Angel Beats Children Dissolved 作:セリカ イツミ
久しぶりに遅刻しないよう登校した。
今日はステラにゲストハウスに来るように言われ、仕方なく布団から出て来た。
念のために椎名から貰った一振りも携行している。時代が異なれば、お上からお縄を頂戴していただろう。しかし、ここを支配しているのは法律ではなく“校則”だ。
運の悪い事に、今日は生徒会の定期朝集のある日だった。
馴染みの無い、自分のクラスメイトと体育館に向かいクラスの列に紛れ込む。見れば戦線の人間も何人か紛れている。
久しぶりの学校生活には、何の愛着もわかない。
以前登校したときは、校内の探索とNPCの学校生活の調査のために訪れた。
授業中に抜け出し、先生という名のセンサーをくぐり抜け、極秘情報を求めてさすらってはみたもののカード式のロックがかかっていたり、監視カメラが首を振っている場所まであった。
そんな高度なセキュリティーに俺になす術はもちろん無い。
体育館で整列されられ、壇上に教頭のような初老の男の先生が立つと、他愛もない話を始めた。思えば校内の人物については全く把握していない。後で調べる必要がありそうだ。
団体行動も久しぶりだ。ここに来てからずっと一人で行動することが多かった。こんなことをしていると他の学校に紛れ込んだ気分になり、ここに居ること事態が良いことなのか、悪いことなのか分からなくなる。
「えー。では、次は生徒会長からの報告があります」
退屈な話がようやく終わって、生徒会長だと紹介され出て来たのは、あの戦線の標的“天使”だった。
「みなさんおはようございます。今週は――」
一般生徒の着るジャケットとブラウス。膝丈のスカート。黄金の瞳が全校生徒に向けられる。話し出す声は、あの時俺が切り刻まれた時の声となんら変わる事は無い。
殺し合いの最中と生徒会の朝集。
彼女にとっては同じ日常でしか無いのだろう。その平坦な声量が恐ろしい。
ゆりのように躍起になる気も分かる。
平和と戦争。一般人と殺人鬼。
混在してはならないのだ。
やがて、どちらかに破滅が訪れるのは明確だ。
「では、次は副会長からになります」
天使に促されて出て来たのは、今はあまり見かけない学生帽をかぶっている。背の低い男子生徒だった。
「副会長の直井です。近ごろ学校では――」
ステラが言う協力者というのは、あいつかも知れない。
NPCの制服を着て、視線を悟られないよう帽子をかぶって男装までしている黒いショートヘアの女。淡々と話す声から、冷静で頭の切れそうな感じがする。影で悪巧みをしそうな印象。仲良くはできそうにないが、強力そうな助っ人だ。
「どうした?さっきからあいつをじっと見つめて?ははぁ?まさかお前惚れたのかぁ?」
後ろから日向に話しかけられる。
初めて知ったが、こいつとはクラスが同じらしい。戦線の重要なポストにいる奴だ。あの副会長のことも知っているだろう。
「好みじゃないが、綺麗な顔はしてるな」
「げえっホントかよ……お前そっち系かぁ?俺はパスだ」
そっち系?疑問に思い壇上に視線を戻して気がついた……。まあ言われて見れば四つは年下に見える。青い果実が好きな奴の事かも知れない。
「待てよ……!俺は別に小さい子が好きなわけじゃないからな……」
「わぁかってるって。内緒にしといてやんよ」
激しく誤解されている気がするが、面倒なのでほっておく。
副会長が話し終わると解散となり、その後教室にもどって久々に授業を受けた。
やっとのことで長い授業が終わり、昼休みになるとゲストハウスへ向か事にした。
戦線以外の人間と会うことに少し緊張していた。とうとう対面かと思っていたが、ゲストハウスの前にはステラが一人で立っていた。
「待たせたな。あいつはまだなのか?」
「あれ?知り合いだったっけ? あの子ともう会ったの?」
「今日の朝集で見かけた。そういや飯はどうなる?死んでても腹は減るんだぞ?」
「分かってるわ……。ちゃんと用意するから」
