黒い巨人の胴体に、白銀の光球が突き刺さる。
その一撃を受け止めるべく、巨人の部位から触手が出現し。光球を包み込んだ。
白い光が飲み込まれる――
――だが、それは一瞬であった。
巨人の体から一条の光が吹き上がる。
それは徐々に増えていき――やがて、世界を切り裂き閃光となり、巨人そのものを構成する黒い情報粒子を吹き飛ばした。
閃光は巨人だけでなく、海も、空も照らしつくす。その余波によって空に穿たれた穴に亀裂が走る。
一瞬であった。黒く塗りつぶされた世界が割れ、青空が再び姿を見せた。
『やりました、敵、頭部を残して消滅です!』
エテニアは高らかに報告をする。
その報告は正しい。既に空は解放され、残っているのもアンゲルスの頭部のみ。それも、バインド・ハイロウにとらわれて身動き一つとれない。
仮に拘束がなかったとしても、構成していた情報粒子の殆どを吹き飛ばされた今、形を保つだけで精一杯であろう。
『さあさあ、残ってるのは頭部だけです。倒してしまいましょう』
コンソールにターゲットが表示される。
武装はすべて使用可能であり、ビームを一発撃つだけでも終わるだろう。
しかし、ムァンは指一本動かさなかった。
「……」
無言で、モニターにうつる黒い塊を眺めている。
『お姉さま? どうしたんですか? あとはアイツだけですよ』
「……いえ」
ムァンは首を横に振る。
(……あれは地球の残滓……私たちが守ろうとしたもののなれの果て……それを、倒さないといけない)
かつて、トキハと一緒に戦い、守ろうとしたもの。
黒く染まった情報の集合体――それは、地球という惑星が存在していた証拠そのものである。
それを撃つことに、迷いがあった。
(分かっています。もう、すでに手遅れだということも。私は、明日を救うことが出来なかったのですから。それを繰り返してはいけないのですから)
操縦桿を握る。ビームドライブユニットにエネルギーを流し、照準を合わせる。
「すみません、無意味な感傷でしたね」
もう終わったしまったことなのだから――
――そう、割り切ろうとしたとき。
『ちょおおおおおおおおっと待ったあああああああっ!!!!!!!!!』
「!?」
『げ』
目の前に、ヴェスレギオンが割って入った。
ムァンは慌てて照準を変更する。銀色の光線が空へ向かって放たれた。
当然である。味方機を撃つわけにはいかない。
なにより、その手には、トキハが乗っていたのだから。
『ムァン、コクピットを開けて!』
白衣をはためかせながら、手に必死にしがみつくトキハは訴える。
『ええ~、こんな上空で開けるんですか? あ姉さま大丈夫なんですか?』
「エテニア、トキハの言うとおりに」
「は~い」
ヴェスキュリアスのコクピットを開放すると、すぐさまトキハが乗り込んでくる。
それを確認すると、乱暴にコクピットが閉じられた。
『まったくも、このタイミングでお姉さまとの愛の巣――じゃなくて、秘密の小部屋に乱入してくるなんて、非常識ですよ』
「うっさいわ。あーもう、こいつが今まで寝てたの絶対性格悪いからでしょ」
『寝てたんじゃありません、半覚醒で~す』
「余計悪いわ!」
『うるさいですよ若作りオバサン』
「黙ってろクソガキAI」
途端に騒がしくなるコクピット内で、ムァンは露骨に咳ばらいをする。さすがに二人とも黙ってムァンを見た。
「トキハ、どうしてここに?」
「このまま終わらせないためよ」
そして、力強く言い放つ。
「アース・アンゲルスを拘束して。そのうえでアースポイントまで移動して」
「なぜ?」
「神様に聞きにいくのよ、こいつが地球で……地球の情報の塊なら、それを濾過する方法がないかって」
途端に、ムァンは目を見開く。
その考えは、自分にはなかったからだ。