黒い巨人と対峙する、六枚羽の天使。
アース・アンゲスと対峙したヴェスキュリアスは、その翼でアマツシマを――世界を守るかのように立ちふさがる。
巨人には顔もない。目もなければ口もない。それでも、ヴェスキュリアスという異物を前に、動揺しているように見えた。
圧倒していたはずの敵が、未知の力を発揮して食い下がってくる。人間で当てはめるのであれば、警戒をするのも無理はないだろう。
だが、対峙するムァンとエテニアは未だに余裕はなかった。
――一瞬で決めなければ、押し切られる――
そう、理解しているからこそ、行動は早かった。
「……エテニアっ!」
『分かっています、フィールド、推力全開!』
ヴェスキュリアスが白銀のフィールドを纏い、急加速する。アース・アンゲルスは反応する間もなく、胴体部に直撃を食らう。
フィールドがゆがむ。だが、展開したハイロウが機体の全部に展開をすると、突撃の衝撃が強化される。
黒い巨人の上体が傾く。次の瞬間、巨体が吹き飛ばされた。
今まで悠然と立っていた巨体が宙を舞い、そして海面へと突き刺さる。その衝撃で、海面が浮かびあがる。
「波がっ?」
衝撃で発生した巨大な波――それがアマツシマへ向かうのを見て、思わずムァンは叫んでいた。
だが、すぐさまトキハから通信が入る。
『そちらは任せて、大丈夫、被災者なんて出させやしないわ』
同時に、サブモニターには、沿岸にバリアを展開して待機するヴェスレギオンの姿があった。
ムァンは小さく息を吐くと、再びアース・アンゲルスへと対峙する。
巨人は、ゆっくりと起き上がる。同時に、巨体の各部から黒い触手を伸ばす。
標的はヴェスキュリアス。
ムァンは操縦桿を握りなおすと、機動に集中。一定の距離を保ちながら旋回し、触手を回避する。
(……この密度、突破するには最大の火力をぶつける必要がある)
ムァンはコンソールを操作する。ハイロウ・ウイングの装備によって追加された装備を確認していく。そして、一点で止める。
(これならいける)
すぐさまエテニアに確認をする。
「エテニア、バインドハイロウの準備は?」
『いつでもいけます』
コンソールの表示が切り替わったことを確認すると、ムァンはすぐに次の行動へとうつる。
(カタログスペック上の有効射程距離の外……ならっ)
そこに飛び込むのは、パイロットの仕事である。
「分かりました、有効射程に突入します! 多少の被弾は覚悟してください!」
『大丈夫、お姉さまならやれますからっ!』
「そういって油断しないように!」
操縦桿を握り、フットペダルを踏みこむ。
推力の増大による急速な加速。正面には触手の塊――だが、それも意味はない。
ヴェスキュリアスの正面に触手が迫る。しかし、その動きは見えている。機体をわずかによじることによって回避。なおも迫るが、スラスターの推力で突き放す。
上から、下から、左右から縦横無尽に迫る攻撃を、爆発的な推力によって振り切る。同時に、肩部のハイロウによって攻撃を切断する。
完全に機動に集中したムァンは、その攻撃を一撃も触れることなく突破した。
『有効射程内に入りました!』
「展開!」
ムァンの合図に、両肩のハイロウが分離する。
光の輪は四つ、八つに分割すると、巨人の四肢へと向かって飛ぶ。
そして、光の輪が巨人を拘束した。
ハイロウから黄金の光があふれる。対アンゲルスのフィールドであり、その粒子が全身を拘束する。
そのすきに、ヴェスキュリアスは攻撃の準備を行う。
スラスターをホバリングのみに集中させると、一層のビームドライブユニットと二層のバリアを正面へと展開する。
「フィールド・ハイ・ブラスト! 展開!!」
ビームがバリアによって圧縮され、球になる。強烈な光とプラズマを放ち、その一撃を発揮する瞬間を待っている。
「エテニア、行きますよ!」
『はいっ!』
合図とともに、白銀の光球が放たれる。
阻むものは存在しない。防げるものは存在しない。
銀の光を放つ太陽ともいえる一撃は、アース・アンゲルスへと突き刺さった。