呆れたふうに答える。まるで俺が要求するのを分かっていたような感じだった。
「用意する? んなもんどこにある? ここじゃ学食の一択じゃ無いのか?」
「あんな物ファストフード以下よ。自分で作るのよ。ほら行くわよ」
「はぁ? なんだそれ?」
ゲストハウスを通り過ぎてしばらく歩く。行き着いた先は、小さな庭。いや、軽い農園だった。ビニールハウス一個分ほどの広さに何種類もの野菜や果物が栽培されている。
「ここは、お前の農園なのか?」
「そうよ、退屈だったから作ったの。荒らさないでね?」
「荒さねぇよ。俺を何だと思ってるんだ……?」
「ジャガイモ、ニンジン、タマネギ。後は好きなもの取りなさい」
「材料から考えると……カレーか?」
「正解! カレーはいけるでしょう?」
「ニンジンはあまり好きじゃない……」
「しっかり食べないと大きくならないわよ!」
「もう、そんな年じゃねえよ……」
「まぁ、どの道ここじゃもう大きくならないけどね。さ! 早くしないともう一人来るんだから。三人分よ! さぁ働け! 働けば自由になる!」
「世界一恐ろしい脅し文句だな」
埋まっている物は、何があるのよく分からなかったので、俺でもパッと見てわかる茄子とかぼちゃを用意した。今が夏なのかは分からないが、少し暑い。
気分だけでも夏にしよう。
適当に材料をとった後、ゲストハウスに戻って、ステラがキッチンに向かう。
「手伝おうか?」
「玲次は、料理の経験はあるの?」
「おままごとで、お母さんの役をやった事なら……」
「いいわ……座って待ってて」
「わかりました」
この前と同じ様に、絵本を取り出して腰を掛ける。
桃太郎を読むことにした。知っている話の方が少しは楽しめるだろう。吉備団子をもらう家来が羨ましい。俺も腹が減った。
「お待たせ! 出来たよ! それにしても、まだ来ないのかな?あの子遅いわね」
「忘れてんじゃないのか? それか嫌われているか」
「そんな酷い子じゃないわ! 玲次と一緒にしないで」
「俺が悪人ってか? 今日見かけたが、かなりの悪人ヅラだったぞ」
本を元に戻そうと立ち上がった時だった。
「おじゃましまーす!」
玄関から声がした。あの感じの悪い奴が入ってくるかと思ったが……
「誰なんだこの子? 今日の朝集にはいなかったぞ?」
「ちゃんといたから。彼女は書記だからね。横で“かきかき”してたんじゃないかな?」
ステラがジェスチャーを交えて説明していると、靴を脱ぎこちらへやって来る。
黒いショートヘアで、アシンメトリーと言っただろうか?片耳が出ている変わった髪型だ。ちょこちょこと頭を動かすたびに髪がサラサラと動いている。きっと手入れが行き届いているんだろう。
戦線の制服ではなく、NPCの制服に生徒会のピンバッチ。ここから見ても身長が小さいのが分かる。片手に白いシャチのようなヌイグルミをつけていた。
「はじめまして、宍粟香住といいます! 生徒会で書記をやってます! これからよろしくお願いします!」
大人しそうな外見と違って、ハキハキと喋る感じのいい奴だった。丁寧にお辞儀までしている。
「“しそう”か変わった名前だな。どんな字を書くんだ?」
「うかんむりに六を書いて、甘栗のくりで“しそう”です。あまり馴染みのない名前なんで、最初は誰も読んでくれないんですよ」
「俺の苗字も少しかわってるんだ。阪本玲次。坂道の坂じゃなくて、大阪の阪の字を書くんだ、よく間違えられる。寮で平和を守っている。よろしく」
俺のプロフィール以上。
なんだか肩書きで負けていて、悲しい気持ちになる。
「せっかくだし、この子の紹介もしときます!この子はマゴちゃん!小さい頃から一緒なんです」
生きていたか……。
思わず頭を片手で押さえ、天を仰ぐ。
手袋である事を祈っていたが、叶わなかった……。
「ようっ! 僕マゴちゃん! よろしくなっラリパッパ!」
プチン……
頭の中で何かが切れる音がした。
人形をつかみ高く持ちあげる!
