辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件   作:平成オワリ

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通りすがりに黒幕宰相を助けました

 俺——アクセル・ライドが生まれたライド子爵領は、森や山に囲まれ、大部分が魔物の生息地帯だ。

 

 そのため中央では『田舎の蛮族貴族』と呼ばれて蔑まれていた。

 

 もっとも、実際に住んでいる俺から見れば、この程度は悪口にもなってない。

 

 なにせ領内で魔物の軍勢(モンスターパレード)が発生したら——。

 

 ——おいおいおい! 最高じゃねぇか!

 ——見ろよアクセル! 魔物《ごはん》が大量だぞ!

 ——もっとだ! もっともっともっと来いやぁぁぁぁ!

 

 そう喜びながら突撃して行くのだから、蛮族貴族以外に言いようがないだろう。

 

 そんな環境で育った俺だが、周りとは少し考え方が違っていた。

 

 幼いころは争いごとが苦手で、父や兄みたいになるのは嫌だ、という想いが強かったのだ。

 

 だから母の勧めで、勉強を始めてみたら……。

 

 ——楽しい……楽しいぞぉぉぉぉぉ!

 

 意外なことに、がっつりハマった。

 

 ——母上! 勉強って楽しいですね!

 ——ああ、ついに我が家から蛮族っ子以外が……。

 ——もっとたくさん本はないのですか⁉ もっと! もっともっともっと俺に知識をぉぉぉ!

 

 ——……なんだかライド家の血の濃さも感じるけど、今ならまだ教育すれば大丈夫なはず! 私はやってみせる! 絶対アクセルだけは普通の子にしてみせますからね!

 

 それ以来、周りからはちょっと変な神童と呼ばれ、母の英才教育が始まった。

 

 勉強にのめり込んだ俺は、次第に自分の手で領地運営をしたいと思うようになる。

 

 だが俺は三男。領地を継ぐことができない。

 

 ――そうだ、王宮の文官になろう。

 

 そう決めたのが、七歳のときだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 馬車の窓から、外に広がる草原を眺める。

 

 魔物しかない蛮族領地。 

 そう呼ばれるライド領らしく、小型の魔物が駆けずり回っていた。

 

「そうして十八になった今、王宮の試験を受けるため、王都に向かってるってわけだ」

「はぇー。アクセル様ってそんな昔から文官目指してたんですねぇー」

 

 専属メイドのシュシュに昔話をすると、えらく感心された。

 

 ライド領は基本、領主から民まで脳筋が多い。

 

 まともな産業もない中、魔物の肉を食べて強くなろう、という欲がやたら強い。

 

 それで百年以上も領地を守ってきたのだから大したものだが、時代はどんどん変わるものだ。

 

「王宮で文官になれたら、まずは領地運営をきっちり学ぶ。そんで、俺の手腕でライド領を発展させて、王国一の豊穣地にしてやるのさ!」

「アクセル様ならやれますよ! なにせライド家の神童ですから!」

「それ、ウチの一族が脳筋過ぎるだけな。恥ずかしいから外で言うなよ」

 

 とはいえ試験に関しては、自信がないわけではない。

 伊達に人生の半分以上を勉強に費やしてきたわけではないのだ。

 

「道は険しい! けど俺はやるぞ!」

「その意気ですね! エイ、エイ――」

 

 その瞬間、馬車が急停止した。

 

「おわわわー⁉」

「っと」

 

 反動でシュシュが前のめりになるので、抱きしめ、護衛の騎士に状況を確認する。

 

「何事だ⁉ 簡潔に話せ!」

「前方で馬車が魔物に襲われています!」 

「魔物の数と状況は⁉」

「大型が一体! その他にも二十は超えるかと! 襲われているのは……高位貴族です!」

「くそ!」

 

 慌てて馬車から顔を出して前方を見る。

 遠目でもわかる豪奢な馬車。

 

 それに襲いかかっているのは、人間三人分はありそうな巨大な真っ赤な鬼の魔物だった。

 

 ――よりによって鬼王《オーガキング》かよ!

 

 他の魔物を従えて人間を襲うため、発見次第、騎士団が派遣される魔物だ。

 

 引き連れているのは、通常の大鬼《オーガ》や小鬼《ゴブリン》の群れ。

 

 貴族を守る護衛たちも踏ん張っているが、壊滅は時間の問題だろう。

 

「ああもう! ウチの領地で死人が出たら洒落になんねぇぞ!」

 

 俺は慌てて馬車から飛び降り、小さく深呼吸。

 そして顔を上げ、自らの魔力を解き放つ。

 

「“加速”!」

 

 一気に地面を蹴り、前方を駆けていた騎士たちの馬を一瞬で置き去りにして――。

 

 俺は魔物の群れに向かって剣を抜いた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 この世界の人間は、八歳になると神から一つ、天恵《ギフト》を与えられる。

 

 肉体強化系、魔術系、技能系など、天恵《ギフト》は多岐に亘り、その内容次第では平民でも重用されることがあった。

 

 その法則は解明されておらず、神のみぞ知る話。

 

 ちなみに、なぜかライド家の男児は肉体強化系ばかりが与えられてきた。

 

 父の天恵《ギフト》は“鉄塊”。

 肉体を鋼鉄よりも硬くし、魔物を殴る。

 

 長男の天恵《ギフト》は“豪槍”。

 重量のある長槍も羽のように扱うことができ、魔物を吹き飛ばす。

 

 次男の天恵《ギフト》は“凶化”。

 理性と引き換えに、身体能力を爆発的に上げ、魔物をなぎ倒す。

 

 そして三男の俺に与えられた天恵《ギフト》は“加速”。

 

