Angel Beats Children Dissolved 作:セリカ イツミ
次の日の朝礼。
体育館では偉そうな先生が壇上に立ち、親戚が死んだような顔をして話し始める。
「みなさんに悲しいお知らせが二点あります。一つは無許可で体育館を使用し、音楽の演奏をしていた生徒がいました。時間外、許可のない体育館の使用は校則で禁じられています。違反した生徒は、今回に限り厳重注意としました。今後は使用する際は必ず許可を取るようにしてください。皆さんの学業の為の体育館を本来の目的以外で使用することは、我が校始まって以来――」
「早速怒られたなっ! 何言われても、次のオペレーションは決まってるんだけどな!」
主犯格、日向が満足そうに微笑んでいる。オペレーションの成果は上々だったのだろう。
先生が悲しい顔をするのは、これで最後では無さそうだ。
「よくそこまで悪知恵が働くな……。見習いたいもんだ」
巻き込まれた側としては、ため息しか出てこない。是非、俺の平和な日々を返して欲しい。自室のベットが恋しい。
壇上で悲しい表情を維持していた先生は、体育館での事を気が済むまで話すと、一度言葉を切り静かになった。そして、二人目の親戚が続けて死んだような、より一層悲しい顔をしたあと、重々しく口をひらいた。
「昨晩。ある女子生徒の部屋に空き巣が入りました……」
体育館内がざわめく。
NPCであれど不安に感じるところは、まるで普通の人間と同じ反応だ。
「今後は施錠を許可しますので、個人で施錠し防犯に努めて――」
その後も犯罪、本校から、誠に残念、などテレビでよく聞くありがたい単語がちらほら聞こえた。
「ヒューっ! すごいなっ! 悪いやつがいたもんだ……」
「どこの、どいつなんだろうな?」
日向と俺はシラを切りあった。日向の名演技から察するに、本部に乗り込むことを知らされていなかったのは俺だけらしい。
あの後、ステラとは会っていない。
すぐに事情を聞きたかったが、香住が言うにはゲストハウスに行ってもステラは戻らないらしいので、昨日の夜はすぐに解散した。
別れ際に、香住から今日の昼すぎにゲストハウスに出直すように言われた。
その指示をだしたのは、当然ステラだ。
うまく踊らせれている気がして胸クソが悪い。
今日は徹底的にやりあう必要がありそうだ。
ゲストハウスに向かうと、香住が椅子に座り待っていた。
「よう。はやいな」
「こんにちは玲次さん」
あの時と同じ2つのタブレットを忙しく操作し続けいている。それに今日は本気モード なのか、物理キーボードも用意して時折叩いていた。
「おいおい。可愛いらしさのかけらもないな……。今日は一段と荒ぶってるじゃねーか」
「失礼ですね。ちゃんと可愛いらしくしているんですよ?」
香住が、タブレットをひっくり返すと、マゴちゃんのステッカーを見せつける。すると気が済んだのか、すぐに作業を再開する。
「何してんだ?」
「データの解析です」
「香住は、いそがしいからあとでねー!」
マゴちゃんに注意されてしまった。
邪魔になってしまうので、本棚から絵本を選んで読むことにした。
「ただいま」
ようやくステラが来た。
落ち着いた様子で靴を脱ぎ、こちらにやってくる。
「よう」
「おかえりステラ!」
「おまたせ。今、お茶用意するから待っててね」
荷物を置いてキッチンに向かった。
昨日は、騙された気がして気分が悪かったが、一日経つと不思議なもので、どうでもよくなってくる。そんな事よりも、危険な場所から生還して無事に会えた事が素直に嬉しかった。
しかし、これだけは曖昧にしてはいけない。
俺は、うまく嵌められ利用されたのか……。
ステラの言うことがどこまでが本当なのか……。
テーブルに人数分の紅茶が用意されると、まずはステラが席につく。香住も作業を一度中断した。その対面に静かに腰を掛ける。
紅茶を一口含む。
謎の沈黙が部屋を支配している。
数え切れない秒針の音を聞いた後、話を先に切りだしたのはステラだった。
