【検証】ダドリーが女の子だった場合でも物語は成立するのか? 作:ウィーズリーの双子絶対TSさせろ委員会
「――誰と喋ってるの?」
ダリアに話しかけられたハリーは、完全に固まってしまった。
防衛本能だった。ダリアがいるということは、バーノンも近くにいる。ハリーは慌ててあたりを
「誰と喋ってるの」
ダリアはもう一度言った。すこし険しい口調だった。
「えっ……と」
「無視する気?」
ハリーが言葉に詰まっているうちに、ダリアはさらに畳み掛けた。ペチュニアかバーノンが聞いたら慌ててご機嫌取りをするような、そんな声色だった。
「おじさんとおばさんは?」
「知らない。でも、あたしこの蛇を見終わってなかったもの」
「そ、そうなんだ」
「誰と喋ってたの」
ダリアはみたび言った。
「蛇……と、喋ってました」
悪いことを白状する口調で、ハリーは言った。
ダリアの目がきらりと光った。彼女がそんな表情をするのを、ハリーは見たことがなかった。
「あなた、蛇と喋れるの?」
「わからない……ません。でも、この蛇は喋れるみたいです」
「へぇ~っ!」
ダリアはまじまじと蛇を観察しはじめた。
「こんにちは、蛇さん」
蛇はのんびりと
「喋らないじゃない」
「どうしてでしょう……」
今度はハリーが話しかけた。
「こんにちは」
「おう、まだ用かい? そろそろお昼寝の続きをしたいんだが」
「ううん、何でもないよ。気にしないで」
「やっぱり喋れるみたいで――」
言いながらダリアの方を振り返ると、彼女は目をまん丸にしていた。
「ほんとに蛇と喋ってる……」
先程まで蛇に向けられていた興味が、こんどはハリーに向いた。
「どこで習ったの? 何かのレッスン? でも、あなたひとつも通ってないわよね。じゃあ学校? そんな授業あったかしら」
問い詰められたところで、ハリーには答えようがなかった。自分が蛇と喋れるのではなく、ここに喋れる蛇がいるのだ。
ハリーは何もわからないよと叫びたい気分だった。
「ダリア! こんな所にいたのか!」
今度はバーノンの声がした。彼にしては非常に機敏な早歩きで近づいてくると、愛娘のすぐそばにいるハリーを見て表情をゆがめた。
「……来い!」
バーノンは低く唸り、ハリーの首根っこを掴んで爬虫類館の出口へと引っ張っていった。
◇◇◇
「いったいダリアに何を吹き込んだ! 言うんだ!」
「何もしてない! 何もしてないってば!」
爬虫類館の建物の陰で、ハリーは問い詰められていた。
「ダリアが自分からおまえに話しかけるわけがないだろう! おまえが何か妙なことをしたに決まってる!」
「違うんだよバーノンおじさん!」
「違わん!」
不毛なやりとりが続いているところに、ばたばたと2人分の足音が近づいてきた。追いかけてきたダリアとペチュニアだった。
「バーノン! これは一体何の騒ぎなの!?」
「この小僧が……! ダリアを
「なんですって!」
ペチュニアもとんでもない形相に変わった。
ようやく事態を理解しはじめたダリアは、何度も父親とハリーの間で視線を往復させた。
「パパ、待って。違うの」
「ペチュニア! ダリアをペンギンの所に連れて行ってやれ!」
「違うのパパ! 彼は――ハリーは悪くないの!」
バーノンは思わずハリーの髪から手を離した。ダリアがこの少年を名前で呼ぶだなんて、天地がひっくり返ってもありえない出来事だった。
「ダリアが……おまえがかばうのか? この小僧を?」
「あたしが話したかったんだもん。悪い?」
バーノンは口をぱくぱくさせたが、結局何も言わずに閉じた。
ようやく解放されたハリーは、地面に落ちた眼鏡を拾いあげた。ダリアをちらりと見たが、それっきりうつむいてしまった。