「よろしくなぁ? マゴちゃん! オットセイだったかぁ? えぇ? でもお前は次から、敬語で頼むぜぇぇ?」
「……かかってこい」
もっと持ち上げる事にする。
「上等だぁ! 水棲動物……。地面の硬さを教えてやろうかぁ?」
ふと気になって香住の方を見る。
右手を俺に持ち上げられ、顔をみられないよう必死に斜め下の床を向いている。ほんの少しつま先立ちになりプルプルと震えていた。
悪ふざけが過ぎた。なんだか可哀想になり離してやる事にした。
「マゴちゃんはイルカなんです! 水泳で一位になった事もあるんです! ねーー」
「ねーー」
「さ、カレーも出来てるし、ご飯にしましょうか!」
「そうしましょう! そうしましょう!」
「わーい! マゴちゃんも食べるぅ!」
マゴちゃんのために、小さいお皿も用意し、机に座って四人で頂きますをして食べる。
「うまいな……」
感動してしまい、考える前に言葉になっていた。
素直にそう思う。
ルーの程よい辛さなの中にあとからかぼちゃの甘みがやってくる。茄子のしゃきしゃきとした食感を愉しんでいると、いつの間に半分以上平らげてしまっていた。
食堂の飯に飽きていたのもあるかもしれないが感動的なウマさだった。
「イギリスでもカレーなんかあるのか?」
「カレーはあるけれど、カレーライスにする事は滅多にないわね」
「ローウェルは、カレー以外もつくれるんです! すごいでしょう!」
「ローウェル……?あぁ、ステラの下の名前か。自分のことのように威張ってるが、香住は何もしてないだろう?」
自慢げに香住が答える。むしろ俺のほうが手伝ったくらいだ。
「たいした物じゃないわ。ルーも食堂のもらいものだしね。野菜は昔園芸部が使っていたところをそのまま使ってるだけよ」
「昔って……園芸部は今どうしてんだ?」
「人数が減ってなくなっちゃった。人間がいなくなるとNPCもいなくなるみたい。それでその農園を私が引き継いだの」
「そうだったのか……。そういやステラは、ここに来てどれくらいなんだ?」
「もうずっと前ね。私がここに来た頃の人はみんな消えてしまったわ。ゆり達が来たのもついこの間の事みたい」
「それで、いろいろ詳しいんだな。でも結局ステラはいくつくらいなんだ?」
「女の子に年齢を聞かないの……」
不機嫌そうに答える。
地雷を踏んだかもしれない……。
「でも実際、本当に分からないわ。ここじゃ歳をとらないからね。姿も死んだ頃のまんまだしね」
「だからさっき大きくならないって言ってたのか。それは知らなかったな。悪い事ばっかりじゃないんだな」
「ローウェルはしっかりしてて、お姉さんみたいですからね。でも寝言がうるさかったり朝起きたときはヒドイんですよ!」
「どんな夢みりゃあそうなる? あの時も、あんだけ引きずられても起きないなんて、どうかしてるぞ?」
「起こそうと思ってもぜんぜん起きないから、あたしも最初は病気かと思って寮長さんのところまで、泣きながら走ったこともあるんです!」
「可哀想に。最悪だなルームメイトを泣かせるなんて」
「じゃあ、玲次はルームメイトと仲良くしてるの?」
「挨拶程度にな。今日の授業はどうだった?とか好きなやつはいるのか?とか適度に話してる」
「恋してるんですか!? 玲次さんのルームメイトは素敵ですね」
「あれ? でも玲次のルームメイトはNPCじゃなかったかしら? 随分個性的ね」
「あぁ。だからどの教科も楽しいし、みんな大好きだってさ。無害で毒の無い、人のいいやつだ。夜中も静かだしな」
「……うるさいわね。玲次と寝る事は無いから安心して」
「それは、それで寂しいな」
「大人の会話ですね! 香住、分からないです!」
「香住だって魅力的だよぉう! マゴちゃんが言うんだから間違いないよ!」
「ホント!? マゴちゃん応援してね!」
「うん! まかせて!」
アザラシが調子に乗っていた。
さっきの俺への態度はなんだっただろうか? 疑問は尽きない。
「それより協力してくれのは構わないが大丈夫なのか? 天使に殺されるかもしれないんだろぞ? 俺はあのイケ好かない副会長の奴が来るかと思った」
「直井くんのことですか? 違いますよ。それにあの人はNPCですよ」
「女の子だって言ったじゃない。それとも玲次は、あーいう子がタイプなの?」
クスクスと悪戯げに笑う。
朝集の時、日向との会話が噛み合っていなかった事も今なら納得が行く。最悪だ……これはさすがに後で誤解を解く必要がありそうだ。