 なによりも速く動くことに特化した、最強と呼ばれる天恵《ギフト》の一つだった。

 

 教会で判明した瞬間、「肉体強化系以外をお願いします神様!」と願っていた母は、その場で崩れ落ち……。

 

 父と兄二人は「最強の天恵《ギフト》きたぁぁぁ!」と大歓喜だった。

 

 ちなみに俺は「どんな天恵《ギフト》も使いようだろ」と、八歳ながらに達観していた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 騎士たちをなぎ払った鬼王《オーガキング》が、馬車を掴もうとした瞬間。

 

「うおおおお! ギリギリ間に合ったぁぁぁ!」

 

 叫びながらその太い首を斬り落とす。

 

「次ぃ!」

 

 地面に鈍い音がすると同時に、その勢いのまま魔物の駆逐を開始。

 

 半分くらい削ったあたりで、護衛の騎士たちがやって来た。

 あとなぜか、シュシュも馬に乗ってやってきた。

 

「よっ! さすがライド家の神童! 今日も剣技が冴え渡ってるー!」

「なんでこれで文官目指してんですか⁉ 大陸最強目指しましょう!」

「さすがアクセル様! 格好良いですよー!」

「お前らサボって応援してる場合か⁉ あとシュシュは危ないから離れてろ!」

 

 魔物たちの駆逐を騎士たちに任せて、シュシュの方へ行く。

 

「相変わらずとんでもない剣技ですねー」

「文官を目指しているとはいえ、ライド家じゃ必要だからな」

 

 魔物を殺して飯にするのは、民も領主も同じ。

 勉強の合間時間に剣を学び、魔物狩りをしていたら、そこそこ強くなった、というわけだ。

 

「これでそこそこって言ったら、アクセル様に負けたご当主様が泣いちゃいますよ?」

「ウチじゃ弱い奴が悪い。勝手に泣いとけばいいんだよ」

「そゆとこ、ライド家の人間って感じですねー」

 

 失礼な。俺はあんな父や兄と違ってまだ理性的だというのに。

 

 そもそも父上が「俺に勝てなければ、文官になるなんて許さん!」とか言ってきたから、勝てるくらい強くなっただけだ。

 

「しっかし……ギリギリだった」

 

 周囲を見渡すと、馬車を守っていた騎士たちはほぼ全滅。

 死者こそいないが怪我人だらけで、馬車は襲われる寸前だった。

 

 もし偶然通りかからなかったら、この場の全員が鬼どもの餌となっていただろう。

 

「馬車のエンブレムには見覚えがあるな……」

 

 リンフォード公爵家。

 国内でも三本の指に入る、大貴族だ。

 

 想像以上の大物に、間に合ったことを心の底からホッとする。

 

「助けに参りました」

 

 緊張しながら扉を開けると、中には二人の人物がいた。

 

「危険はもう去りましたので、ゆっくりこの手をお取りください」

「……感謝する」

 

 先に手を取ったのは、手前にいる男性だ。

 公爵家の紋章が付いたマントは、当主のみに許されたもの。

 

 ――ってことは、リンフォード公爵本人……王国を裏で支配しているって噂の、黒幕宰相じゃねぇか。

 

 戦場でも映えそうな美しい銀髪。

 瞳は鋭く、すべてを見通されそうな恐ろしい雰囲気を纏っている。

 

 もう五十近い年齢のはずだが、二十代でも通じそうな見た目だと思った。

 

 奥にいる令嬢は、魔物に襲われた恐怖が拭えていないのか、顔を伏せて小さく震えている。

 

「安心してください。もう、魔物はおりませんよ」

 

 少女が俺の言葉に反応して、顔を上げ……。

 

 宝石のような翡翠色の瞳と目が合う。

 

「「……」」

 

 言葉を失うほど、美しく透き通った瞳。

 一瞬、吸い込まれるかと思った。

 

「お嬢様、お手を」

「……はい」

 

 触れた手は、とても自分と同じ人間とは思えないほど柔らかかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 公爵家の騎士たちを治療しているのを横目に、助けた二人を見る。

 

 改めて、とんでもない美形親子だ。

 

 特にリンフォード公爵令嬢は、噂以上の美少女。

 

 誰もが見惚れる社交界の華というのは、こういう子を言うのだろう。

 

 年齢は俺と同じ十八歳で、今年貴族学園を卒業予定の三年生だったはず。

 

「……アクセル様、マジマジ見たら失礼ですよ」

「わかってるけど……あんまりウチにいないタイプだったからさ」

 

 護衛騎士たちを労るように声をかけており、その姿はとても優しげだ。

 

 ライド領では女も武器を持って戦うのが常だ。

 基本的に気が強く、魔物相手に怯えるような者は少ない。

 

 だから珍しい、と言い訳しつつ、本音はこれほどの美少女を見たことがなく、つい見てしまっただけだった。

  

「これだけの魔物を一人で倒すとは、素晴らしい腕だ。貴様、名は?」

「ライド子爵家が三男。アクセル・ライドでございます宰相閣下」

「ほう……お前があのライド家の神童か」

 

 ――神童ってそこまで広がってんのかよ⁉

 

 勉強しない兄二人と比べられても自慢にならない。

 というか、王都でどんな噂が広まっているのか怖くなった。

 

「宰相と呼ぶなら、私たちの名もわかるな?」

「はい。ジェラード・リンフォード公爵。そして……」

 

 宰相の隣に立つ、助けたご令嬢に微笑みかける。

 

「エクリア・リンフォード様。お二人ともご無事で何よりです」

 

 この出会いが、俺の運命を大きく変えるのだが。

 

 このときの俺はまだ、なにも気付いていなかった。

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