Angel Beats Children Dissolved 作:セリカ イツミ
手首をつかまれたまま、随分と歩かされる。
離せと抗議するのも諦めた。
部外者の俺がいるからなのか会話は少ない。黙ったままで目的地が分からない道のりを歩くのは思った以上に長く感じる。それでも窓の外や学校の内部を観光するのに忙しく、退屈はしなかった。
先程から、こいつらとは違う学生服を着た生徒を数人見かける。他には部活動でもしているのか、体操服を着た生徒も窓の外に見えた。
途中、自販機で缶コーヒーを買ってもらった。
見たこともない銘柄のコーヒーが二種類。この学校のオリジナル商品なのかもしれない。
女におごってもらうのはダサいとは思ったが、そもそも金なんて持ってない。
アイドル女は見たことの無い硬貨を使っていた。ドルもしくはユーロなのか、大穴でポンドかもしれない。
ここが昨日見た建物の中なのかは分からないが、この広さの建物がいくつもあるなんて考えたくもない。折りたたみの自転車が必要だ。そんなものがこいつらの言うところの“死んだ後の世界”にあるかどうかも分からないが……。
「あーあー。こんなに歩かされたら足が折れるかもなぁ?」
「その時は、私が無理やり引きずって行ってあげるわ。」
「そんな待遇になるなら、もう放置しといてくれ…」
「もうすぐよ。つべこべ言わずについて来なさい!」
グチでも言わないとやってられない。時間の感覚が曖昧で、ずっと歩いている気がする。
しばらく歩くと、廊下が突き当たっていた。ようやく目的地らしい。
突き当りには大きめの木製の扉。扉の上にあるプレートには“校長室”と書かれている。
「二人はここで待っていて。私は罠を解除してくるわ」
「なんだそれ?」
「対天使用のセキュリティーよ。パスワードを入れないと、トラップが発動して強制的に排除されるようになっているの」
「排除ね……」
含みのある言い回しだ。即死コースであることは確定らしい。
こいつらが言うことが本当なのであれば、この場所では死なずに死ぬほどの痛みにさらされるのだろう。そんなのは御免だ。永遠に遠慮したい。
「じゃあ、行ってくるわ。ステラは彼を見張っていて」
「了解です。サー」
そう言うとアイドル女は扉のほうへ向かう。
「あいつは、お前の上官なのか?」
「そうね。彼女は戦線のリーダーだから」
言われてみれば、昨日の長髪の男にも細かく指示を出していた。
ステラも一番に彼女に報告していたところを見ると、あいつが何かのリーダーなのは間違いなさそうだ。
「戦線っていったな。何なんだそりゃ?」
「それも後で説明するから。そのために今おとなしくしてるんでしょう?」
「そうかもな」
こいつに隠し事をするのは難しいらしい。
アイドル女に目を戻すと、扉の前で立ち止まり長めの合言葉のようなものを呟いた。でかい木製の二枚扉あけて部屋の中に入っていく。
テンキーで番号を入力するものかと思っていたのだが、俺の思い違いらしい。確かに音声入力のほうが機密性が高く、声紋認証なども複合すれば解析は難しいはずだ。そこまでセキュリティに気をつけているあたり、そうとう大きな組織なはずだ。
そして敵も強大で、強力なのだろう。
相応の用意をしなければ一瞬で全滅。ゲームオーバー。考えたくもないな。
「俺も入れるようにはしてもらえないのか? ステラからも頼んでくれよ。あんたらのリーダーが言う所によると、俺は味方らしいぞ?」
「そんな権限はないから、私に相談されても困るわ。あとでゆりにお願いしてみたら?」
「もういい。俺が言うことは何一つ聞き入れてくれないんだな」
「ごめんなさい。私、日本語わからないから。大変申し訳ございませんが、英語でお願いします」
