Angel Beats Children Dissolved 作:セリカ イツミ
「まもなくオペレーションを開始する。各隊は遊佐の指示に従い作戦を進行せよ。各自、時計合わせ。秒読み開始……3、2、1、オペレーション開始……!」
「1900オペレーション開始します。陽動部隊は行動を開始。指示があるまで行動を維持せよ。A部隊は哨戒行動開始、体育館周辺に展開しなさい。作業班、B部隊は体育館内で待機。非戦闘員は引き続き、NPCと一般人を体育館内に誘導しなさい」
「陽動部隊了解。ただちに行動を開始する」
「Aチーム了解。天使の襲撃に備える」
「陽動部隊行動開始しました。体育館内の人数は200人前後。B部隊より生徒会関係者発見の報告。図書委員会、環境委員会と見られます」
「B部隊は引き続き待機。各部隊は管理委員会、風紀委員会、生徒会役員を発見した場合報告せよ」
「了解。各隊通達。管理委員会、風紀委員会、生徒会役員を発見しだい報告せよ」
ゲストハウスの小さな室内に通信音声が響き渡る。
体育館館内の音も別で拾っているようだ。作戦の音声に紛れ陽動部隊の演奏が聞こえてくる。今時フリーセッション(自由演奏)から始めるバンドも珍しい。
リビングテーブルの上には二つのタブレットが置かれている。
一つはは先ほどから戦線の通信を傍受し続け、一つは香住が何らかの作業に使用している。OSの関係で二つあった方が便利なんだそうだ。それに、いち早く情報を理解する為には二つがベストで、二つ以上は非効率なのだとも言っていた。パネルを二枚使うデュアルディスプレイと似ているのかもしれない。
「しかし、オペレーションってのは結構本格的なんだな。もっと簡単で適当なもんかと思ってた」
「戦線の人数が増えるに連れて、オペレーションも高度で複雑なものが実行できるようになったので、それに合わせて今のような組織図を作ったようです」
「昨日今日できた組織じゃなさそうだな。よく訓練されているし管制の人間までいる。」
「遊佐さんと言って、戦線でも比較的古参の人なんです」
「知り合いなのか?」
「はい。お昼をご一緒する事もあります。あたしが生徒会の人なのに、よくしてくれます」
香住からは、初めて会ったときの明るい印象は薄れていた。
緊張しているのか、あるいは作業に没頭しているのか。香住はタブレットをじっと見つめたまま受け答えしている。
「香住は、どうして戦線に入らなかったんだ? 当然勧誘されたんじゃないのか?」
慌ただしく動かしていた手を止め、香住が一度こちらに向き直る。
「ここに来てしばらくした頃、私も戦線のベッドクオーターに連れていかれて、ゆりさんからお話を聞きました。この場所のこと。天使のこと。戦線の戦う理由。でも突然そんな沢山の事を一度に聞かされて、怖かったんです」
罪を告白するかのように伏目がちに答える。だが、香住の言い分も理解できる。
俺の時と同じようならば、いきなり部屋に軟禁され大人数に囲まれながら神についての話をされたのだ。あたまのおかしな奴らの新興宗教の勧誘にしか思えないのも無理はない。
「だから、その時は勇気を出して断りました。そしたらゆりさんは気が変わったら教えてくれって、優しく言ってくれました。その後、たまたま生徒会の人から学校の為に書記を手伝って欲しいって言われて生徒会に入ったんです」
「戦線と生徒会が敵対してるのは知っていたのか?」
「ごめんなさい。その時はまったく知りませんでした。後から別の戦線の人に知らされたんです」
「別に謝らなくていいぞ。お前は何も悪いことしてないんだからな」
「ありがとうございます。でも臆病者だって思われるかもしれないですけど、あたしが納得いっていないのに、傷つけ合うような事はしたくないんです。生徒会の人たちだって悪い人じゃないです」
「ひとつ聞きたいんだが、生徒会の人間はNPCなのか?」
「分かりません。でも一般の人もいると思います。失礼になるかと思ってあまりそういった質問はしたことがないです」
「学校に行っておとなしく生活してても、そうそう消えないものなのかもな。よくわからなくなって来たな……」
「少なくとも、あたしを生徒会に誘ってくれた人は一般の人でした」
「名前は、何ていうんだ?」
「蒼野 莉絵(あおの りえ)さんという方です。ご存知ですか?」
「いや知らないな。でもこんなに生徒会のことをベラベラしゃべってもいいのか?」
本来、生徒会の機密情報であるはずだ。書記といえど生徒会では重要なポジションで、内部の情報を簡単に教えていいはずがない。
「大丈夫ですです。書記と言っても議事録の内容をまとめる程度なので。それに環境委員長である莉絵さんが管理しているので、私には詳しいことは知らされてないはずです」
「もうひとつは聞きたい。その話だとステラと香住は本来敵対するはずだ。なぜ仲良く手を組んでいる?」
「あたしが生徒会に入ってしばらくした時に、ローウェルが戦線に入隊してくれたんです。あたしが本格的に戦線の人たちと敵対しないようにしてくれました」
