【検証】ダドリーが女の子だった場合でも物語は成立するのか? 作:ウィーズリーの双子絶対TSさせろ委員会
「見てください、うちの娘を。もう立派なレディでしょう?」
プリベット通り4番地に住むダーズリー夫妻は、そう言うのが自慢だった。
バーノンとペチュニアの間にはひとりの娘がいる。名をダリア・ダーズリーといい、もうすぐ11歳の誕生日を迎えようとしていた。
夫妻はダリアを溺愛していた。子ども部屋は玩具やぬいぐるみであふれかえり、休日ともなれば娘をロンドンへ連れていった。クローゼットには数え切れないほどの洋服が詰め込まれていた。
とりわけ、父のバーノンは甘かった。誕生日のたびに娘よりも大きなケーキを準備し、そうでない日には、デパートで買ったお菓子を次々と与えた。
そしてある日、とうとうペチュニアの堪忍袋の緒が切れた。
「ダリアちゃんをどれだけ太らせる気なの!? この子はもう立派なレディなのよ!」
それ以来、お菓子を買うのは禁止になった。
当時ダリアは5歳だった。
ペチュニアの教育方針は明快だった。
見た目と礼儀作法には厳しく、それ以外は甘く。
そんな母のもとでダリアはすくすくと育っていった。
肩まで伸びた、母譲りのまぶしい金髪。澄んだブルーの目。徹底的なおやつ管理のおかげですらりとした体つきを保ち、父親のバーノンにはちっとも似なかった。
まだまだ子どもだが、いずれは美人になるだろう。近所でも評判のお嬢さんだった。
では、教育は大成功だったかというと――
「パパ。そこどいてよ。テレビ見たいんだけど」
そうとも言い切れなかった。
「ごめんよ、ダリア。すぐにどくから……」
「いいから。早くあっち行って」
ソファから飛び跳ねるように立ち上がったバーノンは、娘に追いはらわれて足早に移動した。ダイニングの木製の椅子がギシと頼りなく
特等席を占領してテレビを眺めはじめたダリアは、一度たりとも父親に視線を向けなかった。
「まったく、一体どうなっとるんだ最近のダリアは」
「反抗期なんでしょう。ダリアちゃんも大人になってきたのよ」
「ペチュニアがもっとしっかり言い聞かせてやったらどうなんだ」
「……バーノン。私の教育方針に、なにか不満でも?」
「そ、そうは言っとらん」
ペチュニアの目が剣呑に光ったのを見て彼はたじろいだ。こと娘の教育に関しては、妻に逆らってはいけない。ダリアが生まれてからの11年弱で身につけた夫婦円満の知恵だった。
生まれたのが男の子だったらバーノンも家長として威張れただろうに。2対1では、どうあっても勝ち目がなかった。
「……おい! おまえ、紅茶を淹れろ。2人分だ」
家庭内での立場が弱いバーノンだが、彼が強く出られる相手がひとりだけいた。
「はい、バーノンおじさん」
指図されてお湯を沸かしはじめた、やせっぽちの少年である。
年は10歳かそこらだろう。ぼさぼさの黒髪にくたびれた服。鼻に乗った丸い眼鏡はレンズのふちが欠けており、やさしい緑色の瞳がその中にいた。普段お腹いっぱい食べられていないのか、血色も良くない。
「やり方は分かっているんだろうな? しっかり沸かして3分だぞ」
「はい、バーノンおじさん」
すなおに返事を繰り返す少年の背中を一瞥して、バーノンはふんと鼻を鳴らした。
彼にとって『男らしさ』の対極にあるような少年だった。
筋肉もなければ脂肪もない。けんかをするような度胸もない。目元はまるで女のよう。そのくせ、ごく稀に向けてくる反抗的な視線には妙な芯の強さがあった。
立派な口ひげをたくわえ、大きな体格を誇る――もっとも、その大部分は脂肪だが――バーノンには、見ているだけで腹の立つ存在だった。
「パパ。あたしも紅茶欲しい。お砂糖たっぷりのやつ」
「小僧、3人分にしろ。砂糖もたっぷりだ。わかったな」
「はい、バーノンおじさん」
「ちょっとダリア! お砂糖は
「小僧、砂糖は少なめだ。いいな!」
「……はい、バーノンおじさん」
妻と娘の伝令役になっている父親が本当に男らしいかはさておき。
◇◇◇
少年はハリーといった。
ハリー・ポッター。ポッター家の息子である。ダーズリー家の子ではない。わけあって赤子のときに引き取られ、今日まで育てられてきた。
ダーズリー夫妻は、娘の自慢話なら誰にだってした。聞かれていなくてもした。
けれども、引き取った男の子の話になると、たちまち夫妻は表情をひきつらせて話題を変えた。