「左様でございますか」
キャビンアテンダントのような丁寧なお辞儀。にこっりと笑う営業スマイル。なかなか食えない女だ。
現状、俺は何も望めないのかもしれない……。
おとなしく従っていたほうがいいだろう。なにより今は情報が必要だ。
「じゃあ、行きましょうか」
「おい、俺もいるぞ。暗号聞かれてもいいのか?」
「大丈夫よ。今ならね」
ごくわずかな時間であれば、再度認証する必要はないのかもしれない。もっとも、それがどのくらいの時間なのかは明確でない以上は、変に手出しをしないほうが賢明だろう。
ステラが扉を開けると部屋には、特に何もせずに入れた。
校長室と表札にあるように、中は意外に広く本物の校長室のようだった。
左手には小さな本棚があり、その手前に、物静かな女が顔を俯かせて壁にもたれかかってている。寒くも無いのにストールのようなものを首に巻いている不思議な女だ。腰には銃ではなく刀が提られている。
右手には窓がいくつかあり、そこにも男が一人。
ゲームに出てきそうな長い槍と斧が一緒になった武器を持って、こちらを睨みつけている。あの武器は確かハルバートという名前だったか?ゲームや漫画は嗜む程度なので名前まではあやふやだった。いろんな意味でヤバそうな奴だ。
正面には本来校長が使うデスク。後ろには腰の高さのフロアランプ。
校長用の椅子には、アイドル女が足を机の上に乗せて座りディスプレイを見つめている。
手前には来客用のソファが右と左に分かれて置かれ、中央には背の低いテーブル。
右手のソファには長髪の男が、腰をおろしてくつろいでいる。
男が全部でロン毛と槍を持った奴の二人。女がステラとゆりを含めて三人。
この部屋の広さからすると、戦線全員というわけではなさそうだ。
「よっ!」
ロン毛の奴に突然話しかけられる。思えばどこかで見た顔だった。
「ああ昨日の奴か……。昨日は殴りかかって悪かった。怪我とかはないか?」
「いいって。あーいうのは慣れてるんだ。新入りなんだし気にすんな!」
「そうか、本当に悪かった」
こういうのは、一言謝っておくのに限る。
すぐに許してくれるところを見ると、本当はきっといい奴なんだろう。
「NASAの司令室みたいな部屋かと思ったら、そうでもないんだな?」
すぐ横に立っているステラに耳打ちする。看守のように腕は掴まれたままだ。
「そんなわけないでしょう。映画の見すぎよ」
「いったい、俺はどうなるんだ?」
「何もしないわ。この場所での“ルール説明”だとでも思って」
「本当にそれだけで済めばいいんだが。それより、ここまで来たならもう十分だろう。離してくれ」
「そうだったわね。ごめんなさい」
「来たばかりで、立ちっぱなしなのも疲れるだろう? よかったらそこに座れよっ!」
「わかった……。ありがとう」
お言葉に甘えて、空いているソファに座ることにする。
せっかく貰った缶コーヒーも空けて、くつろぐ事にした。
モニターと武器、無機質な壁とロッカーが並んでいるかと思っていたが。作戦本部と聞いて想像していた場所とは違った。
一見して何の変哲もない校長室。
これでは、仮にセキュリティを突破できたとしても、どこを調べればいいかすぐには分からないはずだ。時間を稼げれば、その間に脱出。機密保持のために部屋ごと破壊することも可能なのだろう。
「ようこそっ!我が“名前は今から決める戦線”に!さっそく始めましょうか!!」
でかい声で言い放つとPCを操作して立ち上がった後、天井にあるロール式のスクリーンを引きおろす。
ステラがカーテンを閉めてまわり室内を暗くしたあと、スクリーンに“ブリーフィングマネージャー”と英語で書いてある画面が表示された。
