私の前世は明日を救えなかったスーパーロボット   作:狼二世

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50.最初/最後の記憶は星の海

 虹色の光が消えた。

 見えてきた世界は、星の海であった。

 

「ここは……」

 

 コクピットに届く視覚情報を確認したとき、ムァンは操縦桿を握りなおしていた。

 

『座標――地球近海です』

 

 エテニアの報告に、唾を飲み込む。

 

「分かってるわね、ムァン――あの日の続きよ」

 

 トキハの警告に、深く頷いた。

 

 宇宙空間。背後には無人となった宇宙ステーション。係留されていた脱出艇は既にない。

 目の前にあるのは母なる星。かつて青かった星は、アンゲルスの黒に塗りつぶされている。

 

 空間上に、金属の破片が浮かんでいる。内側からの強烈な衝撃によって破損した部品は、ヴェスキュリアス――ムァンが、かつて行った自爆によってもたらされた結果である。

 

『聞こえていますか、地球の子らよ。今、皆さまが見ているのは地球が最期に見た景色――死の直前の記録です』

 

 聞こえてきた地母神の声には、悲しみが混ざっていた。

 

「神様が危険だって言った理由が分かったわ……ただ立っているだけでも心理的に圧迫がある。油断したら叫んで発狂しているわよ」

『そうなんですか、おばさまになると心理強度も落ちるのですね』

「黙ってろクソAI」

 

 二人の子供じみたやり取りを聞きながら、まだ言い返す元気はある、とムァンは一先ず安心する。

 

「……私は、それほどではないですね……地球の最期を、一度見たからでしょうか」

 

 そう口にするものの、心はどこかざわついていた。

 それは後悔かもしれない、怒りかもしれない。ただ、その激情は地球の残骸を見た時に味わったものと同質であり。それだけに受け入れることができた。

 

『地球の子らよ、星の心に触れるのです。そこで自らの存在を思い起こすことが出来れば、生まれ変わらせることも出来るでしょう――』

 

 そこまで伝えると、声は遠くに消えていった。

 

「うわ、肝心の情報は伝えきれてない。どう接触しろっていうのよ」

「心当たりはあります」

 

 トキハはモニター越しにある一点を指さす。

 旧北米大陸の中央。

 そこには、アンゲルスが集中していた。密度の濃い黒が穴のように広がっている。

 

「私が地球の残滓と接触したのは、あの黒の下でした」

 

 すべてが崩壊した世界。地球に穿たれた巨大な穴。その奥底で接触した残滓。

 

「わかったわ、行きましょう」

『お姉さま、大気圏突入も準備オッケーです』

 

 同乗者もサポートするAIも心強く頷く。

 それならば、憂いはない。

 

「了解しました。これよりヴェスキュリアス、地球の心と接触するために大気圏へと突入します!」

 

 操縦桿が握られ、フットペダルが踏み込まれる。

 ヴェスキュリアスはバリアフィールドを正面に展開すると、スラスターを吹かせて地球へと突入した。

 

◆◆◆

 

 地球はまだ丸かった。

 海も大気も十分に残っていた。

 アンゲルスに汚染されてもまだ、かつての美しい姿の面影を残していた。

 

 終末の空に白銀の流星が降ってくる。

 北米大陸を目標に大気圏へと突入したヴェスキュリアスは、大西洋から地球へ接触する。

 かつて文明が存在したヨーロッパを後ろに、青い海を跳び越えて大陸へ。西海岸の廃墟を通り抜けて大陸の中央へ。

 

 かつての大地には、黒が塗りつぶしていた。

 

「ムァン、遠慮なくやっちゃって!」

「了解です!」

 

 トキハに言われるまでもなかった。胸の内に残るざわめきを吐き出すように、ムァンは強く叫び。

 

「ビーム、広域殲滅モード! エテニア、出力は最大で!」

『はい、やっちゃいましょう、お姉さま!』

 

 ヴェスキュリアスのビームドライブユニットが白銀の光を纏う。

 ビーム砲を一軸に合わせるのではなく、広域に向けて拡散させる。

 

『いけます!』

「発射!」

 

 ムァンの合図とともに翼からビームが放たれる。

 その一撃を、ヴェスキュリアスのハイロウが受け止めると、さらに広域へと拡散する。

 一方的な攻撃。点でも線でもなく、面による圧倒的な制圧。

 瞬く間にアンゲルスは銀色の光に飲み込まれ、姿を消す。

 

「……お爺ちゃん、割と遠慮なく凶悪な武装生み出すわよね」

『ええ。アンゲルスに向けられてるからいいですが、異世界で無暗に使ったら神様から怒られること間違いなしです』

 

 事実、仮に地球に文明が残っていたとしても、ヴェスキュリアス一機で簡単に制圧することが出来るだろう。

 だが、ムァンはトキハに振り返り、二人に言う。

 

「そういう風には使わないでしょう、ムァン。エテニアだって、そのような暴走を許すことはないでしょう」

 

 すると、トキハは得意げに笑う。

 

「当然、アタシも偽物とは言え神様やってるしね」

『人が間違っている時は、その意志に逆らってでも止める。かつてのお姉さまもそれをやりましたしね』

 

 ムァンもまた、頷くのだった。

 

「さて、それでは――」

 

 ヴェスキュリアスの一撃によって、障害は排除された。

 

 残ったのは、大陸に穿たれた大穴。

 そこがどこに続いているのか、ムァンは知っている。

 

「トキハ様、この先に」

「うん、わかる。誰かが呼んでる――」

 

 目を閉じて、その言葉を口にしていた。

 

「死にたくない、死んでほしくない。忘れたくない、忘れられたくない――」

 

 単純で、純粋で、だからこそ理解できる――

 ――この世界に存在したからこそ、抱く感情を繰り返す。

 

「……なんかさ、分かってはいるんだけど、アタシたちはこの星の明日を守れなかったんだなって」

 

 その声には、感情は乗っていなかった。

 乗りそうになった激情を、必死にこらえている顔があった。

 

「……その感情も含めて、清算しに行きましょう」

 

 だから、ムァンはヴェスキュリアスを飛ばす。

 進む先は、穴の奥底。

 

 もう一度、地球と会うために。

 

 

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