Angel Beats Children Dissolved   作:セリカ イツミ

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Angel Beats Children Dissolved 03

目を開けるのがつらい。

 日差しが痛い……どこかに寝かされているらしい。

 清潔な匂いのない寝具。糊がきいているパリッとした感触。

 心地よくはあるが明らかな不快感。そんなものより、使い古した枕と自分の臭いが染み付いたベットの方が、はるかに落ち着く。

 俺は自分の家に帰りたいだけなのに、ろくでもない連中のサバイバルゲームに巻き込まれたのが不様で仕方ない。

 追いはぎに、エアガンを持った連中。

 眼前に迫った薄く長い両刃のプレート。

 生きている間には、決して見ることの出来ない光景だろう。

 少なくとも二回ほど切られた。

 それ以降は覚えていない……あれほどの激痛ならば、死んでいてもおかしくないはずだ。それでも、こうして意識があるってことは悪い夢で済んだらしい。

 これまでに最悪な夢を見た回数なら、その辺の奴に負ける気がしない。

 落ちた、崩れた、歯が全部抜けた、殺された。やけにリアルな夢だったが、今回もその中のひとつだろう。いつも起き上がるたびにホッとする。

 体を起こして、周りを見渡して、そして絶望した。

 すぐ目の前に、回転椅子に座っている女がいた。

 腕と足を組んで、偉そうに眠っている。

 着ている制服が、昨日夢で見たアイドル女が着ていたものと同じだ。イヤ……ここまで来ると、昨日の事は夢じゃなかったんだろう。

 セミロングのブロンド。

 深く青い色のリボンを使い、乱暴に後ろで一つにまとめている。

 ここからでは前髪に隠れて顔がよく見えないが、鼻は高く筋が通っているモデルのように美人なのは分かる。それに肌が透き通るように白い。雰囲気から言って日本人じゃないだろう。西洋人らしいシベリアハスキーのような孤高さと気品。その中にも野生の持つ気性の荒さを感じさせる。

 首を傾けているせいか、髪の毛が口の中に入ってた。よほど熟睡してるのか、寝息まで聞こえてくる。こんな連中は、そのままあの世に逝っちまえばいい。

 腰にある黒いホルスターには、回転銃のエアガンが収まっている。ホルスターというオプションも揃えているところから、連中のサバイバルゲーム熱が伺える。

 どうやら追いはぎの連中に捕まったらしい。

 見たことの無い、保健室のような場所だった。

 カーテンが全て開いていて、隣には三人分のベット。女のいる方には、本来保険医が使うであろう机がある。女が座っている回転椅子はその机の椅子なのだろう。

 今は使われていない、廃校なのかもしれない。

 そうっと布団をどかしてベットから降りる。

 靴は諦めるしかない……。今この瞬間ほど、靴下に感謝することはなかっただろう。

 出口までは、大股で十歩ほどだろうか。

 残念なことにブロンドとの距離は1メートルほどしかない。白い大きな引き戸は閉まっているが、どうあがいても少しくらいは音が立つだろう。最悪フルダッシュだ。

 念のために呼吸のリズムも合わせる。こういうのは慎重すぎるくらいがちょうどいい。

 足音を殺し、ブロンドのすぐ隣まで来た。

 静かにこのまま横切ろうとすると。

「どこに行くの?私も連れて行ってもらわないと……」

 ものすごい速さで、右手首を強く掴まれる!!

 手が万力のように噛んでいる。

 構わず、強引に走り出す!

 悪いがこっちも必死だ! なにがどうあってもドロンさせてもらう!

 女がパイプ椅子から転がり落ちる!!

 そのまま2、3歩分引きずるが、それでも離れなかった! 振り返ってみると何事も無いかのように、うつ伏せで寝転がっている。

「嘘だろぉ? 離せよッ!」

 叫んでみたが反応はない。

 不思議な事に、先程と変わらず寝息が聞こえ続ける。

「んだとぉ? まさか……まだ寝てんのか?」

 掴まれた手首をつかって、オムレツのように女をひっくり返す。

 表を向けると、眩しそうに目をこすっていた。

「ああ、起きたの。よく寝てたね」

「お前がな……。どんな夢を見りゃそんなことになる? いいから離せ」

「どこに行くのよ? また当ても無く逃げるつもり?」

 あきれた調子で返される。

 それにしても面倒な連中に捕まってしまった。

「違う。一度家に帰るだけだ」

 永遠に帰ってこないがな……。もちろん口にはしない。

「まぁ待ちなさい。今ゆりを呼ぶから。話だけでも聞いて行きなさい。帰るのはその後でもいいでしょう?」

「開放してくれるのか?」

「話を聞いた後なら、どこまでも逃げればいいわ。それ以上、止めはしないから」

 女がため息まじりでそう答えたあと、無線で連絡していた。

 “ゆり”というと、確か昨日のアイドル女が確かそう呼ばれていた。

 あの意味不明な奴に襲われた状況で、生きていたのか?

 しかし、お話が終わって“ハイさようなら”なんて話がうますぎる。

 こんな初対面の訳の分からない女のことを信用なんてできるのか?