「すげーな。遠足のプラネタリウムを思い出すな」
「あさはかなり」
本棚の女が喋りだす。突然、聞いたことのない声がしたので少し驚いた。
「お前、しゃべるんだな。目をつむって突っ立ってるから寝てるかと思った」
「……あさはかなり」
気配の薄いく思えば部屋に入ったときから微動だにしていない。不思議な女だ。
「まずはこの世界について説明するわ。貴方には何度も! 何回も説明した通り、ここは死後の世界よ。この世界では今までと違ってすでに死んでいるから、もう一度死ぬ事は無いわ。そのかわり、この世界では“消えてなくなる事”があるわ」
「さっき言ってた“消える”ってことか。何の予告も無くいきなり消えちまうのか?」
「いいえ。消えるには条件があるわ」
アイドル女がPCを操作するとスクリーンの画面が切り替わる。
「今、分かっている消える条件は、表示している画面の通りよ」
そう言い放つと、スクリーンを指差す。
画面には……
1,心の整理をつける。
2,模範生として一般生徒と同じ生活をする。
3,神もしくは天使に消される。
と表示されていた。
「これらが今分かっている、この世界から消えてしまう主な条件ね」
「まるでスワヒリ語だな。俺には一切わからない。消えないで済みそうだ」
「あさはかなり……」
「悪かったな。浅はかですよ。賢くてもこれは分からんだろう?」
「貴様、ゆりっぺを侮辱する気か!!」
長物を持っていた男が突然キレ出す。
もしかするとアイドル女に惚れているのかもしれない。死んでも二人は、アツアツってか? 結構なもんだな。
「やめなさい! まだこの世界に来たばっかりなのよ! 貴方がそう思うのも無理ないわ。今から順に説明するから」
画面を切り替えると女が説明を続ける。
「最初は心の整理ってやつね。これは悩み事を解決するようなものね。死んでしまう前の悩みや、今持ってる悩みを解決すること。それだけでなく幸福感も原因のひとつにあげられるわ」
「心的抑圧やコンプレックスの解消。葛藤の解決ってところか?」
「あさはかなり」
「おいおい……! 今のは頑張っただろう!?」
「まぁ小難しくいうとそういうことね。もちろん度合いも影響してくるわ。じゃないと、お腹がへって満腹になるたびに消えてしまうなんていう滑稽な展開になりかねないわ」
お腹が減るたびに悩ましい思いをしている奴なんて、そうはいないだろう。でかい大学の哲学者か暇人くらいのもんだ。
しかし、これは思った以上に厄介かもしれない。
幸せの尺度なんて測定できるわけが無い。
個人の価値観なんて多種多様で人それぞれで、ましてやそれを人数分把握するなんて不可能だ。ふとした原因で自分だけでは無く、他の人間を消してしまいかねない。
この世界で出会ったやつとたまたま飯を食いに行く。
不運にもそいつが哲学者だったなら?
ご馳走様は一人で言う事になる。
そうなったら俺は……大爆笑だろう。不謹慎だがそうなりかねない。本人は幸せだったし、めでたしで終わるはずだ。
「待てよ……じゃあ、あながち消えることイコール最悪ってことじゃなくなるんじゃないか?」
「確かにそうとも言えるわ。それで消えた人たちは、幸せだったかもしれないわ。でも、その他の条件で消えた人たちはどうかしら?」
そういうと、また画面を切り替えた。
「2つ目は、模範生としてNPCと同じ生活した場合。これも消える原因と考えられているわ」
「そのNPCってのは何なんだ?」
「この世界にいる人間は、すべて私たちと同じように死んだ後にこの世界に来た連中ばかりじゃないわ。元からこの世界にいた人間もいるの。あなたもここに来るまでに一般生徒を見てきたんじゃない?」
「あぁ、さっきのただの学生か」