「ごめんなさい。結局玲次を騙すことになっちゃたのは……良くなかったわね」
「最初から、戦線の本部にも行くつもりだったのか?」
「そうね。そのつもりだったわ。出来れば玲次に連れて行ってもらいたかったの」
「事前に話してくれても、いいんじゃなかったのか?」
「守秘義務みたいなものよ。ギリギリまで教えられないこともあるの」
「じゃあ、ステラは一体誰の味方なんだ? 生徒会か?」
「いいえ、違うわ」
いつもの俺らしくない……核心を避けた、じれったい質問だった。
それでも冷静でいようと自分を落ち着かせる。
「どちらにせよ、戦線のヤツらを騙してる事になる。ゆりと日向だけは、全部知っているのか?」
ステラは静かに、一度だけ頷いた。
「あまり気持ちのいい事じゃないな。誰かの指示に従っているのか?」
「違います。あたしたちだけで行動しています」
「香住……。お前が一番危険なんだぞ? 両方の組織から狙われる事になるかもしれない。分かってるのか?」
「もちろん危険なのは分かってます」
「だいたい戦線の情報なら、ゆり達やステラだけで、どうにかなったんじゃないのか?」
「ダメよ。情報を生徒会の人に渡した事が露呈すれば、一部の戦線の人間が反発するわ。それは戦線に所属している私達にはできないの。盗まれたという体裁が必要なの」
「ゆりはリーダーなんだろ? みんなを説得すればいいじゃないか」
「戦線全員のコンセンサスがとれると思う? むずかしいと思うわ。最悪の場合、戦線は分裂するかもしれないわ。武器を持った無秩序な集団が生まれるかもしれない。それだけは絶対に阻止しないといけないわ」
「リーダーと言っても、全権があるわけではないですし、戦線を統制する役目がある以上、立場上厳しい位置にあって、強くは出れないんです」
「なんだよそれ……」
俺でも簡単に想像がついた。
部下の居ないリーダー。
行き着く果ては、民衆のいない名ばかりの王だ。
結局、こんな場所に来てまでも……人間、同じような事で揉めるのか……。
「香住はどうなんだ? 生徒会の人に世話になってるんじゃないのか? なのに生徒会の情報を渡すのか?」
「生徒会は、あくまで校内の風紀を守る為に行動しています。特別戦線を注視しているわけではなく解散に追い込むような事はしません」
「違うッ! そうじゃない! 不義理じゃないかという話しをしてるんだッ! お前たち揃って自分の組織を裏切って平気な顔してられるのか? 信用の問題だッ!」
抑えきれず、ありったけの声で叫ぶ。
「生徒会は関係ありません! あたしの意思で決めて行動しています! お世話になっていても間違っていれば反対しますッ!」
いつもの香住では考えられないくらいの、でかい声で反論される。
「私も香住と同じよ。戦線は関係ないわ」
ステラは、対称的に静かだった。
「じゃあ何が目的だ? 一体なんの為に動いてる?」
「私たちは、この場所の正体を解明する為に動いているわ。それは変わらない。そして今の戦いを完全終わらせる為よ」
「いろんな人間を裏切って……利用して、俺には信用しろと?」
「そうよ!」
至極当然。迷いのない声を俺に浴びせる。
「考えてもみて。一刻もはやく解決策を出さないと永遠に争う事になるのよ。死んでも終わらない戦いが始まるかもしれない。どうしてこの場所で“死んでも大丈夫”なんて事が分かってると思う?」
「まさか……」
「そうよ……。みんな何度も死んでいるのよ……。いつしかそのことも平然と受け入れ、この場所で天使と殺しあう事に何の疑問も持たなくなってしまった。分かるでしょう?これは異常よ! 誰かが止めないとッ! その為には組織に流されない確固たる意志を持った、あなたの様な人が必要よ! だからお願い! 協力して……」
最後は、消え入るような声だった。
死んだ世界での消滅。消滅を避ける為の天使の撃破。
天使の実力行使。戦線の負傷。報復攻撃。
戦争は…………死者によって終わる。
じゃあ、ここなら……どうなる?
