辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
ヴィスペリア辺境伯と戦ってから三日後。
「文官になりに王都に向かったら、宰相様を助けて気に入られ、王子に説教して、辺境伯の養子になって、公爵令嬢と婚約って……」
養子になることが決まった俺だが、書類上はまだライド子爵家の人間だ。
都にある屋敷を使うため、メイドたちに事情を説明した結果——。
「話はわかりました。私はアクセル様専属メイドなので、ついて行きます」
「いいのか?」
「これまで女性っ気のなかったアクセル様に、ちゃんと女性寄りのアドバイスができる人間がそばにいないと、せっかくの婚約者様に捨てられちゃいますからね!」
都会で過ごしているエクリア様の好み。
正直全然わからない。
ライド領だと強い魔物を捕まえてきたら喜ばれるけど、絶対違うだろうし。
「って、よく考えたらお前も知らないだろ」
「ちっちっち、甘いですね。アクセル様が勉強に勤しんでる間、すでに王都をたくさん回って都会の流行をリサーチ済ですよ!」
「いや仕事しろよ」
「ちゃんと終わらせてから遊んでるので問題なしなんですー!」
本当コイツ、言動と有能さが一致してないんだよなぁ……。
「というわけで、せっかく王都にいるし、エクリア様をデートに誘ったらどうですか?」
「あー……それは無理だな」
「え? なぜ?」
「明日から宰相が、領地経営について勉強させてくれるんだよ」
文官志望とはいえ、最終目標は領地を運営できる立場になることだった。
それを知っていた宰相が、仕事を手伝うなら隙間時間に教えると言ってくれたのだ。
それを伝えると、この屋敷でメイド長をしているコーネリアが前に出る。
「僭越ながら、アクセル様にご意見させて頂きます。制服デートができるのは今だけ。どうせ王都の友人なんて離れたらパーティーでしか会わないのですから、優先順位なんて低い。ならばここは、殿方と思い出作りを優先すべきです」
めちゃくちゃ早口で、結構エグいこと言ったぞこいつ……。
コーネリアは元とはいえ、伯爵令嬢。
なんでライド家に雇われているかというと、一言で言うなら訳アリだから。
「今が一番若いんですから、今を楽しまないといけません!」
「お、おお……そうか。そうかも、な?」
「そうなんです!」
すさまじい説得力とプレッシャーに、思わず圧倒されてしまった。
要するに、ちゃんと俺の方からエクリア様に向けた時間を取って、交流しなさいということだ。
それはわかるが……宰相に教えてもらうチャンスなんて二度とないし……。
「あのー……お取込み中失礼しますー」
ちょっと間延びした口調のメイドが、申し訳なさそうに入ってきた。
たしか新人で、男爵家出身のケニアだったか。
コーネリアの下で勉強中らしく、俺も会ったのは今回が初めてだ。
「どうした?」
「リンフォード公爵令嬢がお見えですぅ」
「え?」
約束とかはしてなかったはずだけど……。
「坊ちゃん! なにをしてるのですか! 早く身だしなみを整えて準備してください! シュシュ!」
「お任せあれ!」
「ケニアは応接間の確認を。最初の対応は私がやります!」
この屋敷は滅多に使わないため、執事はいない。
いざというときはコーネリアが仕切り、色々と纏めてくれる。
——ありがたい話だ。
それはそれとして、エクリア様は本当に何の用事だろう?
◇ ◇ ◇
応接間に入ると、制服姿のエクリア様がいた。
手鏡で髪を直したり、制服の裾を整えたり、やや緊張しているようだ。
よほど集中していたのか、俺に気づく様子がない。
「お待たせしました」
「ひゃっ⁉」
びっくりしたのか、目を見開き背筋をピンと伸ばす。
本人的にはそれが恥ずかしかったのか、そわそわしていた。
「あ、アクセル様。その、お会いできて嬉しいです……」
「俺もですよエクリア様。学園の帰りですか?」
時計を見ると、まだ昼を回ったくらい。
まだランチを食べていない時間だ。
「はい。しばらく試験期間なので早く帰れるんです。それで……もしお嫌じゃなければ一緒にお昼を食べられたら、と思いまして」
「なるほど。もちろん歓迎ですよ」
学園の試験難易度がどのくらいかわからないが、あの王子とかが通えるレベルだ。
エクリア様が慌てて勉強しないといけないこともないのだろう。
―—それにしても……自分の屋敷なのに、彼女がいるだけで華があると言うか、全然違う部屋に見えるな。
思わずジーッと見ていると、彼女と目が遭う。
最初はキョトンとしていたが、変わらず見つめていると、徐々に顔が赤くなり始めて……。
「あぅ……どう、されました? なんでそんなにじっと見つめて……も、もしかしてまだどこか変なところが!」
「あ、すみません。エクリア様がこの屋敷にいるのが新鮮でつい」
無意識に目で追ってしまうというか、それくらい魅力的な女性だ。
こんな子が、俺の婚約者かぁ。
「それで食事でしたよね? こちらで用意もできますが」
「実はルーンちゃんがオススメのお店を教えてくれたので、良ければそちらに行きませんか?」
「シャイン伯爵令嬢御用達の店ですか。それはぜひ行ってみたいですね!」
王都って広いし店が多すぎるから、どの店がいいのかわからないんだよな。
さすがに一人で平民だけの店に入るわけにもいかないけど、開拓とかはしたいと思ってたんだよな。
「良かった。私も前に行ったことがありますが、静かで良いお店なんですよ」
エクリア様が立ち上がるので、手を伸ばす。
——制服デートは手を繋ぐのが鉄則です!
先ほどメイドたちにさんざん教えられたことだ。
俺は制服じゃないけど、まあそこは許容範囲内だろう。
「……?」
「制服デートは、手を繋ぐものなんですよね?」
ただ肝心のエクリア様が良くわかってない感じがするんだけど……。
「せいふく、デート……あ!」
それでようやく理解したのか、恐る恐る手を伸ばしてくれた。
柔らか! ウチの家族とかと全然違うんだが⁉
そこのメイドたち!
なんかニヤニヤするの止めろ! バレるから!
「よろしく、お願いします……」
「こちらこそ」
内心ではかなり動揺していたが、表面上は必死に平静を装いながら歩き出す。
◇ ◇ ◇
緊張して始まったこのデート。
実は裏で、とある人物に仕組まれていたものだったなんて、この時の俺は思いもしなかった……。
予約投稿ミスってました。
明日はまた朝から投稿します。