夫妻がハリーをどれほど可愛がっていたかは、誰にでも簡単に想像できた。
「起きなさい。……起きなさい。今すぐ!」
物置の扉を乱暴に叩く音と、ペチュニアのやかましい声で、ハリーは重いまぶたをこじ開けた。
薄暗く、ほこりっぽい物置がハリーの部屋だった。階段の下にあるせいでひどく窮屈だ。
もぞもぞと起き上がったハリーは手探りで眼鏡を取った。ちょうどその時、階段を降りてくるおしとやかな足音が聞こえた。
ダリアのものだと、すぐにわかった。
ハリーは物置の扉にかけていた手を引っ込め、息をひそめた。扉の隙間からさしこむ光が一瞬だけさえぎられ、それからリビングのドアが開く音がした。たちまちバーノンの猫なで声が聞こえた。
「おお、我が家のかわいいお姫様! 今日は一段と可憐だこと」
「……パパ。やめてよ」
「バーノン! ダリアちゃんの綺麗な髪がくしゃくしゃになるでしょう! 今日は大切な日なんですよ!」
「そ、そうだったな。ごめんよダリア。……おい、小僧! 早くベーコンを焼くんだ。ペチュニアにさせるんじゃない!」
ハリーがおくれてリビングに来ると、山積みになったプレゼントの箱がいやでも目に入った。
「焦がしたりなんかしたら承知しませんからね」
「はい、ペチュニアおばさん」
ハリーはキッチンに立ってベーコンをひっくり返しはじめた。近頃は背伸びをしなくてもフライパンの中が見えるから楽だった。
「お誕生日おめでとう、ダリアちゃん。……ほぉら、今年もたくさんプレゼントが届いたのよ」
ペチュニアにうながされたダリアは、プレゼントの山をざっと見渡した。きれいな包み紙やリボンには興味がなさそうだった。
「何個あるの」
「今年は……いくつだったかしら」
「36個だ。すごいぞ!」
「……去年は37個だったじゃん」
バーノンとペチュニアはさっと目線を交わした。
「こ、今年のほうが大きいのばかりじゃないか。ほら、これなんて」
「誰からのが減ったの」
「……ささ、もうすぐ朝ごはんができますよ。食べたらひとつずつ開けましょうね」
ダリアは父親を睨みつけた。それから母親をちょっとだけ睨み、しぶしぶダイニングの席についた。
「ハロッズに行って、好きなものを何でも2つ買ってやろう。それで38個になるだろう、ダリア? 動物園はそのあとだ」
「ローラ・アシュレイのワンピースなんてどうかしら? ダリアちゃん欲しがってたものね」
「……」
すっかりへそを曲げてベーコンをつつくダリアに、両親はかわるがわる話しかけた。ハリーもいちおう同席していたが、いないも同然だった。
「そういえば、小僧。おまえ何か言い忘れていないか?」
デパートに立ち寄ることで決着がついたあと、バーノンは初めてハリーの方を見た。
「……お誕生日おめでとう、ダリア」
「ありがとうございます」
ダリアはそれっきり、ハリーとは目も合わせなかった。
いつものことだった。
◇◇◇
いちばん
ハリーがロンドンへと向かう車窓をぼんやり眺めていると、しだいに人が増え、やがて大きな黄色の建物が目に入った。正面には、金色の文字で『HARRODS』とあった。
ハリーは自分の服を見た。ひどくみすぼらしく思えた。
「いいか、小僧」
ダリアとペチュニアを先に車から降ろして、バーノンは唸った。
「今日はダリアの誕生日だ。少しでも妙な真似をしてみろ。……わかってるな」
返事も聞かず、バーノンは車を降りていった。ハリーも急いで重たい車のドアを開けた。
ハロッズの中は、どこを見てもにぎやかだった。
色とりどりの服、山ほどのお菓子、面白そうなコミック。この世のあらゆる物が置いてあるようだった。最新のビデオゲームが並ぶガラスケースの前で、ハリーは思わず足を止めてしまい、すぐさまバーノンにこづかれた。
そのちょっと先で、ダリアはすっかり澄ました顔で、ペチュニアに手を引かれて歩いていた。
お目当てだったローラ・アシュレイの売り場に入ると、ダリアは母親の手を離して店内を見て回った。
もちろんハリーは外で待たされていた。服選びにはなんの役にも立たないバーノンも一緒だった。
ダリアは表情を変えず、つぎつぎとブラウスやワンピースを見くらべていく。ときどきペチュニアが服を指さしてあれこれ勧めるが、面倒そうに返事をするだけだった。
やがてダリアは、並んだワンピースの一つを手に取った。すかさず店員が近づいた。