「……わかった」
ほかに返す言葉も見つからず、そう答えていた。
そして気づいてしまった。
この場所の謎は俺だけの為じゃなく、この世界にいる人間の為にも必要だということに。
「そのかわり……」
言葉を続け、念を押す。
「もう隠し事はなしにしてくれ。騙すのもなしだ。それだけは守ってくれ。土壇場で裏切られることほど、惨めな事はない。これでステラたちを疑うのは最後にしたい」
「もちろんよ。これで最後にするわ」
「ありがとうございます!」
「ヤッター! 頑張ろうネ! 新入り!」
「ああ。そうだなぁ」
謎の水棲動物にデカイ顔をされるのは、気に食わなかったが、実際ここでは後輩だ。仕方ない。
「じゃあ玲次。今から、私と一緒に戦線の本部に来てくれる?」
「何しに行くんだ? 俺みたいな幽霊部員が行ったら殺されるぞ?」
「大丈夫よ。でも昨日の事で玲次を疑っている人もいるの。その人達の前で、無実を訴えてくれればいいわ」
「はぁ? 俺は真っ黒だぞ? どうすりゃいい?」
「私の友達の“篠山 衣織”っていう子と居た事にして」
「誰なんだ、そいつは?」
「私の友達で協力者よ。一般人のね。今はどこにも所属してないし、話も通してあるわ」
「わかった……なんとかしよう」
とは言ったものの、会った事のない奴とどこまで口裏を合わせられるのか。
紙で出来た戦車で突撃するようなものだ。生きて帰れるものか……。
「いつも突然でごめんなさい。あの……」
「なんだ?」
「怒ってる?」
ステラが乾いた笑いとセットにして俺に尋ねる。
「もういい慣れた。それに理由があるんだろう? もう怒らねえよ。いいから行こう」
「あたしはお留守番してます」
「マゴちゃんも待ってるネ」
香住ともう一匹を残して玄関に向かう。
「行って来まーす!」
「いってらっしゃい」
「ハリツケにされちゃえっ」
「うるせぇ。行ってくる」
これだけの人数がいるのに、本部の中は静かだった。
正面には、ゆりが偉そうに座っている。自慢の長い足を校長の机の上に預け、考え事でもしているのか、無表情のまま天井を見つめている。
左手には、いつかの野田という男。
自慢のハルバートを背負い、張り詰めた視線を俺に向け続けている。
こいつはいつもと相変わらずだ。これまでも校内で会うことが何回かあったが、いつも不機嫌そうで、俺に対する敵意を垂れ流している。面倒臭そうな奴なので相手にしないよう無視しつづけているわけだが。
右手には、ステラが以前と同じ格好で机の上に。
ソファーには、日向ともう一人見たことがない奴が座っている。
目つきの悪い身長の高い痩せ型。
木刀を片手に持っている時点でお友達になれそうにない。だが部屋に入ったときに軽く挨拶をしてきたところからすると、野田とは違い嫌われている訳ではなさそうだ。
立ち位置からいえば、裁判所とよく似ている。
裁判官、検察、弁護人、傍聴者、被告人。
でも俺が思い浮べるのは、そんなにいいものじゃない。
組長、若頭、姐御と若い衆。やらかしたゴミ。
窓は昨日から変わらず、派手に破られたままだ。
スクリーンは降ろされていないが、あの時の飛び道具で穴だらけだろう。
「わざわざお呼びいただいて、何の用だ?」
重い空気に耐え兼ね、俺から切り出す。
「とぼけるなっ……お前がやったんだろうっ!」
若頭……。あらため、野田が早速突っかってくる。
直球すぎる捻りのない質問は、俺にとって清々しく気持ちよくも感じた。
「やめなさいっ!」
ゆりが野田の言葉を制止する。
「阪本君。一つ聞きたいのだけれども、昨日8時頃どこで何をしていたのかしら?」
「……人と会っていた」
「ほぅ。一体誰とだ?」
「誰でもいいだろう? 何でそんなに事をベラベラここで喋らないといけない?」
「何だとぅ? やっぱりお前が怪しいなっ……」
失礼な奴だ。俺がシロだったら、これほど不愉快な事はないだろう。
「昨日、私達のオペレーション中にここに忍び込んでデータを盗んだ2人組がいるの。その時に椎名さんがやられたわ」
「嘘だろ……。椎名は大丈夫なのか?」
