失われていない。
(地母神は言った、大きな力が迫っていると――おそらく私の推測が正しいなら)
次の戦いへ向けて、ムァンは決意を新たにする。