「お嬢様。こちらは色違いもございますが、いかがでしょう?」
「いいですね。よければ見せてください」
声をかけられたダリアは、ぱっと笑顔を咲かせてこたえた。
ダーズリー家にいる時とはまるで別人だった。しかし、ペチュニアはちっとも驚かなかった。
「こちらの水色のにしようかしら」
「お似合いかと思います」
ダリアは3色の中から気に入ったものを選ぶと、母親に目をやった。ペチュニアは大きくうなずいた。だめな理由など、ひとつもなかった。
「お嬢様は将来きっと素敵なレディになりますね」
「まあ、ありがとうございます」
ダリアは控えめにほほえんだ。
ペチュニアの表情からは、誇らしさが隠しきれていなかった。
売り場の外で待たされていたバーノンは、薄汚い少年から距離をおいて、他人のふりをしていた。ハリーも壁際に寄ってできるだけ小さくなっていた。
「……おい、小僧」
バーノンはふとハリーの方を向いた。
「おまえ、欲しいものはないか」
「えっ?」
ハリーは思わずバーノンを見上げた。
さっき見たビデオゲームや、お菓子売り場のチョコレートが頭をよぎった。
「なに、聞いてみただけだ」
バーノンは、ジョークが決まったと言いたげにニヤリと笑った。
ちょうどダリアが、母親に大きな袋を持たせて戻ってきた。
ハリーがバーノンを睨みつけている様子を見て、少しだけ不思議そうな表情をした。しかし、すぐに興味を失って目をそらした。
◇◇◇
ハリーが動物園に来るのは、これが初めてだった。
テレビでしか見たことのない動物たちがいて、ハリーはきょろきょろとあたりを見回していた。
本当は足を止めてじっくり見たかった。しかし、動物の匂いに眉をひそめたダリアがすたすたと歩いてしまうせいで、そうもいかなかった。
屋内にある爬虫類館はいやな匂いもなく、ダリアのお気に召したようだった。
ずっと片手を塞いでいた日傘――ペチュニアに持たされたものだ――を突き返したダリアは、ひんやりした空気に心地よさそうに目を細めた。
大きな縞模様のヘビの前でダリアはふと足を止めた。
ブラジル原産らしい。とぐろを巻いてすっかり眠ってしまっていた。
「動かないのね」
ダリアは見たままにつぶやいた。
ところが、バーノンが気を利かせたつもりでガラスを叩いた。
「おーい、蛇」
「パパ――」
びっくりしたダリアが父親の袖をひこうとしたが、
「眠ってるんだよ!」
先にハリーが声を上げた。ダリアは二重にびっくりした。
バーノンは不愉快そうにハリーを睨んだ。ハリーも睨み返した。
怒鳴られるとハリーは思った。しかし、そうはならなかった。他の家族連れがこちらを見ているのに気づいたバーノンは、鼻を鳴らしただけだった。
「行くぞ」
バーノンはさっさとトカゲの展示の方に向かった。
ため息をついたペチュニアがその後を追う。ダリアはもう少しだけヘビを眺めていたが、しぶしぶ両親についていった。
取り残されたハリーはもう一度蛇のほうを見た。
「ごめんね、うるさくてさ」
「いいってことよ」
蛇が返事をした。
「…………えっ」
ハリーはガラスに張り付いた。
大蛇がいつのまにか首をもたげ、ハリーを見ていた。
「言葉がわかるの?」
「さあな。ただ、あんたの言う事はわかるぜ」
「すごい。喋れる蛇がいるなんて知らなかったよ」
「俺も人間が喋れるなんて知らなかったさ」
蛇は嬉しそうに――少なくとも、ハリーにはそう見えた――頭をゆらゆらさせた。
「さっきの群れは家族かい?」
「まあ、そんな感じ。うるさくしちゃってごめんね」
「よくあることさ」
「……ところで、きみに家族はいるの?」
「さあ。今のところ、会ったことはねえな」
そこでハリーは展示の札に気づいた。『園内で誕生』と書いてあった。
「ずっとここにいるんだね」
「おう。よく知ってるな」
「うん。ここに書いてあるんだ」
「書いて?」
蛇はあまりピンときていない様子だった。
ともかく、ハリーの顔はすっかりほころんでいた。
「ここから出たくはないの?」
「ここにいて困った事はないけどなァ」
「でも、外には色んなものがあるよ。どこにでも行けるんだよ」
「それの何がいいんだい?」
ハリーは答えに困った。
自由になったらどこに行けばいいのか、ハリー自身にもわからなかった。
「それは……それは……」
「――誰と喋ってるの?」
横から、鈴の鳴るような声が聞こえた。
振り向くと、そこにはダリアがいた。