「頭の軽い傷だけで済んだわ。明日には完治するでしょうね」
「そうか……よかった」
怪我をさせたのは俺だが、あの状況で相手に気遣う余裕など、どこにも無かった。実際怪我をさせてしまったのは俺の責任だが、それでも椎名の容態が心配ではあった。たいした傷じゃなくて何よりだ。
「それで俺が疑わしいと?」
「当たり前だっ! 貴様以外の誰がいる?」
「そこまで疑われているなら話すしかないな。“篠山衣織”って奴とあっていた」
「私の知り合いなの。本人に聞いてみたけど、本当だそうよ」
示し合わせたようにステラがフォローをいれる。
戦線の古株が証言してくれたんだ。これで戦線側の俺への疑いも晴れるだろう。あとはゆりが了承して無罪確定。思ったよりもあっけない幕引きだ。
「そうなの。じゃあ阪本君は……」
「ちょっと、待てっ! 貴様! そんな時間に女と何をしていた?」
「はぁ? そりゃ……」
危うく即答してしまいそうになる。
これは野田の仕掛けた罠なんじゃないのか……?
そういえば篠山衣織なる人物の性別を聞いてない。ここで俺に女と言わせることで、言質をとる為の質問かも知れない。あわててステラに視線を送ろうとするが。
「おい貴様! こっちを向けっ! 質問に答えろ!」
ステラに助けを求める前に詰問される。
部屋の中が静まりかえり、全員が俺の次の言葉を待っていた。
二択だ。
俺がハズす訳がない!
「は……ぁ……?何言ってんだよ……衣織は……男だろ? 冗談もほどほどにしろよ……」
「そうか……。おいステラ。そいつに話が聞きたい。連れて来い」
激しい緊張で全身が固まってしまう。
三人分のでかいため息が聞こえた。
答え合わせの必要は無さそうだ……。
しばらくすると、衣織という子を連れてステラが帰って来た。
振り返り目に入ったのは……
風に吹かれカーテンのようになびく、栗色の柔らかいウェーブのかかった髪。降り積もる粉雪の思う白い肌。夕日に照らされて瑞々しい光を放つ唇。
戦線と同じミニのプリーツスカートから、スラリと整った長い足を太腿まで露わにしている。
ぶっちゃけて、どうみても女だった。
「ほう。女みたいな男だな」
「そうだろ……? 俺も時々間違えるんだよ。ハハ……はぁ……」
脂汗が止まらない。無理がありすぎる。
「こう見えて、なかなか凄いんだぜ! 駆けっことかじゃ勝てないからな……なっ?」
「せやね。楽勝やったわ……」
男らしく腕を組み、関西弁で不服そうに言い捨てる。
少しはステラが話を通してくれているのかもしれない。何とかこの即興劇をうまく終わらせてしまいたい。
「こ、今度は負けないからな! ほら、野田っ! 聞きたい事とかあるんじゃないのか?え?」
「本当に男か?なら一緒に、友情の連れ小便に……」
「駄目だッ!」「ダメよッ!」
ステラと声が重なる。
「どうしてだっ! 友情を確かめるだけだ!」
「いや、駄目なんだ。幼い頃のトラウマで一人じゃないと出来ないんだ。そういうの、あるだろう? 俺だって、こいつとじゃ一人で行くんだぜ……遠慮してくれ」
「じゃあ……」
「紳士の象徴も触れるなよ! 絶対だ! そいつもトラウマなんだ!あと、そこで揺れてるプディングも触れるな。ありゃ水風船だ。われて水浸しになっちまうだろ……ダメだからな」
さすがに口数が多くなってしまう……。もう駄目かもしれない……。
「彼はいろいろあったんだ。だからこんな格好もしている。誰だってあるだろう?トラウマだ……。わかってやれよ。それより昨日の事だろ? ホラ聞けよ」
「そうだな。じゃあ昨日2人で何を話してたんだ?」
「二人の将来についてや……ホンマまいったわ」
「はぁっ? なんだそりゃあ?」
思わずでかい声が出てしまう。
「男同士やけど、幸せになろうなって話しを朝まで話しあっとってん……ホンマに参ったわぁ」
「そうだったのか……。ズケズケと聞いて悪かった。貴様、幸せにしてやれよ? 分かっているだろうな?」
「頑張れよっ! 応援してっかんな!」
日向まで悪ノリする。
俺一人が完全に嵌められた形になった。
天を仰ぐ。
落ち着け俺。いつだって楽勝だろ?