「その学生の大半がこの世界の住人よ。ここは全寮制の学校でここで生活し続けている人間がNPC。先生もこれに当てはまるわ。あなたも模範生としてNPCと同じ生活をすることが出来るの。手続きも必要ないし、転校生の紹介もせずにクラスメイトは今まであなたがクラスにいたかのように接してくれるわ。寮にも貴方の部屋が用意されているわ。寮長に聞けばすぐに案内してもらえるはずよ」
「でもそうすると消えるんだろ? どうすればいい?」
「あまり言われたとおりに行動しないことね。普通に学校生活をし続けると、消されてしまうわ。それで消えていった奴も実際に何人かいるから。気をつけなさい」
「俺たちと元からいた奴はどう違うんだ?パッと見ではわからないな。お前らのように着ている制服が違ったりするのか?」
さっき廊下で見かけた女子はボータイにブレザー。それに対してここにいる女性陣はセーラー服だ。
男連中も、俺の学ランとは違うベージュのジャケットを着ている。男用の別の制服があるのが気になった。
「これは、俺たち“かっこいい名前募集中戦線”専用の制服なんだ。よかったらお前の分も用意するぜっ!」
「いいのか? じゃあ、せっかくだし頼めるか?」
「OK!」
ロン毛の男が気さくに答えてくれる。
昨日は誤解していただけで、元々そんなに悪い奴らじゃないのかもしれない。
「確実な見分け方は今は無いのだけど、この世界の人間は行動が自動的なのが特徴ね。この人たちのことを私たちは、ノンプレーヤーキャラクー。略してNPCと呼んでいるわ。この学校は、あまりに人数が多いから。全ての元人間があたし達と行動しているわけじゃないの。だから元人間を見つけ次第わが戦線に勧誘するのも重要な任務よ!」
「いまいち掴みづらいな。他になにか調べる方法ないのか?」
「そういうのは経験して覚えていきなさい! みんなそうしてきたんだから。こうして説明してもらっているだけでもありがたく思いなさい!」
アイドル女が片手を挙げ面倒くさそうに答える。あまり、ねちっこく聞いて向こうの機嫌を損ねたくはない。
「まぁ確かに。それは感謝している。さっき自動的っていったな。心が無いような人間なのか?」
「そうじゃないわ。何の特徴もないってだけのただの人間よ。普通に会話できるわ」
「結婚しようといえば?」
「ビンタされるでしょね」
「順序は踏むぞ?」
「じゃあ、頑張ればしてくれるかもね」
「フフッ。玲次はロマンチストね」
ステラがバカにしたふうに笑う。見ると窓辺の机に座っていた。
「話を戻すわ。3つ目は、神もしくは天使に消される。これが一番重要よ」
また画面を切り替えた後、真っ直ぐにこちらを向く。
これまでとは違う、彼女の真摯な姿勢が伝わってくる。
「その……真面目な話。神っていうのがこの世界にいるのか?」
茶化したい気分に襲われるが、冗談ではないのだろう。
こんな場所でも存在するようだ。
神様ってやつが……。
「私たちが直接見たわけじゃないわ。この死んだ後の世界を作った張本人。私たちを嘲笑うかのように、本人が納得がいった瞬間消えてしまうこの世界を作った何かが必ず存在するはずよ。それに、今はまだ分かっていない原因で消えることも十分に考えられるわ。神様は、その気になれば私たち全員を一瞬で消すことが可能なはずよ。そいつを見つけるのが、私たち主な任務よ」
ルールを敷いた奴がいてそいつの希望に沿わなければいくらでも変更可能。
見えざる独裁者。箱庭を用意した何か、か……。
「なるほど……でもそいつを見つけてどうする?」
「一発殴るの。気に入らないから」
「は?」
返す言葉が見つからず、無言になる。
というか、殴れる物体なのか?神様は?
