Angel Beats Children Dissolved 作:セリカ イツミ
当てがわれた部屋は、二段ベットだけが置かれた狭い部屋だった。ここには、寝る為の最低限のスペースしかない。
あの後チャアに連れられ、VIPルームを後にすると衣織とは別の場所に案内された。
行き着いた先は、岩石を取り出す採石場だった。
空のトロッコの中に石の山を作らされ、それで終了かと思いきや、トロッコを工房まで運搬したあと、石を分別し叩いてひたすら鍛える。
最後は、それをペーパーナイフとして使えるよう整えた。
通常はこの一連の作業を一日交代で行い、採掘、鍛錬、精製の工程をローテーションをさせるらしい。
曰く、自分の石は最後まで面倒を見るのがギルドの信念だそうだ。
実際は、俺も思った通り非効率なのだそうだ。人の持ち場を変えると勝手が変わる。現状、製造工程も増えて高度な技術が必要な物も製造されるようになり、大量生産には追い付かなくなって来ているらしい。
しかし、チャアは最後に理由を話してくれた。
ゆりの要望に、こちら側が譲歩してローテーションの期間を一週間、二週間とする事はあるが、決して停滞させる事は無いらしい。
作業員にやる気を失って欲しくはない、何の為に石を掘り続けているのかを考え続けて欲しいという。マニュアル化、単純化する事で人間の思考は停止してしまう。そうは、したくないと。
そこには、チャアの信条が生きていた。
ゆり達が振り回している銃の裏にはそういう過程がある。だから戦線で戦う人間は一度は必ずこのギルドに来る。自分達が使う物がどういう物であるかを考えさせる為らしい。
人の目に付かない地下の奥で彼らは戦っていた。
色々な事を考えていると、寝付けなくなってしまった。
今すぐ寝なくとも、睡眠時間は十分確保できる
すでに消灯時間は過ぎているが、部屋を抜け出し寄宿舎の外に出る。
建物の横の階段から屋上に行けるようだ、ギルドの中でも比較的高い建物だ。上に登ればいい眺めかもしれない……。
屋上につくと、何もないコンクリートが広がっていた。
ちょうど良さそうなスポットを見つけたので、端に行って座り込む。そこからは、工場のあるギルドを一望することが出来た。
工場は眠りに就いている。
トロッコは停まり、あれ程うるさかった機械の音も今は聞こえない。死んだように静かだ。照明は最低限に留められ、辺りは暗い。
星空は見えないが、たくさんの赤色と白色のランプが点滅を繰り返す。
この場所に来てから、ずっと必死だった。
天使のこと。戦線。ステラ達。学校周辺のレイアウト。この場所の仕組み。誰も信用できず、何もかも一から調べる作業は思った以上に大変だった。
今までなら、渡された地図やwebの情報をバカみたいに信じても大丈夫だった。わざわざ疑う必要など感じなかった。周りの家族、友達もそうして解決しているからだ。
便利な世の中に生きていた。そんな事を思う。
ステラ達が、どこまで信用できるかは分からない。
人間なかなか本心は明かさないものだ。実際俺も戦線の人間や生徒会の人間を騙している。それでも見知らぬ人間よりはマシだと思いたい。それに、この場所で一人で出来る事も限界に近かった。
「貴様!こんなところで何をしている!」
ゆっくりと一人でギルドの景色を楽しんでいたが、野田の罵声によって中断される。思わぬ闖入者に心からウンザリした。
「何もしてねえよ。夜景を楽しんでいるだけだ。邪魔しないでくれ」
「そうか、それは悪かったな……」
冷たく言い捨てたことに機嫌を損ねて突っ掛かってくると思ったが、意外にもあっさりと引き下がり、そのまま同じ場所で突っ立っていた。
「なんだ?亡霊じゃないんだ、気持ち悪いな。黙って後ろに立つな」
「見張りを任されている。怪しいヤツを野放しにはできない」
「チッ。不審者扱いかよ……。じゃあ、こっち来いよ」
「邪魔になるだろう?」
「後ろでダンマリされる方が邪魔だ!ホラっ」
隣の地面を手の平で二回叩く。
すると、そのまま何も言わずに野田がこちらへ来る。
大体、俺がこいつに何したっていうんだ?
初対面から、喧嘩腰で構えられる意味が分からない。
イヤ……そうでは、なかった一つだけ思い当たることがあった。
「お前、ゆりの事好きなのか?」
「なんだとっ!」
衣織に感化され、いきなり本丸を攻める事にした。それに大事なことだ。外堀を埋めていく方が野暮だと思ったからだ。
「そうなのか?って思っただけだ。違うなら、そう言えばいい」
「違うな」
「またまた!嘘がうまいな!恥ずかしがるなよ。誰にも言わないからさ。俺、友達少ないしよ」
「断じて違うっ!そういうものではない!」
「じゃあ、どういうものなんだよ」
「……俺が……この世界で守らなければ、ならない人だ……」
そういうのを好きっていうんじゃないだろうか……?なんだか意味不明なやつだった。
「守るって言うからには、天使からか?」
「それだけじゃない。ありとあらゆるものからだ。俺だけが最後までゆりっぺの味方だ。どんな筋を曲げてでもな……」
「そうかよ……。素直に尊敬する……」
俺はと言えば、ここに来てから疑いっぱなしだ。邪まな自分がひどく矮小に見える。
しかし、世間はこんなヤツをが生きていられるほど甘くなかった。
生きていた時には、何度も何度も煮え湯を飲まされ、痛い目に会わせれ続けた。
俺からすると、こいつは人から裏切られたことのない本当に幸せなヤツなのかもしれない。俺には難しそうだ。
「戦線で戦ってるのは、ゆりの為か?」
「最初はそうだったが、今はそれだけじゃない。天使に戦線の連中を消されたくない。守れるものなら全員守りたい。それだけだ」
「すごいな……充分だ。悪いが、俺は最初銃を振り回してサバイバルゲームを楽しんでいる人間かと思った」
「貴様っ!馬鹿にしているのか!遊びじゃないんだぞ!」
「だから悪かったって。今日はいい話が聞けた。もっと話していたいが、明日は私用で朝早いんだ。お前も警備の仕事があるんだろ?これ以上、邪魔しちゃ悪いからな。俺も部屋に帰る。じゃあな」
俺には野田が眩し過ぎた。長く喋りすぎたかもしれない。立ち上がり部屋に向かおうとすると、野田に呼び止められた。
「待てっ!貴様も戦線いるんだ!協力しろ!」
「そのうちな……」
本当は、協力している。だが、俺達がしている事は機密だ。
絶対漏らす事は出来ない。
それに、戦線の内部分裂なんて誰も望まないだろう。
これ以上、戦況を悪化させるわけにはいかない。
俺達なりのやり方で戦いを終わらせ、この場所の構造を解明してやる。