「ああ。任せとけ……」
日向に、そう返すしか無かった。
「もうこれでいいでしょう。阪本君の疑いは晴れたかしら? じゃあ今日は解散。この事については、後日全員で詳しく調査するわ。じゃあステラと新婚さん。それと日向君は残ってくれる?」
野田が大人しく部屋を出て行き、木刀を持った男も立ち上がり部屋から出て行くかと思うと、何故かこちらに近づいて俺に耳打ちをする。
「よう坊主。初めましてだな。俺は藤巻ってんだヨロシクな」
「阪本玲次だ。坊主って、お前も俺と歳は変わらないだろう?」
「こまかい事はいいんだよ。それより野田はうまく騙したかもしれねえが、俺の目は節穴じゃねえからな。いつかゆっくり話しようぜ。じゃあな」
言い捨てて、木刀を肩に乗せ部屋から出て行った。
ややこしそうな奴に目をつけられた。蛇のように一度噛み付くとしつこい奴なのかもしれない。今後、藤巻には気をつける必要がありそうだ。
「なんで、こんな事になってんねんっ!」
開口一番、ブチ切れたのは衣織という女だった。
見た目のおしとやかな雰囲気と違い、怒り狂っている。
「玲次がしくじったからよ」
「待てよ、ステラが先に女だって言ってれば済む話だったんだろうが」
「だいたい、そんなことイチイチ言わなくても分かるでしょう? お友達なんだから女の子が普通でしょう?」
「衣織って名前は男でも女でもいるんだ。勉強になったなアメリカ人」
「私はイギリスって言ってるでしょう!」
「あたしが親から貰った名前にケチつけるなんて、考えられへんっ!」
「喧嘩するなーーっっ!!」
ゆりが一喝すると、声が止んだ。
「こうなった以上は、篠山さんは男で通しなさいっ! いいわねっ!」
「嘘やろ? ずっとこのままなん?」
「よかったな。ボーイッシュってやつだ」
「阪本君! あなたもよっ! 今後ゲイって事にするから! いいわね?」
「よくねえよ。バカたれ。なんで俺まで……」
ゆりが、判決を下すかのように机を強く叩きつけ、こちらを睥睨する。
視線が語りかけていた。“異論は認めない。逆らう者は、人という位を簒奪する”
ゆりなら可能だ。
その気になれば、昨日の事を戦線の連中に公表して戦線の全線力を俺に向け、この場所から消し去る事もたやすいはずだ。
ここにいる間は、永遠に追い回されるだろう。
「わかりました。それで結構です……」
今更ながら後悔する。酷い連中に巻き込まれてしまった。やはり人を騙す事はよくない。
調子を戻して、ゆりの方へ向き直る。
どうしても、ゆりに確認しなければならないことがあった。
「そんなことよりいいのかよ? リーダーが部下を騙したりなんかして。みんなお前を信じて、ついていってるんだろう?」
事が露呈すれば、戦線が瓦解しかねない。
そうまでして、なぜこんな手の込んだマネをするのか。
こいつは平気で味方を騙す人間なのか、それとも信用に値する人間なのか、ここで正確に見極める必要があった。
「そうね、リーダー失格かもね……。こう見えて戦線も一枚岩というわけじゃないの。いろいろな思いを持って、みんな戦ってくれている。だからこそ、バラバラにする訳にはいかないの」
銃を取り出し、机の上に置いた。
「みんなが好き勝手にこの世界で生活して、いったい誰が喜ぶの? それでいつのまにか天使に消されて、私たちはどこの世界なら幸せになれるの? 天使や神様にだけは消される訳にはいかない……。ここがみんなにとっても、幸せを手に入れられる最後の場所だから……。だから、あたし達は戦うの」