「それより、気が済んだなら起こしてもらえるかしら?」

「あぁ……悪かったな」

 女はうつ伏せの姿勢だが、右手は掴まれてままだ。

 そのまま女に向かって歩いていくと、女の体勢が自然に起き上がった。

 ほんの少し頭を使ってやった。

「もっとマシな起こし方は出来ないの?」

「怪しい奴らは、こうやって起こせって親にいわれたんだ。マッサージチェアみたいだったろ?」

「あっそう。ありがとうございました」

 とても不服そうに答えた。

「お前どこの国から来たんだ?」

「イギリスよ。まぁここではもう国なんか関係ないけどね」

「随分と日本語がうまいんだな」

「周りがみんな日本人だからね。そんなことより貴方、昨日バラバラになってたけど、今は痛みとかはない?」

「バラバラ……? 嘘だろ。夢じゃなかったのか?」

「そんなわけないでしょう。話を聞かない男が花火になったって聞いたわよ」

 そういうと、面白可笑しそうにクスクスと笑う。

「じゃあ、あの時に……俺は死んだのか?」

「ここにいるってことは、その前にとっくに死んでるわ」

「はぁ? そんな覚えはどこにもないぞ?」

「貴方、もしかして記憶がないパターン? 名前は?」

 得体の知らない女に身分を明かしていいものか……。

 あとで追い回されたりしたら面倒だ。

「玲次だ」

「ファミリーネームは? 覚えてないの?」

「悪いけど、お前たちを全面的に信用したわけじゃない」

「つれないわね。ステラ・ローウェル。握手は……必要ないわね」

 目線を掴んだままの右手にうつす。肩をすくめた後、軽く微笑んだ。

「聞きたいことがある。ここはどこなんだ?」

「死んだ後に来るところよ」

「違う! それは後回しだっ! 今いるここ! この場所だ! ヒィゥアー?OK?」

 昨日から何度も同じ答えを返され熱くなる。

 正直、ウンザリしていた。

「そんなエセ英語使わなくても分かるわよ。ここは第一保健室。あまり使われることはないけどね」

「保健室? やっぱり学校か? 昨日の場所から別の建物に移動したのか?」

「いいえ。倒れていた場所からは、それほど遠くないわ。建物もこのあたり一帯以外には何もないから」

「じゃあ昨日のでかい建物は、全部今も使われている学校だって言うのか?」

「生徒数二千人前後の大きな学校よ。みんなの分の寮があって、そこで生活しているわ」

「保健室なんて勝手に使っていいのか?」

「だれも使うことはないから大丈夫よ。ここの素晴らしいところは、もう誰も病気にはならない事ね。貴方も二度と風邪を引くこともないわ」

 そういわれても、全く実感は沸かない。

 今こうして息をしている。手足も自由だ。何の変わりも無い。

「混乱するのも仕方ないと思うけど……はやく慣れて貰わないとこっちも困るわ。ここで一度、天使に殺されたんでしょう? そろそろ納得してもいいはずだけど?」

「保留だな。今はなんともいえない。でも仮に、お前らが言うようにここが死後の世界だったとしよう。晩飯は常にステーキ。俺以外の人間は、全員かわいい子限定の楽園なのか?」

「うわ……ひどくチープな楽園ね。じゃあ、ここは地獄よ。ほら昨日、日向とも会ったんでしょう? まだ、たくさん男子もいるわよ」

「お前には、一番に俺の楽園から出て行ってもらう」

「きっと玲次のほうが先に出て行くことになるわ。でも、ここで消えたらそんな天国が待ってるかもしれないわね」

「はぁ?消える?」

 続けて聞き返そうとすると、突然出入り口のドアが開く。

 昨日見かけた、あのアイドル女が入ってきた。

「やっとアナーキストがきたね」

「失礼ね。私はただおとなしく消えるのが嫌なだけなの。ステラだってそうでしょう?」

「まぁ、そりゃあね」

 昨日、見たアイドル女が部屋に入ってくる。

 一緒に殺されたのかもしれないのに、何事もなかったように無傷だ。ゆっくりと歩いて、こちらへやってくる。

「調子はどうかしら?」

「ありがとう。昨日は悪かったな……。なんか決闘の邪魔しちまったみたいで」

 一応は心配して貰えているらしい。こちらも素直に返す。

「構わないわ。こっちも助けてもらったんだしね」

 そんなつもりじゃなかったんだが、そういう事になっているらしい。悪い気はしないのであえて訂正しないでおく。

「そろそろ話だけでも聞いておいてくれないかしら。知らないと困る事もあるしね」

「そうだな、俺も早く家に帰りたいからな」

「はぁ? あんたばっっかじゃないの? 今までの話し聞いてたの? もう死んでるからこの世界から、おうちには帰れないって言ってるの! いっぺん死んでもわからないんだったら、もういっぺん死んだら?」

 いい加減ウンザリして来たのか、アイドル女がまくし立てる。

「今の“もういっぺん死んだら?”とういうのは、死んだ後のこの場所でよく使われる一番トレンディなジョークよ。よかったら、他の所でも使ってみてね」

「はー……。は、は、は」

 手拍子も付けて、軽快に笑う。

「こんな場所じゃ落ち着かないだろうし、わが戦線の対天使用作戦本部に案内するわ。そこで詳しい話もするから、ついて来なさい!」

 どんな場所だと落ち着いて貰えると思ってるんだ? こいつもマイペースな女だ。

 渋々靴を履いて、アイドル女について行く事にする。

 立ち上がって数歩分歩くと、それ以上進めなくなった。

「離せよ」

「イヤよ。逃がさないから」

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