黒い巨人の腕が上がる。白銀の巨人が銀のバリアを纏い、飛翔する。
振り下ろされる腕を回避しながら、ヴェスキュリアスはアンゲルスの周囲を飛び回る。
(当たれば無事ではすまない。ともかく、機動性で勝負するしかない)
操縦桿を握りしめ、ただ機動に集中する。背部ユニットの調整や、情報の整理はエテニアに任せて、自身はただ当たらないこと、そして、攻撃を当てることに集中する。
バリアを張ったままのヴェスキュリアスは、銀色の弾丸のようであった。
超高速で飛行し、攻撃をかいくぐり、時に突撃をする。
一撃一撃は大きなダメージにならない。むしろ、ヴェスキュリアス自身にもダメージは行く。
それでも、攻撃に使える手段はこれだけであった。
『お姉さま、ビームはどうしますか?』
「弾かれるなら無駄です。なら、バリアを張って直接殴ります」
『分かりました!』
ムァンはもちろんのこと、エテニアにもそれは理解できている。
同時に、それだけでは撃破が難しい、とも理解していた。
(とは言っても、いつまで続けられるか)
腕が薙ぎ払われる。高度を変更して回避をするが、攻撃が掠る。
それだけなのに、コクピットが揺れる。コンソールには機体の損傷状況が表示される。
『お姉さま、ビーム砲がやられました』
「どうせ使いません!」
戦力差は明白であった。なにせ、相手は地球である。
地母神に導かれてたどり着いた地球。そこで見届けたなれの果て。
それは、トキハたちも知ることになる。
先ほど、エテニアから指令室にムァンが地球で得た情報が転送された。
それは、即座に共有されているのだから。
『ムァン、レポートを見たわ……』
トキハから通信が入った。にがにがしい声であった。
「私が交戦している相手の正体、分かっていただけましたか」
『ええ。地球そのものが変質したアンゲルス……それがここまで来たっていうのね』
「はい、直接対峙している私も確信しました」
圧倒的な情報の質量。その巨体、禍々しい黒、すべてが地球で見た時と同じものである。
『ムァン、無茶を承知でお願い。こいつ止めて!』
だからこそ、トキハは言う。
地球という存在を、ここで止めなければならない、と。
「当然です!」
ムァンは強く答える。
ヴェスキュリアスは飛翔する。機体の各部から悲鳴があがるが、それを物ともせずに立ち向かう。
『目標、コード:アース・アンゲルス! ヴェスキュリアス、頼んだわよ!』
「はいっ!」
ムァンの決意に応えるように、ヴェスキュリアスは白銀のバリアを纏い、アンゲルスに突撃する。
今度は顔に直撃をする。衝撃で、わずかに巨体がのけぞる。
――同時に、ない筈の、巨人の目が光ったように見えた――
コクピットの中で、ムァンは怖気を覚える。
そして、それは間違いではなかった。
『アース・アンゲルス、分離します!』
黒の巨人の表皮から、赤ん坊が浮き出てくる。
通常のアンゲルスの個体。翼をもった赤子。泣き叫ぶ代わりに、黒い粒子をまき散らす化け物。
それらが、一斉にヴェスキュリアスを見た。
そして、光を発した。
『お姉さま、回避を!』
「やってます!」
スラスターを吹かして回避行動。それでも回避しきれない攻撃をバリアで受け止める。
銀色の粒子がはがれていく。黒く塗り替えられていく。
「っ……」
そして、致命的な一撃が来る。
ビームの粒子に混じり、アース・アンゲルスが腕を振り下ろす。
その一撃が、バリアに直撃をした。
「エテニア、スラスターに出力を回して!」
『は、はい!』
受け止めきれない。そう判断したムァンは即座に回避運動をする。
バリアがはじける。腕が迫る。だが、間一髪でヴェスキュリアスは回避をできた。
だが、黒いビームが追撃をしてくる。休む暇もなく、ヴェスキュリアスは飛翔を続ける。
(……どうすれば……)
黒い嵐の中、ムァンは考える。
どうするか――どうすればいいか――
「何か、手はありませんか?」
思わず、問いかけていた。
そんな都合のいいものは――
『ここにある!』
あった。
◆◆◆
アマツシマより東の海域、飛行船が飛んでいる。
飛行船の胴体部分が開くと、そこには『翼』があった。
『トキハ、ムァン、今から秘密兵器を送る!』
グソウ博士の声が、ヴェスキュリアスに届いた。
「グソウ博士?」
『ワシとて遊んでいたわけではない。施策兵器で悪いが、それでも! この状況を突破する力になる』
そして、その名を呼ぶ。
『複合背面翼型兵器、ハイロウ・ウイング』