優しい目で銃に弾をこめ、ホルスターに挿し直す。
「でも天使を撃破する事だけが解決策じゃないはずよ。この世界の事は完全には分かってないの。ステラの言うとおりこの世界の事を調べる組織も必要だわ。だから出来る限り我が戦線も協力するわ。引き受けてくれる?」
「そこまで言うならもう何も言わない。わかった。やらせてくれ」
「だいたい、戦線にも幽霊部員。天使とも戦いたくないなんていう阪本君のワガママ聞いてあげてるんだから、これぐらいやりなさいよね」
「期待してるぜっ! ルーキー!」
日向が俺の肩を叩き、応援してくれる。
「幽霊部員仲間の篠山さんにもお願いするわ。あなたも戦わないならいいでしょう?」
「ちょっとくらいやったら、かまへんよ」
「ちゃんと男で通すのよ。いいわね?」
「一応、ここでは返事しとくわ……」
「ステラ! 生徒会の情報はどうなりそう?」
「解析には3日かかるらしいわ。あさってには終わるんじゃないかな」
「情報についてだけど、今回は香住ちゃんのおかげなんでしょう?」
「ああ。そうだが」
「じゃあ、生徒会の情報はいらないわ。今度改めて、あたし達だけでなんとかするから」
「おいおいっ!ゆりっぺいいのか?そんな事言って、後で困るんじゃあ……」
「生徒会の手なんか借りなくても、私達だけでなんとかして見せるわ! それに前は、香住ちゃんを怖がらせちゃったみたいだし、生徒会の人に後ろめたい思いをさせたくないの……」
ゆりは一度立ち上がり。珍しく真剣で、どこか暗い表情を見せる。
「いい? あなた達は、今後みんなから厳しく批判される立場になるわ。戦線の人間なのに協力的じゃない。いつも何をしているのかわからない。そんな心にもない言葉を浴びせられるでしょうね……。でも私たちだけは最後まで応援しているわ。それだけは忘れないで」
「わかった。約束しよう」
「じゃあヨロシクね。何かあったら、遠慮なくいいなさい! あと明後日、私達はギルドに向かうわ。ギルドの責任者にも話を通しておくから、何か必要なものがあれば言いなさい! それに、あなた達も一度ギルドを見学するといいわ!」
「ギルド? なんだそれ?」
「地下に、戦線の物資を開発および研究を目的としたシンクタンクがあるの。私達の銃や弾薬は、そこで調達しているわ」
「そういえば、椎名さんと斬り合ったんでしょう? すごいわね、あなた何者?」
「謙遜無しでたまたまだ。一歩間違えれば、こっちがやられていた」
「そうなの? 刃がこぼれてるかもしれないし、一度見て貰ったら? 新しいのも調達すればいいわ」
「幸い銘刀なのか、たいした損傷はなかった。でもそんなところがあるなら、一度行ってみたいもんだな」
「じゃあ、折角だから解析が終わったあとに行きましょうか。私も弾薬が必要だしね」
「わかったわ! こちらも手配しておくわ!」
「それじゃあ、用も済んだし俺達は撤退する。またな」
振り返り、ゆっくりと立ち去る。
正面の扉のノブをつかみむと、ゆりが最後に声をかけてきた。
「そうそう言い忘れてたわ。入り口のパスワードが敵にバレた事になってるから、パスワードを変えたの。みんなも気を付けてね」
「せっかく、俺が考えたのにお前達のせいで台無しだ! もうやめてくれよぉ?」
「こっちだってもう御免だ。そういえば新しいパスワードは、何にしたんだ?」
ゆりは右手を銃の形にし、その手を俺に向けて答える。
「神も、仏も、天使もなし」