「わぁ……そうだったんですかぁ。大丈夫です。あたしはそういうの大丈夫なんで……どうぞ続けてください」
「玲次のゲイっ! ホモっ! BL!!」
「おい……! そっちのアザラシは文句あるようだが?」
「マゴちゃんはアザラシじゃないですっ! イルカです!」
「アザラシも、セイウチも、イルカも一緒だっ! あの辺でみんな仲良くやってんだろ!」
「みっともないわよ。人のイルカいじめてどうするの?」
「そうだ! そうだ! 失礼だぞチミ!」
天を仰いだ…。
俺よ……。落ち着くのだ。
相手の調子に乗せられてはいけない。
「それで香住はどういった事で協力してくれるんだ?」
気を取り直して本題に戻ることにする。
「あたし、パソコンが得意なんで情報収集したりして頑張ります」
「見かけによらず、そんな事出来るんだな」
「今はすごいのね。パソコンで何でも出来ちゃうらしいじゃない。香住はこの作戦にとって重要な人物よ。ご飯が食べ終わったら作戦について話すわ」
作戦か……。
いよいよ本格的に首を突っ込むことになった。
面倒な事にならなければいいんだが……。
大盛りのカレーライスを食べ終えると、ふと気になった事があるので聞いて見る。
「おい、マゴちゃん! さっきから全然食べてないじゃないか。どうした? 調子でも悪いのか? こんなにおいしいのに!」
ご主人の食事中、マゴちゃんは香住の手を離れテーブルの上でたたずんでいた。
イルカのくせに直立している。もちろん動く事はない。じっとしている。
「このままマゴちゃんが食べ終わるの待ってたら日が暮れるなぁ?まぁ、これからはマゴちゃんも仲間だし?食べ終わるまでずっと……ずっと、ずーっと待っててやるよ」
「バカにしてるなぁ! イルカだってカレー食べるんだぞぅ!」
無理がある……。
少なくとも、水族館にそんなイルカはいなかった。
「ごめんなさい。マゴちゃんは恥ずかしがり屋さんなんです。ネコさんみたいに食べてるところを見られるのがイヤみたいなんです」
猫がどうだったかは覚えてないが、香住はテーブルの上にあるマゴちゃんのお皿とマゴちゃんを隣の椅子の座らせた。
当然ここからでは見えない。
「はい! マゴちゃん。どうぞ召し上がれ!」
「うわーいっ! 香住ありがとう!」
マゴちゃんは喜んでいる。
テーブルの下からは「うま、うまうま」と聞こえてくる。イルカはそんな声で食べない。
どういう仕組みになってるのか気になり、テーブルの下から覗いてみる。
「おい香住! ズリーぞ! お前が食ってどうする! せっかくのマゴちゃんの分が無くなるだろーが!」
「マゴちゃん、もうご馳走様したもんねーだっ! レイジのばーか!」
「もう食べれないっていうので、残りをあたしが食べたんです。ごちそうさまでした」
「そうかよ……邪魔したな」
諦めて体を起こす。
すでに食い終わっていたので、皿をシンクに持って行く。先に食べ終わり洗い物をしているステラに話しかける。
「大丈夫なのか? こんな即席のチームで出来る事なんかあんのか? それに、香住は生徒会に人間なんだろ? 話が洩れたら香住は生徒会から干されるんじゃないのか?」
「簡単な作業だから。香住は仲のいいルームメイトって事で通してもらってるから。それより、玲次はカレー残してない? もったいないお化けがくるわよ!」
「よく、そんな事知ってんな」
「絵本フリークだからね。あの図書室、幼稚園児向けの雑誌まであったわよ」
「一体誰が読むんだ? 俺には関係ないな」
「そう? あなたみたいな捻くれた人には、勉強になるかもね」
「失礼な女だな。俺みたいな紳士はそういないぞ」
ステラが洗い物をしている間、退屈凌ぎに香住たちと絵本を読んで待つ事にする。
手伝おうかと聞いたが、必要ないと冷たくあしらわれてしまった。
死んだ後は英語の勉強をするなんて、誰が思っただろうか……
それでも、かわいらしい女の子たちと一緒だから、椅子に座って勉強させられるよりは格段に楽しい。もれなく、喋るオットセイまでついてくるがな。
「じゃあ、片付けも終わったし始めましょうか!」
わざわざ食後の紅茶まで用意してくれた。
椅子にかけて、まるでゴシップでも愉しむかの様に話し始める。
