黒い空を切り裂き出現した飛行船。胴体部のハッチが開かれると、『翼』≪ハイロウ・ウイング≫が射出される。
六枚のウイングを装備したヴェスキュリアスの背面ユニット。だが、既存のものとは異なり、中央部に黄金の輝きを放つ半透明の球体が取り付けらえている。
続いて、飛行船からヴェスレギオンが出撃する。その数は三機、全機がシールド状のバリア発生装置と大型の追加ブースターを装備していた。
三機はすぐさま加速をすると翼を追い越し、先行する。
『ムァン、そいつらの後ろに!』
グソウ博士からの通信に、答よりも先にヴェスキュリアスが機動する。
ヴェスレギオンたちとすれ違うように交差する。
アンゲルスの群れからビームが放たれる。だが、ヴェスレギオンたちが発生させたフィールドによってすべてが防がれる。
ヴェスレギオンはそれぞれの出力ではヴェスキュリアスに遠く及ばない、だが、専用の装備を用いて役割に徹すれば、ヴェスキュリアスをしのぐ成果を生み出すことができた。
(防戦は任せていい)
ムァンはそう判断すると、すぐさま情報の確認を行う。
『グソウ博士からデータが送られてきました! 簡単に言うと超すごい背面ユニットです。空中換装についても対応済みです!』
「分かりました、そちらの最適化は任せます!」
ムァンはコンソールを確認。接近してくる新たなる翼の位置、速度を確認するとすぐさま起動する。
同時に、現行の背面ユニットの状態を確認。ビームドライブユニットは完全に損壊。バリアも片側が出力低下、比較的マシなスラスターも推力は既に半分以下になっている。
(ここまでよく戦ってくれました。あとは――)
素早くコマンドを入力してシステムに命令を与える。
――射出準備――
あとはコンソールからコマンドを選択するだけの状態にする。
それを待っていたかのように、グソウ博士からの通信が入る。
『ムァン、射出が完了したら機体のスラスターだけで空中制動を行ってくれ。可能だな』
「ええ、エテニアが蘇った、このヴェスキュリアスなら!」
ヴェスキュリアスには本体部にも単独飛行が可能とするスラスターがついている。
もちろん、推力は大幅に落ちる。だが、それを見越したかのように射出された翼の速度も調整されていた。
「やります、空中換装を!」
堂々とした声には、出来るという確信があった。
問題は敵の妨害――だが、それの心配はなかった。
アマツシマから新たに白い巨人が飛び立つ。応急修理の終わった機体が銃を、剣を携えて飛来する。
もちろん、特異体にはかなわない。けれど、周囲のアンゲルスの牽制には十分であった。
状況が変わった――それを示すように、トキハから通信が入る。
『おっと、お爺ちゃんだけにいい恰好させないわよ! と言うかなんでこのタイミングよ!』
心なしか、トキハの声に張りが戻っていた。
『自分から救援を要請しておいて何を言ってるのだ!』
『うるさい、そういう秘密兵器はアタシがやりたかった!』
そう、冗談を言うだけの余裕があった。
状況は依然として不利である。今もまた、特異体が腕を振り下ろす。無造作にして必殺の一撃、その目標はヴェスキュリアス。だが、その一撃はヴェスレギオンたちのバリアによって防がれる。
白銀のフィールドが衝撃にゆがむ。だが、一歩も引かない。
「ヴェスレギオン、最後までお願いします!」
ヴェスキュリアスはハイロウ・ウイングと並行して飛行を開始。一時的に加速をしてその進行線上に出る。
コンソールにドッキング開始の文字が表示される。ムァンは即座にタッチをする。
『お姉さま、ドッキング開始します!』
「ええ、いきます!」
背面ユニットがパージをされる。役目は終わったというかのように、スラスターが動きを停止した。
ヴェスキュリアスは自身のスラスターのみで飛行を開始。徐々にハイロウ・ウイングと接近する。
そのままドッキング――それは、敵は許さなかった。
特異体の黒い脚から、黒い触手が伸びる。海面を沿うように伸びると、ヴェスキュリアスへと迫ってくる。
ウイングとの接触――それとほぼ同時に、黒い触手が鞭のように海面を叩いた。
水柱が吹き上がる。ヴェスキュリアスを覆いつくすほどの海水が巻き上がり、白銀の巨人を埋め尽くす。
『……ヴェスキュリアス』
トキハが叫んでいた。
『いや、大丈夫だ!』
だが、グソウ博士は、静かに言う。
『見ろ、あの光を!』
吹き上がる水しぶきが、重量によって滝のようにおちてくる。
水の分厚いカーテン――その中に、二つの光が見えた。
巨人が発する銀色の光――そして、それを包むように広がる、黄金の円。
水のカーテンが消えていく。
巨人だけが、そこに残っていた。
六枚の翼を広げ、両肩に黄金の光輪を発言させたヴェスキュリアスが、悠然と存在している。
『背面ユニット換装完了。ハイロウ展開完了。システムオールグリーン。いけます、お姉さま!』
「ええ、ヴェスキュリアス・ハイロウ、これより特異体アース・アンゲルスを制圧します」
最下層のスラスターに銀色の粒子が集中する。
一瞬のうちに機体は加速すると、周囲に展開する赤小型のアンゲルスの群れへと突っ込んだ。
銀と金の粒子が混ざった弾丸が敵を切り裂いていく。光輪に触れたアンゲルスは一撃にして切り裂かれ、それから逃れた異形もバリアフィールドによって吹き飛ばされる。
『お姉さま、ビームドライブユニットも!』
「よし、やりなさい!」
ヴェスキュリアスの前方に大型の光輪が展開する。そこにビームを打ち込む。
ビームは、光輪を通した瞬間に黄金の粒子を纏う。ビームの軌跡そのものが増幅し、周囲を一気に薙ぎ払う。
光輪がきらめき、白銀の光が黒を穿つ。
気が付けば、敵は巨大な特異体のみになっていた。
『見たか! 魔法力により物理現象の増進現象を! ワシが、この大地で学んだ新たなる力だ!!』
ハイロウ・ウイング――地球の技術だけではなく、異世界の魔法技術を含めた増幅を行う新たなる力である。
ユニットに取り付けられた宝玉には賢者により強力な増幅魔法がかけられており、ヴェスキュリアスの行うすべての行動に強烈な強化を与える。
魔力の象徴たるハイロウを経由することで、ビームも推力も大幅に増大。バリアも当然のように強化されている。
地球と異世界の技術、その二つが合わさった、新たなる翼である。
『まったく、こりゃあ確かに島に居ただけじゃ完成は無理ね』
普段は文句を言うトキハも、この時はただ認めるしかなかった。
光輪を背負い、六枚の翼を広げて飛ぶヴェスキュリアス。
その姿は、まさしく白銀の守護神であった。