「ダリアちゃんがあの子とお話しするなんて珍しいじゃない。何があったのか教えてちょうだい?」
「だって……あの子が、蛇とおしゃべりしてたから」
たちまちペチュニアの顔色が変わった。きっとハリーを睨みつけ、それからバーノンと目くばせを交わしはじめた。
「……嘘だと思ってる? あたし本当に見たんだけど」
「いいえ、嘘だなんて思っていませんよ。ダリアちゃんにはそういう風に見えたのよね?」
「やっぱり疑ってるんじゃん。あの子がシューシューって変な音で蛇に喋りかけてたの。あたしが見間違えるわけないでしょ」
「ダリア。それはきっと……そう。小僧がふざけているのを勘違いしただけだ」
「パパは黙っててよ。あれは絶対に喋ってた。……でしょ?」
突然ハリーに順番が回ってきた。
ハリーはこっそりバーノンを見上げた。余計なことを言うなと目が語りかけていた。そしてダリアをちらりと見た。ハリーを信じ切った目だった。
「……」
ハリーは
「ほうら、喋ってなんかなかった。小僧が紛らわしい事をしていただけだ」
「パパが勝手に決めないでよ! ぜっったいに蛇と喋ってた! まるで魔法みたいに――」
「魔法なんてもんは実在せん!」
バーノンは声を荒らげた。それから、しまったという表情で口をふさいだ。
もう手遅れだった。ダリアは顔を伏せ、肩を震わせた。ペチュニアがすぐさまバッグからハンカチを取り出した。
「あたしが……」
ペチュニアは娘の背中をさすってやろうとしたが、そこで泣いていないことに気づいた。
「あたしが魔法を本気で信じてる子どもだって思ってるわけ!? バカにしないでよ!!」
ダリアはずんずんとバーノンに詰め寄った。
「違うんだ、ダリア。いまのはそういう意味じゃあ……」
「あたしがテレビや漫画を本当だと思ってるおこちゃまだって、パパはそう言いたいんでしょ!」
「ごめんよダリア、パパは決してそんな風には」
「じゃあ、さっきのは何なのよ? 魔法は実在しない? 当たり前じゃない! 言われなくても分かってるわよ! ……もう、最悪。せっかくの誕生日なのに」
ダリアは父親を最後に一瞥すると、すぐ横で縮こまっていたハリーに言い放った。
「あんた――ハリー。もう一回やってみせなさい。あたしが嘘つきのおこちゃま扱いされるのは我慢ならないもの」
バーノンは救いを求めてペチュニアの方を向いた。
彼女は目を閉じて首を振った。これはムリ、の意味だった。
◇◇◇
「よお、また戻ってきたのかい?」
「うん。……ごめんね、お昼寝の邪魔をしちゃって」
「ちょうど今日の分が終わったところさ」
ハリーは、なぜこんなことに、という表情で蛇に声をかけた。
呼びかけに応えて蛇が顔を持ち上げ、シューシューと音を出す。その様子をダリアはきらきらの目で眺めていた。
「……すっごぉい」
ダリアはすぐさま両親を見上げた。
ペチュニアは盛大に顔をひきつらせてうなずき、バーノンの脇腹をつついた。すみっこの方で目を閉じて耳をふさいでいたバーノンも、勢いよく首を縦に振った。
「わかった。ダリアが正しかった。パパが悪かったよ。だからもうここは出よう。な?」
できるだけハリーを視界に入れないようにしつつ、バーノンは娘をせかした。
けれども、ダリアにとって話は終わっていなかった。
「ねえ、ハリー。あなた他の動物とは喋れるの?」
「えっ……わからないよ。試したことがないから」
「じゃあ今から試してみない? ここは動物園よ」
ハリーとバーノン夫妻は同時に天を仰いだ。
「最初は……そうね、ゾウから試してみましょうか」
3人を引き連れてゾウの展示まで向かうダリアは、今にもスキップをしそうな足どりだった。
それからハリーはゾウに話しかけ、キリンに呼びかけ、ライオンに挨拶をさせられた。しかし、どの動物もハリーの声には応じなかった。だんだんとダリアの歩みは遅くなっていった。