「……というのが最初の理由だったの。でも今は違うわ。神様を見つけ出して、この世界の仕組みを変えるの」
「ご要望は若干のルール変更ってことか。今まで居た死ぬ前の場所で言い換えれば、神が存在するので、そいつに寿命、病、生きること、死ぬことってのをやめろって直接殴りこみにいこうってわけだ」
「話が早くて助かるわ。じゃあ次は私たち“死んだ世界戦線”について説明するわ」
「名前決まってたのか?聞くたびにコロコロ変わってる気がするんだが?」
「暫定だからよ。最終的にみんなで納得のいく名前にしたいのよ」
彼女はもう一度姿勢を正し、ほんの少し息を吸った後高らかに宣言する。
「私たちの主な目的は、神を消し去りこの世界を手に入れることよっ!!」
スクリーンを叩くと、大きく波うつ。
「当分の間は、天使との戦いになるわ。天使は、私たちにNPCと同じような生活するよう指導してくるの。おとなしく消えてくださいといわんばかりにね。それにこの世界の秩序を守っているのも彼女よ。必ず神とつながっているはずよ。仮に神がいなかったとしても。天使を消し去れば2番目の理由で消える要因はなくなる。この世界の仕組みに抗うことができるわ」
「天使って言うと……昨日見たあいつか?」
白い髪の、黄金の瞳。見た目は中学生くらいの女。
俺の体が宙に浮いた短い時間の間に、数回俺を切り刻んだ張本人。
「あいつと戦うって言っても。武器もなしにか? 無理がある」
「昨日あなたも見たでしょう? 私たちは主に銃を使って応戦しているわ」
「銃? あのエアガンの事か? おもちゃで戦える相手じゃないだろう?」
次の瞬間ッ!
運動会などでよく聞く火薬銃の音が一回!
気がつくと目の前においてあった俺の缶コーヒーが破裂し、中身をぶちまけながら宙に飛んだ。
「あぶねぇだろ! 一言ぐらい断れよ! あーあーまだ全部飲んでねぇのに……もったいねぇ。机もびしゃびしゃじゃねぇか…」
貫通した穴から飲みかけのコーヒーが溢れて机の上を転がる。ソファーにも穴を開けていた。
「百聞は、一見に如かず」
ステラが、すまし顔で答える。
「難しい日本語をよくご存知で。さすが、炭酸とハンバーガー育ちのカウボーイは違うな。パワーがある」
「勘違いしないで。紅茶と乗馬育ちよ」
「左様ですか。東の果てから見れば、あの辺の人間は全部同じで違いなど分かりませんので」
「今ので、とても分かりやすかったと思うけれど全部本物よ!」
「そいつで天使と戦うのか? それでもあいつに勝つのは難しいとおもうが?」
「そう思うのも無理ないわ。だからは私達は団結して戦うの。簡単にだけどメンバーを紹介しておくわ。まずは私が戦線のリーダー“ゆり”よ。よろしくね。次は……自己紹介の必要はないかもしれないわね。さっき銃で缶コーヒーに穴を開けて、あなたを引っ張ってきたのがステラよ」
「よろしく。……握手する?」
「もう十分触れ合っただろ? お前はもういい」
「そう? 残念ね」
言葉とは裏腹にどーでもよさそうだ。
「後ろで、あさはかなりって言い続けてるのが椎名さん。彼女は強いわよ」
そうだろうな。この部屋に入ってからピクリとも動いていない。ただ者じゃないはずだ。
「まだ修行中の身だ」
「そうかい精進してくれ。よろしく」
「窓際でハルバートを持っているのが野田君よ」
ゆりはそういうと先程から、こちらを睨み続けている男を紹介する。
「俺は仲間だと認めたわけじゃないからな……」
「ずいぶん仲が悪いのね。野田君となにかあったの?」
「お前は、鈍感なんだな。それともそういう“ふり”か?」
「……? 何のことかしら?」
とぼけているのか? それとも天然なのか、ゆりの反応は分かりづらかった。
「他にも武器の調達を主な任務にしてる人たちもいて、メンバーは大勢いるわ。どうかしら? 入隊して私達と一緒に戦ってくれないかしら?」