「今度、戦線が大規模な作戦を行うの。作戦名はオペレーショントルネード。大量の食料の確保、及び天使の撃破が目的とした作戦よ。今までのハリケーンよりも規模は大きいわ。戦線がその作戦を遂行している間、天使エリアと言われる場所に侵入して情報を入手してきて欲しいの」
「なんだそれ? 疑問が多すぎる。俺は戦線の幽霊部員だぞ? 丁寧に分かりやすく説明してくれ。ついでに日本語でな」
聞いた事もない様な単語を並べられて混乱した。
香住は俺とは違い、じっと話をきいている。事前に内容を知らせているのかもしれない。
「順番に説明するわ。まず最初にオペレーショントルネードについて説明するわね」
「香住は戦線じゃないんだろ? その作戦の事知ってるのか?」
「ハリケーンという作戦なら知ってますが、トルネードは初めてです」
不思議そうに首を傾けていた。どうやら本当に極秘らしい。
「トルネードは、これまでのものとは違ってもっと大規模なものよ。陽動を行う別部隊が、一般生徒を含む大人数のNPCを体育館のフロアに集めるの。そのあと工業用の大型扇風機を使いフロア内に小さい竜巻を発生させ、生徒の持っている食券を巻き上げるものよ」
「食料の確保っていうか、食券奪い取ってるだけなんじゃないか……? つーか、そんなにうまくいくのか?」
「だから実用性があるか確認するの。今回はテストエクササイズね。陽動部隊も事前に告知をしているの。体育館だと人も集めやすいし、風も安定して予測しやすいからね。それに一般生徒の安全の確保を最優先としているわ」
「そっちのほうが重要だろ。最初からそう言え! ややこしいだろうが! なら何で食券を奪う必要がある?」
「巻き上げた食券を使えば、不正行為となり消える確率を軽減できる。あとは安全の為の税金らしいわ」
「とんだ押し付けだ。ありがた迷惑ってやつだな……」
「それを私に言われても困るわ」
「以前は、戦線の人が追い回して集めてたんです。今回から陽動部隊が一箇所に集める方式に変わったようです」
「追いまわすって……もっとやり方なかったのかよ。いったい誰が考えたんだ?」
「私よ」
意外なところから声が挙がり、空気が濁った。
「牧羊からヒントを得たの。手っ取り早いでしょう?」
「お前は落第だ……」
「生徒が流れ玉に当たるよりはマシよ。でも新しい方式はみんなも納得の内容よ」
「どうせロクでもないもんだろう? もういい続きを話せ」
「そう? まぁ陽動作戦の実行はさらにもう一つメリットが有って、陽動地点に天使を誘い出す目的があるの。作戦開始後、天使は体育館を目指してやって来るわ。戦線の精鋭は体育館周辺の警備にあたり、天使を発見次第応援を呼び迎撃、撃破。以上がオペレーショントルネードの内容ね」
「それで、俺たちはどうすりゃいいんだ?」
「あなた達には戦線のメンバーが迎撃している間に天使エリアに侵入してもらうわ。天使エリアにあると思われるデータベース内からの情報の入手。玲次はそのサポートにあたって欲しいの。天使エリアには香住が案内するわ」
「待て。お前はどうするんだ? 言い出しっぺだろう? 手伝えよ」
「ごめんないさい。私はすでに陽動部隊に組み込まれているわ。今回は二人でお願いしたいの。頼めるかしら?」
「拒否できるならしたいが、今更イヤですなんて言えないんだろう? 別に構わない。それくらいなら協力しよう」
「香住も無理言ってごめんなさい。お願いできるかしら?」
「任せてくださいっ! あたしにしかデータ解析は出来ないと思います!」
初対面の印象とは違う、はっきりとした声で答えていた。
PC関連には、かなり自信があるのかもしれない。頼もしい限りだ。
「香住は生徒会の関係者よ。この作戦は戦線にも伝えられてないわ。この作戦を知っているのはゆりと日向だけよ。トップシークレットだから、そのつもりでお願いね。トルネードの時期は分かりしだい連絡するわ」
「じゃあ残念だが、マゴちゃんはお留守番だな。お土産に魚でも持って帰って来てやる。三枚におろして食え」
「マゴちゃんも、いくもんね〜。玲次のカス〜」
「やめておけ。危険だ。それに生きて帰れないかもしれないんだぞ……!」
どの道、とっくに死んでいるんだが。
「ちょっと行って帰るだけじゃない。連れて行ってあげたら?」
「あたしも一緒がいいですっ!」
「わかった……。もうなにも言わん。勝手にしろ」
天を仰いだ。
置いてけよ……。
「そういえば、陽動部隊ってのはどうやって人を集めるんだ?」
「ライブよ……。ロックのね!」