「ローウェル? ああ、ステラのことか……。そういう経緯があるんだな。いろいろ聴いて悪かったな。さすがに背中から刺されるのはご免だからな。戦線と生徒会の意味不明な争いごとに巻き込まれたくないってのは俺と同じだ。今日はよろしく頼む」
「ありがとうございます! 今日は任せてください!」
少し緊張がとけたのか、ようやく香住の表情が明るくなった。このまま全てうまく行ってくれればいいのだが。
「B部隊より報告。体育館内に風紀委員会。数は13名。風紀委員全員到着しました」
「B部隊、風紀委員会にあたり陽動部隊を守れ。こちらからは絶対に攻撃しないように。負傷者が出た場合は応戦せよ。なお一般生徒の安全を優先する為、発砲は禁止する」
「了解。リーダーよりB部隊。風紀委員会にあたり陽動部隊を守れ。こちらより攻撃はするな。負傷者が出た場合応戦。ただし発砲は禁止する。一般生徒の安全を最優先にせよ」
「B部隊了解。行くぜぇっ! テメェらぁ!! ロッケンロールっ!!」
どうやら少し動きがあったらしい。香住は作業に戻り、また忙しそうにタブレットを操作していた。
「少し余裕はありますが、このままお話ししますね。作戦フローチャートがそちらのタブレットに入ってるので見ていただけますか?」
タブレットの誤作動ロックを解除すると、判りやすいようトップにファイルがおいてあった。タップして開くとドキュメントが表示される。
「この後、管理委員会が体育館に来ると思います。ここまでが口頭注意に当たります。次のフェーズ(段階)に移り実力行使となると、生徒会側とB部隊が体育館内入り口側で交戦。鎮静化できない場合、天使が出現します。A部隊が天使を発見次第、あたし達はガラ空きになった天使エリアに潜入します」
「まったく誰もいないわけじゃないだろう?」
「警備は生徒会室と違い手薄だと思います。見つからないようにうまく動きましょう」
「頼むぜっ! ウスノロっ!」
ここに来てマゴちゃんがようやく喋り出した。
「こいつも行くのか……?」
「マゴちゃんには静かにしておくよう言ってますので大丈夫です。ねっ?」
「うん……ボク、ダマる……」
「気になったら、ときどき声をかけてあげて下さいね」
「まってるぞっ。あん・ぽん・たんっ!!」
「最後に腕時計とこれを渡しておきます。スポーツタイプのイヤホンです。これで戦線の状況を確認できます」
香住はリュックサックから、イヤホンと小型のダイアルの付いたコントローラーのようなものを取りだす。
「こいつで戦況は分かっても、回りの音は聞こえなくなるだろう?」
「いえ。このイヤホンだと回りの音は聞こえますし、音漏れもしません。それにダイアルで音量を調整、チャンネルボタンで戦線の通信と館内の音声を切り替えること
も出来ます。緊急の時には消して下さい」
「スゲーな……。世の中便利になって行くもんだなぁ」
試しに装着すると戦線の通信が聞こえて来る。
「それと盗聴を防ぐため、あたし達の間では通信出来ませんので気をつけて下さい」
「マジかよ……。流石にそこまでは便利にならないか」
「ごめんなさい。時間が足りず傍聴不可能な周波数までは、用意できませんでした」
「いいよ。ここまで用意してくれたんだ。気にするな」
流石の香住も通信回線だけは、どうにもできなかったようだ。
作業を終えたのか香住はリュックサック中の荷物を確認したあと一息ついていた。フローチャートを眺めながら戦線の通信を盗み聴くことにする。
「非戦闘員より報告。管理委員会到着しました」
「B部隊へ報告。天使発見まで持ちこたえろ。発砲は禁止する。非戦闘員は陽動部隊を援護。全部隊に再度通達、一般生徒を死守せよ。」
「了解。リーダーよりB部隊。管理委員会到着。天使出現まで持ちこたえろ。発砲は禁止する。リーダーより非戦闘員――」
「こうして聴いてると、高みの見物みたいで越後屋気分だな」
「少なくともあたし達にとっては必要なことなので、仕方ないですよ」
「悪人はワイドショーの鑑賞にこのままシャンパン片手に楽しんでるイメージだもんな」
「あたし達の国だとポテチとソーダかもしれないですよ」
「そうだなっ! それでジジババは煎餅と麦茶だ! こっちの方がよっぽど犯罪だな!」
そのとき……!
突如、割れる様な音声がテーブルを揺らす!
「天使発見! 天使発見! こっちは裏口だ! 応援を頼むっ! 繰り返す。天使は裏口だっ!」
「A部隊、藤巻より報告。裏口にて天使発見しました」
「全部隊に報告。A部隊を全員裏口に向かわせ、天使を引きつけつつ体育館を離れろ。生徒会の増援を防げ!」
「了解。全部隊に通達――」
「始まったな。そっちの準備はいいか?」
「いつでも大丈夫です」
香住がテーブルの上のタブレットをリュックにしまい背負う。
俺の持ち物は護身用のこの一振りだけだ。使わない事を祈るばかりだが……。
「じゃあ、案内してくれ」
二人でゲストハウスの玄関に向かう。
すると、突然香住は立ち止まり軽くうつむき黙り込む。
「どうしたんだ? 言いたい事があるなら言えよ?」
「あのさっきも言ったんですけど、あたし達は通信できないんです」
「それが、どうしたんだ?」
「あのぉ……おいて行かないで下さいね……!」