一通り話が終わると、ゆりが手を差し伸べてくる。
立ち上がりゆりに近づくき、俺はその手を……。
握った。
「分かったいいだろう。お前らに協力しよう。俺の武器も用意してくれるのか?」
「銃は今から注文するから、時間がかかるわね」
「いや銃じゃなくていい。昔、剣道をかじっていたんだ。せっかくだ。そこの椎名が持ってるような刀はないのか?」
「わかった……。私のを一振り譲ろう……」
静かに声を発したあと、腰に下げている二振りのうちの一つを渡してくれる。
「大事なものだろう?いいのか?」
「構わない。そのかわり貴重なものだ。大切にしてくれ」
「すまない。ありがとう」
確かにそう簡単に手に入るものではないはずだ。
受け取ってみると、尺が少し短く感じる。
竹刀より短いそれは脇差というには長く、打刀という物よりは短い。
床につけて立ててみると、柄の部分も合わせれば丁度俺の脚の長さほどだった。しかし、それだけ分かれば十分だ。
「協力することには構わないが、少し条件をつけくわえたい。でも、そんなに大した条件じゃないんだ。簡単なことだ」
軽く深呼吸して、言葉をつづける。
「悪いが、天使かなんだか知らないが女子供相手に“寄ってたかって”ってのは大嫌いなんだ。昨日俺を切り刻んだ奴も状況から言って、お前たちとの交戦中に巻き込まれただけなのかも知れない。まずは確認させてほしい。あいつが本当の敵かどうかな。あの天使一人だけを嵌めるをような真似にも手を貸すことは出来ない。悪いが相手から攻撃されたときだけ協力する。それだけだ。簡単だろう?」
納刀したまま柄を握りこむ。
ギリギリだがこの距離なら日向の首元まで届く。
相手方の妙な動きにも、すぐ反応できる。
向こうも戦線とやらのリーダーだ。バカじゃない。状況くらい分かるはずだ。
「ずいぶん勝手なのね」
「だから謝ってる。悪いって。新入りだからな。お前らの言い分だけ聞いて納得するのはフェアじゃない。考える時間ぐらいあってもいいはずだ」
居合いの姿勢を保ったまま交渉する。
実際は、ハッタリだ。
居合いなんかしたことはない。本来、その道を極めた達人が演武で行うものだ。
それでも基礎は体に染み込んでいる。
刀の抜く速さ、腰の捻りの遠心力。二つの力を速さに乗せる。
間合いを見切られないよう刀身は隠し、やや半身の姿勢。
即席でどこまで通用するのか……。それでも扱いのない銃よりこちらのほうが確実だ。
部屋の空気が重さを増す。
自分の呼吸の音すら、うるさいとすら感じるほどに。
――。
「わかったわ。そこまで言うなら譲歩するわ。まだこの世界に来たばっかりだものね。自分の目で確かめる事も必要だわ。そのかわり戦線の人が危険な場合は助けてもらうわ。それくらいはいいでしょう?」
「もちろん、それぐらいさせてもらう。天使が敵だとよく分かった場合も全面的に協力する。変な真似して悪かったな」
「ん? 何だよ? なに謝ってんだよっ?」
「日向くんは、本当にアホね……」
「あさはかなり……」
一気に部屋全体が弛緩する。
日向は、気づいていなかったのかもしれない。それでもステラと椎名の視線は刺さるように痛かった。
「もういいわ疲れたでしょう? 寮に帰っていいわ。日向くんに案内してもらって」
「おーじゃあ今日は歓迎会だ! 野郎同士で踊り明かそうぜ!」
「お、おぅそうだな」
さっき切りかかろうとした相手に親切にされるのは正直気が引けるが。こいつは、本当にいい奴なのかもしれない。
「じゃあーこっちだ! ……えーと、そういやお前名前は?」
「ああ、そういえば忘れていたな。阪本玲次だ。玲次でいい。よろしく頼む」
「じゃあ玲次!俺たちのホームに案内してやるぜっ」
「おっ、おう…」
日向が俺の肩を組んで部屋を出て行く。
運よく敵中から出ることが出来て、ありがたく無罪放免となった。