ミーアキャットのいる囲いにたどり着いたころには、ハリーは完全にうんざりしていた。歩きっぱなしのバーノンはぜえぜえと息を切らしていた。
「こんにちは」
ハリーがミーアキャットの群れに声をかけると、いっせいに立ち上がった。そろってハリーの方を向いた。
「反応した!」
ダリアの表情にふたたび活気が戻った。
「言葉がわかるの?」
返事はなかった。
1匹は鼻をひくつかせてどこかに行ってしまい、別の1匹が地面を掘りはじめた。ほかの仲間も好き勝手に動きはじめた。
「声に驚いただけみたい」
「そう」
ダリアはとっくにミーアキャットを見ていなかった。
「気は済んだかな? そろそろ帰ろう」
まわりの目が気になって仕方なかったバーノンが、これ幸いとダリアをうながした。
ダリアはハリーに一声もかけず、大人しく両親についていった。
◇◇◇
帰りの車の中で、ハリーはいろんな思いを巡らせていた。
初めてのことだらけの1日だった。初めてのハロッズ。初めての動物園。そして初めての――
ハリーはバックミラーを覗き込んで、後部座席の様子をうかがった。
まずペチュニアが大きく口を開けて眠っているのが目に入った。すぐ視界から外すと、ちょうど横に座っている金髪の
ダリアは起きていた。一瞬だけミラー越しに目があい、それからダリアは外の景色を眺めはじめた。ハリーもすぐに目をそらしてしまった。
こうしてダリアの11歳の誕生日は、なんとか無事に着地した。
ダリアにとっては、だが。
「小僧。おまえは一週間ここから出さんぞ。わかったな!」
ダーズリー家に帰り着くなり、ハリーは物置に閉じ込められてしまった。
物置へ押し込まれながら、ハリーはダリアの方を見た。彼女は一瞬だけ憐れむ目をしたものの、ちっともハリーを助けようとはしなかった。
ハリーが蛇と話していたのがすべての原因だ。ぜんぶハリーが悪い。
ダーズリー家では、そういう理屈になっていた。
ハリーにとって幸運だったのは、3日で物置から出してもらえたことだった。しかし、物置から出るころには、何もかもが元の様子に戻っていた。
ダリアがハリーを見て目を輝かせることはない。それどころか、目が合うことすらない。
動物園と違って、ダーズリー家に大蛇はいない。それが全てだった。
ハリーが空気に戻ってからも、変わらずに日々は過ぎていった。
夏休みが始まると、ダーズリー家にはしょっちゅうダリアの同級生が遊びに来るようになった。彼女たちは居候の少年を心の底から見下していたので、ハリーは外をぶらぶらする時間が増えた。
9月になれば、わざと聞こえる声で陰口を言う少女たちは遊びに来なくなる。そのことばかりを考えていた。
ダリアは9月から、名門のセント・ミルドレッド女学校に通うことが決まっていた。
報せの手紙を読んだバーノンは飛び上がって喜んだ。物置の天井からほこりが降ってきて、ハリーは大地震が来たと思った。
ダーズリー家はしばらく入学の準備で慌ただしかった。愛する娘がセント・ミルドレッドの寮で不自由なく暮らすためなら、両親はどんな手間も惜しまなかった。
まもなくハリーの進学も決まった。ストーンウォール校という、お世辞にもぱっとしない地元の学校だった。近所から使い古しの教科書を引き取るだけで入学の支度はすんだ。
ハリーが気がかりなのは、ダリアが寮に入った後のことだった。
ダーズリー夫妻の機嫌をよくしてくれる娘がいないまま何ヶ月も暮らすことなど、想像もできなかった。あるいは、考えたくなかったのかもしれない。
いつの間にか7月も下旬にさしかかっている。
ハリーはすっかりカレンダーの写真にも見飽きてしまった。
今月の写真はフクロウだった。