私の前世は明日を救えなかったスーパーロボット   作:狼二世

6 / 15
6.再生

 確信があった。

 忘れるわけがなかった。

 かつて地球と言う星で戦い続けた、己の肉体を忘れることなどない。

 そして、見間違えることなどなかった。

 

 空から舞い降りた白銀の巨人――ヴェスキュリアス。

 かつて自分の肉体であり、戦い続けた鋼の巨人がムァンを見下ろしていた。

 

 白金の巨人――ヴェスキュリアスがその姿を見せた時、ムァンは時が止まったかのように錯覚をした。

 炎が揺らめいている。火が爆ぜる音が響いている。

 

 その筈なのに、彼女の視界にはただ悠然と佇む巨人だけしか入ってこなかった。

 

 世界が破壊されていく音も、肌を焼く熱も、全てが遠く感じられた。

 

「……」

 

 少女は無言で巨人の頭部を見上げる。

 磨き上げられた白金のボディは光沢を帯び、赤い炎を反射していた。

 それが、怒りに燃えているように見えた。

 

「あなたも、怒ってくれるのですか?」

 

 問いかけに声による返事はない。

 僅かに、頭部の角度が落ち、ツインアイに怒りに震える少女の姿が映っただけ。

 それが肯定であると、彼女は受け取った。

 

「……お願い、力を貸して!」

 

 ヴェスキュリアスは跪くと、その右手を開き、ムァンの前に降ろす。

 乗ってくれ――そう感じ取った彼女は、迷うことなく掌に飛び乗った。

 

 だが、敵も待ってはいない。

 周囲のアンゲルスが異常に気がついた。

 突如出現したヴェスキュリアスに対して光線を発射する。

 

「……」

 

 ムァンは静かにそれを見つめている。慌てる必要はないと分かっているから。

 せまる光線は少女の肉体を一瞬にして蒸発させるだろう――だが、それはヴェスキュリアスが無かった場合のこと。

 

 白銀の光が光線を弾き返した。

 粒子が円形に広がり、ムァンとヴェスキュリアスを守っている。

 

 アンゲルスの攻撃は、背面のユニットから展開されるバリヤーによって防がれたのだ。

 

(当然です……ヴェスキュリアスの力は、この程度で揺るがない)

 

 ムァンを乗せた手が胸元で止まると、胸部が開かれる。

 導かれるままにコクピットに乗り込み、シートに座る。同時に、機体とのリンクが開始される。

 まるで最初からそうであったかのように、機械と人の肉体がシンクロしていく。

 

(ああ……これは私の……私が持っていた身体!)

 

 失われた肉体が戻っていく。あるべき場所に帰ってきた。

 それを自覚した時、機体が応える。

 

「戦闘モード……起動!」

 

 白銀の巨神が立ち上がる。ムァンの意志をそのまま反映するかのように、アンゲルスたちの前に立ちはだかった。

 

「これより……殲滅を……この街を焼き払った代償を払わせる!」

 

 ムァンの脳裏に記憶が蘇る。それは、前世のものではない。

 10年の時をこの大地で過ごした記憶。優しい両親と穏やかな隣人に囲まれ、幸せに生きてきた記憶。

 だから、叫んでいた。感情のままに吠えていた。

 

「うあああああああっ!!」

 

 絶叫とともにブースターが起動する。一瞬にして加速した機体はアンゲルスの前に飛び出すと、勢いのまま拳が振り抜かれた。

 勝負は一撃であった。黒い異形は白銀の拳に打ち抜かれ、四散する。

 

「まず、ひとつっ!!」

 

 怒りの咆哮が響き渡る。その咆哮はコクピットだけに響いたはずなのに、モニターの先のアンゲルスは一歩後ずさる。

 

 ヴェスキュリアスは右手を振る。腕に纏わりついた残滓を吹き飛ばす。

 ゆらり、ゆらりと一歩ずつ歩く。炎の中、白金の巨人が歩を進める。

 

 アンゲルスたちの動きが変わる。立ち止まり、逃げようと浮かび上がる。

 だが、それをヴェスキュリアスは許さない。

 

「ビーム! 展開!」

 

 背面ユニットが展開すると白金の光が宿る。そのチャージには一秒も満たない。瞬く間にビームを打ち込んでいく。

 アンゲルスは逃げる間もなく蒸発する。

 

 何機かが空へと飛翔する。運よくビームから逃れた個体であった。

 ヴェスキュリアスと交戦しても勝ち目はない。そう判断したのだ。

 

 だが、遅い。

 

 六枚の翼を展開した白銀の巨人が、行く手を遮るように飛翔する。

 一瞬にして接近した白銀の光は、手刀でもってアンゲルスの首を両断していく。

 

 黒い敵が減っていく。

 アンゲルスが減っていく。

 ビームの雨が蒸発させ、手刀によって切り裂いていく。

 

 ――そうして、全ての敵が破壊されるまで、そう時間はかからなかった。

 殲滅が完了すると、ヴェスキュリアスは力を失ったように『街であった』場所に降り立つ。

 

「……殲滅、完了」

 

 コクピットの呟きと共に、戦闘モードが解除される。

 

 炎の中、白銀の巨人が立つ。

 全周囲に展開しているモニターから入って来る映像は、炎を吸い込む夜空と、燃えている大地――そして、かつて命であった存在だけ。

 

「……殲滅だけをして、何になるって言うんですか!」

 

 嗚咽と共に吐き出した言葉に応えたのは、周囲から入って来る音。

 ぱちぱち、ぱちぱちと炎が燃える音――生きる者はなく、ただ現象があるだけ。

 

 すべては破壊されていた。

 質量で、炎で、全てが壊されていた。

 ただ、死で埋め尽くされていた。

 

 ヴェスキュリアスは炎の中、茫然と立つ。。炎が巨人の顔を照らす。赤い、ゆらゆらとした影が顔にかかる。

 

 ――戦いは終わった。戦闘に勝利した――

 

(……それに、何の意味があるんですか! この怒りと喪失は全く消えない! あんな奴らを倒したところで、腹癒せにもならないっ!!)

 

 思わずシートを叩いていた。

 少女の拳は小さく、僅かな音をたてただけだった。

 損傷は何もない。叩いた手が痛いくらいである。

 

 震える顔で持ち上げる。

 ただ、心に浮かんだ言葉を口にする。

 

「……神様、もし本当に居るのでしたら、この問いに答えてください」

 

 コクピットで、少女は茫然と呟いていた。

 

「何故AIから役割を奪い、この弱くて小さな肉体に閉じ込めたのか……教えてください!」

 

 それが八つ当たりだと分かっていても、口にせずにはいられなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。